「大腸がん」を発症すると「お腹にどんな張り」を感じる?医師が徹底解説!
大腸がんを発症するとお腹にどんな張りを感じる?Medical DOC監修医がお腹のどこに痛みを感じるか・術後の症状・初期症状・原因・検査法や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください
≫「大腸がんの原因」となる可能性の高い食べ物はご存知ですか?医師が解説!監修医師:
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)
佐賀大学医学部卒業。南海医療センター消化器内科部長、大分市医師会立アルメイダ病院内視鏡センター長兼消化器内科部長などを歴任後の2023年、大分県大分市に「わだ内科・胃と腸クリニック」開業。地域医療に従事しながら、医療関連の記事の執筆や監修などを行なっている。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本医師会認定産業医の資格を有する。
「大腸がん」とは?
大腸がんとは、大腸の内側にある粘膜から発生した腫瘍です。腺腫という良性の腫瘍が悪性化したものと、正常粘膜から直接がんが発生する場合の2通りあります。腺腫から発生したものが多いです。大腸がんは、現在罹患数で第一位の非常に多いがんであり、近年増加傾向にあります。
大腸がんを発症するとお腹にどんな張りを感じる?
大腸がんは、症状が現れにくいがんです。大腸がんの症状としては、「血便、便に血が混ざる」「便が細い」「下痢便秘などの便通異常」「腹痛・おなかの張り」などが起こりやすいと言われています。ここではこの中でも「おなかの張り」について詳しく解説をします。
便通異常に伴うお腹の張り
大腸がんが大きくなると、内部に張り出すようになり腸管の内腔が細くなります。これに伴い、便が細い、便秘などの症状が出やすいです。大腸がんが大きくなることにより、この部位で便が詰まりやすくなり、腹痛やおなかの張りを感じる様になることもあります。
大腸の右側(盲腸、上行結腸、横行結腸)では、まだ便が柔らかく形になっていないことが多いため、つまりにくいです。一方、左側(下行結腸、S状結腸、直腸)では硬い便が通るため便が詰まりやすく、腹痛、おなかの張りなどの症状が出やすいと言われています。
腹膜播種・腹水に伴うお腹の張り
大腸がんが進行し、腸管から外へ突出し腸管を覆っている腹膜に散らばった状態を腹膜播種といいます。腹膜播種が進行すると、腹痛やおなかの張りなどが起こるようになります。また、腹水が溜まることでおなかが膨満し、腸管の運動が低下することで吐き気などを伴うこともあります。
お腹全体が張ったり、おなかが出てきたりした時には腹水の貯留や腹膜播種も疑い、主治医に相談をしましょう。
大腸がんを発症するとお腹のどこに張りを感じる?
お腹の右側に張りを感じる場合
右側に大腸がんがある場合には、大きくなるまで症状が出ない事が多いです。これは、右側の盲腸、上行結腸、横行結腸では便が柔らかく形になっていないことが多く、通過障害が起こりにくいためです。このため、大腸がんが大きくなりしこりとして触れたり、貧血が進行したりすることで見つかることも多いです。次第に大きくなり通過障害が出ると、腹痛やおなかの張りを感じることもあります。
お腹の左側に張りを感じる場合
左側に大腸がんがある場合には、便通異常が起こりやすいです。血便や便秘・下痢、便が細くなるなどの症状で気づかれることもあります。便が詰まり便秘となると、腹痛やおなかの張りを感じる様になります。
お腹全体に張りを感じる場合
大腸がんの腹膜播種がみられ、腹水が溜まる場合には、おなか全体が張りやすいです。腸管の運動が悪くなり、腹痛、吐き気や嘔吐の症状が伴うこともあります。しかし、腹膜播種でも症状がないこともあり、症状のみから診断はできません。おなかの張りを感じた場合には、消化器内科を受診して相談しましょう。
大腸がん手術後の症状
手術は最大限の注意をはらって治療をしても、ある一定の割合で術後の合併症が生じることがあります。術前の状態や術式、患者さんの状態によりリスクは異なります。手術を受ける際に、心配な場合にはまず主治医に確認をしましょう。ここでは、一般的に起こりうる術後の合併症について解説します。
出血
手術により出血することもあり、出血量が多い場合には輸血を行うこともあります。また、術後に出血をきたす場合、再手術で出血を止めることもあり得ます。
縫合不全
腸管のつなぎ目から便が腹腔内に漏れることを縫合不全といいます。周囲に感染や炎症が拡大し、腹膜炎が起こり、発熱や腹痛などの症状が出ます。炎症が軽度の場合には、食事を一旦やめて点滴治療で治療を行い、腹膜炎の症状がある場合には再手術で腹腔内を洗浄し、吻合部より上流の腸管に一時的な人口肛門を作成することもあります。
吻合部狭窄・腸閉塞
これらの症状は、術後少し時間が経過してから起こることもあります。手術後に吻合部が狭くなることが原因です。症状は便通異常や腹痛などです。この場合には内視鏡での治療や再手術を行うことで吻合部を広げる処置を行います。
手術後に腸の動きが悪くなったり、腸管に狭窄が生じたりして腸が詰まった状態が、腸閉塞です。この時には、おなかの張りや嘔吐、嘔気などを伴います。腸閉塞が起こった場合には、治療は食事を中止して点滴治療で腸管を休ませることです。また、鼻からのチューブでたまった胃液や腸液を排出すると症状が改善します。しかし、保存的な治療で症状が治まらない場合には手術を行うこともあります。
大腸がんを発症し張りを感じる場合のステージ分類とは?
