●「私もお手伝いしとう存じます」の失言

テレビ画面を注視していたかどうかがわかる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、1日に放送されたNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合 毎週日曜20:00〜ほか)の第33話「式部誕生」の視聴者分析をまとめた。

『光る君へ』第33話より (C)NHK

○物語の完成が道長の家の命運に

最も注目されたのは20時04分で、注目度77.4%。新人女房のまひろ(吉高由里子)に、宮の宣旨(小林きな子)がオリエンテーションを行うシーンだ。

藤壺へ出仕するやいなや、まひろは中宮・藤原彰子(見上愛)の女房衆の筆頭である宮の宣旨から、藤式部(とうのしきぶ)と命名される。父・藤原為時(岸谷五朗)がかつて式部丞蔵人だったことにちなんでのことである。「ここがそなたの務めの場である」まひろにあてがわれた場所には、執筆に必要な墨や越前の和紙が用意されていた。いずれも上等な代物だ。まひろは、これからここで一条天皇(塩野瑛久)の気を引く物語を創り上げなければならない。「左大臣様と北の方様のお計らいと心得よ」宮の宣旨から、道長(柄本佑)とその嫡妻・源倫子(黒木華)の名が出ると、物語の完成は道長の家の命運がかかっているのだと、まひろは改めて理解した。

「まことに、恐れ入ります」と、深く頭を下げるまひろに、宮の宣旨は「そなたは専ら物語を書く務めであるゆえ、関わりないことではあるが、そもそも女房の仕事は中宮様のお食事のお世話、身の回りのお世話、お話し相手、内裏の公卿方との取り次ぎ役などである」と、女房の雑多な役目を一気に説明した。「私もお手伝いしとう存じます」まひろは同じ女房として、協力を惜しまない姿勢を伝えるつもりで言ったのだが、「お手伝い」という言葉が他人事のようで気に障ったのだろうか、宮の宣旨は表情をゆがませた。

近くにいた左衛門の内侍(菅野莉央)も「お手伝い…」と非難の目を向けてくる。まひろは失言を後悔したがすでに遅い。説明を話し終えた宮の宣旨は「それでは。あとはよろしゅう」と立ち去ると、まひろは「ここでいいわ」と侍女から荷物を受け取り、気をとりなおしてみずからの役目に向き合おうとした。

『光る君へ』第33話の毎分注視データ

○まひろの職場環境に同情する声

注目された理由は、まひろが藤壺でいじめられる姿に期待した(?)視聴者の注目が集まったと考えられる。

藤壺は、今までまひろが仕事をしてきた四条宮とは明らかに違う雰囲気を漂わせていた。前回「誰がために書く」のラストシーンでは、宮の宣旨たち女房衆のまひろに対する並々ならぬ敵意を感じさせる描写があったため、彼女たちによる凄惨ないじめを想定して視聴に臨んだ人が多かったのではないか。

X(Twitter)では、「宮の宣旨めっちゃ迫力ある」といったコメントのほか、「宮の宣旨さん、思ったよりも優しそう」と、意外にもまひろへの接し方がソフトであったことへ安堵したコメントも見られた。また、「まひろの『むり…』にはめっちゃ納得した」「まひろの部屋があれだけ広かったら他の女房は許せないだろうなぁ」「プライバシーの概念がないのはつらいな」といった、まひろの職場環境に同情する声も多く上がった。

『光る君へ』公式Webサイトの特集記事「ドラマ美術の世界17」では、藤壺の美術造形について詳しく紹介されている。女房たちの寝所での様子が天井からの目線で流れるように映し出されたシーンは、ドローンを使って撮影されたそうで、斬新な角度からの描写は絶賛されている。

さらに記事によると、まひろに与えられた部屋は1つの部屋を2つ合わせた広い部屋だという。これは女房のリーダー格である宮の宣旨と同等の扱いだそうで、女房たちの嫉妬を招くには十分な待遇だ(笑)。また、まひろが使うすずりや文鎮には、『光る君へ』を象徴する月があしらわれている。

宮の宣旨を演じる小林きな子は、大人計画に所属する東京都出身の46歳。『のだめカンタービレ』や『メイちゃんの執事』など、数々のドラマや舞台で活躍されている実力派女優だ。大河ドラマは初出演だが、貫禄ある演技で注目を集めている。宮の宣旨が曲者ぞろいの藤壺をどのようにまとめていくのか、これからが楽しみだ。

●まひろ、うれし過ぎるご褒美に感動

2番目に注目されたのは20時40分で、注目度77.63%。まひろが道長からのうれし過ぎるご褒美に感動するシーンだ。

まひろが執筆した『源氏物語』は、左大臣・藤原道長の期待に応え一条天皇の心をとらえた。また、まひろが物語の解説をすることによって、中宮・藤原彰子も『源氏物語』に興味を示し始める。道長の思惑は見事に当たった。「褒美である」ある日、藤壺の自室でまひろは道長から黒塗りの小箱を渡された。「は…?」「ふっ…」まひろの気の抜けた返事に道長は満足げである。「これからも、よろしく頼む」状況が飲み込めないまひろだが、部屋から出ていく道長を一礼して見送った。

