肥厚性瘢痕

写真拡大 (全2枚)

監修医師:
江崎 聖美(医師)

山梨大学卒業。昭和大学藤が丘病院形成外科、群馬県立小児医療センター形成外科、聖マリア病院形成外科、山梨県立中央病院形成外科などで経歴を積む。現在は昭和大学病院形成外科に勤務。日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会実施医師。

肥厚性瘢痕の概要

肥厚性瘢痕は、外傷や熱傷、炎症、手術創などが治癒する過程で、通常の瘢痕(=きずあと)と異なり、赤くミミズ腫れのように盛り上がって目立つ傷となる状態です。
通常の瘢痕は時間とともに落ち着き、白い傷跡になります。
何らかの異常で、炎症が強く長く続く要因があると発生します。
肥厚性瘢痕やケロイドは、皮膚に傷ができて傷が治るプロセス(創傷治癒過程)が開始し、皮膚の深い部分の真皮(真皮網状層)で炎症が続いてしまうことにより生じる疾患です。
傷の治りが遅くなると、皮膚を作る線維細胞が過剰に産生され、その線維の増生で傷が赤くなり盛り上がります。
ケロイド・肥厚性瘢痕は真皮の慢性炎症と言うことができます。
本来、傷を治すために必要な炎症が過剰に続いてしまうため、たくさんの血管ができて赤く見え、膠原線維(コラーゲン)ができて盛り上がります。
怪我や火傷や手術だけでなく、ニキビやBCGの予防接種など真皮で炎症がおこるものは、ケロイド・肥厚性瘢痕のリスクがあります。
肥厚性瘢痕の場合は傷を越えて病変が広がることはありません。
もともとの傷の範囲を越えて、周りの皮膚に伸展していくものをケロイドと呼びます。
肥厚性瘢痕はケロイドと違い経過とともに色調は退色し、盛り上がりも徐々に平らになり、柔らかい傷となります。
適切な治療を行うことで治る可能性があります。
ケロイドの性質が強いと思われるものは、治療に抵抗する可能性があり、専門施設での加療を必要とすることがあります。

肥厚性瘢痕の原因

肥厚性瘢痕の主な原因には、局所的要因と全身的要因があります。

局所的要因

感染、異物、物理的刺激、創の深さ、創にかかる張力、創の治りやすさ、発生部位などが挙げられます。

全身的要因

体質、人種、性別、年齢、妊娠・女性ホルモン、高血圧、過度の飲酒や運動、全身の炎症などがあります。
全身どこでも発生する可能性があり、特に肩などの関節部、胸や下腹部(帝王切開後)など可動部で傷痕に緊張のかかりやすいところに発生しやすいとされています。
また皮膚の部位的性状にもよります。

肥厚性瘢痕の前兆や初期症状について

怪我や手術後の縫合創の瘢痕などは、通常一時的に赤みが増して硬くなります。
個人差はありますが、一般的には1~2ヶ月を過ぎたあたりから、瘢痕の赤みが減り、やわらかくなっていきます。
肥厚性瘢痕の場合は、次第に傷跡が赤く盛り上がり、ミミズ腫れのような外観になり、チクチクするような痒みや痛みが出現します。
これらの症状が見られた場合、形成外科や皮膚科を受診することをおすすめします。
傷の治療や瘢痕の改善を専門とする診療科であり、適切な診断と治療を受けることができます。

肥厚性瘢痕の検査・診断

肥厚性瘢痕の診断は、主に視診と問診によって行われます。
医師は傷の状態、発生時期、経過、症状などを確認します。
また、外観が類似する良性腫瘍・悪性腫瘍やケロイドとの鑑別が必要となります。
ほかの良性腫瘍や悪性腫瘍の疑いがある場合は、必要に応じて超音波検査やCT、MRIなどの画像検査を行い、切除や生検で組織を調べることがあります。
肥厚性瘢痕は傷の範囲内に限局します。
ケロイドは傷を越えて周囲の正常皮膚まで広がる傾向がありますが、実際には中間的病態もあり外観で明確に区別することは困難なことがあります。

肥厚性瘢痕の治療

肥厚性瘢痕の治療には、保存的療法と外科的療法があります。

1) 保存的治療

ケロイド、肥厚性瘢痕の治療は保存的治療が第一です。
具体的な保存的治療は下記に示しますが、単独ではなく複数を組み合わせて行うことが効果的です。

A. 圧迫療法

テープ、スポンジ、サポーター、シリコンゲルシート、コルセットなどによる圧迫をおこなうことで固定と患部の安静を保ちます。

B. 外用療法

ステロイド剤の入ったテープや、ステロイド軟膏を使用します。
局所注射と異なり痛くないため、子どもにも使用できるメリットがありますが、局所注射ほど効果は強くありません。

