若者のテレビ離れが叫ばれて久しいが、先週放映された「27時間テレビ」は小中高生に大ウケだった。なぜなのか。次世代メディア研究所代表の鈴木祐司さんは「フジテレビがこれまで得意としたお笑い芸人によるトークやバカ騒ぎではなく、10代が“自分事”に思える、学校舞台・ダンス・ガチ対決がこれからのバラエティ番組の生命線になるのではないか」という――。
フジテレビ「FNS27時間テレビ 日本一たのしい学園祭!」オフィシャルサイトより

先週末の7月20日から放送されたフジテレビ「FNS27時間テレビ 日本一たのしい学園祭!」。「FNS27時間」は去年、コロナ禍で4年ぶりの開催となり一定の評価を得た。対して今年は、「日本一たのしい学園祭」のサブタイトルの通り、多くの小中高生に見られる番組へと大躍進した。

いったい何が変わったのかを分析すると面白いことがわかった。

■コア視聴率で裏番組を圧倒

同番組が放送された土曜18時30分から日曜22時までの裏局との関係が興味深い。

「個人視聴率」で比較すると、「27時間テレビ」を超えた番組は少なくない。土曜夜では、日テレ「満天☆青空レストラン」、NHK「ニュース7」、TBS「情報7daysニュースキャスター」、日曜ではTBS「サンデーモーニング」、日テレ「スクール革命!」、TBS「ブラックペアン シーズン2」などだ。

スイッチメディア「TVAL」データから作成

ところが「コア視聴率」だと、「27時間テレビ」が裏番組を圧倒した。

例外は日テレの「満天☆青空レストラン」と「スクール革命!」だけだが、19歳以下では「27時間テレビ」が大健闘した。つまりスポンサーが重視するコア視聴率で躍進し、特にテレビ離れが激しい19歳以下で「27時間テレビ」が裏番組を壊滅させたのである。

では、小中高生を魅了したのはどんな企画だったのか。

■小中高生を魅了した企画

27時間のコア視聴率を俯瞰してみよう。

裏局と比べフジが急伸させた時間帯が5か所ほどあった。

1つ目は土曜19時台の「超!学校かくれんぼ」。横浜高校を舞台にカギメンバーと目黒蓮(Snow Man)らが本気で隠れ、約2600人の生徒が総動員で探した。

スイッチメディア「TVAL」データから作成

2つ目は日曜朝の「FNS逃走中」。

舞台は山梨県の日本航空高等学校で、生徒たちも巻き込んだ2時間強で数字は急伸した。

3つ目は「100kmサバイバルマラソン」。

優勝したのはお笑いトリオ・モシモシのいけだったが、佐野文哉とのデッドヒートや、マラソン当日に離婚した金田朋子と森渉のゴールに胸を熱くした視聴者は少なくなかった。

4つ目は「サザエさん」。

総合司会を務める霜降り明星、チョコレートプラネット、ハナコの3組がゲスト声優としてアフレコに挑戦しており、前10週の放送より高いコア視聴率となった。

最後は「カギダンススタジアム」。

ハナコの岡部大が岩手県・花巻東高校と、同じくハナコの秋山寛貴が三重高校と組むなどしたが、チョコレートプラネットの松尾駿と埼玉県・武南高校のダンスには及ばなかった。

この時間帯のフジの急伸は、裏局に大打撃となった。

日曜夜と言えば、日テレの「ザ!鉄腕!DASH‼」「世界の果てまでイッテQ!」の並びが盤石だが、両番組でさえ前10週平均と比較すると視聴率を大きく失ってしまった。

特に「イッテQ!」は個人全体とコアで1.9%を失い、さらに19歳以下では2.7%も下落させてしまった。同企画の破壊力がいかに大きかったかがわかる。

■前年比で見えるもの

昨年の「27時間テレビ」は久々に復活した特番だった。

2017〜19年は生でなく収録放送だった。そして2020年以降はコロナ禍で放送自体が見送られた。つまり昨年放送分は7年ぶりの27時間生放送だったのである。

興味深いことに、評価は真っ二つに分かれた。

全パートが個人全体・コア層・世帯視聴率で同時間帯横並びトップとなり「大復活」とする声。一方で番組の平均視聴率は前回(2019年)こそ上回ったが、その前年より下で「低迷」と見る向きもあった。

では、その前回と比べ、今回はどうだったのか。

スイッチメディア「TVAL」データから作成

まず年齢別に検証しよう。

赤とピンクのグラフは、初日の放送開始から25時までの平均視聴率だ。個人全体は大差ないが、1〜3層(男女20〜64歳)で前年より落ちている。

また紺と青は2日目の18時から番組終了までだが、F1(女性20〜34歳)と男女19歳以下を除き、全層で下落した。結果として個人全体でも0.5%ほど後退した。

ところが両時間帯とも、男女19歳以下では1%前後上昇した。

「超!学校かくれんぼ」や「カギダンススタジアム」など学校を舞台にした企画のおかげで、明らかに若年層の視聴率が上がった。特に芸人が短期間に本格的なダンスに挑んだ「カギダンススタジアム」では、男女中高生の視聴率が急伸していた。

やはり同世代が出演すること、そしてダンスの真剣勝負は若者に鉄板だったようだ。

■属性別から見えるもの

属性別の視聴率比較も興味深い。

バラエティの今後の可能性が浮かび上がるからだ。

スイッチメディア「TVAL」データから作成

去年と今年の個人全体は、両時間帯とも大きな差はない。

「タレント・芸能人好き」や「お笑い・バラエティ好き」層では、去年に軍配が上がった。ところが「ダンスに興味あり」層では、「カギダンススタジアム」が去年の同時間帯を大きく上回った。1.5倍の大差となったのである。

今年は学校を舞台にした企画が多かった。

その結果、「中高生の親」も視聴率が上がった。子供と一緒に見る30〜50代がたくさんいたということだ。

1980年代にF1に強いフジに対抗するため、当時の日テレは小中高生とその親の随伴視聴を促すような番組で、コア視聴率の改善を図った。その結果スポンサーの出稿が増え、広告収入でフジを上回るようにもなった。

今回の「27時間テレビ」は、まさにその日テレのお株を奪う反転攻勢だったのである。

■バラエティの可能性

1980〜90年代で枠が激増し、バラエティは全盛期を迎えた。

その後「暇つぶし」「慰安」目的の娯楽番組はインターネットに押され、視聴率を大きく落としていった。ところがテレビ離れと言われた若者を今回の「27時間テレビ」は大きく取り戻した。

昨年は「千鳥の鬼レンチャン」をベースに、芸人同士の内輪ウケ的なから騒ぎが目立った。それでも久々のフジらしいバラエティは、リベンジコロナの意味もあり数字は良好だった。

それが今年は、様相を大きく変えてきた。

小中高生に“自分事”として見られる企画を並べた。しかも芸人のアドリブに頼るのではなく、真剣勝負・ガチな戦いを前面に押し出した。

仕掛けもテレビ局でないとできない大がかりなものが並んだ。

個人の突出芸で勝負する動画の多いYouTubeと異なる点だ。つまり“自分事”“ガチ対決”“大がかりな舞台”と三拍子そろうと、リアルタイムで見てくれる視聴者が増える。

その三拍子は熱量・笑い・感動と翻訳することも可能だ。

今回の「27時間テレビ」は、フジのポテンシャルとテレビバラエティの可能性を示した“新しいカギ”となる番組だったと言えよう。

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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。
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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)