道長が去ると、まひろはとりあえず小箱を開けてみた。そこには扇が入っていた。扇を結ぶひもをほどき、ゆっくりと広げる。するとその瞬間、まひろの頭の中には、はるか昔の淡い思い出が鮮明によみがえった。扇には、幼いころ河原で出逢ったまひろと道長の姿が描かれていた。「鳥が逃げてしまったの。大切に飼っていた鳥が」「鳥を鳥籠で飼うのが間違いだ。自在に空を飛んでこそ鳥だ」若き日の2人だ。扇にはあの日、大空に飛んで行ってしまった鳥も描かれている。まひろは、道長もまたあの日の出来事を、今も胸に残していることを知った。









(C)NHK

○「道長の愛が深すぎる」

このシーンは、懐かしい名シーンの再利用にテンションが爆上がりした視聴者が、思わず画面を注視したのではないか。

まひろが書きあげた『源氏物語』は一条天皇だけでなく、彰子の興味をも惹きつけた。道長にとっては期待以上の成果を得たと言えるだろう。その感謝の意味を込めて、幼い頃の思い出を描いた扇をプレゼントするという道長のロマンチックな行為に、ネット上では、「まひろちゃんの小鳥が扇で見つかるなんて胸キュンな伏線回収!」「オーダーメイドで絵師に依頼したのか」「あんなことされたらメロメロになっちゃう」「道長の愛が深すぎる」「扇に描かれた少女の着物の柄、まひろと同じ蝶だ」と、絶賛する声であふれた。

扇は平安時代では重要なアイテムだった。貴族のステータスをあらわす装飾品として、持ち主の地位や家柄の高さを示す役割があった。高貴な女性は顔を隠すことで控えめでつつましい態度を取ったが、その際に扇を使って顔を隠すしぐさは、『光る君へ』でも頻繁に描かれている。他にも詩やメッセージを書いて相手に贈ったりという、コミュニケーションツールとしても使われた。

直接思いを伝えるのがはばかられた時代に、貴族たちは扇を通じて思いを意中の相手に伝えていた。さらに儀式にも使用され、式次第などが記されていたようだ。まさに扇は装飾品としても実用品としても、当時の貴族たちには欠かせないマストアイテムだ。

今回、道長が贈った扇は正確には檜扇(ひおうぎ)と呼ばれる。その名の通り、薄い檜(ひのき)の板を糸でつなぎ合わせて作られた扇で、板の上部はひもで補強されており、要(かなめ)という部品でまとめられ、さらに金・銀箔や飾り金具で美しく彩られている。厳島神社や佐多神社に伝わる檜扇は、国宝や重要文化財にも指定された貴重なものとなっている。

●寒空の下、1人たたずむ彰子に声をかける

3番目に注目されたシーンは20時23分で、注目度77.57%。まひろと中宮・藤原彰子が初めて言葉を交わしたシーンだ。

まひろは道長の依頼で、彰子の住まいである藤壺に出仕して『源氏物語』を執筆することになった。しかし、藤壺での慣れない共同生活にまひろは消耗し、筆が進まない現状に思い悩む。このままでは自らに課せられた使命をまっとうできないと考えたまひろは、里に帰り、そこで執筆に励もうと決意する。まひろの考えを聞いた左大臣・藤原道長は、まひろ自身をも一条天皇の渡りの釣り餌としたい思惑もあり、頭を下げてまでまひろを引き留めたが、まひろの決意は固かった。

まひろが彰子のもとへ挨拶に向かうと、寒空の下、庭の前で1人たたずむ彰子の姿があった。「中宮様。藤式部にございます」と声をかけるが、彰子からの返事はない。「お寒くはございませぬか? 炭を持ってこさせましょう」と彰子の身を案じるまひろに、「私は冬が好き。空の色も好き」と、彰子の思いもよらない答えが返ってきた。「中宮様はお召しになっておられる薄紅色がお好きなのかと思っておりました」戸惑いながらも言葉をつなぐまひろに、「私が好きなのは青。空のような」と、彰子はか細い声で答える。その声はかなげではあるが、同時に芯の強さを感じさせる不思議な声だ、とまひろは感じた。

どうやら彰子は、まひろが思い描いていた人物像とは大きく違うようだ。「中宮様、このようなところでお風邪を召したらどうなさいます」と、1人の女房がにわかに現れ、口うるさく彰子に迫った。彰子はとたんに顔をくもらせ、黙り込んでしまった。



