年金15万円・1人暮らしの〈79歳母〉が「悔しい、悔しい」と繰り返し嗚咽…実家に急行した〈53歳長男〉が目にした「まさかの光景」
高齢化と共に進む核家族化。それによりひとり暮らしの高齢者が増えています。高齢であっても家族に気を遣いたくないと、ひとり暮らしを熱望するケースも珍しくありませんが、高齢のひとり暮らしだからこそ巻き込まれやすいトラブルも。
高齢者だけの世帯の半数は「ひとり暮らし」
厚生労働省『令和5年国民生活基礎調査』によると、65歳以上のいる世帯は2,695万1,000世帯。全世帯の49.5%と、ほぼ半数を占めます。
さらに細かくみていくと、最も多いのが夫婦のみの世帯で863万世帯。65歳以上がいる世帯の32.0%。続いて、高齢者の単独世帯で855万世帯(31.7%)。また親と未婚の子のみの世帯が543万世帯(20.2%)。
また経年でみていくと、バブル前の1986年、65歳以上がいる世帯は976.9万世帯で全世帯の26.0%。そのなかで最も多かったのがアニメ・サザエさんのような三世代世帯で、65歳以上がいる世帯の44.8%を占めていました。
その後、急激に夫婦のみの世帯、単独世帯が増えていき、三世代世帯と夫婦のみの世帯が逆転したのは2001年。三世代世帯が417.9万世帯に対して、夫婦のみの世帯が454.5万世帯。2007年には単独世帯も上回り、三世代世帯が352.8万世帯に対して単独世帯は432.6万世帯。そして2010年には親と未婚の子世帯も上回り、三世代世帯が334.8万世帯に対して、親と未婚の子世帯は383.6万世帯。2023年、三世代世帯は189.8万世帯と200万世帯を下回り、かなりレアな存在となっています。
さらに家族が全員65歳以上という高齢者世帯をみていくと、2023年、1,656万世帯。なかでも最も多いのが単独世帯で855.3万世帯。続いて夫婦のみの世帯が730.3万世帯となっています。
高齢者の単独世帯をさらに細かくみていくと、高齢者男性のおひとり様が35.6%に対し、高齢女性のおひとり様は64.4%。
さらに高齢男性のおひとり様で最も多いのが「70〜74歳」で27.7%。「65〜69歳」が25.1%、「75〜79歳」が19.5%と続きます。高齢女性のおひとり様で最も多いのは「80〜84歳」で20.6%。続いて「75〜79歳」が20.4%、「70〜74歳」が20.3%。ちなみに85歳以上と大きく括ると24.9%と最多となります。
厚生労働省『令和5年生命表の概況』によると、2023年の日本人の平均寿命は、女性が87.14歳、男性が81.09歳。男女差は6歳ほどとなり、男性のほうが年上の夫婦が多いこと、男女の平均寿命を考えると、女性のおひとり様のほうが多くて当然といえるでしょう。
ある日、実家で1人暮らしをする高齢母からの着信。異変を感じ…
井上哲也さん(仮名・53歳)の母親、美代子さん(仮名・79歳)も、父親(美代子さんの夫)が亡くなって以来、実家でひとり暮らしをするようになって8年目になります。高齢の母のひとり暮らしには哲也さんも抵抗感があるものの、「今からほかのところで暮らすほうがしんどい」とどんなに同居を呼びかけても美代子さんは首を縦に振ることはないのだとか。
確かに哲也さんの自宅は、実家から車で3時間ほどの距離。美代子さんはまったく土地勘がありません。80代にして縁もゆかりもない場所で新生活というのは、現役世代の人たちが考えるよりもずっとハードルの高いことなのかもしれません。
――母さんの思いを尊重するしかないか
そう思っていた哲也さん。しかし、そこに事件が……ある日、美代子さんから着信。仕事で出ることができず、その日の夜に折り返し、電話を入れます。
電話に出た美代子さんは、ただ「悔しい、悔しい、悔しい」と繰り返します。何が悔しいのか尋ねるも、次第に美代子さんは涙声になっていき要領が得ません。仕方なく、その週末、車で実家に急行。最近は仕事が忙しく、帰省は半年以上ぶりでした。「母さん、おじゃまするよ」と玄関を開けようとしたとき、少々違和感を覚えたといいます。
――あれ実家の玄関って、こんなんだったけ? 母さん、リフォームでもした?
あたりを見渡すと外構もどこか変わった気がします。さらに家にはいると、台所やトイレなどの水回りも、半年前よりもキレイになっていました。
美代子さん、年金は月15万円ほどで、父が遺してくれた貯金も結構あります。経済的に余裕があることは、哲也さんも知っていました。高齢の母、より安心して住めるようにとリフォームするのはわかりますが、哲也さんの記憶では確か4年ほど前。段差をなくしたり、手すりをつけたり、扉をスライド式にしたりなど、全面バリアフリーのリフォームをしたはず。その際、屋根や外壁の修繕もしているはずです。家に手を加えるには、あまり時間が経っていません。
――母さん、どうしたの?
リフォームしてそれほど経っていない実家が、さらに見た目キレイに。美代子さん曰く、この半年ほどで、床下や屋根裏など、傍からはみえない部分から、外構や玄関、水回りなどをリフォームをしたとか。きっかけは、白アリ業者の突然の訪問。無料点検という触れ込みで家を尋ねてきたといいます。「タダなら……」と点検してもらったところ、「大変、結構、喰われちゃってますよ、白アリに」と点検業者。それで床下や屋根裏を直してもらったところ、次に屋根も、玄関も、水回りも、外構も……次から次へと不良が見つかり、都度対応していったのだとか。
次から次へとどこぞの業者がやってくる様子を不審に思っていた近所の人が「大丈夫、騙されていない?」と声をかけてくれたのだとか。そこで、近所の人の知り合いの業者に新たにリフォームを施したところを見てもらったところ、「こんな雑な仕事はない」「こんなの白アリ対策にはならない」など、次から次へと欠陥が出てきたという顛末。美代子さん、いいカモにされていたわけです。
美代子さんが哲也さんに電話をしたのは、どうしたらいいかわからず助けを呼びたかったから。しかし、騙された(だろう)ことをいうと怒られるかと思い、ただ悔しいと吐露するしかなかったといいます。
――なんで母さんを怒るのさ。怒るなら、母さんをだましたかもしれない業者のほうだろう
哲也さんと美代子さん、少しでも払ったお金が戻ってくるか、まずは専門家に相談をしているところだといいます。
ひとり暮らしの高齢者の増加と共に、昨今問題になっているのが、高齢者に対する過量販売。特に認知症を患っているなど、判断力が劣っている高齢者がトラブルに巻き込まれるケースが増えています。高齢者自身はトラブルに遭っているとは気づかないケースも珍しくはありません。家族ごとに事情があるので、同居することが難しい場合もあるでしょう。異変に気づくことができるよう、直接会うことはできなくても、コミュニケーションは密にしたいものです。
[参考資料]
厚生労働省『令和5年国民生活基礎調査』
厚生労働省『令和5年生命表の概況』