ダイソー「姉妹チェーン」通って感じた一抹の不安
「ちょっといいのが、ずっといい」をコンセプトに、店舗数を増やしているStandard Products。「無印良品のライバルになるのでは?」と言われていますが、ブランディング戦略と出店戦略のズレを筆者は指摘します(筆者撮影)
躍進するStandard Products
「Standard Products」(スタンダード・プロダクツ)をご存じだろうか?
100円ショップのダイソーが出店を精力的に進めている「非100円ショップ」で、2021年に誕生。現在では100店体制となり、毎月5〜8店舗の新店がオープンしている。今後は500店を目指すという。
店のコンセプトは「ちょっといいのが、ずっといい」。日本の地場産業とのコラボレーションを積極的に行い、高品質な商品を110〜1100円の値段で扱う。製品にはプロダクトデザイナーが入り、おしゃれさと安さの2軸を目指している。
店のコンセプトや商品ラインナップが、あたかも「無印良品」のようだと話題になったこともある。ただ、無印良品と比べて商品単価が安いために、その有力なライバルになるのではないかとも目されている。
【画像14枚】ダイソーの姉妹チェーン「Standard Products。店内はおしゃれな雰囲気、商品の価格は110〜1100円と幅広い
運営会社である大創産業代表取締役の矢野靖二氏によれば、Standard Productsは、海外展開を見込んで立ち上げたブランドで、ダイソーとは異なる基軸を目指すという。
とくに昨今は、円安による物価高の影響で100均自体の利幅が少なくなっていることもあり、今後のダイソーを支える柱になるかもしれない。
おしゃれな空間が広がっている(筆者撮影)
そんな、Standard Productsだが、今後の展開はうまくいくだろうか。消費者として、個人的に店舗を訪れるなかで、少しばかり不安になることがあった。今回はその一抹の不安を書いてみたい。
「ストーリー」を売るStandard Products
不安を語る前に、もう少しStandard Productsについて解説したい。その特徴はどこにあるか。それは、これまでのダイソーが徹底的に「実用性」をウリにしてきたのに対し、それとはまったく異なる「ストーリー」や「イメージ」をウリにしていることだ。
ダイソーは、多種多様な商品をすべて100円で買うことができる実用性を前面に押し出していて、店の中は商品がぎっしりと詰められている。薄利多売のビジネスモデルを巨大なレベルまで作ってきた。店内は、商品がよく見えるようにとても明るく、空間的にも実を取っている感じがする。
一方、Standard Productsの店内を見ると、商品が置かれている棚はゆとりを持って配置されていて、店の中はすっきりしている。そして、ディスプレイや看板などを大胆に使い、店の「メッセージ」を押し出す。
店内にはディスプレイなどが配置されている(筆者撮影)
コンセプトでもある「ちょっといいのが、ずっといい」という言葉に始まり、それぞれの商品の横にはQRコードが付けられ、商品の「ストーリー」を見ることができる。
コンセプトが堂々と掲げられ…(筆者撮影)
QRコードでインスタの動画を見ることができる。実際、「見てみよう」という気になる(筆者撮影)
実際の商品も「ストーリー」性のあるものが多い。Standard Productsは積極的に地場産業とコラボしており、その商品についての情報が説明されている。大量生産ではない地場産業だからこそ、その背後に「ストーリー」がある。
今治のタオルともコラボレーションしている(筆者撮影)
店舗は全体的にウッディーな雰囲気で統一されており、イメージカラーは落ち着いたグレー。やや照明が落ちている店内には、環境音楽のようなBGMがかかっている。
ダイソーとは明らかに違う店構え。グレーが基調(筆者撮影)
ダイソーとはまったく異なり、「世界観」をいかに構築するのか、その点を意識していることがよくわかる。
いまいち基準のわからない出店場所
こうして、独自の「世界観」を作ろうとしているStandard Products。消費者としては、その商品には今のところ満足しているのだが、一つ気になることが生まれた。「出店場所」だ。その軸がいまいち見えづらいのである。これが、私の一抹の不安につながる。
1号店は渋谷マークシティ、2号店は新宿アルタに誕生し、その意味ではファッションビルなどに積極的に出店を進めていくのかと思われた。「おしゃれさ」を目指す同店としては、納得のいく選択だろう。しかし、特にその後の出店を見ていくと、イオンやイトーヨーカドー、百貨店の一部、さらにはドンキなど、ありとあらゆるところに出店を進めている。
出店するテナントの方向性が特に無さそうなのである。
