「寿がきや」の跡地に「スガキヤ」ができる街…名古屋民はなぜ「スガキヤ」を愛しているのか
こんにちは、Togetterオリジナル編集部のToge松です。岐阜での帰省を終え、名古屋経由で東京へ戻ります。
私の地元、岐阜県の東濃地方は名古屋のベッドタウンと言っても過言ではなく、当然ながら名古屋メシ文化を色濃く残している。
街には「コメダ珈琲」「CoCo壱番屋」「ブロンコビリー」「台湾ラーメン」「あんかけスパゲッティ」などが点在していて、私も幼い頃から名古屋メシを親しんできた。
そのひとつに、自分のDNAに刻まれたレベルで郷愁を誘う名古屋メシがある。
そう、「スガキヤ」だ。
1946年の創業以来、東海地区を中心に251店舗を展開(2024年7月時点)しているラーメンチェーン。名古屋どころか東海地方民の心をつかんで離さないソウルフードとして親しまれ、X(Twitter)でもしばしばネタになることがある。
今回の帰省で行くことはないと思っていたが、JR名古屋駅に隣接する「エスカ地下街」でふと見かけてしまい、吸い寄せられてしまった。
私はなんて心の弱い人間なんだ…。
スガキヤが好きすぎる街、名古屋
地元にもあるスガキヤを、わざわざ名古屋に来てまで立ち寄ろうと思ったのは理由がある。
「エスカ地下街」を立ち寄ったところ、7月18日に「スガキヤ 名古屋駅エスカ店」がオープンしたと知ったからだ。
「だから?」と思った人もいるかもしれない。だが、スガキヤができる前までこの場所には別のお店があった。
そう、「寿がきや」だ。
「寿がきや」はもともと「スガキヤ」の旧屋号であり、スガキヤより少しハイエンドなコンセプトで展開しているお店。つまり「寿がきや」の跡地に「スガキヤ」ができたことになる。
エスカ地下街は名古屋メシを楽しめる店舗が充実している。スガキヤもまた名古屋メシとして欠かせない存在だ。
名古屋の人たちがどれだけスガキヤを愛しているか、少しだけご理解いただけるのではないだろうか。
名古屋駅エスカ店と他店の違いとは
スガキヤのラーメンの味については後で触れるとして、スガキヤのメニュー構成は基本的に大きく「ラーメン」「甘味」「ごはん」の3つに分類できる。
それはどの店舗も同じだが、店舗によっては限定メニューや独自のセットメニューがあったりする。「名古屋駅エスカ店」もそのひとつだ。
こちらの店舗では「ラーメン」に「五目・ミニソフトセット」を加えたセットメニューを全面に打ち出している。先ほど伝えた「ラーメン」「甘味」「ごはん」というスガキヤを象徴する3つのメニューを一度に楽しめるセットとなっている。
客単価を高くしたい狙いもあるだろうが、このセットメニューはスガキヤ初心者にとってありがたい。私も今回は「ラーメン+五目・ソフトセット」(810円税込)を注文した。
一人席に座って、注文番号がアナウンスされるのを待つ。店内の壁に目をやると、スガキヤの歴史がわかる年表が大きく貼り出されていた。他の店舗にこんな年表あったっけ…?
観光客に対して「スガキヤはこういうお店ですよ」と伝えたい店側の意図が感じられる内装である。
そうこうしていると番号が呼ばれたので、カウンターで料理を受け取った。
「これが…あの!?」という特別な感慨はない。いつも食べてるメニューがそこにあった。
まずはラーメンフォークを愛でてほしい
名古屋民は「スガキヤは全国チェーン」と信じて疑わないフシがあるが、私のその一人である。
なので今さら講釈を垂れるのも野暮だと思うが、まだ味わったことがない人に向けて説明してみよう。
まず食べる前に、ラーメンの丼に刺さっている銀色の食器を手にとってほしい。
そう、これがスガキヤが誇る伝家の宝刀、かの有名なラーメンフォークだ。
個人的にスガキヤの持つアイデンティティの30%くらいはコレだと思っている。
いわゆる先割れスプーンのように、麺とスープがひとつの食器で食べられる便利アイテム。1978年にスガキヤが名古屋を代表する陶磁器メーカー・ノリタケと共同開発で作ったという。現在のデザインは2007年に改良されたものだ。
デザイン性に優れた点が認められ、「Ramen Spork」という名称でMoMA(ニューヨーク近代美術館)でも販売されている。
しかしこのラーメンフォークの使い方が難しい。麺は食べられるがスープは正直飲みづらい。あくまで個人的な感想だが、2007年のほうが使いやすかったとすら思うがどうだろうか…?
