若い世代が教えてくれることはたくさんあります(写真:EKAKI/PIXTA)

「何時間も考えたのに企画が通らない」「世の中をワッと驚かせるようなアイデアが生まれない」「本当はもっと大きな仕事がしたい」――仕事に打ち込む方なら、必ずこうした壁にぶつかると思います。

今でこそ時々「無双状態だね」と冷やかされる私も、かつては不遇が続き、そこから抜け出すためにいつも悩み、たくさんの汗をかいてきました。だからこそ、うまくいかずに悩んでいるビジネスパーソンの気持ちが痛いほどわかります。

そこで、日々の仕事がうまくいくための仕事の考え方・向き合い方のヒントを、『無双の仕事術』という本に詰め込みました(この記事は本書より一部抜粋、再構成してお届けします)。

年下は最高の先生である

私は長くエステーのCM制作を行ってきましたが、そのタイミングでTwitter(現X)を使うようになりました。しかし、現在では60代の私にとって、SNSを使ってどうやってお客様とコミュニケーションを取ればいいのか、わかりませんでした。

そこで考えたのは、すでにSNSを使いこなしている若い世代に教えてもらうことでした。

Z世代と呼ばれる、1990年代半ばから2010年代序盤生まれの人たちは、私にとっては超能力者のような存在です。生まれたときからインターネットやスマホがあって当たり前なんて、私が若い頃では考えられないことでした。

そんな私のような昭和生まれの人間でも、SNSを使い、何らかのブームを作ってこられたのは、彼ら、彼女らの教えに従ったからでした。

ここで、若い世代からの教えの一例を紹介します。

あるとき、私は20代の女性社員にSNSに投稿しようとしている動画を見せました。すると、彼女は即座に「動画をしっかり作り込みすぎていますね」と、コメントをくれました。

これまでクリエイターとして、じっくりと細部に気をつけながらCMを作ってきた身としては、最初は彼女のアドバイスの意図がわからず、戸惑うばかりでした。彼女はさらに、こう教えてくれました。

「世の中はもっと気軽なものを欲しがっているんです。かつてのように“インスタ映え”も、求められていません。今は“盛っちゃダメ”なんです」

彼女が言うには、世の中の人が興味を抱くのは「他の人が何をしているのか」ということ。例えば、朝起きたばかりの顔を見せるようなもののほうが、よほど関心を持ってもらえるというのです。

20代の部下に投稿を添削してもらう

あるとき、私は大寝坊してイベントに大幅に遅刻するという失敗をやらかしてしまいました。

焦りながら現場に向かう途中、ふと彼女の助言を思い出し、あわてふためく自分を撮影し、その様子をInstagramとX(旧Twitter)に投稿しました。その結果、1万人もの人たちがその動画を見てくれることになったのです。

「おじさんの遅刻」という、ある意味どうでもいい動画を、これほど多くの人たちが見てくれるという状況はなんとも不可解ですが、現実に起こったことでした。

その驚くべき経験をして以来、Xを投稿するときは、事前に20代の部下に添削してもらうようになりました。エステー時代は役員だった私が、一般職の社員に添削を受けるというのは、一昔前には考えられない光景だと思います。

「もっと言い回しを柔らかくして」「ちょっとまわりくどい」。このように、びしばし問題点を指摘され、「やば! 昭和! 爺さんくさ!」と、厳しく叱咤激励されます。

でも、この感覚に素直に従うことで、Xの拡散力は格段に上がります。確実に「いいね」を押される数が数倍に増えたのです。

Xの投稿案はあらかじめ、部下のスタッフに見てもらっています。


Xの投稿案はあらかじめ、部下の花子(20代)に見てもらっています。「ちょっとまわりくどくない?」などストレートなコメントをもらえる貴重な時間です(写真:『無双の仕事術』より)

