ロイホこと「ロイヤルホスト」の究極のいぶし銀メニュー「オニオングラタンスープ」。その歴史とこだわりとは?(筆者撮影)

「このメニュー、そこまで有名ではないけど自分は好きだなあ」「定番や看板ではないかもしれないけど、好きな人は結構多いと思うんだよな……」――外食チェーンに足を運ぶと、そう思ってしまうメニューが少なからずあります。店側はどんな思いで開発し、提供しているのでしょうか。

人気外食チェーン店のすごさを「いぶし銀メニュー」から見る連載。今回はロイヤルホストの「オニオングラタンスープ」を取り上げます。

飲食チェーンには「代名詞」「定番」というべきメニュー以外にも、知られざる企業努力・工夫を凝らされたものが数多く存在します。本連載では、そうした各チェーンで定番に隠れがちながら、根強い人気のある“いぶし銀”のようなメニューを紹介していきます。


ロイヤルなファミレス、ロイヤルホスト(筆者撮影)

マリリン・モンローもお気に入りだった味

今回のテーマは、ファミリーレストラン界でも特別な存在感を誇る、ロイヤルホストです。ロイヤルホストは英字表記だと「Royal Host」。Royalは「王室の」「高貴な」という意味があり、Hostはパーティーなどの主催者を意味します。その名にふさわしいメニューがそろっており、特別なときにロイヤルホストを利用する、という人も多いのではないでしょうか。

メニューにはハンバーグやステーキといった洋食の王様といえるものを中心に、鶏肉やエビ、栗が入った「コスモドリア」や「ロイヤルオムライス」といった単品メニューの他、各種のセットもそろっています。

そんな中で今回扱うのは「ロイヤルのオニオングラタンスープ(以下、オニオングラタンスープ)」です。ロイヤルホストでは、7月10日時点でオニオングラタンスープを含めて3種類のスープを提供していますが、そのうち圧倒的な知名度を誇るのが、このオニオングラタンスープではないでしょうか。

【画像15枚】「絶対頼む」「安定の美味さ」と根強い人気! ロイホ「オニオングラタンスープ」はこんな感じ

一般的に、スープはサイドメニューとされますが、ロイヤルホストのオニオングラタンスープには「ロイホといえばオニオングラタンスープ」「絶対頼む」「安定の美味さ」といった声が集まっており、サイドメニューらしからぬ人気を博しています。過去には、あのマリリン・モンローが新婚旅行で来日した際に食べ、気に入ったという逸話もあるとか。

そんなロイヤルホストの名物、オニオングラタンスープには、どんな工夫が潜んでいるのでしょうか。まずは実際に足を運んで食べてみましょう。

食べる前から漂う高級感

平日の夕方、都内某所のロイヤルホストへ。オレンジ字に黒字で「Royal Host」と書かれた看板を見るとわくわくするのは、筆者だけではないでしょう。やや早い時間だったこともあり、店内はまだ空席ありで難なくテーブル席に着席します。

出窓のようになっている大きな窓ガラス越しに、植栽の緑が映えます。これだけですでに、他のファミレスとは一線を画す居心地を感じます。オニオングラタンスープとともに、ロイヤルホストの人気メニューでもある「黒×黒ハンバーグ」を楽しめるスペシャルセットを注文します。合わせて、ロイヤルホストでしか注文できないこれまた代名詞的メニュー、コスモドリアも注文。


何となく、優雅な雰囲気(筆者撮影)

セットに付いているドリンクバーを取りに席を立つと、入り口付近にある物販に目が留まりました。

一般的なファミレスでは、子ども向けのおもちゃやちょっとしたお菓子が売っていることが多いのですが、ここロイヤルホストの一部の店舗では、ドイツのグミ「ハリボー」やベルギー生まれのビスケット「ロータス」が置いてあり、一線を画しています。ドリンクバーのココアも、オランダのメーカー「バンホーテン」のものを使っており、どことなく高級感が漂います。


サラダと冷製ジュレ&フラン(筆者撮影)

そうこうしていると、まずはセットの前菜としてサラダと、冷製のジュレ&フラン仕立てが到着しました。セットメニューにサラダが付いていることはありますが、冷製のジュレまで付いてくるファミレスは、日本広しといえどもロイヤルホストくらいしかないのではないでしょうか。


野菜本来の食感がしっかり楽しめるサラダ(筆者撮影)

もちろん味も抜群。一般販売もしている特製のオニオンドレッシングがかかった野菜は生き生きとしており「シャキッ」「パリッ」とした食感が楽しめます。

いつ食べても熱々 多彩な食感と風味が交わるスープ

続いて、オニオングラタンスープが到着。器までじっくり焼き目が入っており、良い香りとともに食欲をそそります。しかし、そうすぐには食べられないのが、このオニオングラタンスープ。チーズとトロトロになったバゲットを崩して食べようとしても、まず熱すぎて返り討ちに遭います。何回食べてもこのアツアツさには慣れません。