吉祥寺店はヨドバシカメラの上に(筆者撮影)
成増店は、なんとMEGAドンキに。いや、便利っちゃ便利なのだが……(筆者撮影)
これには、おそらくStandard Productsの中にダイソーとの複合店が多い関係もある。というか、ダイソーとの複合店での展開は、3号店であるマロニエゲート銀座店からはじまっており、おそらく始動時からあった構想なのだろう。
今年の10月にも新宿のビックロ内に大型複合店を展開するという。狙いとしては、ダイソーの客とStandard Productsの客とでの買い周りを促進する意味もあるだろう。
池袋店は、池袋東武の中に。「THREEPPY」というブランドも合わせて、3つのブランドが一緒に入っている。こうした店は珍しくない(筆者撮影)
しかし、気になるのは、先ほども書いた通り、Standard Productsは明確な「世界観」を持っていることだ。それは店内のあり方だけでなく、出店立地などにも影響されるだろう。「〜〜な場所にはStandard Productsあるよね」となる状態が、Standard Productsのブランディングにとっては望ましいのではないか。
複合店は、レジも共通の場合が多い。こうなってくると、ダイソーとほとんど同じだ(筆者撮影)
一方、ダイソーの場合はどこまでも「実利」をとっていくから、入れるところにはどんどんと入っていく。もともとが、百貨店の催事場を借りて営業していた歴史もある通り、少しのスペースでも貪欲に出店を伸ばしていく。ダイソーの出店戦略には「世界観」は関係なく、とにかく売ることができる場所、そしてある程度人が来る場所であればよいのである。
実は、ダイソーの方向性とStandard Productsの方向性は、本来、出店立地において相反するところがあると思うのだが、それが複合店によって一緒になっている。そこにStandard Productsの難しさがあると思うのだ。
「ブランド」を確立した無印良品
この点、Standard Productsと比較されやすい無印良品はどうだろうか。
その出店は1号店の青山に始まり、西武百貨店を中心に進められた。ある程度、都市部のハイソな店として数年間はそのイメージ戦略を形作っていった。
一方で無印良品も出店が加速した際、ブランド力が低下し業績不振に陥ったこともある。その際、運営会社である良品計画の新社長に就任した松井忠三は、商品開発から店舗レイアウトにわたる徹底したマニュアルを作り、「仕組み化」を進めた。松井は自著の中で「『これがいい』ではなく『これでいい』」という無印良品のコンセプトを、この「仕組み」によって担保することの重要性を述べている(『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』、KADOKAWA)。
その結果、「無印良品でモノを買う」という「無印」ブランドが強固に再生した(その名前に反して)。イメージ戦略に成功したのである。
無印良品を見ると…(筆者撮影)
店内はStandard Productsに似ているが、やはりブランド力で言うと、無印良品のほうが一枚上手だろう(筆者撮影)
近年、無印良品は、地方への展開も積極的に行っており、その意味では出店等によるブランドイメージの操作はそこまで行われていないともいえる。しかし、それは無印良品がある程度「イメージ」を確立したからであり、それを地方に持っていっている、と見ることもできるだろう。
Standard Productsと無印を比べるのは、その歴史の違いから見て酷なことかもしれない。しかし、やはりStandard Productsには、まだまだ無印ほどの強さはないといえる。ダイソーにひきづられた出店が、今後、どのような影響を及ぼすのか。
目指すべきは「セリア」の方向性?
100均で見れば、「おしゃれ」というイメージで世界観の構築に成功しているのが、業界2位の「セリア」かもしれない。巷では「センスのセリア」という表現も見られるぐらいで、ウッディーで手作り感のある店内や、その商品のデザイン性などに、熱狂的なファンが付いている。
セリアに対して、ダイソーは圧倒的な品揃えや、業界内での歴史の古さが強みとなっているが、Standard Productsが目指すべきは、本来、セリア的な方向だったのかもしれない。
100均業界の中において、センスに定評のあるセリア(筆者撮影)
そう考えると、Standard Productsが目指す「世界観の構築」は、ダイソーが弱みとしているところでもあり、ここでStandard Productsがどのように踏ん張れるかが、大創産業の、企業としての今後にもつながってくるだろう。
(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)