東海道新幹線での車内ワゴン販売がなくなってからというもの、お酒好きとしては非常に寂しい乗車時間を過ごしていた。そんな自分にグリーン車に乗る機会が訪れた。久々にモバイルオーダーサービスで車内販売を楽しめる! と喜んでいたのだが、まさかの展開が待っていた。

東海道新幹線での車内ワゴン販売がなくなってからというもの、お酒好きとしては非常に寂しい乗車時間を過ごしていた。そんな自分にグリーン車に乗る機会が訪れた。久々にモバイルオーダーサービスで車内販売を楽しめる! と喜んでいたのだが、まさかの展開が待っていた。

新幹線乗車直前に起きた緊急事態

JR東海が1964年の開業以来行ってきた、東海道新幹線での軽食やドリンクの車内販売を終了したのは、2023年10月31日のこと。それと入れ替わるようにはじまったのが、東京駅〜新大阪駅間を走るグリーン車内限定のモバイルオーダーサービスだ。

東海道新幹線モバイルオーダーサービス

基本的にグリーン車に乗ることがない自分としては、もう車内販売を利用することはないと思っていた。しかし、諸事情により、グリーン車で帰省することになったため車内販売を楽しむチャンスが舞い降りた。

車内販売サービスの廃止以降、手を変え品を変え新幹線呑みを楽しんできたが(それはそれで楽しかったけども)、久々に正攻法で新幹線呑みができる! 本来ならお酒を買わずに乗り込むだろうが、これまでのクセか。ついつい東京駅の改札内でビール2本を買ってしまった。

ホームで自分が乗車する「のぞみ」の清掃が終わるのを待っていると、突如「緊急地震速報」の音が鳴り響いた。何せ「南海トラフ地震臨時情報」による「巨大地震注意」の呼びかけが起きた翌日だ。帰省や観光、出張帰りで緩んでいた空気が瞬時にピンと張り詰める。

ホームでは大きな揺れを感じなかったが、神奈川県西部で最大震度5弱を記録した。その影響により、自分が乗る「のぞみ」も東京駅で停車することになった。一寸先はハプニングである。

少し待ち、清掃終わりが終わったのぞみに乗り込む。過去に一度乗ったか乗らないかくらいの経験しかない久々のグリーン車の車内をチェックする。

グリーン車の車内

前の席との感覚が広い! 電源が肘掛けの下にある! フットレストがある! 雑誌『WEDGE』がご自由にどうぞだ! 車内の設備にイチイチ感動する。

フットレストに足を置いてみた

これは長期戦になるなと、買ってきた缶ビールをプシュっと空ける。なぜか東京駅改札内の『紀ノ国屋』に売ってあった阪神タイガースの公式クラフトビールを飲み始める。

六甲ビールの「TIGERS PREMIUM KOLSCH」

缶チューハイに氷入りカップは付く? 付かない?

さて、肝心要の車内販売である。事前に調べた内容によると、お酒は4種類。ビール2種(ザ・プレミアム・モルツとスーパードライ)、タカラ缶チューハイレモン、そして山崎12年(2300円!)。

おなじみ、スジャータの「スゴイカタイアイス」もある。何より一番気になったのは、等々力の人気パティスリー『オーボンヴュータン』の「プティフールセック」があったこと。これは以前の車内販売にあったのだろうか。

なんて販売内容をチェックしていたりなんやかんやしているうちに地震発生から1時間経過。運転を見合わせている区間があれば、車両点検を行っている新幹線があってダイヤが大幅に乱れている。

2本目のビール。三陸ビールの「伊達男IPA」

ホームには、自分が乗車しているあとの新幹線に乗る方々が大勢いた。フットレストに足を置き、酒を飲みつつ仕事をしながら車内で待てるだけでもありがたい。しかもグリーン車で。

それにしても、車内販売だから発車しないと買えない? と思っていたことから、注文をためらっていた小心者のワタシ。

モバイルオーダーサービスについて書かれたリーフレット

あたりを見渡すと、明らかにモバイルオーダーされた商品を運んでるパーサーさんを発見。これは! と思い、シートの網に刺さっていたリーフレットのQRコードを読み取る。事前チェックしていたよりも商品が少ない。

しかも『オーボンヴュータン』の「プティフールセック」がない!

そこへ追い打ちをかけるように、発車時間の目処を告げるアナウンスが流れる。その際、今のうちにホームのキオスクへ飲み物をどうぞとのアナウンスが! あ! そうか別に新幹線に閉じこもる必要はなかったんだ。それすら躊躇っていた小心者のワタシ。今のところ判断がすべて裏目ってる……。

クヨクヨしても仕方ない。そうだ、注文しよう。記念すべきファーストオーダーは「タカラ缶チューハイレモン」、つまみに「チップスター極(伊勢えび味)」、そして「スジャータアイスクリーム(バニラ)」を選んだ。

モバイルオーダーサービスの注文画面
モバイルオーダーサービスの注文画面。+で個数を選ぶ

数分後、パーサーさんが籠みたいなものに注文商品をのせてやってきた。商品を確認して会計を行う。現金かSuicaでの支払いに対応している。

『オーボンヴュータン』ショックから「売り切れてる商品、結構あるんですね」と話すと、「お菓子類は」と返したパーサーさん。あぁこれはみんな早くから注文してたんだな……。

注文商品勢揃い!