お腹の張りのみでステージを分類することはできません。まず、おなかの張りの原因について調べる必要があります。
腫瘍が大きくなることで腸管が狭窄し便が詰まりかけ、腹痛やおなかの張りが起こることもあります。この場合には、ある程度腫瘍が大きくなっている可能性は高いです。しかし、大きさのみではステージは分類できません。大腸がんの深達度や周囲へのがんの広がり方がどの程度か詳しく検査をし、ステージを分類します。
腹水が貯留することでおなかの張りを感じる場合、腹膜播種が原因であればステージはⅣと分類されます。ステージⅣではがんが広汎に広がっているため、手術では取り切れないことが多く、化学療法や放射線を併用して治療を行うことが多いです。ここでは、ステージⅣについての詳しい解説を行います。
ステージIV
ステージⅣは肝転移や肺転移などの血行性転移がある、もしくは腹膜播種がある状態です。この場合には、便秘や腹痛などの局所の症状以外に転移した部位に伴う症状がみられます。
肺転移であれば、咳や血痰、脳転移であれば手足のしびれやふらつき、骨転移であれば転移した部位の痛みなどです。腹膜播種の場合には、腹水が溜まることで腹部の張る感じや痛み、腸管運動が低下するために嘔気が起こることもあります。
ステージⅣの治療としては、転移巣と原発巣がともに外科的切除可能であれば手術が第一選択です。転移巣もしくは原発巣が手術でとり切れない場合には、手術に薬物療法や放射線療法を組み合わせます。この治療の方針は、病巣、転移巣の状態や全身状態により異なります。まず主治医に確認をしましょう。
大腸がんの前兆となる初期症状
大腸がんは症状が出ないことが多いです。しかし、このような症状が出た場合には大腸がんの可能性を考え、消化器内科を受診しましょう。
便通異常
大腸がんが大きくなり腸管内に突出すると、便の通り道が狭くなってしまいます。そのため、便が詰まりかけると便秘や下痢を繰り返すことがあります。また、便が細くなることも自覚症状の一つです。このような便通異常は他の病気でも起こり得ます。自己判断をせずに、便通異常が持続する場合には、消化器内科を受診して相談をしてみましょう。
血便・血の混ざった便
大腸がんがあると、便が通過した際にこすれて出血することがあります。このため、便の中に血が混ざることがあります。見た目ではわからなくとも、少量ずつ出血している場合には便潜血検査で陽性となります。便潜血検査で一回でも陽性となった場合には、一度大腸カメラでの検査を受けましょう。
貧血
大腸がんは、便が通過することでこすれて表面から出血することがあります。この出血は、見た目にはわからなくとも長期にわたり少量づつ出血することで貧血となることもあります。健康診断などで、普段より貧血が進行している場合には、一度便潜血検査を受けることをお勧めします。もし、便潜血で陽性であった場合には早めに消化器内科を受診しましょう。
大腸がんの主な原因
遺伝
大腸癌の約7割は遺伝子異常が原因で起こると言われています。この遺伝子異常は、発がんを促進する遺伝子や発がんを抑制しているがん抑制遺伝子の異常です。また、生まれながらに遺伝子異常があり大腸がんの発生をきたしやすい方もいます。家族性大腸腺腫症やリンチ症候群などが代表であり、大腸癌全体の約5%程度です。そのほかにも、明らかな原因は分かっていませんが、何らかの遺伝子素因の影響があり、血縁者に大腸がんの集積性がある方が大腸がんの約2~3割いると報告されています。このような遺伝の影響が考えられる方では、より若い時から大腸がん検診、大腸カメラ検査を受けることをお勧めします。
生活習慣の乱れ
大腸がんの危険因子として、喫煙、過度のアルコール、赤肉・加工肉の過剰摂取、食物繊維の摂取不足、肥満、運動不足が挙げられています。これらの生活の乱れに関しては、日常生活で少し気を付けることで改善が見込めます。大腸がんを発生させないためにも、これらの生活習慣に気を付け、生活を送りましょう。
加齢
