夫より稼いでいる妻が「ワンオペ育児」 を理由に「離婚」を決断も、夫は頑なに拒否…訴訟でも認められないワケ【弁護士が解説】
近ごろ、「ワンオペ育児」に不満を持つ女性が増えています。いまや子育て世代の女性の多くは仕事をしているなか、仕事から帰宅後も家事に育児にと追われ、心身ともに追い詰められてしまうようです。本記事では、ワンオペ育児が理由による離婚について、Authense法律事務所の白谷英恵弁護士が解説します。
「ワンオペ育児」とは?
ワンオペ育児とは、夫婦の片方に家事と育児のすべての負担がかかることです(多くは女性にかかっています)。ワンオペとはもともと「ワンオペレーション」つまり飲食店の店員がすべての作業を行って店を切り盛りすることを意味します。夫婦の1人が家事育児を一手に背負う状態は、飲食店ですべての作業を行う店員の姿と重なるので「ワンオペ育児」といわれるようになりました。
従来の日本では、女性が専業主婦の場合にワンオペ育児となるケースが多々ありましたし、むしろそれが「普通」という意識もありました。専業主婦の場合、仕事をしていない分家事と育児に労力を注ぎ込むことができましたし、日本では「夫は外で働いて妻は家で家事と育児をする」というステレオタイプな意識が根付いていたので、あまり不満が外に噴出するケースはありませんでした。
しかしいまは時代が変わっています。女性が社会進出し、男性と同等やそれ以上にキャリアを積んで活躍している例も珍しくありません。主婦でもパートやアルバイト、契約社員などで働いて兼業主婦となっている方が多数です。
それでも相変わらず「家事育児については女性が行うもの」という意識が消えないので、働く女性に家事育児の一切がのしかかり、不満を抱いた女性たちが「ワンオペ育児」と表現するようになったのです。そんな「ワンオペ育児」はネガティブワードでもあります。
ワンオペ育児により、離婚を考える妻
最近では、ワンオペ育児を理由に離婚を考える女性が増えているといいます。理由は以下のとおりです。
家事や育児に非協力的な夫を信頼できない
ワンオペ育児のケースでは、夫は家事や育児に協力しません。妻が不満を述べても聞き入れない夫も多く、妻は非協力的な夫に不信感を抱きます。ケンカも増えて結婚生活が苦しくなり、離婚を望むようになります。
収入があり、夫がいなくても充分生きていける
ワンオペ育児に不満を感じる女性は、自分自身も職を持っているケースが多数です。むしろ夫よりも収入の高い人も珍しくありません。自分のほうが高い収入を得ているのに家事も育児も全部しているとなると、不満を抱くのも当然です。離婚しても1人で充分子どもを育てていけると考えるので、離婚に積極的になりやすいのです。
心身ともに限界となる
ワンオペ育児をしていると、自分の仕事と家事、育児に追われて心身ともに疲弊します。寝不足などがたたって体調を崩すこともありますし、精神的にうつ状態となるケースもあります。心身ともに限界となり、夫との離婚を希望するようになります。
ワンオペ育児で離婚できるケースとできないケース
ワンオペ育児を理由とした離婚は認められるのでしょうか?
