日本人の半数がかかる「歯周病」とはどんな病気? 症状や原因、治療について教えて

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歯周病なんて、自分には関係ない」そう思ってはいませんか? 実は、歯周病は日本人の成人の約半数、2人に1人がかかるとも言われる身近な病気です。放置すると自身の歯を失うだけでなく、心臓病や脳卒中、認知症などのリスクが高まることが近年報告されています。そこで、歯周病の基本知識から治療法、予防までを、神保町ミセ歯科・矯正歯科の三瀬先生に詳しく解説していもらいました。

≫【イラスト解説】「歯周病」になりやすい人の特徴・2つの原因

監修歯科医師:
三瀬 太記(神保町ミセ⻭科・矯正⻭科)

日本大学歯学部卒業。東京医科歯科大学歯学部歯周病学講座入局。その後、神保町ミセ歯科・矯正歯科を開院。患者様の不安に寄り添い、丁寧な説明と対話を重視しながら個々のペースに合わせた診療を行う。院内では各専門分野の歯科医師が連携し、患者様一人ひとりのニーズに対応した治療法を提案している。日本口腔インプラント学会、日本歯科保存学会所属。日本歯周病学会認定医。

歯周病の基本知識:原因・症状・リスクを徹底解説

編集部

歯周病とはどのような病気なのでしょうか? 原因や特徴などを教えてください。

三瀬先生

歯周病は、わかりやすく一言でいうと「骨が溶ける病気」です。直接的な原因は口内に住み着いた細菌(歯周病原性菌)で、これらの細菌が作る毒素によって歯ぐきに炎症が起き(歯肉炎)、進行すると歯を支える骨が溶けていきます(歯周炎)。初期の歯肉炎の段階では症状がほとんどないため、気づいた時にはかなり進行していることも少なくありません。一方で、進行して骨が溶けてしまうと治療をしても完治が難しく、長期的な管理が必要になります。

編集部

歯周病になると、どのような症状が表れますか?

三瀬先生

歯周病の初期はあまり目立った症状はありませんが、徐々に変化が表れます。「歯ぐきが赤く腫れぼったい」「歯を磨くと歯ぐきから出血する」などが初期に起こる代表的な症状です。その後、病状が進行すると赤みや腫れが増していき、やがて「歯がグラグラする」「食べ物が噛みにくい」「口臭が強い」などの症状が表れます。そのほかに、歯ぐきが痩せて歯が長くみえたり、歯と歯の間のすき間が大きくなったりします。

編集部

歯周病が進行すると、具体的にどのような影響・リスクがあるのでしょうか?

三瀬先生

歯周病が進行すると歯を失うリスクが高まります。これは歯周病によって歯を支える骨が溶けてしまうためです。実際に歯周病は歯を失う原因の第一位となっています。また、歯周病はお口の問題だけにとどまらず、心臓病や糖尿病、脳卒中、誤嚥性肺炎など、全身の病気のリスクを高めることも指摘されています。さらに、歯周病によって歯がぐらぐらしたり抜けたりすると、咀嚼機能(食べ物を噛む力)が低下します。これによって、「食事が楽しめない」「見た目が悪い」といった生活の質の低下や、全身の栄養状態の悪化などのリスクも生じかねません。

編集部

普段の生活習慣のなかで、歯周病のリスクを高めるものはありますか?

三瀬先生

喫煙は大きなリスク要因の一つです。タバコに含まれる有害物質は歯ぐきの血行を悪くし、免疫力を低下させます。また、ストレスや偏った食生活なども間接的に影響します。とくに、糖分の多い食事や間食が多いと、口内で細菌が繁殖しやすくなるため注意が必要です。そのほかに、糖尿病も歯周病の進行や悪化につながるリスク要因の1つです。

歯周病の診断と治療:治療の流れや期間、再発率について

編集部

歯科医院では歯周病をどのように診断されるのでしょうか?

三瀬先生

歯周病の診断はいくつかのステップで行われます。まず、歯ぐきの状態を目視で確認し、赤みや腫れ、出血などをチェックします。次に、「歯周ポケット検査」を実施します。これは歯と歯ぐきの間にできた溝(歯周ポケット)の深さを測る検査です。この検査で、歯周ポケットが4mm以上だと、歯周病の可能性が高くなります。

編集部

歯周ポケットの深さだけで、歯周病と診断されるのでしょうか?

三瀬先生

いいえ、それだけでは判断できません。例えば、歯周ポケットが同じ3mmでも、健康な歯ぐきの人と、もともと歯ぐきが下がっている人では後者のほうが病状はより深刻です。そのため、私たち歯科医は歯周ポケットの深さにくわえ、歯ぐきの付着量(アタッチメントレベル)も診ていく必要があります。くわえて、レントゲン検査や歯の動揺度、細菌検査などを実施し、これらの結果を総合的に判断して診断を行っていきます。

編集部

歯周病の治療法にはどのようなものがありますか?

