キノコや粘菌を基板に組み込んだコンピューターが作られるなど、生き物と電子機器を組み合わせる合成生物学への関心が高まっています。食用としても身近なエリンギを制御装置とした「バイオハイブリッドロボット」が、アメリカ・コーネル大学とイタリア・フィレンツェ大学の研究チームによって開発されました。

Sensorimotor control of robots mediated by electrophysiological measurements of fungal mycelia | Science Robotics

https://www.science.org/doi/10.1126/scirobotics.adk8019

Biohybrid robots controlled by electrical impulses - in mushrooms | Cornell Chronicle

https://news.cornell.edu/stories/2024/08/biohybrid-robots-controlled-electrical-impulses-mushrooms

Engineers Gave a Mushroom a Robot Body And Let It Run Wild : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/engineers-gave-a-mushroom-a-robot-body-and-let-it-run-wild

これまで開発されてきた多くのバイオハイブリッドロボットには、培養手順が複雑で寿命も短い動物細胞が使われてきたため、耐久性の面に大きな課題を抱えていました。

電気信号を伝達する菌糸体のネットワークを形成し、培養も簡単で丈夫な菌類に注目したコーネル大学とフィレンツェ大学の研究チームは、エリンギの菌糸体をロボットの電子機器へと成長させることで、キノコをセンサーと制御装置にしたバイオハイブリッドロボットを開発しました。

キノコを使うメリットについて、コーネル大学のアナンド・ミシュラ氏は「機械だけのシステム、例えば受動センサーなどは、1つの目的にしか使えません。しかし、生体システムは触覚や光、熱、あるいは未知のシグナルにも反応します」と話しました。

研究チームが開発したシステムは、菌糸体の電気生理学的な活動をリアルタイムに記録して処理する電気インターフェースと、脳の神経回路の一種である中枢パターン生成器に着想を得た制御装置で構成されています。

このシステムを使用して、研究チームはキノコによって制御される2種類のロボットを開発しました。

1つ目は、紫外線を受けることで走行する4輪のロボット車両です。



2つ目は、5本の足を持つソフトロボットです。以下の動画を見ると、ロボットが動く様子を見ることができます。

Tethered soft robot controlled by a mushroom - YouTube

ロボットが不規則なタイミングで足を動かして緩慢に動いています。



ロボットに光が照射されました。



すると、それまでより素早く足を動かして向かって右方向に移動しました。



研究チームは3つの実験を通じて、ロボットが菌糸の自然な信号で歩行や走行をすることを確認したり、紫外線の刺激で動作を変えるのを観察して環境に反応する機能を持つことを確認したり、逆に菌糸の自然な信号を完全に無効化できることを確認したりしました。

キノコを組み込んだバイオハイブリッドマシンは将来的に、土壌の化学的性質の変化を感知して適切なタイミングで肥料を投入したり、汚染物質のレベルの上昇に自動的に対応したりするロボットへと実用化できるかもしれないと、研究チームは考えています。

コーネル工科のロブ・シェパード氏は「菌糸体をロボットの電子機器へと成長させることで、バイオハイブリッドマシンが環境を感知し、反応できるようにすることができました。今回は光を入力する信号として使いましたが、将来的には化学物質を使用するようになるでしょう」と話しました。