離婚できるケース
ワンオペ育児が理由で離婚できるケースは以下のとおりです。
■協議離婚で相手が離婚に同意した
協議離婚で相手が離婚に合意した場合には、離婚できます。協議離婚では離婚原因が何であれ、夫婦が双方とも離婚に納得していたら離婚できるからです。役所で離婚届をもらってきて夫婦の双方がサインして必要事項を記入して提出すれば、それだけで離婚が成立します。
■調停離婚で相手が離婚に同意した
調停離婚でも、相手が離婚に合意したら離婚可能です。調停離婚も夫婦が話し合いをして離婚する手続なので、離婚理由は問われないからです。ワンオペ育児であれほかの理由であれ、夫婦の双方が納得していたら調停が成立して離婚させてもらえます。裁判所から届いた「調停調書」を持参して役所に行き、1人で離婚届を出せば離婚が成立します。
離婚できないケース
一方離婚できない可能性があるのは以下のようなケースです。
■相手が離婚に応じないケース
協議でも調停でも、相手が離婚に応じなければ離婚できません。勝手に離婚届を偽造して提出しても無効ですし、場合によっては犯罪になってしまいます。調停で相手が頑なに離婚を拒む場合、話しが平行線になるので調停は不成立になって離婚できません。
■訴訟で法律上の離婚理由がないケース
協議でも調停でも離婚できない場合、最終的に離婚訴訟を起こして裁判所に離婚を認めてもらう必要があります。ただ、離婚訴訟で離婚を認めてもらうのは簡単ではありません。裁判所は以下の5つの法律上の離婚理由のうち1つ以上がないと離婚を認めないからです。
1.不貞(不倫)
2.悪意の遺棄
3.3年以上の生死不明
4.回復しがたい精神病
5.そのほか婚姻生活の継続を困難とする、上記の4つに準ずるほど重大な事由
ワンオペ育児は、通常上記の5つのどれにもあてはまりません。
離婚訴訟で離婚するには
離婚訴訟で離婚したければワンオペ育児以外の離婚原因が必要です。たとえば相手が不倫して家庭を顧みずワンオペ育児状態になっている、相手が生活費を入れない、家出した、相手が暴力を振るう、モラハラ被害を受けている、などの事情があれば離婚できる可能性があります。
ワンオペ育児で慰謝料請求できるケースとできないケース
ワンオペ育児で離婚する場合、慰謝料を請求できるのでしょうか?
基本的には慰謝料請求できない
ワンオペ育児の場合、多くは協議や調停における合意によって離婚するものと考えられますが、その場合、慰謝料請求は困難です。慰謝料は、離婚原因を作った有責性がある配偶者に支払い義務が発生するものです。相手が家事育児をしないのでワンオペ育児状態になったというだけでは、慰謝料が発生するほどの有責性は認められにくいといえます。協議や調停で離婚する場合、財産分与や養育費の請求はできますが慰謝料は基本的に請求できません。
ワンオペ育児で慰謝料請求できるケース
ワンオペ育児離婚する場合でも相手が不倫や家出をした場合や暴力、モラハラ被害を受けている場合には相手に有責性が認められ、慰謝料が発生します。裁判において上記で示した事実を立証すれば、離婚判決で相手に対する慰謝料の支払い命令を出してもらえます。
ワンオペ育児と親権、養育費
ワンオペ育児で離婚するとき、子どもの親権はこれまでワンオペで育児を担ってきた配偶者に認められる可能性が高いといえます。
裁判所では子どもの親権を決めるとき、これまでの養育実績と今後子どもと密接に関わってよい関係を築いていけるかを重視しています。ワンオペ育児で子どもを一手に引き受けていた人は当然養育実績が高くなります。また、これまで子どもを育ててきたのですから、今後も子どもとよい関係を築いて適切に養育していける蓋然性が高いと言えるでしょう。
反対に、これまで非協力的だった相手に親権を認める理由はありません。ワンオペ育児で離婚するとき、相手が「子どもを渡さない」などと言い出しても、親権はあなたに認めてもらえる可能性が高いので安心しましょう。また、親権者になったら子どもが20歳になるまで養育費を請求できます。きちんと公正証書や調停で取り決めておけば、相手が不払いを起こしたときにも差押えによって回収できます。
まずは周囲の力を借りること
ワンオペ育児状態は心身ともに負担がかかるので、追い詰められて「離婚したい」と考えてしまうものです。ただ離婚だけが解決方法ではありません。まずは親や行政機関、カウンセラーのサポートを利用したりパートナーと話し合ったりして、状況改善を目指しましょう。
それでもどうしても夫婦関係を維持できないなら、弁護士などの専門家に相談してみるなど、周囲の力を頼ることも1つの手です。
白谷 英恵
Authense法律事務所