『おむすび』写真提供=NHK

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 橋本環奈が主演を務める朝ドラ『おむすび』(NHK総合)は、放送開始から早くも3週目を終えた。これは平成元年生まれのヒロインが栄養士として、人の心と未来を結んでいく青春模様を描く作品である。

参考:現代ものの朝ドラヒロインの特徴は自信のなさ? 橋本環奈に託された『おむすび』の“未来”

 物語のはじまりは、平成16年の福岡県糸島ーー。第3週目の「夢って何なん?」では、ヒロイン・米田結(橋本環奈)が周囲の人々との交流の中で、自身の夢について、ひいては“これから”について思いを馳せる様子が描かれた。

 冒頭に記しているとおり、結の将来の職業は栄養士なのだと決まっている。しかし、それはまだまだ未知の領域。家族が農業を営んでいる彼女は“食”に関心を持って当然の環境に身を置いているわけだが、いまは高校生として新しい生活をスタートさせたばかり。糸島で行われるフェスティバルで「博多ギャル連合(通称:ハギャレン)」のメンバーらとパラパラを踊るべく練習を重ねるいっぽうで、学業も書道部の活動もある。いまは日々のことで精一杯だろう。だが、「ハギャレン」のみんなには将来の夢がある。

 クラスメイトでもあるリサポン/柚木理沙(田村芽実)には“ギャルの歴史を本にすること”という夢があり、スズリン/田中鈴音(岡本夏美)は“ネイリスト”に、タマッチ/佐藤珠子(谷藤海咲)は“ダンサー”に、そしてルーリー/真島瑠梨(みりちゃむ)は“何かしらの社長”になるのだという夢があることが分かった。少し前に結が「しょうもない」「どうせ悩みなんてない」などと勢いで言ってしまった「ハギャレン」の一人ひとりに、大切な夢があるのだ。つまり、彼女たちはいまが楽しければいいという考えでは生きていない。それぞれが未来を見据えているのである。

 そこで結が口にした自身の将来像が、“農家になること”だ。けれどもこれはみんなが口にするような夢とは違う。家業が農家なのだから、次世代の担い手である彼女が継ぐのは当然といえば当然のことなのかもしれない。姉の歩(仲里依紗)がすでにこのルートから外れているため、米田家としては結が頼みの綱だ。しかし「ハギャレン」のみんなが結のこの発言に首を傾げるように、家業のない人間からすると不思議といえば不思議である。結の人生における主人公とは、いったい誰なのだろうかと。

 近年の朝ドラもヒロインたちが夢を追う姿を描いてきた。前作『虎に翼』(2024年度前期)では法曹の世界を歩むヒロイン・寅子(伊藤沙莉)の姿を、『ブギウギ』(2023年度後期)はエンターテインメントの世界を駆け上がるヒロイン・スズ子(趣里)の姿を、『舞いあがれ!』(2022年度後期)は“空”に憧れるヒロイン・舞(福原遥)の奮闘を描いていた。どのヒロインの姿も鮮明に覚えている。強い主体性を持ち、自分の人生を生きようとする女性たちだった。

 しかし、夢というものは誰もが叶えられるわけではない。『舞いあがれ!』の舞は家業であるネジ工場から飛び立ってパイロットになることを目指すものの、時代のうねりや父(高橋克典)が不幸に見舞われたことにより断念。結果的に家業を支えるかたちとなったが、フレッシュな視点と思考とで、父の遺志を次世代へと繋いでいく道を自ら築いていった。

 いまの結はまだ幼いこともあり、決して主体性が強いとはいえない。家業を継ぐと口にしてはいるが、その様子から将来に希望を抱いているとは思えない。もちろん、自身の家族や、米田家の人々が大切にしているものを愛そうという姿勢は感じられる。むしろ心優しい彼女はこればかりだ。けれどもここから続いていくのは結の人生である。彼女は米田家と書道部と「ハギャレン」の人々との交流から、何を見つけるのだろうか。

 いずれは結も『舞いあがれ!』の舞のように、強い主体性を持って自己主張するようになるのかもしれない。思い返せば舞の兄・悠人(横山裕)は、結の姉である歩と同じく、家業のルートから外れた人物だった。そんな共通点もある。何はともあれ、ゆったりと見守ろうではないか。(文=折田侑駿)