記事のポイント

CMO職の重要性は視点により異なり、企業によって復活させる例もあれば廃止する例もある。

CMO肯定派は、ブランド強化や企業成長に貢献する役割として評価しており、多くのCEOもその重要性を認めている。

否定派は、マーケティングがより専門化する中、従来のCMO職では不十分とし、役割の再定義や他職種への置き換えを支持している。


マーケターが古くからの疑問に頭を悩ませる時期がまたやって来た。今日のビジネス環境において、CMO職は依然として重要なプレイヤーなのだろうか、それともマーケティングに関する果てしない議論から生まれた過去の産物に過ぎないのだろうか。

いつものように、その答えはどのような視点で考えるかによって異なる。たとえば、ギャップ(Gap)は2年間の空白期間を経てCMO職を復活させたが、ヒョンデ(現代自動車)はCMO職を段階的に廃止することを選択した。

CMOが再び脚光を浴びるなか、マーケターの最高責任者が企業にとってかけがえのない人材となることもあれば、時代遅れの象徴となることもあるといった理由を探るために、本記事では肯定派と否定派の意見を掘り下げてみよう。

CMO肯定派の意見



ナイキ(Nike)のCEOは、「インパクトのあるストーリーテリング」と「ブランドの差別化」、つまりブランド広告の強化がもたらす利点を称賛している。ゼネラルミルズ(General Mills)のトップは、ブランドの強化について熱弁を振るった。リーバイス(Levi Strauss & Co.)のCEOは、ビヨンセの名前を挙げて文化的関連性の価値を称賛し、そのことがブランド開発の加速化につながっていると述べている。

多くのCEOにとって、CMOは成長の原動力となる利益を生み出す存在だ。これは単なる業界誌の言い分ではない。最近発表された各社の決算報告書は、マーケティング担当幹部がどれほど重要なのかを示している。ペプシコ(PepsiCo)、ギャップ、ユニリーバ(Unilever)、プロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble:以下、P&G)、ゼネラルミルズ、ネスレ(Nestle)のCEOはいずれも、マーケティング部門、ひいてはCMOが今四半期の財務的成功の原動力になったことを認めていた。

彼らのようなCEOは、専門用語が飛び交う報告書で、自社ブランドを単なる予算上の一項目ではなく、重要な資本投資と位置づけている。これはよく聞く話だが、経理部門がマーケティング費用を削減可能なコストと見なすことが多い現状を考えると、難しい課題でもある。マーケティング費用は、ほかの費用と違って支出した年に計上されるため、特に影響を受けやすい。

しかし、ナイキやリーバイスといった企業のCMOは、広告活動を中核事業に引き上げ、厳しい時期でも予算を守り抜いてきた。彼らは長年にわたり、経営陣の尊敬を得られるような形で自らの価値をアピールする術を身につけてきたのだ。

このことは、PwCの米国法人でマーケティング変革責任者を務めるサムラット・シャルマ氏が一緒に仕事をしている一部のCMOにも当てはまる。彼らのようなマーケティングリーダーは、自社のビジネスでデータの価値を引き出す方法の確立にますます注力している。「これまでならクリエイティブやメディアから着手していたかもしれない彼らが優先順位を変えたことは、マーケティングの影響力を上層部に示すための新たなアプローチといえる」と、シャルマ氏は指摘した。

もちろん、彼らがいつもうまくいっているわけではない。マーケティングの価値を認めている役員会においてさえ、CMOは自らの価値を絶えず証明するのに苦労している。だが、CMO職が削減される一方で、復活するケースもある。オールドエルパソ(Old El Paso)やハーゲンダッツ(Häagen-Dazs)などのブランドを展開するゼネラルミルズは、ことし初めにグローバルCMO職を復活させた。コカ・コーラ(Coca-Cola)も、9月に入って同様の措置を取っている。CMOの世界では、不在が愛を深めるようだ。

CMO否定派の意見



CEOやCFOと異なり、CMOの役割は必ずしも不可欠ではないかもしれない。一部のフォーチュン500(Fortune 500)企業では特にそうだ。実際、フォレスター・リサーチ(Forrester Research)の調査によれば、CMOを置いている企業は全体の3分の2(63%)に過ぎなかった。つまり、多くの大企業にとって、CMOはなくても困らない贅沢品というわけだ。

また、役員会でマーケティング担当者の席が用意されていたとしても、その席にCMOが座るとは限らない。

現実には、企業はマーケティング幹部に対して、従来のCMO以上の役割を求めるようになっている。今日のマーケターは、リテールメディア事業の管理や社内のプライバシー対策の指揮はもちろん、場合によってはM&A戦略への貢献まで期待されている。かつてないほどの多才さが求められるようになった今、従来のCMO職では不十分なのかもしれない。

ヒョンデの最近の動きは、このようなトレンドを象徴している。同社の経営陣はCMO職を廃止し、最高クリエイティブ責任者とマーケティングパフォーマンス担当バイスプレジデントを新たに任命した。その理由は単純明快だ。マーケティングが複雑化するにつれて、スイスアーミーナイフのような多機能ツールではなく、専用ツールが必要になることがある。

彼らのような企業にとって、「何でもこなすスペシャリスト」としてのCMOはもはや時代遅れなのだ。

CMO職を再定義



それでも、こうした動きはCMOの役割を完全に否定するものではない。現代のマーケティングが協調的で部門横断的なアプローチを必要とし、成功がひとりの著名なリーダーではなく専門的な知識や戦略的な調整に左右されるという現実を反映しているのだ。

そのため、P&Gのマーク・プリチャード氏、ユニリーバのキース・ウィード氏、ゼネラル・エレクトリック(General Electric:GE)のリンダ・ボフ氏など、オンラインマーケティングの隆盛期にメディアに精通し、ソートリーダーシップを発揮したことで知られるスターCMOの時代は、ますます過去のものとなりつつある。

今日、マーケティングにはより専門的なスキルと幅広い戦略的展望が求められる。そのため、企業はCMOの役割を、CCO(最高顧客責任者)、CGO(最高グロース責任者)、CSO(最高戦略責任者)、CDO(最高デジタル責任者)などの役職で補完したり、置き換えたりするようになった。なかには、画一的なCMOではもはや対応できない特定の成長ニーズやマーケティングニーズに合わせて、地域別のCMO職や限定的なCMO職を導入する企業もある。

そして、あらゆる大きな変化と同様、その過程である程度の混乱や調整は避けられないだろう。

「CMOはもはや必須の存在ではない」と、フォレスターでバイスプレジデント兼主席アナリストを務めるイアン・ブルース氏は言う。「この世界では、上級マーケティング担当者の役割の規模や範囲が大きく変わる可能性があり、CEOはそのことを理解し始めている。彼らは『マーケティングは死んだのでCMOは不要だ』と言っているわけではない。むしろ、マーケティング全般にとって合理的な役割、機能、責任は何か、それを効果的に管理するにはどうすればいいのかを理解しようとしている」。

結局のところ、CMOを否定する理由はCMOの役割を細分化する理由でもある。CMO職を段階的に廃止したり転換したりする場合でも、企業はCMO職を捨て去るわけではなく、より機敏で繊細なマーケティングの専門知識が求められる世界に合わせてCMO職を再定義しているのだ。

[原文:The cases for and against the CMO role

Seb Joseph(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:島田涼平)