食欲を我慢して、待ちましょう(筆者撮影)

根気強く混ぜつつ冷まし、ようやく一口。スープの旨みとバゲットの食感、さらにチーズの風味が広がります。味だけでなく、透き通る美しい色もオニオングラタンスープの特徴です。スプーンですくって、沈んでいた玉ねぎも味わっていきます。スープのほのかな甘みとコク、まさに滋味。どんどんとスプーンが進みます。


琥珀色が美しい(筆者撮影)

オニオングラタンスープであたたまって、いよいよ黒×黒ハンバーグへ。黒毛和牛と黒豚を配合していることが名前の由来で、2009年の登場からロイヤルホストの看板を張るメニューとなり、多くの人に愛されています。


登場から15年、大人気の黒×黒ハンバーグ(筆者撮影)

その人気にたがわず、肉汁がほとばしり、柔らかいながらも肉らしい食感を残したハンバーグです。


黒毛和牛と黒豚からなるハンバーグ(筆者撮影)

最後にコスモドリアも。一説によるとコスモとはコスモポリタン、つまり宇宙の意味で、空を意味する鶏肉、陸を意味する栗とマッシュルーム、海を意味するエビが入っていることがその名の由来とか。ドリアに栗というイメージは寡聞にしてあまりありませんが、レモンを絞ると一気に栗の存在感が際立ち、これまた飽きずに食べ進められます。


これもロイヤルホスト名物、コスモドリア(筆者撮影)


隠れていた栗を発見(筆者撮影)

ちなみにロイヤルホストはデザートも充実しています。スープやサラダなどの前菜系から始まり、メインに米料理、デザートと非常に高いレベルで統一されており、まさにロイヤルなファミレスといえるでしょう。

ステーキは冷凍肉を使わず、サラダも店内で水締め

ここであらためてロイヤルホストの紹介です。ロイヤルホストを運営するロイヤルホールディングスの公式Webサイトでさかのぼれる最も古い歴史は、日本航空の国内線が営業開始した1951年に、福岡空港で始めた機内食と喫茶。その後、1953年に福岡市内でフレンチレストラン「ロイヤル中洲本店」を開業し、有限会社ロイヤルを設立しました。

翌年にはマリリン・モンローとジョー・ディマジオが来店し、オニオングラタンスープに舌鼓を打ったそうです。同店は現在「花の木」という名前で営業しています。


当時の「ロイヤル中洲本店」(出所:ロイヤルホールディングス公式Webサイト)

大衆的なファミリーレストランをオープンしたのは、1959年のこと。さらに1962年にセントラルキッチンシステムを採用し、1970年の大阪万博で、同システムを活用した店舗をアメリカゾーンに4つオープン。会場内の各国レストランのうち、ナンバーワンの売り上げを記録したといいます。

ロイヤルホストとして店舗をオープンしたのは、1971年のこと。ロイヤルホストのメニュー開発責任者である、ロイヤルの岡野孝志(商品本部 企画開発部・部長)さんによると、大阪万博でステーキハウスが活況だったことから、新業態のロイヤルホストでも引き続きステーキメニューに注力し、同店では8オンス(235グラム)で880円の「88ステーキ」が人気を博しました。


福岡県北九州市にオープンした、ロイヤルホストの1号店(出所:ロイヤルホールディングス公式Webサイト)

1号店をオープンしてから50年超が経過するロイヤルホストですが、大事にしているのが「豊かな時間を過ごし、豊かな食事をしてもらうこと」(岡野さん)。その考えを基に、さまざまな工夫を凝らしています。

例えば、注力しているステーキメニューでは、冷凍していない牛肉を仕入れ、店舗で1枚ずつ手切りしているそうです。

「効率を考えれば、冷凍したものを店舗で解凍するのが一番です。しかし、冷凍していない肉を手切りすると、食感やジューシーさがまったく違います。だからこそ、あえて手間のかかる方法を選び、おいしいものをお客さまに提供しています」

同様の考えで、サラダも基本的にはカット野菜を使っていません。サニーレタスやロメインレタス、ケールなど葉物野菜は店舗で水を使って締めることで、野菜本来の食感を楽しめるサラダにしています。

ルーツはフレンチ 1店舗当たり、1日40食を売り上げる

数多くクオリティの高いメニューをそろえているロイヤルホストですが、中でも人気なメニューはどれなのでしょうか。岡野さんによると、商品カテゴリーとして人気なのはハンバーグとステーキ、デザートだそうです。