低価格だけど個性的なラーメン
前段が長くなってしまったが、駆け足で料理についても説明しよう。
まずはラーメンだ。単品なら430円。昔は一杯290円くらいだった気もするが、まだまだ安い。
スガキヤのラーメンの一番の特徴はスープにある。公式によると、豚ガラから抽出した豚骨スープと昆布や魚介からとったダシを合わせた「和風とんこつスープ」と謳っている。
このやや白濁としたスープがとてもあっさりとした優しい味わいで、「スガキヤで食べている」という実感を高めてくれる。スガキヤのアイデンティティの半分近くはスープにあると言ってもいい(暴論)。
麺は自家製で、ごく普通の中太ストレート。具材も形が整ったチャーシューとメンマ、ネギとごくシンプルだ。ちなみにスガキヤに味玉はなく、玉子を頼むと温泉玉子のようなものが出てくる。
スガキヤを象徴するサイドメニューたち
サイドメニューについても駆け足で説明したい。
スガキヤでは定番サイドメニューとして知られている「五目ごはん」だが、ごはんを見ると場所によって色の濃淡が違うことがわかるだろうか。
スガキヤの「五目ごはん」は「炊き込みごはん」ではなく「混ぜごはん」。濃いめに味付けした具材(油揚げ、ごぼう、人参、たけのこ、しいたけの5品目)を炊き上がったごはんに混ぜたものだ。店頭でお土産に混ぜごはん用の具材が販売されている。
具材は甘辛く味付けしてあるが、ごはん全体としてはやや薄味なので、スープを飲みながら口の中で調整するとちょうど良いかもしれない。
最後にミニソフトにも触れておこう。
実はスガキヤは「甘党の店」という甘味処が前身であり、甘味はスガキヤを象徴するひとつだったりする。
1960年には「小倉クリーム」という、小倉あん+ソフトクリームのいかにも名古屋らしいメニューも誕生している。
ラーメンに始まりソフトクリームで締めれば、スガキヤの味をひととおり満喫したと言えるかもしれない。
名古屋民はなぜスガキヤを愛するのか
東京に来て何年も経つが、稀に人から「名古屋の人って何であんなにスガキヤが好きなの?」と聞かれることがある。
私は名古屋民ではないが、同じ気持ちになることはある。結論をいうと「よくわからない」。
ぶっちゃけた話、スガキヤよりも美味しいお店はたくさんある。もちろん名古屋にも、だ。
また、昔こそリーズナブルなチェーンとして親しまれていたが、現在は他にも低価格チェーンはあるし、価格的な競争力がずば抜けて優れているかと言われると疑問だ。
にもかかわらず、スガキヤの看板を見つけては街灯に誘われる虫のように入ってしまう自分がいる。自分の行動理由をうまく答えることができない。
無理やりこじつけるなら、やはり子ども時代の思い出があるのだろう。学校帰りに友人たちとスガキヤのフードコートへ行っては、ラーメンやソフトクリームをよく食べたものだ。そうした体験が私にとってのソウルフードに定着し、次の世代に受け継がれていったのかもしれない。
X(Twitter)では時折、スガキヤに魅入られたユーザーによる「スガキヤはラーメンではない。スガキヤという食べ物である」という言葉が流れてくることがあるが、分からなくもない。冒頭で書いたとおり、自分のDNAに刻まれているレベルで無性に食べたくなる名古屋メシなのだ。
「スガキヤはラーメンではない。スガキヤはスガキヤという食べ物である」に共感する人多数
関東からは撤退してしまい、子どもの頃と比べてスガキヤを訪れる頻度はめっきり減った。スガキヤ成分はカップ麺やチルド麺などで補給できるが、やはり「あの店の雰囲気の中で食べたい」という願望はある。
私はあと何回、スガキヤを食べられるだろうか。
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