神谷圭介が語る、画餅 第四回公演『ウィークエンド』配信
去る2024年5月に下北沢 小劇場 B1で上演された舞台、画餅(えもち) 第四回公演『ウィークエンド』(作・構成・演出:神谷圭介とチーム画餅。出演:浅野千鶴、生実慧、加藤美佐江、神谷圭介、東宮綾音、長沼航)が、現在、インターネット映像配信サービスのStreaming+他で、2024年7月28日(日)まで、配信中だ。画餅はテニスコートの神谷圭介が主宰するソロプロジェクト。この配信について、神谷圭介から話を聞いた。
画餅『ウィークエンド』
ーーこの記事で初めて神谷さんを知る方に向けて、まずは簡単な自己紹介をお願いします。
画餅という舞台のプロジェクトを主宰している神谷圭介と申します。テニスコートというグループでコント公演をしてきて、画餅はソロのプロジェクトとして2022年からはじめました。舞台での創作を映像作品にすることを目的としてます。客席に観客を入れ、舞台上にカメラとカメラマンを配置し、劇場での上演と撮影を主なスタイルにしています。映像と舞台、コントと演劇の狭間を模索しています。
ーー活動が多岐にわたり、お笑い芸人のGAG福井さんには「カルチャー」と称される神谷さん。画餅という言葉がまず可愛らしくて縁起が良さそう。お祭り感を感じます。
あ。ありますね。お祭り感。ずっと文化祭を続けているような気持ちがあります。画餅という言葉は絵に描いた餅ということわざを漢字二文字にした言葉なんですけど。読み方は勝手に「えもち」にしました。これのロゴをデザインするところから始めました。これも文化祭っぽいです。
ーーワークショップで出会った俳優をキャスティングしてのテアトロコント出演、過去作品の上映を含む元映画館でのイベント「画餅の市」の開催、団体初の地方公演となった別府ブルーバード劇場での再演と、次々におもしろい動きを見せる画餅ですが、企画は全部神谷さんですか?
僕からのもありますし参加してくれた俳優さんからの協力もあります。出演者の方が繋いでくれて映画館で上映することができたり。地方公演が出来たり。俳優さんたちが積極的に関わってくれてありがたいです。面白そうなことはフットワーク軽めにやってみたいなと思って画餅は動いています。でもそんなことが出来ているのも暗躍してくれている制作さんのおかげです。
画餅『ホリディ』舞台写真
ーー好評配信中の『ウィークエンド』について聞かせてください。
毎回座組が変わることで作品の質感が変わるんですけど、今回は第一回『サムバディ』に出演してくれた浅野さん、生実くん、あとテアトロコント『天才少年』の東宮さん、そこに新しく長沼さんと加藤さんが混ざっていて。やっぱりまた今までとも違う感じです。やったことないけど、やってみたかったことがやれた作品でもあります。これまで観てくれている方にはその変化も楽しんでもらいたいなと思います。
ーー演劇や舞台って、主宰や脚本家の世界観を安定して表現しやすい俳優さんがレギュラー的に配置されている印象があります。画餅は毎回キャストが違いましたが今回はなにか心境の変化が?
今回、再出演の方と新しい方を混ぜたのは、第一回の『サムバディ』にあった不穏な要素をリミックスしたい気持ちがありました。それと新しいものとを掛け合わせた時にちょっとまた違う何かになるのかな、と。 『サムバディ』はこれまでの公演と比較すると不穏味の強い公演だったと思うんですよ。今回やろうとしているテーマに「不穏さ」があったので、その要素を入れる。で、また違う要素と混ぜるっていう。トリビュートするために混ぜたという感じはします。『ウィークエンド』は今までで一番不穏な公演になったと思います。
画餅『ホリディ』舞台写真
ーー画餅のキャスティングについて詳しく聞かせてください。
画餅は比較的、普段同じ界隈にいない俳優さんが並んでることが多いと思います。小劇場って親和性のある界隈の方々はよく共演してる印象がありますが、界隈が違うとあまり交わることがない気がします。画餅ではあまり顔を揃えなそうな人たちを揃えたくなります。今回も特にそうですね。それが不穏さとポップさにもつながっているような。そこも魅力なんじゃないかと。
ーー『天才少年』(カンフェティでのみ『ウィークエンド』とセット配信中)について聞かせてください。
