この記事をまとめると

■SUVは「Sport Utility Vehicle」の略称で1980年代の北米市場が起源になっている

■モノコックボディだと「クロスオーバーSUV」と呼ばれるようになった

■モノコックボディとラダーフレームの走行性能差はほとんどなくなっている

SUVという言葉は1980年代の北米で生まれた

 いまや自動車の一大ジャンルとなっているのが「SUV」。そのルーツや語源については諸説ありますが、1980年代に北米市場で「Sport Utility Vehicle」というカテゴリーが生まれ、その略称として広まったというのが定説です。

 その後、1990年前後だったでしょうか、日本にもSUVムーブメントの第一波が訪れました。その時代、ヤングドライバーだった筆者は、リアルタイムにSUVという言葉が広まっていくのを体験していますが、最初はトヨタ・ハイラックスサーフや日産テラノといった小型ピックアップトラックをベースにしたクルマのことをSUVと分類していた記憶があります。

 現在では、トヨタ・ランドクルーザーなどもSUVカテゴリーとされていますが、冒頭でも記したように「Sport Utility Vehicle」の略称ですから、ランクルのような重厚感あるモデルは「クロカン四駆」と呼んで区別していた印象があります。比較的、全高が低めの四駆であることがスポーツ要素であり、なおかつラゲッジが広く、悪路走破性も高いので多目的に使えるパッケージであることがSUV……というのが初期の定義だったといえるでしょう。

 この時点ではクロスオーバーSUVというジャンルは生まれていません。

 クロスオーバーSUVという新ジャンルを生むきっかけになったのが1994年に誕生した初代のトヨタRAV4です。FFプラットフォームをベースにクロカンっぽいルックスや大径タイヤを履いたモデルで、デビュー当初は「ライトクロカン」などと呼ばれていました。

 その後、ホンダからCR-Vが登場、トヨタからハリアー(北米ではレクサスRX)が出てきたあたりで、「クロスオーバーSUV」という呼び方が使われるようになった印象があります。

 冒頭でも紹介したように、そもそものSUVというのはピックアップトラック(商用車)をベースにした乗用仕様ですからエンジン縦置きのラダーフレームとなっています。しかし、RAV4やCR-Vといったモデルは、モノコックボディのFFプラットフォームをベースに車高を上げるなどしたモデルです。より乗用車要素が強いSUVという意味合いで「クロスオーバーSUV」と呼ばれるようになったわけです。

 そのため、当時はSUVとクロスオーバーSUVは明確に区別されていました。口のわるいマニアのなかにはクロスオーバーSUVのことを「なんちゃって四駆」と呼ぶ人もいたくらいです。

 ただし、そうした区別はいつの間にかなくなりました。

最近では「SUV」という言葉の範囲がさらに広がっている

 いまでもSUVとクロスオーバーSUVを区別している人も存在しているでしょうが、自動車業界全体としては変わってきています。いわゆるクロカン4WD的モデルも、乗用車ベースでスタイルはそれっぽいけれどFWDのモデルも、総じてSUVと呼んでいるのが現在のトレンドです。

 その背景には、いくつかの要素があるでしょう。

 たとえば本格クロカン4WDにおいてレンジローバーなどはモノコックボディを採用しています。もはやボディ構造でクロスオーバーなのか、そうでないのかを区別することは難しくなっています。

 乗用ベースのモノコックボディをもつモデルは走破性について、もともとSUVと呼ばれていたような4WD車に劣るというのが定説でしたが、それも覆されてきています。たとえば、スバル・フォレスターなどの走破性が高いことは北米でも評価されていますが、構造的にはモノコックボディの乗用車向けプラットフォームといえます。

 また、ランドクルーザーはラダーフレームを守っていますが、乗り味的にはクロカン的にハードなものではなく、高級車然とした仕上がりになっていると評価されています。

 つまり、クロカン4WDとSUV、そしてクロスオーバーSUVと細かく分類されてきた時代を経て、どのカテゴリーのモデルも走行性能や快適性は変わらないレベルになってきたといえます。そうして各モデルが進化を遂げてきたなかで、構造に由来する機能差がクロスオーバーしてきたこともあり、あえて細かくわける必要もなくなりました。

 結果として、最近ではオフロード走行を意識したロードクリアランスをもつモデル全般を「SUV」と称することになったといえるでしょう。語源に含まれるスポーツ要素を感じさせないようなラグジュアリー系モデルもSUVにカテゴライズされていますが、こうした経緯で統合されるようになったと知れば、そのあたりの疑問や違和感も解決するのではないでしょうか。