食中毒とみられる症状が出たときに市販薬を飲んでもOK?

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 気温が高い夏は、食べ物が傷みやすく食中毒を引き起こしやすいといわれています。特に刺し身や生野菜などの生ものを食べるときは注意が必要です。

 食後に下痢や嘔吐(おうと)など、食中毒とみられる症状が出た場合、市販薬を服用しても問題はないのでしょうか。食中毒の原因や対処法などについて、「まきこ胃と大腸の消化器・内視鏡クリニック」(京都市伏見区)院長で、消化器病専門医の船越真木子さんに聞きました。

まずは水分補給を

Q.例年、気温や湿度が高くなる6月から9月は、主にどのような食中毒が流行するのでしょうか。食中毒の原因となる細菌や主な食品について、教えてください。

船越さん「6月から9月にかけて気温や湿度が上がると、食品の保存環境が悪化し、細菌やウイルスの繁殖が促進されるといわれています。そのため、サルモネラ属菌やカンピロバクター、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌(O157など)などの細菌による食中毒の発生リスクが高まります。食中毒が発生する経緯については、次の通りです」

(1)サルモネラ属菌
サルモネラ属菌は鶏や豚、牛といった動物の腸管のほか、河川や下水道などに生息している細菌で、主に食肉や卵などから感染します。感染すると急性胃腸炎を引き起こすほか、発熱や腹痛、下痢、嘔吐などの症状が現れるといわれています。生卵や加熱不足の鶏肉、生乳製品、生野菜、果物などを食べたことが原因で食中毒を引き起こすと考えられています。

(2)カンピロバクター
カンピロバクターは鶏肉に多く存在する細菌で、体内に侵入してから2〜5日後に発症するといわれています。下痢や腹痛、発熱、嘔吐などのほか、まれに「ギラン・バレー症候群」という神経系の重篤な合併症を引き起こすことがあります。生の鶏肉または加熱不足の鶏肉のほか、未消毒の飲料水、生乳製品が原因で食中毒を引き起こすといわれています。

(3)腸炎ビブリオ
腸炎ビブリオは海水中に生息する細菌で、特に夏季に魚介類を介して感染するといわれています。感染すると水様性の下痢、腹痛、嘔吐、発熱などの症状が現れます。特に刺し身やすしなど、魚介類を生のまま食べたことが原因で発症します。

(4)腸管出血性大腸菌(O157など)
腸管出血性大腸菌は強い毒性を持つ菌株で、感染すると激しい腹痛や下痢(しばしば血便)、発熱、嘔吐などの症状を引き起こします。重症化すると「溶血性尿毒症症候群(HUS)」を引き起こすこともあります。主に加熱不足の牛肉、特にひき肉を使用した料理などが原因で生じます。牛肉は中心部まで十分に加熱することが重要です。

(5)ノロウイルス
ノロウイルスは冬に流行することが多いですが、夏にも発生することがあります。感染力が非常に強く、少量のウイルスでも感染し、症状として嘔吐や下痢、腹痛、発熱などが現れます。汚染された水や二枚貝(特にカキ)、生野菜、果物などが原因で発症すると考えられています。

Q.夏になると、実際に食中毒の症状を訴えて受診する人は増える傾向にあるのでしょうか。

船越さん「その傾向はあります。気温や湿度が高くなると、細菌やウイルスの繁殖が促進されるため、食品が汚染されやすくなります。特に、屋外でのバーベキューやピクニック、家庭内での調理において、適切な食品管理が行われない場合、食中毒のリスクが高まります。また、夏季休暇で旅行や外食が増えることも、食中毒の発生頻度を高める要因といわれています」

Q.食後、どのような症状が出た場合、食中毒の可能性があるのでしょうか。

船越さん「食後に次のような症状が出た場合、食中毒の可能性があります」

■下痢
水様性の下痢が数回から数十回にわたって続く。

■嘔吐
突然、強い嘔吐が生じた後、それが頻繁に起きる。

■腹痛
激しい腹痛が生じる。

■発熱
38度以上の発熱が続く。

■倦怠(けんたい)感
極度の倦怠感や脱力感がある。

■血便
便に血が混じる。

これらの症状が食後数時間から数日以内に現れた場合は、食中毒の可能性が高いと考えられます。

食中毒のときに市販薬を服用してもOK?

