井上尚弥(C)共同通信社

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 日本の誇る怪物もまさかの結末にア然ボー然だ。

【もっと読む】森合正範氏「記者として絶望感、敗北感を感じたのは井上尚弥が初めてです」

 昨3日に行われたボクシングのスーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(31)の防衛戦。井上は当日体重7.4キロ増で挑戦者のTJ・ドヘニー(37=アイルランド)の同11キロ増と4キロ近い体重差があったものの、終始有利に試合を展開。慎重な立ち上がりから、6Rにラッシュを見せた直後、事件は起きた。7R序盤、突如、腰を押さえて表情を歪めるドヘニー。さらに右足を引きずる姿に続行不可能とみなしたレフェリーが試合を止めたのだ。

 相手の負傷によるTKO勝利という何とも締まらない結末に、試合後の井上は「(ドヘニーの腰へのダメージは)少なからずあったと思います」としつつ、「長く試合をしていればこういうこともあるということで」と話すにとどめた。

 その後、ドヘニーの腰痛は井上のパンチによるダメージの蓄積ということが判明したが、いずれにせよ、これで28戦28勝25KO。次戦は12月にIBF・WBOスーパーバンタム級1位のサム・グッドマン(25=オーストラリア)を迎え撃つ可能性が高いものの、こちらは7月の試合で左の拳を負傷。すでに井上をプロモートするトップランク社のボブ・アラム氏は先の先の先まで見据えている。

 この日、井上を祝福するためリングに上がったアラム氏は、「年内にもう1試合、東京でやって、来年はラスベガスで大きな試合をしたいと思います」と防衛プランを披露。先日の記者会見後には、トップランク社と契約したWBCバンタム級王者の中谷潤人(26)の名前を挙げて、「うまくいけば来年、その可能性はある。もちろん、すべてがうまく進まないと難しいが。井上と中谷が試合をすれば、日本のボクシング史上最大の試合になるかもしれない」とも話しているのだ。

伝説の「薬師寺vs辰吉」をはるかにしのぐドリームマッチに

 過去、「日本ボクシング史上最大の興行」として今もなお語り継がれているのが、1994年に名古屋で行われた薬師寺保栄vs辰吉丈一郎のWBCバンタム級王座統一戦だ。人気絶頂の日本人ボクサー同士の世界戦は、TBS系列の中部日本放送が生中継し、辰吉のファイトマネーが当時としては超破格の1億7000万円であることも話題になった。視聴率も東海地方50%超、関西地方40%超、関東地方40%弱と、社会現象にもなったほどだ。

 アラム氏いわく「世界のボクシングの顔」となった井上のファイトマネーは、前回5月のネリ戦時点で10億円を突破。大橋ジムの大橋会長も「(金額の)ケタというか、過去最高」と認めている。

 この日のドヘニー戦では、さらに増えたともっぱらで、今回のイベントでは、PRだけでも10億円が投じられたというのだから、さもありなん、だろう。

 元日本ボクシングコミッション事務局長で、3万マッチを裁いたレフェリーの森田健氏が言う。

「私は辰吉の試合を何試合か裁いたことがあるが、常に満員だった印象がありますね。強い上に、果敢に打ち合うから試合が盛り上がる。当時のファイトマネーは、王者であってもチケットをボクサー本人に手渡しするという形がほとんど。自分で売り、お金に換えるが、辰吉レベルとなると売れ行きも良かった。テレビ局もお金がまだまだあった時代です。でも、今はインターネット配信で世界中のボクシングファンが観戦できるようになった。日本国内だけで放送していた時代と比べ、井上のようなボクサーのファイトマネーが何倍、何十倍となっても不思議ではありませんよ」

 森田氏が言うように、強大な配信ビジネスのバックアップを受ける現在は、興行規模もケタ違い。日本人ボクサー同士の世界戦のファイトマネーは、今も辰吉の1億7000万円が最高額とされるが、“モンスター”と称される井上と“ネクストモンスター”と呼ばれる中谷との一戦が実現すれば、伝説の薬師寺vs辰吉をはるかにしのぐドリームマッチになるのは確実だ。

「ファイトマネーだけでも2人合わせて数十億円になるのは間違いない。興行規模は3ケタを超えるでしょう」とはボクシング関係者。井上も試合後、「こうしてLemino(この日配信を行った、NTTドコモが提供する動画配信サービス)で見てくれて、僕はボクシングができると思う」と、ヨイショを忘れなかった。

 モンスターとネクストモンスターの100億円マッチが現実味を帯びてきた。

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 日刊ゲンダイは以前、「怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ」(講談社)の著者・森合正範氏をインタビュー。森合氏は「記者として絶望感、敗北感を感じたのは初めて」と語っていた。いったいなぜか。何があったのか。

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