一方、単品のメニューではオニオングラタンスープが一番人気。1店舗平均で、1日当たりにハンバーグカテゴリーの商品全体が20食ほど、それに対してオニオングラタンスープは40食ほどというので驚きます。

そもそも、オニオングラタンスープはどの国の料理なのでしょうか。岡野さんによると、もともとはスープにパンを入れて食べる文化がある、イタリアやフランスの料理なのだとか。ロイヤルホストのオニオングラタンスープも、フランスで親しまれる「フレンチオニオンスープ」と呼ばれる料理が源流になっているそうです。

そんなオニオングラタンスープをロイヤルホストが提供し始めたのは、1号店のオープンから14年後、1985年のことでした。その後、一時は販売しない時期もありましたが、1987年からメニューに定着しています。

もともと、上述したようにロイヤル中洲本店でも提供したメニューですが、ロイヤルホストで始めたのが遅かったのには理由があります。それは、ロイヤル中洲本店では店舗で仕込んでいたこと。チェーン展開するファミレスで再現するのは難しかったのでしょう。

その後、セントラルキッチンで仕込んでも、店舗と遜色ないレベルで提供できるようになったことで、ロイヤルホストでも提供を始めました。

一晩かけてじっくり煮込む、澄んだスープへのこだわり

一般にセントラルキッチンといえば、効率性を追求するシステムに思えますが、オニオングラタンスープの仕込みにはかなり手がかかっており、岡野さんは「レストランの厨房で行うような工程を、セントラルキッチンで再現しています」と話します。

具体的には、炒めた玉ねぎを中心とした香味野菜や牛肉を煮込みながら、浮いた油などを人の手で丁寧に取り除き、一晩かけてじっくり煮込むとともに、卵白を入れるなどして独特の澄んだスープを仕込んでいます。

また、一般的にスープを大量生産する際には2トンタンクで作ることが多いそうですが、ロイヤルホストのオニオングラタンスープは、その半分以下の容量の釜を使っています。あえて少量で手間をかけて仕込む理由について、岡野さんは次のように話します。

「もっと簡単に大量に作ることもできるのですが、そうするとスープが濁ってしまうんです。オニオングラタンスープは上にバゲットがのっているので、気にならないという意見もありますが、そこは実直に、信念を持って取り組んでいます」

セントラルキッチンで仕込んだスープは、1人前ずつに分けて保存した上で店舗に配送。店舗では注文が入ると、耐熱容器に移して薄切りのバゲット、グリエールチーズをのせてオーブンで焼成しています。

伸び悩みを経て、サイズリニューアルで不動の座へ

今では不動の人気を確保しているオニオングラタンスープですが、過去には人気が伸び悩んだ時期もあったと岡野さんは振り返ります。転機は、2013年にサイズをリニューアルしたことだそうです。


現在提供されている、オニオングラタンスープ(提供:ロイヤルホールディングス)

それまで、オニオングラタンスープは料理と一緒に食べるというよりも、サラダと合わせれば十分なほどのボリューム感がありました。そこで、現在のようなサイズ感にリニューアルし、どんな料理にも合うメニューとしました。

「ロイヤルホストがお客さまに提供したい『豊かな時間と食』という観点から、1つの商品でお腹いっぱいになるのではなく、たくさんのメニューを食べていただくためにリニューアルを行いました。

現在も『たっぷり食べたい』というご意見も多く頂戴するのですが、オニオングラタンスープから始まり、ハンバーグやステーキを食べていただき、最後にデザートで締める。そうした豊かな食事をスタートするメニューとして、ぜひオニオングラタンスープを楽しんでいただきたいと考えています」


リニューアル前のオニオングラタンスープはこんな感じ(提供:ロイヤルホールディングス)

ランチの時間帯では、追加料金を支払うことでセットのスープをオニオングラタンスープにできるオプションも設定しています。実際に変更する人は多く、ランチ時間帯に10食ほどが出ているそうです。

サイズを小さくしたことには、客層の変化もあるかもしれません。以前の1グループ当たりの平均客数は3人ほどだったところ、現在は2人前後まで減少しており、1人客の割合も増えているそうです。大きなメニューを頼んでシェアするのではなく、少量をたくさん1人で食べたいというニーズが背景に垣間見えます。

ルーツをロイヤル中洲本店までたどれば、70年ほどの歴史があるオニオングラタンスープ。仕込みに手間がかかるメニューをファミレスというチェーン店で展開している裏には、単なる大量生産にとどまらない工夫やアイデアが潜んでいることが、今回の取材でよく分かりました。


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(鬼頭 勇大 : フリーライター・編集者)