犬とオオカミはどちらがより賢いのか?
犬はハイイロオオカミから進化(家畜化)したという説が有力ですが、表情を作る筋肉やジェスチャーを認識する能力など、犬とオオカミには異なる特徴があると研究で示されています。賢さや知能という観点では、犬とオオカミには差があるのかどうかについて、専門家が解説しています。
Are dogs smarter than wolves? | Live Science
https://www.livescience.com/animals/dogs/are-dogs-smarter-than-wolves
犬は約1万5000年以上前にオオカミを家畜化したことから始まったとされています。ペットとして広く親しまれるようになったのは1837年から1901年のヴィクトリア朝時代以降であり、この時代から犬の品種改良が広く行われるようになります。家畜化に伴う進化の過程で、犬は人間の心を動かす「子犬のような目」で見つめる能力を手に入れたり、嗅覚や運動能力といった特定の能力と結びつく脳の構造やサイズに明確な変化が生まれていたりと、家畜化による変化が過去の研究で指摘されています。
人間による品種改良が犬の外見だけでなく脳の構造まで変化させてきたことが判明 - GIGAZINE
一方で、ドイツのマックス・プランク教育研究所で研究員を務めるジュリアーネ・ブロイアー氏によると、家畜化により進化して様々な能力を獲得しているとしても、犬がオオカミより賢いとは言えないそうです。ブロイアー氏は「犬やオオカミのどちらがより賢いとは断言できません。なぜなら、どちらも環境に適応していると常に言われているからです」と語っています。
動物の認知能力は、個体が他の動物と関わる能力である社会的認知能力と、動物が周囲の物理的世界をどのように処理し操作するかという非社会的認知能力の、2つのカテゴリに分類されるさまざまなスキルによって測定されます。ブロイアー氏によると、犬とオオカミはそれぞれのライフスタイルに適した異なる認知能力を持っているとのこと。
犬とオオカミの認知能力を図る一般的な実験として、ポインティングテストがしばしば用いられます。ポインティングテストとは、テーブルの上にさかさまに置かれたカップの片方に食べ物を隠した上で、指さしたりマークを付けたりすることで食べ物がある方を示し、食べ物を見つけられるか実験するものです。2021年の研究では、44匹の子犬と28匹の子オオカミでポインティングテストを繰り返したところ、犬の方がオオカミの2倍の割合で食べ物を見つけることに成功したと示されました。
ただし、この研究結果は犬が人間と社会的交流を高度にできることを示しているのみで、認知能力が高いということを意味するわけではありません。ブロイアー氏らが2017年に実施した研究では、食べ物を入ったカップを振ると犬もオオカミもカップに食べ物が入っていると認識した一方で、続けて空のカップを振った時に、犬は食べ物があると勘違いしましたがオオカミは反応しませんでした。結果として、オオカミの方が犬よりも「食べ物が入っているから音が鳴る」という因果関係をよく理解しているとブロイアー氏は結論付けています。
オーストリアにあるオオカミ科学センターの創設者で動物研究者のフレーデリケ・レンジ氏によると、全体的にオオカミは互いに協力する能力が高いことに対し、犬は人間と一緒に作業を行うのが得意な傾向にあるそうです。互いの能力はまったく別のものである面が多く、犬とオオカミに対して実施される様々な実験は犬がどのような適応と進化をしてきたかよりよく理解するために使われているのであり、どちらが賢いということを判断するのは難しいとレンジ氏は述べています。
デューク大学で犬とオオカミの認知能力を研究する博士研究員のハンナ・サロモンズ氏は、「犬の認知能力には、ポインティングテストにおける指差し動作を理解したり、人の身振りの背後にある意図を理解したりできる、より生来的な何かがあるようです。しかしこれによって、どちらの知能がより高いと順位付けするのはあまり意味がないと思います。2人の人間を並べてどちらが賢いかと判断するにも、それぞれの異なる得意分野を比較するのが難しいはずで、それは犬とオオカミという異なる動物でも同じです」と語りました。