逃げて、逃げて、その先にあったお歌と地元の大地の力 ReoNa5周年ツアーは「ハロー、アンハッピー」の言葉と共に
2024.07.15『ReoNa 5th Anniversary Concert Tour “ハロー、アンハッピー”』@鹿児島CAPARVO HALL
『ReoNa 5th Anniversary Concert Tour“ハロー、アンハッピー”』、自身最長となる国内9都市11公演の締めくくりは、ReoNaの出身である奄美大島を有する鹿児島公演だ。
ツアー初日となる5月18日、戸田市文化会館の公演を見させてもらったが、関東での公演はこの戸田のみ。今回はこの一回を見て終わりだな、と思っていたが、SNSなどでどんどんと熱量を帯びていく5周年ツアーの国内での最後の公演はどうなるのか、それを見届けたい気持ちが強くなっていた。
そんな折、是非国内ファイナル鹿児島をレポートしないか? とTEAM ReoNaから熱いオファーを頂いた。会場となる鹿児島CAPARVO HALLは超満員なので、PA席の横から立ち見になるかもしれないが…そう言われては居ても立っても居られない。その場で航空券を予約し、一路鹿児島へ。
ReoNaのライブと言えば雨が降ることが多く、ReoNa自身もそのことを語っているが、この日は線状降水帯が鹿児島上空にあるため飛行機が着陸しないかもしれないという程の大雨。なにも国内ラストだからといってそこまで気合を入れなくても……そう思いながらのフライトだったが、無事に到着。開場前にはツアーTシャツを着込んでライブを待つ沢山のファンが殺到していた。
鹿児島CAPARVO HALLはとても心地良い空間だった。フロア後方にバーカウンターがある、いわゆるライブハウス。首都圏ではホールライブを行うことが多くなってきたReoNaだが、彼女もライブハウス出身、この空気がよく似合う。定刻通りにファイナルは始まろうとしていた。
BGMはニルヴァーナの「MTV Unplugged In New York」が流れ、LIVEが始まる直前にビートルズの「I've Got a Feeling」が流れる中バンドメンバーが入場。「僕はなにかを感じたんだ」最終の地でここまで歩き続けたツアーで感じたものがどう炸裂するのか、期待が高まる
一曲目は始まりの曲「SWEET HURT」、厚みが増したボーカルも聴きどころだが、まず圧倒的に近い。この距離でReoNaを見る機会は今やなかなか無い。ブレスの呼吸音も、ライダースの隙間から溢れる熱気も全て感じられるような空間。「forget-me-not」「Untitled world」とこれまでの足跡と歴史を紡ぐようにライブは続いていく。
デビュー5周年を記念したこのツアー。鹿児島へと向かう機上で予習するように初期楽曲を改めて聴いてみたが、音源と聴き比べるとシンガーとしての成長を如実に感じることが出来るのが、同じアーティストを追いかけている楽しみの一つだと気づいた。如実に感じられるくらいReoNaの“お歌”は説得力を増している。
「Untitled world」の次はなんだろう…?そう思っていると流れてきたのは「R.I.P」。『アークナイツ』繋がりということで、少しリリースの時系列をずらしてくるセットリストも憎い構成だ。ラフでジャジーなこの楽曲は妙にライブハウスの空間でかき鳴らされるのが似合う。観客も着席しながらサビ部分の手振りをReoNaと共に決めていくのがいい。ReoNa自身も無言の観客とのアイコンタクトをしながら楽曲の世界を表現していく。
「お歌の世界、最後まで一対一、楽しんでいってね!」
MCを挟み流れてくるのはチェンバロの響き。バンマスでもある荒幡亮平の鍵盤の音色はいつも情熱的で、かつ流動的だ。その日だけの音楽と間、この日だけの「ないない」が始まる。楽曲の持つ退廃的ロマンチシズムの空気が会場を飲み込んでいく、そしてその空気をそのままに、MCで告げられる
「ああ、気が付かなかった、今夜はこんなにも、月が、綺麗、だ」
の言葉は「生命線」へのいざない。夕暮れの鹿児島に響き渡る命の線の旋律は「Believer」へとつながる。ここ1年ほどで進化した楽曲は沢山あるが、「Believer」はその筆頭ではないだろうか? 音楽が観客の心を飲み込んでいくのが手に取るようにわかる。激しく愛を渇望するこの楽曲を歌いながら、ふとReoNaの口元に笑顔が浮かんでいるのが見て取れた。オンビートで躍動しながらも心から音楽を楽しんでいるかのようなそのパフォーマンス。やはり地元での初ソロライブというのは心躍る要因なのだろうか。
