左から小笠原健、橘龍丸

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サイバードの女性向け恋愛ゲームアプリ『イケメン戦国◆時をかける恋』を原作に、2017年に始動した舞台『イケメン戦国THE STAGE』。武将たちが生き様を燃やして刃を交え、ヒロインとの愛の物語を紡いできた「戦ステ」は、2024年8月8日(木)~12日(月・祝)にシアター1010で上演の『イケメン戦国THE STAGE  -FINAL-』にて、7年の歴史に幕を下ろす。
初演から全作品に出演してきた織田信長役の小笠原健はまさに「ミスター戦ステ」。そんな小笠原とともに、初演からここまで上杉謙信役を演じ続けた橘龍丸も、戦ステの歴史を見守り続けたキャストの一人だ。SPICEでは作品の大黒柱であり、ファイナル公演でセンターを飾る小笠原と橘にインタビュー。懐かしい思い出話に花を咲かせながら、ファイナルへの意気込みや戦ステが愛されてきた理由をたっぷり語ってもらった。

『イケメン戦国THE STAGE -FINAL-』

■転機は信長編。小笠原「満身創痍になって挑んだ」&橘「一致団結するカンパニーが神秘的だった」

――戦ステ7年の歴史に幕が下ります。ファイナル公演について聞いたのはいつ頃でしたか?

橘龍丸(以下、橘):結構前です。1年くらい前かな。

小笠原健(以下、小笠原):前回の帰蝶編の頃には、次がファイナルという話をちらっと聞いたかな。

橘:僕も風の噂で、その頃には聞いていました。

――次が最後という想いの中で、帰蝶編に臨んでいた?

小笠原:そうですね。実は前回の帰蝶編でファイナルという説もあったんです。

橘:そうなんだ!? それは知らなかった。

小笠原:そうそう。一瞬あったんだよ。なんというか、制作サイドもベストで終わるためのタイミングを探っていたんじゃないのかなと僕は思っています。本当は全武将のルートをやれたら良かったんだろうけど、なかなかそれも難しいですよね。

――実際に、2024年にファイナル公演上演と聞いての心境はいかがでしたか。

小笠原:仕事が1本減っちゃうわって(笑)。

橘:ハハハハハ。間違いないですね。

小笠原:僕のレギュラー舞台なんでね。年に1本、毎年やってきたので。

橘:レギュラー舞台ってあんまり聞かないけど(笑)、たしかにレギュラー舞台だわ。そう考えると、もう人生の一部だよね。

小笠原:そうそう。僕の30代全部だし、僕の生活の一部でもあったし。カンパニーのみんなと、「50歳になっても、『老けメン戦国』としてやっているかもな」と冗談を言っていたくらい、いつまでも続きそうな感覚があったので、本当に終わるんだな……と。

橘:僕はどちらかというと、戦ステがこんなに長く続くと思っていなかったんです。武将それぞれのルートを全部やるのは、現実的に難しいだろうと。それでも7年続けてこれたということは、それだけ多くの方に愛されて、続けてほしいという声が多かったということだと思うので、そういう愛される作品に関われて、その作品で同じ役をずっと続けてこられたことは、誇りに思っています。今回がファイナルということで、寂しい気持ちももちろんあるんですが、桜みたいにスパッと綺麗に花を咲かせて散りたいと、今は思っています。

――この7年、さまざまな武将の恋模様や、特別企画「初夢!~ようこそ!くらぶ乱世へ~」、舞台オリジナルストーリーと公演を重ねてきました。振り返って、とくに印象に残っている公演はどれでしょう?