大腸がんは、30代ごろより増え始め、その後80代にピークを迎えるまで増え続けます。加齢に伴い、発生しやすいと考えられます。年齢を変えることはできませんが、発生しやすい年齢を意識し、40代以上では大腸がん検査を受けることをお勧めします。また、家族性大腸腺腫症などの遺伝子異常の方では、より若年で癌を発生しやすいです。10代より検査を勧めることもあります。まず、消化器内科を受診し相談して大腸がんを早期に発見できるように気を付けましょう。
大腸がんの検査法
便潜血検査で陽性の場合や、症状から大腸がんが疑われる場合には以下のような検査を行いいながら現在の大腸がんの病変の広がりやそのほかの病気の合併がないかを調べ、治療方針を決定します。
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
内視鏡を肛門より挿入し、直腸から盲腸までの大腸全体を詳しく調べる検査です。検査前には下剤を使用して腸管をきれいにしてから検査を行います。この検査により、ポリープ・大腸がんなどの病変を発見した場合には、この病変全体を切除、もしくは部分的に組織を採取して病理診断が行われます。この検査で大腸がんの確定診断をします。
注腸造影検査
注腸造影検査の前には、残渣が少ない検査食を食べ、前日から下剤を服用し、当日には大量の腸管洗浄液(下剤)を飲んで腸管内をきれいにしなければなりません。当日検査の時には、バリウムと空気を肛門から注入し、レントゲンを撮影します。この検査では、大腸がんの正確な位置、大きさや形、腸管の狭窄の程度などを知ることができます。
CT検査、MRI検査
CT検査、MRI検査はそれぞれX線と磁気を使用して体の臓器の病変の有無を調べる検査です。大腸がんでは、治療の前に周囲の臓器への浸潤がないか、遠隔転移がないかを調べることができます。
「大腸がんとお腹の張り」についてよくある質問
ここまで大腸がんとお腹の張りの関係性などを紹介しました。ここでは「大腸がんとお腹の張り」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします
大腸がんを発症するとお腹が張る原因について教えてください。
和田 蔵人 医師
大腸がんを発症することで、便の通りが悪くなり、便のつまりから腹痛やおなかの張りを感じる方もいます。また、大腸がんが進行し、腹膜播種という腹腔内にがんが散らばった状態となると、腹水が生じておなかが張ることもあります。しかし、おなかが張る原因は大腸がんだけではありません。おなかが張るようになったら自己判断せず、まず消化器内科を受診して相談しましょう。
まとめお腹の張りを感じたら消化器内科へ!
お腹の張りを感じた場合、大腸がんなどの大きな病気が潜んでいるかもしれません。もちろん、おなかが張るのは大腸がんのみではありませんが、大腸がんはもともと症状が出にくい病気です。気になる症状があった場合には、早めに消化器内科を受診することが重要です。
お腹の張りなどの症状があったら、消化器内科を受診しましょう。
「大腸がんとお腹の張り」と関連する病気
「大腸がんとお腹の張り」と関連する病気は7個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
消化器科の病気
過敏性腸症候群大腸ポリープ腸閉塞
便秘炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)
腸炎腹水おなかの張りを感じるときに、多くは消化器系の病気が隠れています。原因を調べるためにまず消化器内科を受診しましょう。一部腹水などは、消化管以外の病気に伴うこともあります。肝硬変や婦人科系疾患などです。自己判断せずに、受診して相談することが大切です。
「大腸がんとお腹の張り」と関連する症状
「大腸がんとお腹の張り」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
腹痛便秘嘔気、嘔吐
血便貧血
おなかの張りに上記のような症状があった場合には、大腸がんの可能性もあります。まず消化器内科を受診して相談しましょう。
参考文献
患者さんのための大腸がん治療ガイドライン2022年版(大腸癌研究会)
大腸がん(がん情報サービス)