初日 戸田市文化会館公演
「物語の大切なシーンに寄り添わせていただいたお歌たち。時に優しく、時に切なく、時に温かく、時に苦しく……音色と共に届くその一瞬が、あなたの記憶にどうかそっと残り続けますように」
そう言って語るように歌われた「カナリア」、ReoNaの成長を一番感じられるかもしれない曲。山口隆志のギターの音色も美しく、儚げに曲を歌い上げるReoNa。アコギ一本で奏でられたこの切ない思いを繋ぐバトンを受け取るのは荒幡亮平だ、雨だれのようにピアノの音が“落ちてくる”。「虹の彼方へ」も数々のライブやイベントで歌われてきた一曲だが、この曲の底も未だ見えない。無音という“音”も物語を構築するのに必要なパーツ、会場すべての集中がReoNaの一挙手一投足に注がれていく。
「誰かにも私にもあなたにも平等に不平等に流れていく一日がある」
曲のプロローグとしてのReoNaのMCは秀逸だ。初のデジタル配信楽曲「オムライス」は傘村トータの生み出した取り止めない絶望の物語。会場にはこの楽曲のイントロだけですすり泣く観客も居たくらいだが、この日の「オムライス」はMCが素晴らしかった、いや、素晴らしいというのは言葉が違うかもしれない、「凄かった」のだ。
あれ…私今までどうやって笑ってたんだっけ?
あれ…私今までどうやって泣いてたんだっけ?
あれ…私、今までどうやって…私をやってこれたんだっけ…?
あまりにも自然体で、呟くようにReoNaの口から出てきた言葉が、不意に心の柔らかい所に突き刺さった。前よりも力強くステージに立てるようになったReoNaは、同時にそのままの絶望を抱えた女性として、そのままの柔らかさでステージに存在できるようにもなってきている。当たり前の呟き、口から漏れた小さな絶望がそのままメロディとなって歌となる。歌は言葉の延長だと知らされる瞬間。
雨女(あえてまだ雨女、と呼ばせてもらおう)のReoNaが「きっと雨に振られたことのない人なんていなくて、涙したことのない人なんていなくて、でも、それでも土砂降りのあとに、こうしてあなたと過ごせる今日があります」と前向きな言葉と共に届けたのが「ライフ・イズ・ビューティフォー」。前向きで柔らかいサウンドが極上のポップスとして歌われる、跳ねるようなリズムに軽やかな歌いこなし。大雨の後に晴れ間を見せた鹿児島の空のように気持ちがいい。
そしてライブも後半、ReoNaは語る。
「一人に一つずつしか無いこの心とこの体で、私たち人間は時に誰かの言葉に傷ついて。誰かの言葉に救われて、人と出会い、人と別れ、それでも生きていく。どうしようもなく生きていく」
武道館を得て生み出された「HUMAN」は多分、これから先ReoNaが“お歌”を歌い続ける限り、ずっとそばにある楽曲だろう。この日の「HUMAN」は凄かった。故郷の土地の力なのだろうか、歌の説得力が凄まじかった。僕個人は亡くなった母を思い出し涙腺が潤んでしまったし、スタッフも涙ぐむくらいの音楽。生きていくことはどうしようもなくて、止めたくもなくて、ただ生きることの難しさと素晴らしさがそこには内包されていた。
今回のツアーでは「HUMAN」から「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」と連続で披露されてきたが、ReoNaが亡くなった祖父のことを思って作ったこの楽曲こそ、鹿児島の地で歌われるのに相応しい楽曲だろう。どうしょうもなく生きていくけど、それでもあいたいと思う気持ちは止められない。初日の戸田を見たときからこれしか無い、という構成だったと思ったが、ファイナルに至ってその予感は間違いなかったと確信に変わった。
初日にはあった力みが抜けている、そのままのReoNaがそこで歌っていた。この柔らかさ、軽さはツアーを得て手に入れたものなのか、それとも地元だからこそなのか、全部の公演を見たかったという思いに駆られたが、それは無理な話、いつでもライブは一期一会、だからこその我らとReoNaの「一対一」なのだから。
ライブも最終盤、「今感じるままに、思うままに、音楽を一緒に遊べたら…みんなで立ち上がって、ライブ楽しみましょう!」
