女性コンビで初めて、『M-1グランプリ』決勝に進出した実力派コンビ・アジアン。2021年に解散し、隅田さんは役者に転身して、実績を積んでいます。ネットでは憶測が飛び交いましたが、本当のところは?本人に直撃しました。(全2回中の1回)

【写真】「これが本人?」と思わず二度見する役者として活躍する隅田美保さんの現在 ほか(全12枚)

マイク1本で笑いの渦を起こす芸人を見て「あの舞台に立ちたい!」

4歳のころの隅田さん

── 2021年のアジアン解散後、役者になった隅田さん。舞台に立つ仕事につこうと考えたのはいつからですか?

隅田さん:役者にこだわらず、舞台に立ちたいという気持ちはずっと強くありました。高校時代は創作ダンス部に所属し、人前で踊ったり、表現することにわくわくしていました。もともと宝塚歌劇団のおひざもとである兵庫県で育ち、テレビなどで見ていた宝塚への憧れがありました。でも、とても厳しい世界なので、自分には難しいとわかっていたんです。

── 舞台への道はいくつかありますが、そのなかでお笑いを選んだきっかけは?

隅田さん:お笑いもよくテレビで観ていて、友だちに誘われ、初めて大阪の二丁目劇場(ダウンタウンやナインティナインなどを輩出した吉本興業が運営していた劇場)に舞台を観に行きました。そのとき、芸人さんがマイク1本でお客さんを笑いの渦に巻き込んでいる姿を見て、あそこに立ちたいと思ったんですよ。それで、劇場の入口に置かれていたNSC(吉本総合芸能学院)の願書を持ち帰り、勇気を振り絞り応募しました。1度目は落ちて悔しい思いをしましたが、2度目の応募で入学できました。

── NSC卒業後は、アジアンを結成。『M-1グランプリ』で女性コンビとしては初のファイナリストになりました。ずっとアジアンとして活動してきたのでしょうか?

隅田さん:何回か他の人とコンビを組んだことがありますし、アジアン結成後も一度、解散したことがあるんですよね。最終的には2021年6月に解散しました。

ネットがザワつきそうですが「解散の真相は…」

──「解散=役者への転身」ということですか?決め手になったのは?

隅田さん:芸人時代もちょくちょく芝居には出ていましたし、芝居をしっかりやりたいと考え続けていました。ただ、当時はアジアンの隅田として出演依頼を受け、笑いをとったりいじられたりすることが多かったんです。役者業に専念したのは、解散してからです。ちょうどコロナ禍で自分と向き合う時間が増えたり、身近な人が急に亡くなったりして、いろいろ考え始めたんです。漫才がイヤになったわけではなく、自分の人生を守るために、ずっとやりたかった芝居をやろう、と踏み出すタイミングだったんですよね。

この経緯はすごく説明しづらくて、いろんなところで憶測でめちゃめちゃ書かれたりしてきたんですけど、私のなかでは「その時期が来た」だけなんです。わかっていただける方にだけでも伝わればと思います。これが本音です。

── 自分のなかでは「いまだ」とわかったわけですね。漫才がイヤになったのではないと聞いてホッとしました。役者転身に関して周囲の反応は?

隅田さん:解散に驚いた人はいましたし、周囲に迷惑をかけたりもしましたが、会社からはとくに何も言われませんでした。誤解されやすいのですが、「ブス、ブサイク」といじられるのがイヤでやめたわけじゃないんです。でも、こう言うと「またまたー!」といろいろ言われてめんどうなので、私は肯定も否定もしていませんが、ネットニュースなどで書かれおもしろおかしく書かれてしまうんですよね…。

学生時代の隈田さん

──  たしかにそういう記事を見かけます。ふり返って、ブサイクを笑いにすることについてはどう考えていますか?

隅田さん:容姿で笑いをとるのは否定しませんし、それはそれでおもしろい文化だと思いますが、時代が変わってきましたよね。私の場合、仕事でそのキャラクターが強くなりすぎたとは感じています。ほんとに、この話をしだしたら、年またぎますよ(笑)。今後は女優ではなくて、役者と呼ばれたいですね。女優みたいにキラキラした感じを目指しているわけではありません。芸人時代のほうが、仕事のスケジュールも収入も安定していましたが、役者になって本当にいま、やりたいことをやれていると感じています。

舞台中はお客さんの反応を演じながら見ている

── 芸人時代の経験は、役者業に役立っていますか?

隅田さん:間合いやテンポなど、おおいに役立っています。先日のコメディ劇では、清掃員役で若者たちにツッコんだりする役でした。序盤は、けっこうテンポよくツッコむけど、その後は抑揚をつけて、というところなど、意識する際はとくに感じますね。ウケようとしてやっているわけではないけれど、同じ作品であっても、毎回お客さんの反応が異なります。同じように演じても、昨日はウケたのに、今日はまったく、ということがよくあります。お客さんの人数や感覚によって、かなり違いますね。

芸人時代の舞台写真。2012年、吉本百年物語『舶来上等、どうでっか?』助っ人として大阪から呼び寄せられたお茶子のお黒役

── 間合いやテンポ。たしかに、お笑いでも芝居でも大切です。隅田さんはお客さんをよく観察しているんですね。

隅田さん:漫才は芸人自身がお客さんの空気を読みながら進める部分があるんです。舞台から、お客さんの反応を見てテンポ変えることもあります。この感覚とちょっと似てるかな。お芝居は私たちが演じるのをお客さんに見てもらいますが、私はお客さんの様子を見ながら少しテンポを変えてツッコんだり、早めにツッコんだら一拍、間を置いてみたりなど、意識してやっていました。この感覚を知っている、というのは大きいですね。舞台は生ものですから。

PROFILE 隅田美保さん

すみだ・みほ。兵庫県出身。NSC(吉本総合芸能学院)大阪校20期生。2002年、アジアンを結成。漫才で多くの賞を受賞し、『M-1グランプリ2005』決勝に進出。2021年6月、コンビを解散し役者に転身。

取材・文/岡本聡子 写真提供/隅田美保、吉本興業株式会社