小笠原:「くらぶ乱世」ね、あれはたしかにインパクトあったね。

橘:僕は「くらぶ乱世」はゲストとして1日出ただけなので、ただただ楽しかったですけどね。

小笠原:いや、本当にあれはあれで大変だったの。「くらぶ乱世」に関しては、いつか「くらぶ乱世ファイナル」をさせてもらいたいです。別の形でリベンジさせてほしい。

橘:リベンジしたいんだ(笑)。

小笠原:本編でいうと、やっぱり「織田信長編」ですかね。僕的には「もうやるの!?」という気持ちもあって、「次は信長編いくぞ」と聞かされたときのプレッシャーはすごく大きかった。ここで終わらせるわけにはいかない、次につなぐぞという気持ちの中で、膨大な物量が待っていて。本当に大変で、今だから言えますが、二度とやりたくない(笑)。それくらい、満身創痍になって取り組んだ思い出があります。でも、それを乗り越えて「上杉謙信編」にバトンタッチできたときの喜びはすごくありましたね。あの千秋楽のスタンディングオベーションの景色は男泣きしましたし、今でも鮮明に覚えています。

織田信長編 舞台写真

――橘さんも、一番印象に残っている公演は主演を務めた「上杉謙信編」ですか?

橘:もちろんそれもそうなんですが、僕の中でも信長編が色濃く残っています。キャストが一番一致団結した印象がある。当初から、「信長編まではとにかく絶対やるぞ」という雰囲気があって、その後のことはわからなかったんです。だから僕も、ここで最後になってもいいように、それくらいの覚悟を決めて作品に向き合っていました。信長編は本当にいろんなことが稽古段階からあって、健さんも頭を抱えていて。なんなら健さんは怒ってもいい、発散してもいいと、僕は思っていたくらいです。でも、健さんはそこをぐっとこらえて「自分がどうにかする」と、真摯に作品に向き合っていました。だから、僕たちはその裏で「どうしたら健さんをもっと立たせることができるのか」と話し合うことが何度もあって。

小笠原:そうだったんだ。

橘:そうそう。その光景すべてが僕の中では神秘的で、「このカンパニーすごくいいな」と思ったんです。信長編も幕を開けたら、まさに右肩上がりで、戦ステの勢いを感じました。

――その信長編からバトンを受け取り、次に上演されたのが橘さん主演の謙信編です。

橘:「次、謙信編でいくつもりだから」と聞いて、しかも池袋サンシャイン劇場ですよ。さすがに「まじか。サンシャイン劇場……埋まるか!?」と(笑)。でも、健さんと同じように、千秋楽の景色を見た瞬間、本当に久しぶりに男泣きしそうになりました。

――ひとつの転機である信長編があったからこその謙信編だった?

橘:謙信編も含めて、こうしてシリーズを続けられたのは、僕の中ではやっぱり信長編の存在がキーですね。信長編で、ひとつ扉がバッと開いた、それくらいの感覚があります。

――座長のバトンを渡した小笠原さんの目には、座長・橘龍丸の姿はどう映りましたか?

小笠原:信長編からの流れの中で、カンパニーの雰囲気はすごくよかったです。でも、主演は当然出番も多いし、恋愛要素も入ってくる。珍しく龍丸が稽古場で苦戦していましたね。

橘:そうだったね。本当に大変だった。

小笠原:謙信編では、龍丸から「座長としての在り方」を学んだことが、すごく記憶に残っています。「座長として最後にセンターに立てるからには、僕は奉仕の精神でやっています」という彼の想いを聞いて、だからみんなが龍丸についていきたくなるんだなと。それは年月が経った今でも僕の中に生きている言葉ですね。

橘:恐縮です!

■今だから話せる初演裏話も! 二人の初共演は戦ステ1作目

稽古場での様子

――お二人は戦ステで初共演とのこと。出会いとなった1作目でのお互いの印象は?