着席推奨だった今回のツアー、最後はReoNaからのスタンディングの誘いが待っているというのは初日の驚きだったが、最終日のこの日も一斉に客席が立ち上がる。鳴り響くファンファーレ、「ハロー、SAO!」の宣言とともに始まるのは『ソードアート・オンライン』関連楽曲たちだ。
鹿児島CAPARVO HALL 国内最終公演
一曲目は「Weaker」。立ち上がった観客たちは手拍子で楽曲に参加していく、解き放たれたかのようにコール&レスポンスの大音量が響き渡る。続く楽曲は「VITA」。命の歌はなおも勢いを増して南の大地に轟く。荒幡亮平が鍵盤が割れんばかりに指を叩きつける。ベースの二村学とギターの山口隆志がステージ前方でそのテクニックを見せつける、佐治宣英のドラムが加速する中、縁の下の力持ちであるマニュピレーター、篠崎恭一は舞台袖から阿吽の呼吸で音を舞台に届けている。ツアーを回ってきたからこその躍動感。その中心にはずっとReoNaがいる。
「魂の色は、何色ですか?」
ReoNaを代表する曲である「ANIMA」が最後に響き渡ると、会場は爆発、叫ぶ観客の雄叫びがこの曲を待っていたという証だ。
「最後、さよならじゃ寂しすぎるから、いつかまた、逃げて、逃げて、逃げて会おうね!じゃあな!」
自身の決めセリフがそのまま曲名になっている「じゃあな」はここしか無い、とばかりにライブのラストで披露された。疾走感あるこの曲を歌いながら、このツアーでみた中で最も軽やかに、優しい表情でほほえみながら歌い上げるReoNa。
上手いとか下手とか、かっこいいとか可愛いとか、そんな次元で話すのが馬鹿らしくなるくらい、ReoNaはReoNaとしてそこに居た。全ての客席のファンの思いを受け止めて国内11公演を完走したReoNaは、台湾、香港、上海とアジアツアーへと向かう。まだ終わらない5周年ツアーは「ハロー、アンハッピー」の言葉とともに、世界にお歌を響かせていく。
※終演後にReoNaにミニインタビューを実施!
――お疲れ様でした。国内ツアーファイナルを迎えましたが、どうでしたか?
単純な感想としては、みんなが出来上がりの形をイメージ出来た状態でスタートできたと思っていて。だからこそ全公演積み重ねた結果、月並みな言葉かもしれませんが「育ったライブ」ができたんじゃないかなと。
――そして今日はファイナル、地元にワンマンライブとしては初凱旋でした。
初凱旋だっていうことを、私自身もですが、待ってくれてる人も意識してくれてるなっていうのは思いました。
――この勢いのままアジアツアーが始まりますね、ハードスケジュールですが。
はい、このままアジアに飛びます。ReoNaとして届けたいものは『ReoNa 5th Anniversary Concert Tour“ハロー、アンハッピー”』。日本で積み重ねてきたものの勢いをそのまま変わらずに、海外にも積み上げるつもりで持っていけたらいいなと思います。
――また、その先には10月19日『神崎エルザ starring ReoNa × ReoNa Special Live “AVATAR 2024”』、そして20日には『ReoNa ONE-MAN Concert "Birth 2024"』と控えています。
つい先日、東京ガーデンシアターで他の方のライブを見させていただく機会があったんです。改めて3ヶ月後に自分がここに立っているという意識で見させていただいたんですが、色々とイメージができました。客観的にステージを見れたからこそ、10月が今すごく身近に感じられています。当日に至るまでまだまだ内容は変化していくと思うんですけど、もう隅々まで準備しつくして迎える10月にしたいです。
――では、最後にファンの方にコメントを頂ければ!
今回は5th Anniversaryツアーとして、デビュー前から大事にしてきた「ハロー、アンハッピー」という言葉と共にたくさんの場所に回るツアーになりました。この言葉は、この先ReoNaの未来にもずっとあり続ける言葉だと思ってるので、今回見届けてくれた方も、来られなかった方にも、いつかどこかでまた別の形の「ハロー、アンハッピー」がお届けできる日が来るんじゃないかと思っていますので、その時また再会してもらえたら嬉しいです、ありがとうございました。
レポート・文:加東岳史