三瀬先生

最初に共通して行うのは「歯周基本治療」です。基本治療では、歯磨き指導によるプラークコントロールの徹底や歯石除去を行い、原因となる細菌を徹底的に除去していきます。その後、再評価を行い、あまり改善がみられない場合は次のステップの「歯周外科治療」に進むこともあります。

編集部

では、歯周基本治療で一定の改善がみられたら治療終了となるのでしょうか?

三瀬先生

最終の検査で改善がみられる、あるいは完全に治ってはいないけれど病状が安定している場合は、「メンテナンス」に移行します。これは歯周外科治療を行った場合も同じで、歯周病治療は必ず検査(再評価)でメンテナンスの頻度を決めて、治療終了となります。

編集部

歯周病は治療をすれば完治する病気なのでしょうか?

三瀬先生

残念ながら、歯周病は完全に治すことが難しい病気です。初期の歯肉炎なら完治の可能性はありますが、進行した歯周炎では、失われた骨や歯ぐきの組織を完全に元に戻すことは困難です。ただ、適切な治療とメンテナンスで症状を大幅に改善し、進行を止めることはできます。

編集部

では、再発のリスクも高いのでしょうか?

三瀬先生

はい、治療後のメンテナンスを怠ると必ず再発してしまいます。歯周病は高血圧や糖尿病と同じように、一生付き合っていく慢性疾患ですので、「治す」というより「上手に管理する」という考え方が重要です。ただ、歯周病の発症や進行は個人差もあり、歯磨きを何十年もしなかったのに歯周病にならなかった人もいれば、きちんと歯磨きをしていても歯周病になる人もいます。これは遺伝的な要因や免疫バランスが関係しているため、個々の患者さんの免疫反応や体質も考慮しながら、治療やメンテナンスを進めていくことが大切です。

歯周病の予防:日常生活でできる予防法と再発防止策

編集部

歯周病は自分で予防することはできるのでしょうか?

三瀬先生

歯周病は自分である程度予防することができますが、100%予防できるわけではありません。歯周病の直接的な原因は細菌(プラーク)なので、毎日のセルフケアでプラークをきちんと取り除くことが予防の基本です。しかし、これだけでは完全に予防することは難しいので、定期的な歯科医院でのチェックとクリーニングをおすすめします。セルフケアと専門的なケアを組み合わせることで、より効果的に歯周病を予防できます。

編集部

そのほかに、歯周病を予防するうえで気をつけたいことはありますか?

三瀬先生

生活習慣の変化にも注意が必要です。生活習慣が変わったり、プライベートな環境が変化したりすることで、歯周病の状態に影響が出ることがあります。患者さん自身では関係ないと思っていることでも、実は専門的に見ると、その生活習慣の変化が歯周病の進行や悪化の要因になっていることも少なくありません。そういった細かな変化を察知する意味でも、歯科定期健診(メンテナンス)は重要な役割を担っています。

編集部

歯周病を防ぐうえで、歯科定期健診(メンテナンス)はどのぐらいの頻度で通うといいでしょうか?

三瀬先生

歯周病予防のための定期健診の頻度は、個人の口腔内の状態や生活習慣によって異なります。一般的な目安としては、3~4ヶ月に1回程度です。ただし、これはあくまで平均的な頻度で、歯周病のリスクが高い方や過去に治療を受けた方は1~3ヶ月に1回程度のペースをおすすめすることもあります。

編集部

最後に、読者へメッセージをお願いします。

三瀬先生

歯周病は個人差が大きい病気で、発症や進行には歯磨きの頻度や細菌のほかに、遺伝的な要因や免疫力なども大きく関係しています。一口に「歯周病」といっても患者さんごとに違いがあるため、信頼できる歯科医のもとで自分に合ったケア法を学び、最適な治療を受けることが大切です。患者さん一人ひとりの反応を長期的に観察し、適切なケアを提供する歯科医院を見つけていただきたいと思います。

編集部まとめ

歯周病は口内の細菌が引き起こす慢性疾患で、お口の中だけでなく、全身の健康にも悪影響を及ぼします。初期の段階で症状はほとんどなく、自身で気づかないうちに進行していることも少なくありません。予防ではご家庭でのセルフケアにくわえ、歯科医院での定期的なチェックとクリーニングが不可欠です。健康な歯と歯ぐきを維持するためにも、症状の有無にかかわらず歯科定期健診を習慣にしていきましょう。

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