C. 局所注射療法

ステロイド剤をケロイドに直接注射し炎症を抑える方法です。
効果は個人差があり、1~2回で大きな改善を認める方から、複数回施行しても効果を認めない方までいらっしゃいます。
効果が強すぎるとかえって凹んだ瘢痕になることもあります。

D. 内服療法

抗アレルギー剤が、かゆみなどの症状に効果が認められることがあります。
皮膚繊維過増殖を抑制し、症状を改善します。
切除術後の再発を抑制する効果もあります。
そのため、切除術と併用することがあります。

E. レーザー治療

ケロイドや肥厚性瘢痕の中の血管を破壊したり、コラーゲンの分解を促進させることを目的としたものが主流です。
赤みや凹凸の改善、炎症の鎮静化に効果があります。
現在では健康保険を適用しての治療はできません。

F. その他

液体窒素を使った治療法など、種々の治療法が報告されています。

2) 外科的治療

単に手術するだけでは再発して前より大きなものになってしまうことがあるため、安易に手術をせず、一般的には保存療法を数ヶ月継続します。
肥厚性瘢痕やケロイドは、手術しない方法で軽快する場合も多いですが、ひきつれ(瘢痕拘縮)により関節などを動かせなくなる状態の原因になったり、目立つ場所で醜状が問題となれば、手術の適応となります。
できる限り再発しないような縫い方の工夫をし、さらにケロイドの性質が強いものに関しては、術後の放射線治療を行って再発をおさえることができるようになりました。
しかし、傷跡が消えてしまうということではありませんので、治療にあたっては担当医とよく相談の上、その効果や限界についてご理解いただくことが必要です。
肥厚性瘢痕やケロイド周辺の皮膚は強い張力で病変を引いていることが多いので、肥厚性瘢痕やケロイドを切除して縫合すると元の傷跡よりも長い縫合線になります。
術後の縫合創からも肥厚性瘢痕やケロイドが再発することがあるので、術後の管理も重要で、伸縮テープや後述する電子線照射(手術直後より3-4日間程度)または、ステロイド局所注射や内服治療を併用します。
最も根治的な治療法であり、経過が良好な場合は1本の白い線状の傷跡にすることが可能ですが、経過が悪い場合はもとより悪化する可能性もあります。
外科的治療および放射線治療で一度は完治したとしても、術後から局所の皮膚伸展を繰り返していれば、やはり再発することもあるため、半年以上、傷の伸展を予防するためにシリコーンテープ固定、また過度の運動、仕事をさける必要があります。

3) 術後放射線治療

肥厚性瘢痕やケロイドの術後には放射線治療を行うことがあります。
電子線照射や小線源治療は放射線治療の種類であり、肥厚性瘢痕やケロイドの原因であると考えられる血管新生を抑制する目的で使用し、手術後の傷が肥厚性瘢痕やケロイドになることを予防する効果があります。
しかし、副作用として周囲の正常皮膚への障害を考えねばならず、将来的にわずかながらその部位の発がんのリスクが増える可能性は否定できません。
しかし、最近の肥厚性瘢痕やケロイド治療における放射線治療では、線量や照射方法が改善されていますので、発がんのリスクは最小限に抑えることができています。
通常の方法だと、手術後当日、翌日や翌々日から開始して、2~4日くらいに分けて分割照射します。

肥厚性瘢痕になりやすい人・予防の方法

肥厚性瘢痕はケロイドより人種による差は少ないとされていますが、有色人種に多いとされています。
またケロイドの発生は遺伝的な素因があることもあり、アレルギー疾患をもつ人に多いようです。
また、原因の項で前述した通り、体質、女性、年齢、妊娠、高血圧、全身の炎症がある人や過度の飲酒や運動をする人はなりやすいとされています。

予防の方法としては、傷の早期治療と適切なケアをすること、傷跡への過度な刺激を避け、伸縮性テープやシリコンシートの使用を行い皮膚の張力を軽減することなどがあげられます。
手術の創部であれば術後3カ月程度続けます。

参考文献

日本形成外科学会

日本創傷外科学会

ケロイド・肥厚性瘢痕診断・治療指針2018 全日本病院出版社

日本兵庫医科大学病院PRESENTS病気ガイド

自治医科大学形成外科学講座

日本医科大学形成外科学教室

創傷治癒センター