KhakiとGateballersが神戸・月世界で共鳴――この日だけのコラボも生まれた『Untitled #3 - kobe twilight -』レポート
『Untitled #3 - kobe twilight -』2024.8.18(SUN)兵庫・クラブ月世界
「このバンドの組み合わせが観たい」という期待だけではなく、「あるバンドを特定のライブハウスで観たい」という希求がある。会場が持つムードとバンドのトーンが共鳴する、その瞬間を体感したいという願望は、往々にしてバンドにとっての憧れの舞台や地元のライブハウスへと向けられるだろう。2024年8月18日(日)、兵庫・クラブ月世界にて開催された『Untitled #3 - kobe twilight -』は、前述した2つの願いを叶えてくれるような夜だった。2023年に始動した『Untitled』3度目の開催となる今回は、KhakiとGateballersの2組が出演。『Untitled』と冠されたイベントに言葉を添えるのはやや無粋かもしれないが、あの日を思い出すよすがとして、あるいは追体験するキッカケとして、ステージの模様をお届けする。
Khaki
先攻は『Untitled』2度目の出演となるKhaki。橋本拓己(Dr)がおもむろに8ビートを刻み始めると、中塩博斗(Vo.Gt)のカラっとしたギターサウンドが重なっていく。「The Girl」で爽快感を演出しながら滑り出すと、1stアルバムの流れさながらに「Kajiura」へ突入。クッションが巻かれた橋本のスティックが生む柔らかなうねりは、メロディアスな下河辺太一(Ba)のベースと絡み合い、平川直人(Vo.Gt)の少年性を帯びた声色を引き立てる。
黒羽広樹(Key)のスリリングなコード進行がアンサンブルを牽引する新曲から「萌芽」を経て、次に補填された新曲「君のせい」はスポットライトの光を浴びた中塩のトランペットで幕を開けた。発声を変えながらリフレインされる<君のせい>のラインに込められたそれぞれの感傷を辿ろうとしていると、突如として無音の時間が訪れたり、橋本のシンバルを号砲にギアチェンジしたりする。確かに存在していたものが突然に消失し、無かったものが矢庭に飛び出してくるような予測不能性は驚きに満ちており、恒常性を乱されているよう。一聴では予期できない楽曲の展開を受け止めようと、微動だにすることなくジッと聴き入るファンの姿も多く、音が鳴り止んでから拍手が湧出するまでに消化のための僅かな間があったことも印象的だった。
「改めてKhakiと申します。本日は神戸ということで、特別ゲストに来ていただきたいと思います」と中塩が誘うと、Gateballersの濱野夏椰が登場! 「濱野さんが好きだと言ってくれた曲」と紹介されて披露されたのは「車輪」だ。目を大きく開いた橋本は濱野とアイコンタクトを取りながら「まだまだいけます」といった表情を浮かべ、それに応えるように濱野も激しくギターを掻き鳴らしていく。Gateballersの楽曲でもテクニカルなギタープレイを見せつけている濱野が加わることでアンサンブルは一層強固になり、隙間なくギターの波が押し寄せてくる。今夜限りの特別な編成でありながらも、あたかも通常編成だと錯覚してしまうほどであったのは、Khakiの土台が確固としたものであること、両者の相性がこれ以上ないほどマッチしていることを何より裏付けていただろう。
「Khakiでした。ありがとうございました」と簡単な挨拶からラストに鳴らされたのは「うってつけ」。月光の下で脇目も振らず踊り続ける主人公の様子を収めた同曲は、“月”を名に刻む月世界でのショータイムを締めくくるのにふさわしかった。最後の一音を鳴らし、さらりとステージを去った5人の風姿が焼き付いて離れない。
Gateballers
頷いた濱野夏椰(Gt.Vo)が大きくギターを振り被ると、萩本あつし(Gt)がリバーブをたっぷりとかけたギターを炸裂させ、「Moon river」でGateballersのステージが始まった。4人の背景には水面を連想させる照明が投影され、音源以上にアタック感の強い久富奈良(Dr)のタムが初っ端からオーディエンスの体を大きく揺らす。気持ち良さそうな表情で自らの弾くフレーズを口ずさみながらギターソロをかます濱野の姿は、先ほどとはまた違って見える。
「やりたかった曲ができてよかった。「車輪」か「うってつけ」がやりたかったんです」と先刻のコラボレーションを振り返った後、久富のカウントを合図に会場が暗闇に包まれた。浮遊感漂うイントロが鳴り始めると、ステージ足元のライトが段々と灯っていく。ロマンチックな雰囲気で満たされた会場を彩ったのは「この夜の名にかけて」。繰り返される<この夜の名にかけて>の一節は、月世界だからこその照明演出と相まって、素敵な夜を届けるという揺るぎないメッセージへ変化する。ソファーに腰かけ、うっとりとした表情で耳を傾ける観客の様子が、今日が素晴らしい時間であることの証明だった。
濱野が「今日は特別なゲストを呼んでおります」と告げ、何かを察した会場からはどよめきが起きる。「知ってるかな? Khakiってバンドの人なんだけど」と冗談を交えつつ、中塩を迎え入れると「Beautiful girl」が届けられた。向き合いながらギターを紡ぐ濱野と中塩の相思相愛っぷりに惚れ惚れしていると、続けて平川が登場。平川は「次は俺の曲もKhakiでやってください」と新たな約束を取り付け、「命にキスを」を披露する。中塩のボーカルではノスタルジックな渋みが、平川とのコラボではピュアな甘みが楽曲に加えられており、Khakiのツインボーカルの差異がコラボを通じて濃く縁取られていた。
ライブ終盤、濱野の「踊れるやつをやります」という宣言を狼煙にダンスタイムがスタート。ステージに足をかけてギターソロを唸らせる濱野に歓声が飛んだ「Dancing」から、オートチューンを駆使したディスコ調の新曲が連投され、会場はタイムスリップしたがごとくオールドな質感に包まれる。アルコールを掲げ祝杯を上げたり、腕を振って踊ったり、ミラーボールの下で飛び跳ねたりと、フロアが思い思いにはしゃぐ幸福感の詰まった光景が出現していた。
フィニッシュにピッタリの「end roll」で舞台を降りると、すぐさま4人はステージへ呼び戻される。「新曲をやって帰ります。来てくれてありがとう。Khakiもありがとう。また会いましょう!」と告げてドロップされた新曲は、クリーントーンのアルペジオから原元由紀(Ba)のパワフルなベースラインが爆発するミドルテンポのナンバーだった。一聴しただけで味方になってくれる曲だと確信できる強さを持った同曲のリリースも待ち遠しい。
新曲の披露やこの日限りのコラボなど、見逃すことのできない瞬間だらけだった『Untitled #3 - kobe twilight -』。ライブ中盤、濱野は「今日はセトリが良いね。場所にふさわしい」とこぼしていたが、まさしくこの場所で見たいバンドがこの場所で聴きたい曲を綴ってくれたツーマンライブであった。『Untitled #3 - kobe twilight -』を体感したファンやメンバーは、どんなタイトルを付けたのだろうか。そして、この先で待ち構える『Untitled』はどんな言葉を添えたくなるライブなのだろうか。確かなことは、“幸福”と形容させてくれる夜だということだ。
取材・文=横堀つばさ 写真=オフィシャル提供(撮影:Riku kawahara)