日米合作『RENT』プリンシパル・キャストにインタビュー〈Vol. 1〉ベニー役 アーロン・ジェームズ・マッケンジー

写真拡大


山本耕史、クリスタル・ケイ、そしてブロードウェイで活躍するキャストたちが送る日米合作『RENT』。いよいよ2024年8月21日(水)に開幕が迫る本作のプリンシパル・キャストに連続インタビュー。Vol.1は、ベニー役を演じるアーロン・ジェームズ・マッケンジーが登場する。

ベニー役を演じるアーロン・ジェームズ・マッケンジーは、洞察力の深さが話の端々からうかがえる人。

――日本に来るのは初めてですか。

前に、日本に住んでいる友人を訪ねてきたことがあって。数日間の滞在だったけれども、そのとき東京という街にすっかり恋してしまったんだ。今回のように長期滞在して仕事をするのは初めてだよ。

――これまでのキャリアを教えてください。

2022年にカレッジを卒業したんだけれども、パンデミックで本当に大変な時期だったよ。マイケル・ジャクソン・ミュージカルのワークショップやリハーサルに参加していたんだけれども、まだブロードウェイでは上演には至っていなくて。その後、ニール・ダイアモンドの伝記ミュージカル『ビューティフル・ノイズ』のオリジナル・ブロードウェイ・プロダクションに出演していたんだ。こちらは、トライアル期間を含めて2年ほど参加していたかな。その後、ブロードウェイの新しいミュージカルのプロジェクトにいろいろ参加していて、最近では『ガン&パウダー』でロジャー役を演じたんだ。他には、テレビなど映像の仕事もしていて、『ゴッドファーザー・オブ・ハーレム』のシーズン4に出演しているよ。

――今回の出演の経緯は?

『RENT』はこれまでやったことのない作品だからぜひ出演したかったのと、この業界で尊敬していて、親しくしていたり、一度は一緒に仕事をしてみたいと思っていた人々が関わっていること、そして、東京に来て仕事をすることができるなんてなかなかないチャンスだし、これは人生において大きな決断を下すべきときだと考えて、オファーをうれしく受けたんだ。

――『RENT』に出演されるのは初めてだそうですね。

ブロードウェイの歴史においても非常に人気の高い作品だし、その楽曲はもちろん当然前にも聞いたことがあって。でも、実際に出演することになって、過去のプロダクションの映像をいろいろ観たり、リサーチを重ねていくことで、作品のもつ深みに気づかされ、圧倒され、参加できるのが本当に光栄だと思うようになった。演劇界のランドスケープを変えてしまったところのある作品だと思うし、過去、そして現在においても重要なトピックを扱っているところもすばらしい。社会の主流から取り残されたコミュニティに光を当てたという意味でも非常に美しい意義をもつ作品だと思う。それが、世界中で愛され、上演され続けている理由じゃないかな。

――ベニーについてはいかがですか。

演じていてとても楽しいよ。ベニーは非常に興味深い、おもしろいキャラクターだと思う。僕にとっては、ブロードウェイ初演でこの役を演じたテイ・ディグスのイメージが非常に強いかな。テイ・ディグスは、パフォーマンスもそのキャリアも、僕が尊敬してやまない人物なんだ。そして、彼以降ベニーを演じてきた多くの人々がいるわけで、その歴史に足を踏み入れられたことを光栄に思うよ。ベニーが人としてもつニュアンスや、物語に対してもつ影響など、演じて探求していくうちにさらにおもしろいと感じるようになってきたんだ。

――お好きなシーンやナンバーはありますか。

うーん、選ぶのは非常に難しいな……(と、考えて)。敢えて言うなら、あちこちのナンバーで耳にすることのできる音楽的主題を楽しんでいるという感じかな。ロジャーが作品のオープニングの方で演奏するギター・リフは作品を通してあちこちで流れるから、それを聴いているのが好きだし、そのリフが最後の方で曲へと発展していくのを聴くのも好きだな。

