夜間も光を浴びた植物は葉が固くなって昆虫に食べられにくくなる、食物連鎖が崩壊してしまう可能性も
人間が生み出した夜間の光による悪影響は光害とも呼ばれ、天体観測の障害となったり生態系をかく乱したりしています。中国の研究チームの新たな研究では、「夜間に街灯を浴びた植物は葉が固くなり、昆虫が食べにくくなって都市の食物連鎖を脅かす」ということが明らかになりました。
Frontiers | Artificial light at night decreases leaf herbivory in typical urban areas
Streetlights running all night makes leaves so tough that insects can't eat them, threatening the food chain
https://phys.org/news/2024-08-streetlights-night-tough-insects-threatening.html
中国科学院生態環境科学研究センターのShuang Zhang教授らの研究チームは、現代では世界人口の80%が日常的に光害の影響を受けながら暮らしており、自然そのままの環境と比較して夜間の明るさは8%も増加したと指摘しています。夜間の人工光の増加は植物にも影響を及ぼし、それを食料にする昆虫やさらに広範な生態系にも影響を及ぼす可能性があります。
Zhang氏は、「私たちは、ほとんどの都市生態系の木の葉が自然の生態系と比較して、一般的に虫害の兆候がほとんど見られないことに気付きました。私たちはその理由が知りたかったのです」「虫害のない葉は人々に安らぎを与えるかもしれませんが、昆虫にとってはそうではありません。草を食べることは、昆虫の生物多様性を維持する自然な生態学的プロセスです」と述べています。
そこで研究チームは、「人工光を多く浴びる植物は成長よりも防御に焦点を当て、より多くの防御化合物を含む丈夫な葉を持つのではないか」という仮説を立て、それを検証する調査を行いました。
研究チームが調査対象に選んだのは、都市化が進む北京で一般的な街路樹であるFraxinus pennsylvanica(ビロードトネリコ)とStyphnolobium japonicum(エンジュ)という2種類の植物です。
調査では、一晩中光がある幹線道路に約100m間隔で配置された30のサンプリングサイトを設けて、各サイトの照度を測定しました。そして合計で約5500枚の葉を収集し、虫に食べられた程度やサイズ、強度、水分含有量、栄養素のレベル、防御化合物のレベルなど、人工光の影響を受ける可能性がある項目について調査しました。
研究チームによると、植物は葉が大きいほど成長にリソースが割り当てられていることを示し、強度やタンニンなどの防御化合物のレベルが高い場合には、防御にリソースが割り当てられていることを示します。一方、水と栄養素のレベルが高いことは、植物食の昆虫などにとって魅力的な栄養源であることを示唆しています。
調査の結果、ビロードトネリコとエンジュのどちらも、夜間に浴びる人工光が多いほど葉が固くなっており、虫害の傾向が少ないことがわかりました。また、成長と防御に割り当てるリソースの配分を見ると、虫に食べられにくいビロードトネリコが成長に多くのリソースを割り当てる一方で、虫に食べられやすいエンジュは防御により多くのリソースを使っていることも報告されています。
Zhang氏は、「このパターンの根本的なメカニズムはまだ解明されていません。夜間に人工光にさらされた樹木は光合成の時間が延びる可能性があります。さらに、これらの葉は繊維などの構造的な化合物により多くのリソースを割り当て、葉の強度の増加につながっているのかもしれません」と述べました。
Zhang氏は、「食害の減少は生態学的な栄養の連鎖効果を引き起こす可能性があります。食害の低下は草食性昆虫の生息数の低下を意味しており、その結果として肉食性の昆虫や昆虫食の鳥などの生息数が減少する可能性があります。昆虫の減少はここ数十年にわたって観察されている世界的なパターンであり、私たちはこの傾向にもっと注意を払うべきです」と主張しています。
なお、今回の研究はあくまで北京という都市で、2つの樹木のみを対象に行われたものであり、結論をより広範囲に一般化することには注意が必要です。Zhang氏は、「都市化が昆虫やそれに関連する生態学的プロセスにどのように影響するのかについての研究は、まだ初期段階にあります」と述べました。