Q.夏に食中毒とみられる症状が出た場合、どのように対処すべきなのでしょうか。やるべき行為、やってはいけない行為について、それぞれ教えてください。

船越さん「夏に食中毒とみられる症状が出た場合にやるべき行為は『水分補給』『医師の診療を受ける』です。

下痢や嘔吐によって体内の水分が失われるため、十分な水分補給が重要です。スポーツドリンクや経口補水液などの電解質を含む飲料を摂取するのをお勧めします。自力で水分補給が難しい場合は、氷をなめるなどの方法も有効です。

また、症状が重い場合や症状が長期間続く場合は、速やかに医師の診察を受けることが重要です。ご自身で判断することなく、医師による適切な診断と治療が必要です。

一方、食中毒とみられる症状が出た場合にやってはいけない行為は『自己判断による薬の服用』『高脂肪、高糖分の食べ物の摂取』『アルコールやカフェインの摂取』となります。

食中毒になった場合でも、自己判断で市販薬を服用することは避けてください。特に下痢止めを服用した場合、体内の毒素が排出されず、症状が悪化する可能性があります。薬の服用は医師の指示に従うことが大切です。

肉や菓子など、脂肪分や糖分が多い食べ物はおなかに負担をかけます。こうした食べ物を食べるのは避け、おかゆやスープなどの胃に優しく、消化が良い料理を食べるようにしましょう。その際、量を少なめにすることも重要です。

このほか、食中毒の際は脱水症状を引き起こす可能性があります。食中毒とみられる症状が出たときにお酒やコーヒーなど、アルコールやカフェインを含む飲み物を摂取すると脱水を助長し、症状が悪化する恐れがあります。アルコールやカフェインの摂取を避けてください」

Q.夏に食中毒を防ぐには、どのような対策が求められるのでしょうか。

船越さん「夏季に食中毒を防ぐためには、食品の取り扱いから保存、調理、消費に至るまでの適切な衛生管理が必要となります。次のように対処してください」

■食品の適切な保存
(1)冷蔵・冷凍保存
生肉や魚介類、乳製品などの要冷蔵食品は、購入後すぐに冷蔵保存または冷凍保存することが重要です。調理済みの食品についても、常温で2時間以上保存することは避けてください。

(2)保存期限の管理
食品の保存期限を守り、消費期限を過ぎたものは廃棄するようにしましょう。特に生鮮食品は早めに消費することが望ましいです。

■食材の取り扱いと調理
(1)手洗いの徹底
調理前や食事前、トイレ後、動物を触った後などは必ずせっけんを使って手を洗いましょう。

(2)使用した調理器具の洗浄、消毒
生肉や魚介類の調理に使ったまな板や包丁を洗剤でよく洗った後、熱湯で消毒することが重要です。また、生野菜用、生肉用といった形で食品ごとに調理器具を使い分けることをお勧めします。

(3)食品の加熱
生肉や魚介類は、中心部までしっかりと加熱することで、病原体を殺菌することができます。

(4)食品をできるだけ生の状態で食べない
生卵や生魚を摂取するのはできるだけ避けるようにしましょう。生の状態で食べる場合でも、新鮮で安全な食材を選び、適切に取り扱うことが重要です。

■食品の消費
(1)再加熱の徹底
残った料理を再加熱する際は、全体が均一に熱くなるまで十分に加熱しましょう。特に電子レンジを使用する場合は、途中でかき混ぜるなどしてムラなく加熱することが重要です。

(2)信頼できる飲食店を選ぶ
外食時は信頼できる店を選び、食材の鮮度や衛生状態に注意を払いましょう。また、できるだけ生ものの摂取を避け、十分に加熱された料理を選ぶことも重要です。