――この作品の魅力をどんなところに感じますか。

作詞・作曲・脚本を一人で手がけたジョナサン・ラーソンが、世界、人生の真実と真の人間性、そして社会的文化的トピックスをこの『RENT』という作品、一つのミクロコスモス(小宇宙)にまとめ上げた、その手腕が本当にすばらしいと思っていて。2時間半の上演時間の中でそれらすべての要素を入れ込んだ作品を書き上げるというのはなかなかできることではないからね。だから、観客は、『RENT』を観に劇場に足を運ぶたび、自分自身の一部を、少なくとも一つは舞台上に発見することができるんだと思う。そして、人生のある側面がその物語のうちに描き出されていくのを観ることができる。それが、僕がこの作品を心から愛する理由なんだ。

――今回は日米合作プロダクションです。

すごいことだよね。誰もが参加できるという意味においてリミットのない奥深い作品であるということの証明になっていて、非常にクールだと思うよ。この作品の物語が世界のさまざまな地域の人たちにアピールすることの証でもあるよね。今回、さまざまなバックグラウンド、キャリアをもつ人々と出会い、一緒に仕事ができることを、非常に意義深い、新鮮な経験だととらえていて。なぜなら、ニューヨークで仕事していると、この業界って何だか非常に狭いところのように感じてしまうんだ。ちょっと通りを曲がっただけで知り合いと顔を合わせる、そんな感じだからね。もちろん、それはそれで非常にすてきなことなんだけれども、安定から抜け出して新たな世界を拓いていくということにも大いに挑戦していくべきだと僕は常々考えていて。今回のプロダクションでは前からの友人は2人だけだから、新しい友人がいっぱい増えたし、その新しい友人たちから新しく学べたことも多くて、本当にうれしいよ。

――そもそも、なぜミュージカルの世界を志したのですか。

子供のころ、本当にいろいろなことに挑戦して。スポーツも楽しんだし、ヴィジュアル・アーツもいろいろやってみたけど、音楽が自分にとって一番しっくり来るな、自分を一番よく表現できるものだなと感じたんだよね。だから、まず音楽に心ひかれた自分がいて。そして、演じるということも非常に楽しいなと感じたことがあって、その二つが一緒になったミュージカルって自分にとって最適なジャンルなんじゃないかなと、この世界に道を定めたんだ。もちろん、決してたやすくはない世界だし、大変なこともいろいろあるけれども、この仕事を非常にエンジョイしているよ。大変だというのは、喉の調子を保つために、何を食べるか、普段もどう話すか、日中どう過ごすか、睡眠時間をどれくらい取るか、必要な栄養素をいかに欠かさないか、喉に悪いことをどう避けるか、日々追求し続けていかなくてはいけないから。それに、オーディションなんかで「ノー」と言われるのもよくあることで、常にチャンスが目の前にあるというわけでもない。だから、仕事と仕事の間の時間も自分の心と身体のコンディションをキープするために、仕事以外でも自分を幸せにしてくれるものを見つけておくことも必要なんだ。それに、例えば『RENT』みたいに心を揺さぶるエモーショナルな作品に出演する場合、自分の心をいい感じに保つために、必要以上に心を揺さぶられないよう、自分自身で心をガードしておくことも大切になってくる。そのためにも強さとレジリエンスが非常に必要とされる仕事だと思う。

――日本の観客へのメッセージをどうぞ。

今回のプロダクションに参加できることを心からうれしく思っているし、日本の人々に快く受け入れてもらえていることにも本当に感謝しているよ。僕の両親はジャマイカ出身で、僕はアメリカ生まれなんだ。それで、僕はファミリーとコミュニティというものを人生において非常に大切に考えている人間なんだけれども、日本に足を踏み入れるや否や、コミュニティの一員として愛と温かさをもって受け入れられていることに気づいて、うれしかった。日本の観客が愛する『RENT』の物語を、今回、少し新たな要素も加えてお見せできると思うし、その過程で僕という人間について知ってもらえたら、そして舞台を楽しんでもらえたらいいな。

【日米合作 ブロードウェイミュージカル「RENT」】ベニー役 アーロン・ジェームズ・マッケンジーよりメッセージ動画到着!

取材・文=藤本真由(舞台評論家)