橘:1作目は、役としての絡みもほぼなくて、稽古でもあまり交流できていなくて、風貌からなんとなく怖い人だと思っていました(笑)。みんながわぁわぁやっていても、そこに混ざるでもなく、一歩引いて俯瞰して見ている感じだったんです。だから、何を考えている人なんだろうと、1作目は思っていました。

小笠原:実は初演は、稽古に1週間しか出られなかったんですよ(苦笑)。本当に自分のことでいっぱいいっぱいで、役者人生で初めて(舞台の)両袖に台本を置いて本番に臨んだほど切羽詰まっていました。だから、周りへ気を配れてなかったんでしょうね。

橘:ちょっと近寄りがたい空気だったもんね。

小笠原:そうかも。裏話をお話しすると、最初は武田信玄役でオファーをいただいたんですが、スケジュールが厳しくてお断りしたんです。

橘:そうだったんだ!? それは知らなかった。

小笠原:断った数日後に、「じゃあ、織田信長で」となぜかまた声をかけていただきまして。迷惑をかけてしまうからと断ったのに、なぜか役が変わっているし、セリフ量も増えているし!

橘:アハハハ!

小笠原:織田信長を演じることへの憧れがやっぱりあったので、悩んだ末に「よろしくお願いします」と。そんな経緯で、カツカツの初演でした。

――戦ステに歴史ありですね。

橘:今となっては健さん以外の信長は考えられないから、最初断ってくれてよかったです(笑)。

小笠原:そうね、今思うとね(笑)。でも、初演は本当に大変だったよね。制作さんも初の2.5次元舞台制作だったから、いろんなことが手探りで。座長の(小沼)将太も、座長というタイプじゃないんですよ。みんなに愛されて輝くタイプだから、座長としてはどこかふわふわしていて。

橘:愛されキャラだからみんな大好きなんですけどね。

小笠原:初演はキャストの殺陣や歌やダンスの技量もバラバラでしたし、みんな不安でした。

橘:ビジュアル解禁時も、受け入れられるとは言えない状況でしたしね。

小笠原:そうだったね。でも、初日の幕が開いてみたら、客席の反応が「あれ? 結構おもしろいんじゃない? カッコ良いんじゃない?」と。千秋楽が近づくにつれて「次もやってください!」と反響が大きくなってきて、「やったぞ、これは受け入れられたぞ」と嬉しかったですね。

■舞台オリジナルストーリーで描くファイナル公演は人間ドラマが見どころ

稽古場での様子

――ファイナル公演に向けて、稽古も終盤かと思います。手応えはいかがですか?

橘:現段階では、手応えとしてはまだなんとも言えない状況です。稽古で全員が揃う機会もなかなか取れなくて、まだ殺陣がついていないシーンもある。ただ、やるからには絶対手応えのあるものにします!

小笠原:正直、今の段階ではまだまだ、手放しで「おもしろい」とは言えないです。

橘:はっきり言っちゃった!

小笠原:逆によ? 逆にここで言っておけば、本番でお客様におもしろいと思ってもらえたら、それだけ僕たちがここから頑張ったと思ってもらえるじゃん(笑)。

橘:ハードル下げていくタイプの人だ。

小笠原:そういう作戦です。真面目な話、それだけここからおもしろくしていく余地があるということだと思っています。今回劇中で「一人の人が支配する世の中ではなくて、みんなでおもしろい世の中にしよう」というセリフがあります。そのセリフじゃないですが、残りの稽古を「みんなでおもしろい作品にしよう」という時間にしていきたいです。ファイナルとして成立させるためにも、キャスト・スタッフ含めて、消化不良の人が一人もいないようにしていきたいですね。

――ご自身の役の見どころ、注目してほしいポイントを教えてください。

小笠原:今回、信長がタイムスリップして、謙信軍と行動を共にするのですが、最初から謙信と一緒に過ごすというのは初めてなんです。

橘:たしかに。最後の方で一騎打ちするか、途中で共闘するか、くらいだもんね。

小笠原:そう。だからこの作品でしか観られない、武将たちの友情ストーリーはおもしろいんじゃないかなと思います。

橘:これまでの謙信は、信長との一騎打ちで苦戦することはあったんですが、それ以外ではどこか涼しげで、傷ひとつ負うことなく終わる公演も多かったんです。でも、ファイナルで過去一ボロボロになります!

