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タレントの羽賀研二さんら計7人が9月25日、虚偽の不動産登記で差し押さえを免れようとしたとして、愛知県警捜査四課に逮捕されたと報じられています。

NHKなどの報道によれば、逮捕されたのは羽賀さんのほか、特定抗争指定暴力団組長ら7人で、沖縄県内の土地や商業ビルの所有権を羽賀さんから羽賀さんが経営する会社に変更する登記を行い、差し押さえを免れようとした疑いがあるそうです。

詳細は不明ですが、羽賀さんには電磁的公正証書原本不実記録、強制執行妨害目的財産損壊等罪などの疑いがかけられています。これらの罪はどのようなものなのでしょうか。また、有罪となった場合には実刑となる可能性があるのでしょうか。

●電磁的公正証書原本不実記録罪・供用罪

<電磁的公正証書原本不実記録罪・供用罪>について、刑法157条1項では、以下のように規定されています。

「公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する」

本件では、羽賀さんが登記官(=公務員)に対して、不動産の譲渡の事実がないのに、譲渡があったかのような申し立て(=虚偽の申立て)をして、登記簿(=公正証書)のデータ(=原本として用いられる電磁的記録)に、所有者が会社であるという嘘の情報を記録させたといえれば、これにあたるでしょう。

また158条は、上のように作成した文書を「供用」した(=閲覧可能な状態にした)場合の規定です。本件も「供用」にあたることに特に問題はないでしょう。法定刑は上と同じです。

●強制執行妨害目的財産譲渡仮装罪

次に、<強制執行妨害目的財産譲渡仮装罪>について検討します。

刑法96条の2に、以下のように規定されています。

「強制執行を妨害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第三号に規定する譲渡又は権利の設定の相手方となった者も、同様とする。

一 強制執行を受け、若しくは受けるべき財産を隠匿し、損壊し、若しくはその譲渡を仮装し、又は債務の負担を仮装する行為」

本件の羽賀氏は、強制執行を妨害する目的で、強制執行を受けるはずだった不動産の譲渡を仮装したようですので、これにあたります。

●「文書偽造罪」は成立しない

ネット上には「文書偽造(刑法159条など)にもあたるのでは?」という声もありました。

本件では、登記移転の手続きのためには、羽賀氏から羽賀氏の会社に不動産の譲渡が行われたことを証明する書類(売買契約書など)が必要となります。そうすると、羽賀氏が嘘の内容の契約書等を作っているはずだから、私文書偽造罪になるのではないか、ということのようです。

しかし、刑法上の文書偽造は、基本的に、作成権限がない人が、作成権限があるかのように偽って文書を作成する場合に成立します。本件では、羽賀氏は自分の会社に不動産を売却するという契約書を作成する権限自体はありますので、私文書偽造罪は成立しません。

●司法書士が逮捕されたのは、なぜ?

本件では、司法書士も逮捕されています。

司法書士は、登記手続等の専門家です。おそらく、本件のような嘘の登記に加担したことで、羽賀氏の共犯として逮捕されたのだと思われます。

ただ、羽賀氏が司法書士に単に登記手続を頼んだだけだと、司法書士としては頼まれた手続きを仕事として行っただけということになり、羽賀氏の共犯にはならないと思われます。

反面、羽賀氏から強制執行のことを相談され、羽賀氏と結託して不動産の仮装譲渡・登記を行ったといえるような事情があれば、共犯となりそうです。今後このような点について捜査が進んでいくのではないでしょうか。

●量刑はどうなる?

以上のように、現在報道されていることが真実であれば、電磁的公正証書不実記録罪、同供用罪、強制執行妨害目的財産譲渡仮装罪、が成立することになりそうです。

前二者は、嘘の記録を作って閲覧可能な状態にするところまで、全体として一罪となります(牽連犯といいます。刑法54条1項後段)。

また、電磁的公正証書不実記録・供用罪は公文書への社会的信用を保護する規定で、強制執行妨害目的財産譲渡仮装罪は、民事上の強制執行が適切に行われることを保護する規定ですから、それぞれの罪は守るべき利益(保護法益)が異なるといえるでしょう。

そこで「併合罪(刑法45条前段)」となり、最大で重い罪の1.5倍(7年6ヶ月)までの懲役刑となる可能性があります(同法47条本文)。実際にはそこまで重くはならないように思えますが、有罪であれば実刑判決が下されることになりそうです。

なお、羽賀氏は2020年に実刑判決を言い渡され、21年9月に出所しているようですので、そもそも次の判決がその5年後(2026年9月)までに下されるようであれば、原則として法律上執行猶予がつけられません(刑法25条1項)。

執行猶予が法律上つけられる場合となっても、前科との関係で今回も実刑判決が下される可能性が高いでしょう。

また、強制執行妨害目的財産譲渡仮装罪では罰金の併科が可能ですので、さらに罰金刑も下される可能性もあります。