説得が下手な人は「相手の話を聞いていない」
相手を説得するのに必要な要素として、「ロジカルであること」はほんの少しに過ぎません。実は、説得のプロセスで肝となるのは、ヒアリングです(写真:ふじよ/PIXTA)
いくら言葉を尽くして説得しようとしても、相手がなかなか首を縦に振ってくれないことがあります。数多くの大手企業を経験してきたマーケティングのプロである平田貴子氏は、「説得のプロセスで肝となるのは“ヒアリング”です。相手の欲求を聞き入れながら自分の要望との融合点を見出して、落としどころを見つけることが重要です」と主張します。平田氏の著書『頭のいい人だけが知っている説得力』より一部抜粋・再構成のうえ、ヒアリング能力を高めるために意識するべき3つの点について解説します。
説得のプロセスで肝となるのは“ヒアリング”
どの職種においても、ビジネスパーソンの仕事の大半は、「説得」です。成功したときの仕事の成果が大きくなればなるほど、説得の難易度も上がっていきます。
ビジネスでスピーディーに成果を出すためには、相手からイエスを最短距離で引き出すことが重要です。
ところが、なかなかイエスをもらえないというのは、多くの人の現実でしょう。
説得というと、一般的に「ロジカルに説得することが大切」というイメージがあるのではないかと思います。
しかし、相手を説得するのに必要な要素として、「ロジカルであること」はほんの少しに過ぎません。
実は、説得のプロセスで肝となるのは、ヒアリングです。
相手との会話が行ったり来たりするなかで、機能的なベネフィットだけでなく、感情的なベネフィットを引き出す。これができれば、相手の欲求を聞き入れながらも、自分の要望との融合点を見出して、落としどころを見つけることができます。
ヒアリングが苦手な人は少なくありませんが、「傾聴、理解、共感」の3つを意識して取り組めば、徐々にヒアリング能力が高まっていきます。
それぞれのポイントを解説しましょう。
ヒアリングで意識したい3つのこと
<ヒアリングのコツ1 傾聴>
「傾聴」は、簡単に言えば、相手の話をしっかり聞くことですが、これができる人はなかなかいません。
「解決策はこうでは?」と持論を押し付けたり、途中で話をさえぎったりする人はたくさんいます。まずは、それをしないことを心がけましょう。相手の意見に大反対であっても、議論に切り込んで、口論になることは防がねばなりません。
そのうえで、傾聴の基本は、集中して聞くことです。たまに、会議で話しているのに全然集中していない人がいるのを感じるときがありませんか? 話し手からすると、そういう人はすぐにわかります。アイコンタクトを取ったり、うなずいて理解を示したりして、聞いている姿勢を示しましょう。
会話を急がせたり、早合点したりしないことも重要です。相手の立場を理解するために時間をかければかけるほど、相手からの印象は良くなります。
傾聴の際は、単に聞きっぱなしにするのではなく、「もう少し詳しく教えてください」とたずねたり、「それはこういうことですか?」と確認したりすることが必要です。その会話のキャッチボールをするなかで注意したいのは、相手が投げたボールを、あさっての方向に返してしまうことです。
自分が投げたボールに対して、全然違う反応が返ってくると、相手はがっかりしてしまいます。ボールを投げ返すときは細心の注意をはらいましょう。
営業現場の場合は、傾聴しながら、相手が求めることに答えていきます。そうして丁寧に答えていくことで、お客様のことを本当に考えている姿勢が伝わります。そこに時間をかけない人は多いようですが、そこを怠ると上手くいかなくなります。
<ヒアリングのコツ2 理解>
ヒアリングをするなかでは、相手を「理解」することも重要です。
相手の話でわからないところがあったら、会議でも営業の場でも、遠慮なく質問しましょう。相手が言っていることを正しく理解することができます。
PowerPointのプレゼンのとき、「途中で質問していいですか、最後に質問をしたほうがいいですか?」とよく聞かれます。
もし、その場で質問してもらってもいいですよと言われているなら、その場で遠慮なく説明を求めましょう。話している人から見たら、何か会話をさえぎられたというよりは、自分が言っていることを真剣に理解しようとしている、という姿勢にうつり、不快感を持つことはありません。
