シニア層の実態とは…

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 シニア層の中には高度経済成長期の恩恵を受けた人も多いといわれています。また、社会保険料は今よりも安く、銀行預金の利まわりが高かったことからも、若い世代の中からシニア層をうらやむ声が少なからずあるように思います。

 金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)」によると、金融資産を保有していない世帯を含む60代の2人以上世帯の貯蓄額の平均は2026万円(中央値:700万円)という結果でした。また、同調査における70代については1757万円(中央値:700万)となっています。

 しかし、平均貯蓄額は一部の富裕層が金額を大きく引き上げていることもあり、実態にはほど遠く、現状は各世帯によって差があると考えられます。そこで、現役世代とシニア世代の平均年収と平均貯蓄額、年金生活者の実情などを見ていきましょう。

“働き盛り”30〜40代の年収&貯蓄額の平均は…

 30〜40代といえば社会人としての経験がそこそこ長い人も多く、役職手当が付いている人や、新卒時と比べて昇給した人も多くいる年代です。

 また、近年は結婚という道を選ばない人が増えているものの、30代前後で家庭をもつ人の方が多いのが現状です。住宅ローンや子どもの教育費、自身の奨学金返済など支出項目は多く、生活にゆとりがない人も多いのではないでしょうか。

 国税庁「令和4年分民間給与実態統計調査 −調査結果報告−」を参照しながら、30〜40代の平均年収と平均貯蓄額を確認してみます。なお、同調査によると、令和4年における日本人の平均年収は458万円(男性:563万円、女性 314万円)です。

 年代別の平均給与では、男女でそれぞれ異なります。男性の30〜34歳は485万円、35〜39歳が549万円、女性の30〜34歳が338万円、35〜39歳が333万円です。また、40代ですが、男性の40〜44歳が602万円、45〜49歳が643万円、女性の40〜44歳が335万円、45〜49歳が346万円となっています。

 役職に就いていたりとキャリア形成が順調な人は日本の平均年収以上の収入を得られることも珍しくないと思います。

 ただし、女性については、結婚や出産など、ライフステージによりキャリアを中断した人や勤務時間を抑えている人も多いため平均年収はやや低めになっています。近年は未婚の女性も増えていますが、2020年における35歳〜44歳女性の未婚率は2割台、45歳以上については1割台となっています。

 金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)」によると、金融資産を保有していない人を含めた30代の貯蓄額は平均601万円(中央値:150万円)、40代については平均889万円(中央値:220万円)となっています。

「老後2000万円問題」は大丈夫? 65歳以上(二人以上の世帯) の貯蓄額

 若い世代の中には、経済的に活気があった日本を知るシニア層に対して、“家計にゆとりがある”と先入観を抱く人もいるかもしれません。

 しかし、高齢者の医療費の負担額の引き上げが始まるなど、高齢者の負担も増えています。総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2023年(令和5年)平均結果-(二人以上の世帯)」を参照すると、65歳以上(二人以上の世帯) の厳しい経済事情が見えてきます。

 世帯主が65歳以上の世帯の貯蓄額の平均値は2462万円、中央値は604万円です。この数字のみに着目すると、高齢者の貯蓄額は比較的多く、経済的に問題ない人が多いようにも思えます。

 しかし、分布を参照すると、100万円未満の世帯がもっとも多く、7.9%におよびます。なお、貯蓄が300万円未満の世帯は15.2%です。

 一方、貯蓄が2000万円以上の世帯は41.2%、4000万円以上の貯蓄がある世帯は18.8%となっています。

 上記の結果から分かるのは、老後資金が十分にある世帯は比較的多いものの、貯蓄がわずかしかなく、経済的に厳しい状況にあると思われる世帯も少なくないということになります。

 景気がよい時代に現役世代だったからといって、すべての人がその恩恵を享受できるわけではありません。シニア層は経済的に余裕があるとひとまとめにして先入観を抱くのではなく、個々の状況を把握し、一人一人の声に耳を傾けてこの問題と向き合うことが大切だと思います。

年金だけでは生活費が足りない 貯金を切り崩しながら暮らしているシニア層は多数

 筆者は、スーパーでチラシとにらめっこしながら歩いている高齢者を見かけたことがあります。私自身も最近の価格高騰に頭を抱えていますが、チラシを片手に歩く高齢者の姿は見るに忍びないものを感じてしまいました。

 令和4年における国民年金の老齢年金受給者の平均年金月額は約5万6000円、厚生年金は約14万4000円です。年金を受給できるのかさえも不透明な昨今、若年層や現役世代は“高齢者は多く年金をもらっている”というイメージを抱いているかもしれません。しかし、年金額をみると、大半の高齢者はゆとりがある暮らしを営めるほど年金を受給できているわけではないと考えられます。

 総務省統計局の「家計調査報告 家計収支編 2023年(令和5年)平均結果の概要」を基に、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収支を見てみました。

 65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収入は24万4580円(可処分所得:約21万円)であるのに対し、支出合計は28万2497円となっています。

 消費の内訳を見てみると、「食費」が約3割、「光熱・水道」が1割近くを占めており、「教育 教養娯楽」も1割程度です。このグラフを見ても、シニア層の生活についてゆとりがあるようには見えないと思います。多くの高齢夫婦が年金で生活の基盤を築き、家電の買い替え費用や自宅の修理費用など必要があれば貯蓄を崩しながら生活していると思います。

 高齢になると思うように体が動かないことも多く、安いからと遠方のスーパーに行ったり、複数のスーパーをはしごしてお得な商品を買い集めたりすることも難しくなってきます。また、病院に行く頻度が増える人は少なくありません。そうなると、節約は得意だと自負する人も思った以上に生活費がかかることもあります。

ネットでは「世代間バトル」が激しいが...若者が“損”ばかりしているわけではない

 日本がバブルを再びむかえるとは考えにくいでしょう。若い世代の中には羽振りのよさを知らない人も多く、20代、30代でも老後の資金について考え、将来を見据え、貯蓄をしたり、投資をしたりと工夫している人もいると思います。

 しかし、説明したようにシニア層のすべてが好景気の恩恵を受けているわけではありません。

 また、すでにリタイアした人の中には「企業戦士」と称されるほど仕事に注力し、パワハラや長時間労働に耐えてきた人が多くいます。さらに、当時は、リモートワークやフレックスタイム制はほとんどなく、ハラスメント被害者もないがしろにされていました。

 どの世代が“得”をしているのかと考えをめぐらせても、答えはなかなか導き出せないのではないでしょうか。