2024年秋、現在公開中または11月8日より公開されるアニメ映画から、ベスト3を紹介します!(※サムネイル画像出典:(C)がんばっていきまっしょい製作委員会)

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2024年秋、注目の映画が続々と公開されますが、アニメ映画も大充実。その中から、ぜひ劇場で堪能してほしいベスト3を紹介します。

3本とも、アニメだからこその演出、言葉に頼らない表現そのものに感動がある、子どもから大人まで楽しめる内容なので、1人でももちろん、家族や友達といっしょに見る映画の候補にも入れてみてほしいです。

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3位:『こまねこのかいがいりょこう』(10月25日より公開中)

小物や人形をちょっとだけ動かして撮って、またちょっとだけ動かして撮って……という工程をひたすら繰り返して作られる、最近では『PUI PUI モルカー』なども大人気を博した「ストップモーションアニメ」です。

『こまねこのかいがいりょこう』は、過去の名作3本と同時上映される11年ぶりの新作で、総上映時間50分のうち8分の作品と、他のアニメ映画と比較してもかなり短い上映時間となっています。

「実在感」のある人形の質感、少しシビアだけど優しさいっぱいの物語、日本語のセリフなし(「ニャー」の鳴き声で感情を表現する)だからこそ「気持ちを積極的に読み取る」面白さ……その全てが宝物と言っても過言ではありません。作り手の尋常ではない労力が報われるぜいたくな時間を過ごしながらも、気を使わず楽しめるでしょう。特に3本目の、26分という最も長い尺で描かれる『ほんとうのともだち』は、予想外の展開に大人も感動できる、名作と呼ぶにふさわしい内容でした。同時上映するこちらの作品と、『はじめのいっぽ』(5分)、『こまとラジボー』(9分)は、Amazonプライムビデオで配信中の短編集『こま撮りえいが こまねこ』で見ることもできますが、劇場で集中して見ると感動も増すことでしょう。

そして、新作『こまねこのかいがいりょこう』は初めての海外旅行に出掛けることになった主人公「こまちゃん」の成長が描かれます。公式Webサイトに掲載されている合田経郎監督のコメントによると、「ウクライナからぬいぐるみを抱えて避難する子どもの映像を見たことをきっかけにして生まれた」作品だそうで、なるほど「子どもにとって手放せないもの」を描く物語は多くの親子にとって普遍的なものですし、大人こそが再認識するべき価値観が表れていました。特別鑑賞料金は大人1300円(一般・大学生・専門学生)・小人900円(3才以上〜高校生)とリーズナブル。上映館は少ないですが、近くで見られる人は積極的に足を運んでみてほしいです。

2位:『ロボット・ドリームズ』(11月8日公開)

同名グラフィックノベルを原作としたスペイン・フランス合作の作品で、第96回アカデミー賞で長編アニメーション映画賞にノミネートするなど、とても高い評価を得ました。

最大の特徴は「全編でセリフもナレーションもなし」であることでしょう。物語は、孤独な日々を過ごしていた犬が、友達としてロボットを迎えるものの、離ればなれになってしまうというもの。物語そのものはシンプルで分かりやすく、前述した『こまねこのかいがいりょこう』と同様にセリフがないからこそ、キャラクターの表情や一挙一動から主体的にその心情を想像することで、むしろ感情が大きく揺さぶられるのです。

冒頭で描かれる犬の孤独な時間、ロボットが来てからの楽しい日々、それぞれを見ているだけで涙腺を刺激されますし、そんな2人を引き裂いてしまう描写といったら……!「この2人を幸せにしてあげて!」と心から願いたくなりました。切ない中盤の心理描写は特に秀逸で、タイトルに「夢」を冠している理由がはっきりとした、とあるシーンにもハッとさせられました。音楽の演出も素晴らしく、特に日本人でも耳なじみがあるであろうアース・ウィンド・アンド・ファイアーの楽曲『September』の使い方、何よりクライマックスがあまりに素晴らしい!

誇張など一切抜きで、人生のどこかで「孤独」を感じたとしても、きっとこの先もこの映画を思い出して前向きになれるだろう……それほど心に残る映画となりました。パブロ・ベルヘル監督は「人生が素晴らしいのはさまざまなものを所有できるからではなく、それを誰かと分かち合えるから」とも語っており、確かにそれは全ての人が遭遇する孤独と付き合っていくための、とても大切な人生の捉え方だと思えるのです。なお、パブロ・ベルヘル監督は日本のアニメ作品の大ファンであり、この『ロボット・ドリームズ』は「80年代ニューヨークに対するラブレターでありながら、日本のアニメーションに対するラブレターでもある」そうです。

実際にジブリ作品のほか、『パプリカ』などで知られる今敏(こんさとし)監督作品の影響もあり、『マインド・ゲーム』の湯浅政明監督作品にある「夢を見ているような世界観」も大いに参考にしていたのだとか。特に「関係性」を主軸にしたエモーショナルな表現の数々からも、日本のアニメからの影響を強く感じられるでしょう。

1位:『がんばっていきまっしょい』(10月25日より公開中)