小笠原:たしかにこんな謙信見たことないかも。

橘:今まで澄ましていた謙信ですが、今回は泥臭い感じにできればと思っているので、そこは注目してほしいですね。無敵感すら漂っていた彼の人間っぽさや、そこから生まれるドラマをしっかり作っていきたい。今回は、そのドラマの部分をミスると、最後の信長のシーンが生きなくなると思っていて。それぞれの武将のドラマが積み重なっていって、信長に最後のバトンを渡すのが謙信の役目だと思っているので、最後にしっかりつないでいきたいです。

小笠原:心強いですね。

橘:もしかしたら原作の謙信からは少し離れてしまうかもしれないけれど、ファイナルでもあるので、改めて謙信の芝居の部分をしっかりやりたいと思っています。

■戦ステを見守ってきた二人が語る、戦ステがファンに愛される理由

明智光秀編 舞台写真

――7年間、戦ステがこれだけ愛された理由。お二人はどう考えますか。

橘:最初の頃は、やっぱり乙女ゲーム原作で恋愛要素もあるのに、同時に男たちが熱苦しく殺陣や芝居を繰り広げる姿に興奮してくれたんじゃないのかなと思っています。とくに最初の数作品は、舞台を観たことのない原作ゲームファンの方々が多く観にきてくれていた印象で、その方達の想像力や妄想力を戦ステが活性化できたんじゃないかな。殺陣に関しては、観劇玄人の方にも満足していただけるようなクオリティは提供できていたと思います。当時の殺陣師の方が、かなりギリギリで緊張感のある殺陣をつけてくれたので、その緊張感と迫力は客席にも伝わっていたと思います。安全第一ではありますが、嘘をついていない殺陣が、お客様の心拍数を上げて、舞台ならではの臨場感を味わってもらえたことは大きいと思います。

小笠原:今回は舞台オリジナルストーリーですが、戦ステの魅力はやっぱり恋愛で、キュンキュンできるというのがおもしろいんじゃないかなと僕は思います。

橘:あれが観たい人は絶対多いですよね。

小笠原:うん。恋愛が絡んだ瞬間、武将たちの芝居が変わるのがおもしろい。例えば信長編だと謙信は敵なわけですよ。だけど、その軍神と言われる謙信が謙信編になったら、もう病んでしまって、「俺にはお前(ヒロイン)しかいない」となる。

橘:そうね(笑)。

小笠原:さっき龍丸が言ってくれたように、殺陣もそうだけど、お客様の目の前に武将たちの恋する姿が広がっているのが戦ステ一番の魅力だと思います。

――短い時間でしたが、お二人の戦ステへの愛が伝わってきました。戦ステが有終の美を飾る瞬間を楽しみにしています!

小笠原:龍丸と今こうして話していて、改めてこの7年間、本当に色々なことがあって、懐かしく思っています。お世辞でもなんでもなく、本当に家族のような仲間たちです。残念ながら出られない、今まで一緒にやってきた仲間たちの想いも背負って、お客様に作品をお届けしたいです。今回、最後にして初めて龍丸が一部シーンの殺陣をつけてくれるということも、すごく楽しみです。カーテンコールでは、感謝を込めて歌とダンスも披露して、盛りだくさんでお届けしますので、ぜひ劇場にできれば両ルートを観にきていただけたらと! ルートによって歌も変わりますので、楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。

橘:ファイナルなので、僕だけじゃなくて他のキャストの皆さんも色々な想いがあると思うんですが、泣いても笑っても今回が最後です。ちゃんと出し切って、美しく花が散ったと思ってもらえるように作り上げたいです。今回、殺陣をつけることになったので、改めて初心に帰ってギリギリを攻めるところまで持っていきたい。そして、泥臭い人間ドラマをご提供するので、ぜひ劇場に足を運んでもらえたら嬉しいです。

取材・文=双海しお