福岡県北九州市、山に入る途中にポツンと建っている二棟の家があった。その一軒には祖父・祖母が住み、もう一軒には娘夫婦と孫が3人住んでおり、いつものように夫は仕事へ出かけた。この日祖母は用事があり、バスで1時間程かかる小倉へと向かった。

夕方、娘は孫3人を祖父に預け仕事へ。5時に帰ってくるはずの夫だったが一向に帰ってこないため、用事があった祖父は、祖父・祖母が住む家に孫3人を残して出かけてしまった。

やがて、暗くなる家が怖くなり5歳のお姉ちゃんが電気をつけようとしたが、電灯に手が届かない。そして、仏壇のろうそくに見よう見まねで火をつけてしまった。その後子どもたちは遊びに夢中になり、気づけば炎が静かにゆっくり燃え上がっていた。

炎は一気に燃え広がった。一番上のお姉ちゃんが台所に走り何度も水をかけるが、火はどんどん大きくなっていく。

その頃、祖母がタクシーで帰宅。そして、ほかの見知らぬ車に3人のサラリーマンの男性が乗っていた。運転は今泉保憲さんという男性。火事に気づき咄嗟に車を停め、「孫がいるんです!中に孫が!」と叫ぶ祖母を見て、今泉さんは「オレが行くしかない」と思ったという。今泉さんはかつて自衛隊におり、消火訓練の経験もあった。そして重ねた背広を頭からかぶり無我夢中で火事の中を突き進むと、祖父母の家の方から、子どもたちの声が聞こえた気がした。

その声を聞いて今泉さんが飛び込むと、子どもたちを発見。3人の子をしっかりと抱きかかえ、火事となった祖父母の家から無事逃げられた。無事脱出できたその直後、プロパンガスが爆発し祖父母の家は吹き飛んだ。

火事から21年後、助けられた男の子、当時3歳の村上学さんはすっかり大人になって、今泉さんと再会している。