あとは「言い換え」も理解を深める上で有効です。聞き取ったことを振り返って、「もし私の理解が正しければ、あなたが言っていることはこういうことですか」と聞いてみるのです。すると、自分がちゃんと正しく理解できたのかを確認できます。これは必ずやったほうがいいでしょう。
相手の話を理解するには、「クリティカルシンキング」も重要です。
相手に対して議論を吹っ掛けるのではなく、別の視点を持つことで、相手が言っていることや議論の内容を客観的に分析したり、評価したりできます。すると、相手の言うことを理解しつつも、「まったく違う視点、正反対の視点だとどういう思考になるんだろう」と考えることができ、相手の視点と自分の視点、両方の長所・短所を見極められます。
とくにクリティカルシンキングは、日本人が非常に弱い分野だと思うので、スクールなどで学んでも良いでしょう。
あとは「文化的理解」も重要です。
たとえば多国籍の人が集まるミーティングの場で、バングラデシュの方と話すのと、中国の方と話すのとでは文化的バックグラウンドがまったく違うことを理解しておかなければなりません。相手のコミュニケーションスタイルや価値観は自分とは違うというマインドセットを持ち、自分の思い込みをとりはらって相手の言うことをまずは真摯に受け取りましょう。
相手の視点や感情に「共感していますよ」と示す
<ヒアリングのコツ3 共感>
3番目のポイントは「共感」です。
相手の意見に100%同意する必要はありませんが、相手の視点や感情を理解しようとして、「共感していますよ」と示すことは重要です。
私が共感のお手本になると感じたのは、先日、新しいiPhoneを買いに行ったときに出会った販売員の女性です。新しい機能の説明を受けた後、価格を聞いたら高かったので、「やっぱり、キャリアの月額を考えると、いま支払っている金額より高いですね」と私が言いました。
このとき、普通の販売員の人だと「いやいや、もうこれが最新で大人気なのですよ」とか「年払いにしたら1カ月分は200円ぐらいの違いしかないですよ」というように、料金の高さを打ち消しにいくでしょう。
しかし、私が出会ったその販売員は「正直高くなりますねぇ」と言ったのです。そうして共感をしてくれる姿勢があると、信頼できそうに感じますよね。
もう一人、共感のお手本を挙げるとしたら、先日お世話になった、不動産のセールスマンです。
オンラインで内見をしながら、「大通りに面しているとうるさくない?」「シューボックスが小さくて、靴を置くところがないのでは?」と疑問点をたずねました。
普通のセールスマンなら「そんなことないですよ、塀が十分に高いので音は全然気にならないでしょう」「玄関のシューボックスは小さいですが、ガレージのある大きいドアから入れば、そこに置く場所があります」とデメリットを隠すようなことを言うでしょう。
解決策を一緒に模索していく
ところが、そのセールスマンは違いました。「エントランス裏口からゴミ置き場が離れているので、ゴミを出しにくいのでは?」とたずねたところ、そのセールスマンは「そうなのです。その通りなのですよ」「自分もこの物件を見たときにそう思ったんですよね」と私の言うことを肯定したのです。逆に、「これちょっとどうしたらいいですかねぇ」みたいな話を私に振ってきたのですね。
この不動産のセールスマンのように、共感するだけでなく、逆に質問して、お客様と共に解決策を模索していくという方法もあります。すると、「いやいや、ゴミ出しはこうしたら大丈夫」という答えが出てきて、会話のなかでデメリットを解消できます。さりげないやり取りですが、高度な手法といえるでしょう。実は、共同作業でも共感は生まれやすいのです。
実際にこの後、私はこのマンションを契約することを決めました。セールスマンが、共感を駆使して私からイエスを引き出したわけです。
このように、言葉で共感を示すのも良いですし、「相手の話に合わせて表情を変える」「相槌を打つ」「身を乗り出して聞く」などのノンバーバルで共感を示すのも良いでしょう。オンラインミーティングであっても、ノンバーバルは伝わります。
このように、相手を説得したいときにはまず相手の話を聴き、ヒアリングを踏まえて提案することが大切です。
(平田 貴子 : ロート製薬経営企画部新規事業開発部長)