慶應野球部メンタルコーチ推薦。大谷選手も実践する<目標をスモールステップに分解>する効果とは?「半年で15キロ減」を掲げてダイエットするより…
2023年に開催された第105回全国高等学校野球選手権大会で、慶應義塾高等学校が107年ぶりに優勝しました。この優勝に大きく貢献したのが、メンタルコーチ・吉岡眞司さんのメンタルトレーニングです。吉岡さんは、「成果を挙げているチームは、明るく雰囲気がいい特徴が見られる」と語っていて――。今回は、吉岡さんの著書『強いチームはなぜ「明るい」のか』から、あらゆる分野に活用できるメンタル術を一部ご紹介します。
【書影】慶應義塾高校を107年ぶりの甲子園優勝に導いた、負け知らずのメンタル術。吉岡眞司『強いチームはなぜ「明るい」のか』
* * * * * * *
私たちの脳は「大きな変化」を好まない
慶應義塾高等学校(以下、「塾高」と記す)野球部は、2023年春の第95回選抜高等学校野球大会で仙台育英高校と対戦し、1―2で惜しくも敗れました。
その経験から、彼らは前年夏の甲子園の覇者・仙台育英との間に、さまざまな面で実力差を痛感したといいます。
それは同時に、「日本一」という目標と、現状とのギャップを体感し、チームとして何が不足しているのかを認識する機会でもありました。
この敗戦をふまえ、塾高の選手たちは、「日本一」という目標に向け、「心・技・体」という3つのカテゴリーにおいて、何を、どのようなスケジュールで、どのレベルまで上げていく必要があるのかを細かく設定していきました。
ここでのポイントは、やるべきことを極限まで細分化したことです。
私たちの脳には「大きな変化を好まない」という特徴があります。
それまでとまったく違うことを急に行おうとすると、それだけで大きな負荷がかかり、脳が拒絶反応を起こしてしまいます。
一般的に、脳が消費するエネルギーは1日あたり350〜450キロカロリーと言われており、これは人間が1日に消費するカロリーの20〜25%を占めています。
脳は体の中でもかなりのエネルギーを使っているので、消費エネルギーを極力抑えるために大きな負荷を避けようとするのです。
「スモールステップ」を積み重ねる
だからこそ、まずは「小さな変化=スモールステップ」を積み重ねていくことが重要です。
設定する目標は、壮大なものでかまいません。人に言うと、笑われてしまうようなものでも大丈夫です。
でも、その目標を実現するためには、やるべきことをとことん細分化して実行する――つまり、脳が拒絶反応を示さないようにスモールステップを刻む必要があるわけです。
また、スモールステップを着実に刻んでいくと、自信がついていきます。
そして、もっと続けてみようという気持ちが生まれ、さらに自信がついてくる。
そうして、行動意欲と行動力がますます高まり、加速度的に目標実現に近づいていけるのです。
目標をスモールステップに分解する
このスモールステップを、ダイエットを例にとってお話ししてみたいと思います。
主婦のCさん。ダイエットに何度か挑戦するもなかなか成功できずに悩んでいました。
(写真提供:Photo AC)
話を聞くと、一度は過度な食事制限で減量したものの、あっという間にリバウンドし、長続きしなかったといいます。
「半年後までに、どうしても15キロ減らしたいんです」
Cさんは、自身の目標をはっきりと口にしました。
「半年で15キロ減」という目標は具体的ですし、達成しようという意欲もあります。
ただ、「15キロ」という数字はかなり高いハードルです。
「15キロ減らしたいという目標は理解しました。そのためにどんなことが必要だと思うか、細かく考えてみませんか?」
私はCさんに、そのように提案し、やるべきことの細分化を促しました。
大谷選手の原点
多くのメディアで紹介されているのでご存じの方も多いと思いますが、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手も、実は高校時代に同じようなことをしていました。
大谷選手の場合は「ドラ1・8球団」(※プロ野球のドラフト会議で12球団中8球団から1位指名を受ける、の意)の目標を掲げ、そのために必要な要素として「体づくり」「メンタル」「人間性」「運」などを挙げ、さらに個々の行動へと落とし込んでいきました。
その後、ピッチャーとバッターの「二刀流」で驚異の活躍を遂げ、世界的アスリートとなった大谷選手ですが、彼がやるべきことを見出した原点はこの高校時代にあるといってもよいでしょう。
ここでのポイントは、具体的な行動をとにかく細かく分けることです。
「体を動かす」といった漠然とした定性的なものではなく、「1日1万歩以上歩く」「スクワットを1日3セット行う」といった、できるかぎり定量的なもの、そしてすぐ行動に落とし込めるレベルにまで細分化することが重要です。
「これをやりたい」「こうなりたい」という目標を持っていても、その実現のために「やるべきこと」を細分化できている人は、決して多くありません。
また、行動が伴わないかぎり、いくらワクワクする目標を掲げても、いつまでも実現はできません。
まず「やるべきこと」を認識するのが、目標の実現に向けた第一歩。
さらに、そのための細かいスケジュールまで整理できれば、その時点で目標の実現に向けた大きな一歩を踏み出したとも言えるのです。
※本稿は、『強いチームはなぜ「明るい」のか』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。