私たちがこれまで学校で教わった文章力や、社会に出てから知ったビジネス文書の作成スキルはそれはそれで重要な財産です。

他方、SNSではSNSの文脈に沿った言葉使いが大切です。日頃からSNSに親しみ、使い慣れている人たちに聞くのが近道なのです。

SNSの発信で押さえたいポイント

テレビや新聞、雑誌、ラジオといったマスメディアを使わないと、広く世の中に情報を提供できなかった時代には、広告費用はそれなりに必要でした。

情報を人に届けることを「リーチ」という言葉で説明することがあります。「何人にリーチして、それはいくらかかるのか」という会話がマーケティングの世界ではなされています。

「広告費にかける予算がないから、無料のSNSで拡散して知ってもらおう」。そんな声もよく耳にします。

確かに、SNSは無料でたくさんの人にリーチすることができます。多くの人に蛇口から水を出して届けるイメージです。

しかし、SNSは個人個人が自主的に集まった場所です。集まった人はそれぞれ違う個性を持っています。そこに向かって情報を伝えるにあたって、私たちは「仲間の1人」として、その場にお邪魔させていただくという姿勢が必要不可欠です。

上から勢いよく水を流すのではなく、横から水をそっと差し出す。すると、仲間が思い思いに楽しんでくれる。それが世の中に広がり、どこかで大きなエネルギーになったとき、ムーブメントと呼べるものになっていきます。


上から流れる蛇口(上図)と、横から流れる蛇口(下図)(写真:『無双の仕事術』より)

このとき、ただ単に情報を渡す対象者、例えば「フォロワーを増やす」といった風に躍起になったとしても、うまくいかないことがほとんどです。何の絆も存在しないフォロワーさんを大量に集めても、ブームは起きないのです。

むしろ、人数は少なくても構わないので、あなたがやっていることに共感・共鳴し、仲間意識を持ってくれる人を大切にしてください。SNSだからこそ、お客様と絆を作り、そして彼らと一緒にブームを作るのです。

皆さんの仕事には、さまざまな関係者の方たちがいると思います。活動に興味を持ってくださるお客様や地域の方々、広い意味での「関係者」の方たちと絶えず交流しながら絆を作っていきましょう。

その輪が広がり、ますます絆を分かち合える人が増えていく。そういうフォロワーさんが増えていけば、世の中に何かを伝えたいときに、彼らが一緒になって伝えてくれます。

フォロワーさんは「仲間」だという意識をどうか忘れないでください。

スープストックトーキョーの炎上

このように、実直に自分の想いを伝えることは大きな力になります。その好事例の1つが、Soup Stock Tokyo(以下、スープストック)による情報発信です。

2023年4月、スープストックは離乳食の無料提供を発表しました。SNSでは歓迎する声が上がった一方で、「なぜ子ども連ればかり優遇するのか」「店がうるさくなる」「二度と行かない」といった批判の声も殺到します。

こうした批判をさらに批判する書き込みも相次ぎ、“大炎上”とでも呼ぶべき大騒動に発展してしまいます。

「離乳食の無料提供」のリリースから1週間後、スープストックは会社としての声明を発表します。そこにはスープストックが「世の中の体温をあげる」という企業理念のもと、これまでどのような取り組みを行ってきたかが述べられていました。

また、創業当初は「1人で来店する女性」だったお客様像を「離乳食を求める子ども連れ」にまで広げるのか、そこにある思いをしっかりと伝えました。

こうした炎上騒動に対する企業の対応として、ありがちな「お騒がせして申し訳ありません」といったお詫びが一切なかったことも話題になりました。スープストックの毅然とした態度に、世の中の人は拍手喝采です。

「共感」を大事にする


X(旧Twitter)には通常の約200倍もの投稿があふれ、さまざまな人がスープストックの声を広げていきました。

スープストックはお客様を「顧客」「ターゲット」扱いせず、「共感のネットワーク」を大切にしているのが伺えました。

まさにマーケターの鑑ともいうべきアクションです。

「突拍子もない行動をとれば、拡散され、ブームが生まれる」というのは大きな誤解です。

この事例のように、自分たちの信念をしっかり届ける。それこそが、本質のあるムーブメント作りだと思います。

誰に何で喜んでいただくか、それを明確にブレずにやり続けることが大切なのです。

(鹿毛 康司 : 株式会社かげこうじ事務所代表/マーケター/クリエイティブディレクター)