この記事をまとめると

■「紙カタログ」のデジタル化が進んでいる

■最近のクルマはカタログが説明書に近くなっている

■紙のカタログベースで商談が進むことはまれだ

紙カタログが減少中!

 2022年にネットニュースで、「日本でもカタログがなくなるのでは?」との報道を目にして、幼いころからカタログ収集を行ってきた筆者の想いを書いたことがあるが、いよいよそのときが近づいてきたように感じている。

 一部のメーカー系正規ディーラーのさらに一部店舗では、セールスマン個々がもつタブレット端末で閲覧できる「デジタルカタログ」メインで商談を進めているとの話を聞いている。また、あるカタログ収集家は、「メーカーによっては、どんなに高額車であっても味もそっけもないペラペラの、昔なら「簡易カタログ」のようなものしか用意していない。これは紙のカタログがなくなる、まさに前兆だ」と嘆いていた。

 それこそ、バブル経済に日本が浮かれ、まさに新車が売れに売れた頃のカタログは、高級車ほど「えっ」と驚くほど装丁が豪華なものであった。ページのほとんどは見開きのイメージ写真などで、購買意欲をそそるかっこいいキャッチコピーが写真に添えられていた。残りは装備やメカニズムの説明、そして全グレードの外観や室内写真を掲載するのがお約束であった。

 ただし、カタログというアイテムはアメリカなどでは通用しない。アメリカなど諸外国では「BROCHURE/ブローシャ」といわないと伝わらないのだ。カタログは「商品説明書」という意味になるとのこと。一方、パンフレットは「数ページで簡易的に中綴じ製本(針金などで綴じる)された小冊子」ということなので、新車のカタログはパンフレットという表現のほうが近いのだが、海外ではパンフレットと同義語ともいえる「ブローシャ」が使われているということになるらしい。

 高額車であってもページの少ない簡易カタログのようなものしか用意しないメーカーがある一方で、昔ながらの厚みのあるカタログのままのメーカーもある。しかし、いまどきの新車は、安全運転支援装置やコネクティッドシステムなど、説明しなければならないデバイスがじつに多く、ページの多くをそのような装備の説明に費やしてしまっており、前述したパンフレットやブローシャというものより、文字どおり商品説明書となる本来のカタログという表現の似合うものとなってしまっているところも、収集家からは嘆きが聞かれる。

 このあたりはセールスマンの説明で本来フォローすべきとも考えるのだが、ここまで装備が増えてくると販売のプロであるセールスマンもどこまで正確に商品知識を把握し、記憶してお客に説明できるのかという問題も出てくるだろう。カタログというものが購買意欲を煽る、イメージ写真中心のものから、車両概要の説明に軸足を置いたものに変化してくれば、情報量も多くなるのでタブレット端末で閲覧できるデータ形式のもののほうがいいということにもなるだろう。

カタログありきで商談が進むことが減っている

 その昔はカタログをディーラーへ行き、もらってきて、その日の晩から寝る前など徹底的に読み込み、諸元表や装備一覧表などを見て欲しいグレードなどを決め、そのあとお客の自宅などにセールスマンが訪問してきて商談するというのが当たり前だったので、デジタルツールの有無に関係なく、紙ベースのカタログというのは商談に馴染んでいた。

 しかし、いまや店頭商談で、しかも商談1回ぐらいだけで契約まで進むようなことが多くなれば、そもそもお客側としてはわざわざ紙のカタログをもらうことなく、タブレットをのぞき込めばそれで済んでしまうので、その意味でも紙ベースのカタログはその役目を終えるとなっても仕方がないのかもしれない。

 筆者は仕事柄、新車ディーラーへよく出かけるのだが、最近はこちらから「カタログをください」といわないと、セールスマンからは「カタログをおもちしましょうか」といわれないケースが目立ってきている。「年寄りなので紙ベースのカタログがないと気分が出ない……」とセールスマンに話し商談テーブルで待っていると、セールスマンが紙カタログをもってきてくれたりするが、いまどきのセールスマンも商談においてカタログがあまり重要なツールとは考えていないようにも見える。

 新車は高い買い物なので、お客を買う気にさせるというのもセールスマンの腕の見せどころであった。そんなときに、格好いい写真のたくさん掲載されている昔のカタログは、まさに「セールスツール」としてその役目を発揮してくれていたのである。

 以前、中国BYDオート(比迪亜汽車)のディーラーへ行ったのだが、BEV(バッテリー電気自動車)のみを扱うこともあるのか、当然のように紙のカタログはなかった。さらに、ショールーム展示してある展示車のスタートボタンを押してみてくださいといわれ驚いた。ICE(内燃機関)の展示車ならばスタートボタンを押せばエンジンがかかりたちまちショールーム内に排気ガスが充満してしまう。セールスマンいわく「店内でも運転できる状態でさまざまなチェックができます」とのことで、いままでにない新鮮な気もちを味わった。

 デジタル社会だから紙がおしまいというわけではないが、クルマのカタログだけでなく、広く紙ベースのものから情報収集したことのない世代が増えつつあるのだから、時代に即したツールの用意は仕方ないが、やはり紙ベースのカタログがなくなるのは寂しい限りである。