「タカラ缶チューハイレモン」を注文するにあたって気になっていたことがあった。それは氷入りカップが付いてくるかどうか。ワゴン車での販売時は、「タカラ缶チューハイレモン」を買うと氷入りのプラカップを出してくれた。このサービスがたまらなく好きだった。

事前チェックの際、山崎12年には氷と水または炭酸水付きと書いてあったものの、「タカラ缶チューハイレモン」にはその記載がなかった。これは付いてこない可能性があるな、と事前に氷入りのカップを『NewDays』で購入していたのだ。

しかし、その判断は杞憂に終わった。上に出ている写真の通り、ちゃんと氷入りのプラカップが付いていた! これこれ!

大げさに書いたが、注文時に「氷カップ」の有無を選べた

喜び勇んでプラカップへチューハイを注ぐ。一気呵成にグビッ。くぅぅ〜、ビール2本を飲んだあとに呑むキンキンのチューハイが染みる。

呑み口付きのフタがあるので安心して呑める
すっかり氷が溶けてしまった氷入りプラカップ

そこへ、つまみとして買ったチップスターの伊勢えび味をパクっ。軽食程度の食事だったのでお腹が満たされていなかった。そこへこれを食べたもんだから、まあ旨いのなんの!

グリーン車にはサイドテーブルがあるからこんなレイアウトで呑める。贅沢!

3本目の缶を空けているくらいだ。静岡あたりを走っているようなムードが漂うが、信じられないことにまだ東京駅にいるのだ。今日ほどグリーン車でよかったと思ったことはない! って、ほぼ初グリーン車だけど。

ようやく出発! 追加注文でまさかの事態が!

そうこうしているうちにようやく出発! と思ったら、品川駅で停車。なかなかうまく進まない。そんなときこそ、車内販売の出番だ。車内販売は、僕たち私たちの味方なのだ。

チューハイが空きそうになったところで、プレモルを注文した。前回は早く持ってきてくれたのに今回はなかなか来ない。オーダー完了時の画面を見ていなかったので再度見てみると、お届け目安の時間が25分程度と書いてあった。

これが25分程度のお届け目安時間の証拠画面だ!

やはり、多数の方は発車してから頼んだのだろうか。飲み屋やUber Eatsでは考えられないお届け時間だが、パーサーさんが少ないのだろう。そもそも車内販売がなくなった理由のひとつに、人手不足で販売スタッフの確保が難しくなっていることが挙げられていた。先は長い。気長に待とう。

というのも、車内アナウンスによれば、目的地の新大阪駅に1時半到着予定と言うではないか。ここで呑兵衛の自分が思ったのは「ほぉ、これからくるプレモルのあと、もう1杯は余裕で飲めるな」である。

かくしてやってきたプレモルはキンキンに冷えていた。これがうれしいんだ。持ってきてくださったパーサーさんが先ほどと同じ方だった。その車両担当だといいが、3車両すべてこの方が担当されているとしたら……今日はフル稼働。相当キツいだろう……。

ザ・プレミアム・モルツ

ふと時計を見ると23時半。乗車からかれこれ3時間半は経っている。本来であれば1時間前には新大阪駅に到着しているのだが、まだ静岡県内を走行している。そのとき、パーサーさんが全客席におしぼりを配りにきてくれた。

知らなかったのだが、グリーン車では必ず配られるんだとか。しかもこれが一部の高級ホテルでも採用されているほどの“いいおしぼり”。あぁ、確かに肌触りがいい。

配られた“いいおしぼり”

恍惚な表情を浮かべつつ、ラスト1杯の注文を企てる。チューハイで〆るんやと思ったら、なんと売り切れ。さっきのプレモルのときにもう一回チューハイを頼めばよかったか。最後まで判断が裏目に出る……。

ならば、山崎か! いやそれは高級すぎる……。日頃からグリーン車に乗っているガチ勢ならば頼むかもしれないが……。流石に頼めない。今、このヘタレが! と思っているアナタ、申し訳ない。

結局、2本目のプレモルを注文した。時は0時27分。この時間ともなるとSuicaの端末もお休みされているとのことで、現金払いに。端末にも働き方改革の波がきてるんだな。

ようやく三河安城を通過。それを告げる車内アナウンスで、特急券の払い戻しについての説明が流れる。なんと! それだったら山崎を攻めてもよかったではないか! ここにきてまだ裏目るのか。今日はそういう日なんだろう。

1時9分、ようやく京都駅に近づいてきたところで車内販売終了のアナウンスが流れた。

いやぁ、新幹線で呑むのが好きとはいえ、ここまで長くその時間を体験できるとは思わなかった。地震で怖い思いをされた方のことを思えば、長い時間もなんのそのである。

そんな思いにふけっていたら、またまたアナウンス。新大阪駅のホームで朝5時まで寝られる列車を用意してくれるとのこと。JRさん、神対応すぎるよ!

なんて感動していたら、新大阪駅に到着。実に3時間10分遅れでの到着となった。車内販売について書く記事だったはずが、壮大なドキュメントになった。新幹線に関わるスタッフのみなさん、ありがとうございました。そして、この夜、東海道新幹線に乗ったみなさん、お疲れ様でございました。

無事に新大阪駅に到着!

取材・撮影/編集部えびす