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○「彰子さまがどんどん尊くなっていく」

ここは、彰子の意外な一面に視聴者の関心が集まったと考えられる。

上級貴族の娘たちに囲まれ、窮屈な毎日を送る彰子は、新しくやってきたまひろに他の女房たちとは違う何かを感じたのでだろうか。いつになく饒舌に自分のことを語る彰子に、まひろもまた何かを感じ取ったようだ。弟・藤原惟規(高杉真宙)に、彰子はうつけなのかと質問されたまひろは、自分がけなされたように不快に思い、即座に「奥ゆかしいだけです」と強く否定した。

SNSでも、「少しずつ自分のことを話す彰子さまから目が離せない」「彰子さまの『ないしょ』のときの笑顔が可愛いすぎる」「彰子さまはとんでもない大物だと思う」「彰子さまがどんどん尊くなっていく」「彰子さまとまひろの会話のシーン、本当によかった!」と、まひろと絡むことで新たな一面を覗かせる彰子に魅了された視聴者が続出している。

彰子を部屋の奥へと押し込めた女房は、左衛門の内侍(菅野莉央)と呼ばれる女性で、もともとは道長のもう1人の妻・源明子(瀧内公美)に仕えていた。内侍とは天皇の近くに仕えた女官で、伝言を仲介するなどの重要な任務を担っていた。『紫式部日記』によると、紫式部とは他の女房と比べて特に折り合いが悪かったようだ。

彰子に仕える女房衆は、出自などの関係で源倫子派と源明子派の2つに分かれている。倫子派に属するのが、藤式部、宰相の君(瀬戸さおり)、大納言の君(真下玲奈)、小少将の君(福井夏)。大納言の君と小少将の君は実の姉妹だ。

対して明子派に属するのが、宮の宣旨・左衛門の内侍・馬の中将の君(羽惟)で、藤壺は倫子と明子の代理戦争の場でもあるのだ。

左衛門の内侍を演じる菅野莉央は、アミューズに所属する埼玉県出身の30歳。現実の世界では、吉高由里子は事務所の大先輩に当たる。ドラマの中とはいえ、先輩の吉高をいじめるのは緊張するのではないだろうか。菅野は2007年の『風林火山』、2021年の『晴天を衝け』に続き3度目の大河ドラマ出演。出演回数では吉高より多い。彰子サロンでのまひろと左衛門の内侍は、今後どのような絡みを展開するのか非常に楽しみだ。

●藤原公任×藤原斉信のやり取りにも熱い視線

第33回「式部誕生」では、1005(寛弘2)年から1006(寛弘3)年の様子が描かれた。藤壺で中宮・藤原彰子に仕え始めたまひろを中心に物語を展開。藤式部と呼ばれ、苦労の末に書き上げた『源氏物語』の一部は一条天皇や彰子の興味を惹くことに成功し、その褒美に左大臣・藤原道長から、2人の思い出が描かれた扇を賜った。

トップ3以外の見どころとしては、密集する女房たちの寝所を天井からの斬新なカメラワークで俯瞰したシーンや、8日で引きこもりに逆戻りしたまひろを気遣う優し過ぎる乙丸(矢部太郎)。そして最終盤で大和から大勢の僧兵を引き連れてやってきた興福寺別当・定澄(赤星昇一郎)が道長を脅すシーンが挙げられる。

また、まひろが藤壺に出仕してすぐに訪ねてきた藤原公任(町田啓太)、藤原斉信(はんにゃ.・金田哲)とのやり取りにも熱い視線が注がれた。3人のやり取りにSNSでは、「まひろ、めっちゃ根にもってる」「10数年前の遺恨をあざやかに返した」「はて?ってなってる公任さまがかわいい!」「やっぱり公任さまと斉信さまのペアは美しい!」などの声が寄せられた。本当に「クギョーズ」はデビューしてほしい。





(C)NHK

きょう8日に放送される第34回「目覚め」では、興福寺の僧兵たちが朝廷へ押し寄せ、中宮・藤原彰子が藤壺の奥へ避難する事態にまで発展する。次々に起こる難題に左大臣・藤原道長は頭を悩ませ、ついに御岳詣を行うことを思いつく。

一方、まひろと彰子は『源氏物語』を通じて親しくなっていくが、まひろは彰子の閉ざされた心を開くことができるのか。次回は果たしてどのシーンが最も注目されるのか。

REVISIO 独自開発した人体認識センサー搭載の調査機器を一般家庭のテレビに設置し、「テレビの前にいる人は誰で、その人が画面をきちんと見ているか」がわかる視聴データを取得。広告主・広告会社・放送局など国内累計200社以上のクライアントに視聴分析サービスを提供している。本記事で使用した指標「注目度」は、テレビの前にいる人のうち、画面に視線を向けていた人の割合を表したもので、シーンにくぎづけになっている度合いを示す。 この著者の記事一覧はこちら