1998年に実写映画化、2005年にフジテレビ系でドラマ化もされた同名小説が原作の作品で、その最大の特徴と言えるのが3DCGの表現です。

上映前のポスターや予告編からは「ひと昔前っぽい」「違和感がある」といった不安の声も多く聞きましたが、実際に本編を見た人からは、初心者であることも伝わる「ボートをこぐ動き」のリアルさ、昼と夕方それぞれの美しい水面や風景、キャラクターの表情や一挙一動の愛らしさ、ダイナミックなカメラワークでボート競技を見せる様など、3DCGの表現が、その意義を含めて好評を得ています。近年では映画『THE FIRST SLAM DUNK』やテレビアニメ『ガールズバンドクライ』(TOKYO MXほか)など、革新的な3DCGのアニメが話題になりましたが、この『がんばっていきまっしょい』は、不自然にならないよう動きの一つひとつの綿密な調整、愛媛県松山市でのロケハンが生きた舞台の作り込みなど、既存の3DCGの表現でできることを正攻法で突き詰めたからこそのクオリティーと言えるでしょう。

さらなる特徴は、いい意味で「熱血スポ根もの」ではないこと。実際に櫻木優平監督は『がんばっていきまっしょい』の原作小説を読んだときに最も面白いと感じたのが、「わりと淡々と高校生活を描いているところ」であり、それをベースに「『全国大会とは無緑の普通の高校に通う女の子たちが、ごく普通の学校生活を送っていく過程でちょっと大人になる』というところが、物語の軸になっている」と思ったのだそうです。確かに今回のアニメ映画も、過去の実写映画も、ボート競技そのものの駆け引きや戦略よりも、櫻木監督の言うように「高校生がちょっと大人になっていく経過を見せる」ことが主軸であり、キャラクターの掛け合いの楽しさなどからはテレビアニメ『響け!ユーフォニアム』(TOKYO MXほか)や『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』(テレビ東京系ほか)も連想する、「日常系部活もの」的なジャンルの魅力に満ちていました。

実際に筆者個人が感動したのは、ボート競技ではない部分、言葉で全てを説明しない心理描写でした。主人公の「悦ネエ」は過去の挫折により無気力になっていて、その後も客観的には「それほど気にしなくてもいいこと」を気にしてしまう、はっきり言えば「めんどくさい」性格をしています。しかし、悦ネエの根底には責任感やリーダーシップや優しさがあることも伝わります。そんな彼女が主体的にボート部にのめり込むも、またしても「がんばれなく」なってしまうのですが、その「一人相撲」状態の悦ネエが、自分から「答え」を見つける様と、その後の成長には、とても大きな感動があったのです。

冒頭の演出やキャラクターの関係性の描き方は、2024年5月に公開され一部で強烈な支持を集めた『トラペジウム』にも通じています。「熱血」「根性」が主体のスポーツものとは正反対の作風はやや賛否も呼んでいますが、落ち着いた演出から主体的にキャラクターの内面を読み解くことができれば、きっと楽しめると信じています。何より、タイトルとは裏腹の「がんばれなくなった」気持ちと、その後の前向きな姿勢……原作を大切にしつつも、そのことに真摯(しんし)に向き合った物語を紡いでくれたことに、心から感謝をしたいのです。

それでも、3DCGそのものに抵抗感がある人は多いかもしれませんが、本編ではすぐに慣れると思いますし、実際にSNSでは「こんなに面白いとは思わなかった」「全体的に隙のない、高いレベルで安定してるタイプのよさ」など、しみじみと称賛をする声が相次いでいます。現時点で上映回数は少なくなっているので、ぜひ劇場情報を調べて、最優先で見ることをおすすめします。

「闇のボート部映画」も公開!

余談ですが、『がんばっていきまっしょい』に続いて、ボート部の青春を描いたアメリカの実写映画『ノーヴィス』が11月1日より公開中です。こちらは新入生の主人公が超努力家……を超えて狂気に取りつかれる「闇のボート部映画」といえるスリラーで、主人公のモチベーションや周りとの関係性など、あらゆる点が「光のボート部映画」こと『がんばっていきまっしょい』とは正反対の内容となっているいるので、併せて見るとそのギャップも含めて楽しめるでしょう。ホラー映画『エスター』の主演でも知られるイザベル・ファーマンが史上最も怖く、また哀しい人物にも思えました。

AI(ロボット)を描く映画が2作同日公開

さらには、『ロボット・ドリームズ』の公開日である11月8日からは、「亡くなった母親の心をAIで再現できるのか」などの問い掛けがされた、同名小説の映画化作品『本心』が公開。人間の生きづらさや悪意を容赦なく描く、大人向けの内容となっています。『ロボット・ドリームズ』と併せて見ると、「AI」に対する価値観の多様性を知ることができるでしょう。2024年に『ぼくのお日さま』『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』でも絶賛された俳優・池松壮亮の演技は、ここにきて神がかりな領域になっていました。

セリフなしのアニメ映画、大評判のロボットアニメ映画は他にも!

さらに、『ロボット・ドリームズ』と同様に、セリフなしのアニメ映画『Flow』が公開日未定ながら日本でも劇場公開予定となっています。さらに、『ロボット・ドリームズ』と同様に、ロボットを主人公とし、全世界で大絶賛の嵐となっているアニメ映画『野生の島のロズ』が2025年2月7日に公開予定です。これらの作品の前に、ぜひとも“アニメならではの表現”が見どころの『こまねこのかいがいりょこう』『ロボット・ドリームズ』『がんばっていきまっしょい』を見てみてほしいです。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)