福山潤&遊佐浩二、開業100周年丸の内ピカデリーで小津安二郎監督作品『青春の夢いまいずこ』の活弁に挑戦
小津安二郎監督の無声映画を活弁するイベント「浪漫活弁シネマ~映画『青春の夢いまいづこ』篇~」が丸の内ピカデリーにて7月13日より3日間開催。本イベントは丸の内ピカデリー開業100周年企画として、明治後期、大正、昭和はじめの映画上映スタイルである“活弁”が体験できる貴重な機会だ。
(C)松竹 イノベーション推進部
明治後期、大正、昭和はじめの映画草創期。映画に音はなく、スクリーンの横に立ち、生演奏と共に、巧みな話術でセリフやト書きを“独自”の台本に仕立て語る「活動弁士(活弁)」呼ばれる語り部はスターだった。現在の映画スタイルであるトーキー映画の出現により減少した活動弁士は、現在国内で10名ほどしかいないと言われている。
今回、「浪漫活弁シネマ~映画『青春の夢いまいづこ』篇~」で活弁に挑むのは、アニメや吹き替え、朗読劇や舞台などで活躍する声優・俳優陣。13日には福山潤と遊佐浩二、14日には森久保祥太郎と吉野裕行、15日には上村祐翔と北川尚弥が、複数のキャラクターとナレーションまでを読み分け、演じ、小津作品に命を吹き込む。
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今回鑑賞したのは初日の初回公演。映画が始まる前には、挨拶と映画の紹介を盛り込んだ前説で作品の世界に誘っていく。『青春の夢いまいづこ』は、1932年に公開された、小津安二郎第25作目の監督作品。裕福な学生・堀野哲夫(江川宇礼雄)と友人の苦学生・斎木太一郎(齋藤達雄)、二人の友情とベーカリーで働く娘・お繁(田中絹代)をめぐる恋と彼らを取り巻く友人たちとの絆をコミカルに描いた作品だ。
遊佐が堀野をはじめとする17役、福山は斎木、語り部、お繁など13役を担当。上映後に行われたクロストークでは「やっとプレッシャーから解き放たれました」と笑顔を見せた二人。オファー時を振り返り、共演が福山であること、台本があることが安心材料となり「やります!」と快諾したという遊佐。「オファー時には完成型もビジョンも見えていなかった」とした福山も共演が遊佐であることを受け「遊佐さんに思い切りよりかかれるぞ!」という安心感があったとし、笑いを誘った。
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安心材料がある一方で「活弁は通常、一人でやるもの。二人でどう表現をするのか」が不安材料だったと話した遊佐は、語り口調が独特である上に、福山がどういう入り方をするのかも予想できなかったため、決め込まない形で初稽古に臨んだそう。アニメや映画の吹き替えとの違いは「映像のみでタイムが出ないこと」だとし、どうしても口の動きに合わせようとしてしまう声優あるあるがあったと笑い飛ばした二人。福山は、口の動きやタイムに当てていく芝居ではなく、情感として合わせるというアプローチの違いがあったとし、「フィルムの情感に合わせていく。数字ではないものに芝居を当てていく。初心にかえった気がしました」と充実感を滲ませた。
二人は「恥ずかしながら…」と前置きし、小津作品をしっかり観るのは初めてだったと告白。小津作品には老け役の多い笠智衆のイメージが強かったそうで、『青春の夢いまいづこ』での笠、さらには作品のテイストにも新鮮味を感じた模様。「先入観があったかもしれない…。(こういうテイストの作品もあるんだ!と)勉強になりました」と声を揃えた。
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活弁の特徴は独特のセリフまわし。この日のイベントでも映画のあらすじやキャストの紹介を含む前説があった。これからどういう物語が始まるのか。活弁の世界観も色濃く出ている部分と捉えていたと語った遊佐は、「(活弁の)雰囲気を知ってもらうために、濃くやった方がいい」という思いで挑んだパートだったと明かしていた。上映中には会場のあちこちで笑い声が漏れ聞こえる場面も。面白いと感じた時には「もっと笑って!」と心の中で叫んでいたという福山。遊佐も「もっと笑って!と言いたかったけれど、呼びかける暇も余裕もなかった」と苦笑い。観客の反応は空気で感じ取れていたという福山は「空気が引き締まる感じ、ゆるむ感じをこの身に受けていました」と微笑み、ピリつくとは違う、達成感のようなものがあったと報告していた。
二人の稽古は約3日間、脚色・監修担当の坂本頼光のもと行われたという。坂本とのやりとりで印象に残っているのは「お客さんを意識する」と言われたことと明かした遊佐。福山も同じことが強く印象に残っているそうで、アニメや吹き替えでもお客さんに届けることには違いないが、画面の向こう側にいる人に届けること、同じ空間で同じ映像を観ながら届けることで「論法の違い」があることを実感したと力を込めていた。
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締めの挨拶で遊佐は「初めての経験でとても緊張したけれど、またやってみたいです」と宣言。活弁は観客と一緒に作り上げるものと感じたという福山は「普段声を当てる仕事をしているけれど、活弁に触れたことで同じことをしているのに違いを感じ、新しい刺激をもらいました」としみじみ。さらに二人は今回のイベントを通して、ぜひ活動弁士の公演にも注目して欲しいと呼びかけていた。
取材・文:タナカシノブ