能登半島地震で液状化した内灘町の住宅地。側方流動と呼ばれる現象が起きた(撮影:岡田広行)

2024年1月1日に起きた能登半島地震では、液状化による被害が各地で生じた。日本建築学会・基礎構造運営委員会の主査として、石川県内灘町や隣接するかほく市大崎地区で調査に当たった東京工業大学の田村修次教授に、液状化による住宅被害の実態と復旧・復興に必要な方策についてインタビューした。


――能登半島地震の調査でわかった主なことは何でしょうか。

私が主査を務める日本建築学会・基礎構造運営委員会は今年3月上旬から4月上旬にかけて、石川県内灘町およびかほく市大崎地区で建物の液状化被害に関する調査を実施した。調査には約100人の専門家が参加した。

これから述べる事実や分析は、6月25日に開催された日本建築学会の「能登半島地震災害調査暫定報告会」で私が報告した内容に基づいている。今後、詳細な分析結果は、日本建築学会大会の災害調査報告会(8月28日)で大阪大学の柏尚稔教授から発表される予定だ。

県道8号線に沿って液状化が発生した内灘町およびかほく市大崎地区で調査した約1600棟のうち、戸建て専用住宅が全体の約7割を占める。

今般、戸建て専用住宅の被害についての考察をした。外観からの推定ではあるが、地盤に変状があった建物の場合、建物の建設年代が古いほど、建物の傾斜が大きいことが判明した(下図参照)。ちなみに建物傾斜が1度(約1000分の18)以上の場合を「建物傾斜大」、同1度未満を「建物傾斜小」と定義した。建物傾斜が1度程度でも、めまいや頭痛、吐き気などの健康障害が生じ、住み続けることは困難だ。


地盤変状の住宅は基礎に多くの被害

次に、基礎の損傷程度と建物傾斜の関係について考察した。その結果、地盤変状がなければ基礎はおおむね無被害だった。一方、地盤変状があった場合、基礎が部分的に損傷、さらに破壊したケースが多く見られた(次ページ図の参照)。

基礎の部分的損傷または破壊があった多くの場合で「建物傾斜大」または「建物傾斜小」となっており、基礎の損傷と建物の傾斜に強い関連性があることが見て取れた(次ページの図参照)。

――住宅の被害を考えるうえでは、基礎がしっかりしているかどうかが重要だということですね。

そこで小規模建物の基礎に関する法規制やガイドラインなどの変遷を見てみたい。

1981年の建築基準法改正により、鉄筋コンクリート造の基礎が推奨された。その後の2000年から2001年にかけて、建築基準法が再改正され、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)が制定された。これにより鉄筋コンクリート造基礎が義務化され、SWS試験による地盤の許容支持力度算定といった簡易な地盤調査が必須となった。また、セメント系固化材などによる地盤改良が行われるようになった。

そして2008年には日本建築学会が小規模建築物基礎設計指針を刊行し、具体的な構造計算法を提示した。これにより、中小の工務店でも簡易な計算ができるようになった。


基準強化が被害軽減につながった

つまり、かつては無筋コンクリート基礎だったものが、鉄筋コンクリート基礎が推奨され、その後、義務化された。近年は、地盤調査や地盤改良が一般に行われるようになった。

今回の被害調査では、戸建て住宅の推定年代と必ずしも整合性が取れているわけではないが、地盤改良が行われ、基礎が鉄筋コンクリート造のケースでは、被害が限定的になっている可能性が高いことが見て取れる。反面、非常に古い住宅では基礎が壊れているケースが多く、建物の大きい傾斜につながっている。

ただし、鉄筋コンクリート造基礎にしただけでは、液状化による沈下リスクはなくならない。無筋コンクリート造よりはましだが、地盤改良が行われていない場合、建物全体が傾斜してしまう可能性はある。

――被害防止・住宅再建策をお聞きする前に、今回の能登半島地震による液状化被害の状況についてお尋ねします。内灘町やかほく市大崎地区での液状化の特徴として、「側方流動」が挙げられています。これはどのような現象でしょうか。


田村修次/東京工業大学教授。1991年東京工業大学大学院修了。東日本旅客鉄道、科学技術庁・防災科学技術研究所、信州大学工学部、京都大学防災研究所を経て、2014年東京工業大学准教授。2021年同大学教授(筆者撮影)

東日本大震災では、千葉県浦安市などで液状化が起こった。この時は噴砂などの現象が見られた。それに対し今回の能登半島地震では、内灘町、かほく市大崎地区で、噴砂はもとより、地盤が水平方向に大きく変位する側方流動と呼ばれる現象が生じた。浦安市の場合は液状化のみであったのに対して、内灘町やかほく市大崎地区では東の河北潟があった方向へ地盤がメートルのオーダーで流動した。

過去に河北潟の干拓のために、内灘町やかほく市大崎地区で砂を採取するために砂丘を掘り下げたため、地下水位が浅くなった。浅い地下水位が液状化被害を大きくした。逆に地下水位が深いため、砂丘の上の住宅地では液状化は起きなかった。

念入りな地盤改良が必要

――側方流動はどの程度の規模で起きたのでしょうか。

内灘町北部の室地区では、元の場所から約12メートルも変位した住宅があった。これは側方流動によるものと考えられる。なぜ、この場所だけ変位量が大きかったかは不明である。さらなる調査が必要だ。

東日本大震災の際の浦安市の場合は新しい住宅が多く、基礎がしっかりしていたので建物の損傷が軽微で建物全体が傾くケースが多かった。これに対して今般の内灘町やかほく市大崎地区では古い家が多く、側方流動の影響で基礎が壊れて建物が損傷したケースが多数見られた。また、外見上の被害は少ないものの、液状化の影響で建物内部が歪んだ住宅もあった。

――住民の間では先行きが見通せないという声が多く聞かれます。今後、どのように復旧を進めたらよいのでしょうか。

基礎が破壊された住宅は、残念ながら取り壊しは避けられない。基礎がしっかりしていれば、ジャッキアップなどで住宅の傾きを直すことで住み続けることはできる。ただし、もう一度大きな地震が来たら再液状化し、再び傾く可能性がある。そのため、地盤改良などの対策が必要だ。

国や自治体が設けた支援策を活用できる。その場合、液状化層の厚さを調査してから、対策をすべきだ。それをしないで実施した場合、将来再び、被害が発生するおそれもある。

――内灘町およびかほく市大崎地区の液状化被害エリアでは、住宅によって壊れ方が大きく異なっています。修繕による早期の住宅再建を望む人がいる一方で、取り壊した住宅の再建を含む、面的な復旧・復興の必要性も指摘されています。

面的に地盤改良を実施する場合、地域全体の地下水位を避けるなど、かなり大がかりな公共工事が必要になる。土木関係の知見も不可欠だ。課題は多くある。

(岡田 広行 : 東洋経済 解説部コラムニスト)