昨年、ワークショップに参加してくれた人たちに声をかけさせてもらいテアトロコントで上演したのが『天才少年』です。会場のユーロライブではいつもの画餅のように撮影ができなかったので、新作公演の撮影が入る1日だけに特別上演させてもらいました。あんまり舞台公演ではやらない動きというか...自分のわがままを通してもらい色々な方の協力があって実現できました。 ひとつの劇場で二つの作品の座組が入れ替わる形になりました。それが妙な体験でした。座組が入れ替わりで楽屋を使った時に、こんなに違うかというくらいガラリと雰囲気が変わって。全く違う空間になりました。最年少は13歳の少年、他のキャストも20代前半とかなり若い座組の『天才少年』チームは何かしらわちゃわちゃと会話が跳ねてる。明るい笑い声が絶えない。一方で『ウィークエンド』チームはよくわからない。とにかく不穏。黙っている間に変な感じが充満していくような感じだったりするので。それはそれで楽しかったです。
画餅『天才少年』
ーー青春画餅と大人画餅ですね。
でした。作品自体もそう言う印象になってます。
ーー音楽も毎回かっこいいですよね。
『ウィークエンド』の音楽をお願いしたのはカクバリズムの新人シャッポという二人組なんですけど。このシャッポさんがめちゃくちゃ良いんです。テーマ曲だったりシーン中にかかる劇伴をやってもらっていて。不穏なのにポップっていう、この相性がすごく画餅と合っていてその印象だけでも体感してもらいたい。稽古場でシャッポさんが用意してきてくれたものを初めてシーンに当てた時、最初は「これで合ってるのかな?」と思ったりもしたんです。エピソード4の不穏な瞬間が訪れたときに心象の音響として入れる音楽があるんですけど。コントやわかりやすいドラマであればもっとそこの感情がベタにわかりやすい音がくるはずなんです。だけど、シャッポさんが用意してくれた音楽はすぐにはわからない感じ。一発で効くというよりは、しばらく流れているのを聴いているうちにシーンと合わさって妙な気持ちが立ち上がってくる。不穏さとポップさが混ざっていく感じ。それが画餅にすごく合ってたんですよね。後から「ああ。これめちゃくちゃ合ってる」って思ったりして。テーマ曲も良いし。音楽もすごく良いんです!『ウィークエンド』
ーー「不穏」というキーワードはどうして?
もともと僕自身がテニスコートでナンセンス系のコントをやっている時からどこか不穏さはあったと思うんです。不穏さとポップさ。シャッポさんも紹介されて曲を聴いた段階で「あ。これなんか多分もう絶対合うな」と思ったんです。どこかポップさとキャッチーさと不穏さがあって。自分も基本的にそうで。ポップではありたいんです。でもただポップではなく妙な不穏さが欲しい。それでより不穏さを感じたりポップさがより軽やかに感じたりする気が。スイカに塩かけると甘くなるって言いますよね。スイカ嫌いなんで食べたことはないんですけど。たぶん創作のベースに同じようなものがあるのを感じ取ったんですけど。
あとは、いま世界で起きていること。SNSで流れてくるものに何かこう世紀末感みたいなものを感じていたんです。Netflixとかでも世紀末を描く作品が多かったり。「あれ?この星終わるのかな」みたいな雰囲気がなんとなく立ち込めているのを感じていて。それを画餅なりに何か作品に出来ないかなと。画餅らしい作品への落とし込み方ができた気がするのでそこも観てもらえたら嬉しいです。
画餅『モーニング』舞台写真
ーーSNSの感想を見たり画餅ファンの友人たちと話していると、みんな今までの公演の中での好きな作品がバラバラで。それがおもしろいです。こんなに割れるのかと。
それもなんか嬉しいです。自分も公演ごとにそれぞれ違ってそれぞれ好きです。『ウィークエンド』が好きな人はどういう人なんだろう、他の回はなんとなくわかるんですよ。こういう感じが好きなんだなって整理できるんですけど。
『ウィークエンド』が一番好きですって言う人の趣向ってなんだろう。でもそれくらいちょっと不思議な作品になっている気がします。
ーー過去三回にはなかった何かが。
そうですね。明らかに違いはあるんだけど、でもこれまでの要素がいろいろ混ざっているという感じもします。
ーー今までの公演で一貫していることはありますか?
あまり客観的に見れてないかもしれませんが、でも基本的には毎回「変えていこう」という意識があると思います。俳優さんを変えていくことにもそうですし。作れるものが変わってくるので。でも意図的に変えようとしてる分どこかに共通点はある気がしてきました。自分の無自覚だった癖というか。例えば不毛な会話がやっぱどうしても好きなんだなと思ったり。でも不毛さの中に何かちょっと重要な、重要な?なんだろうな、意外と大事なのかなと自分で思えるものに辿り着いたり。自分の思う人間臭さなのかもしれません。基本的にはそこに人間がいるなって思えるようにしたいです。コントのような出来事や会話劇なんですけど、人間がそこにいるって思えるからこその没入感が好きで。人間がいるぞという面白味は共通しているのかも。だから参加してくれる俳優さんの人間的な魅力を引き出すのがとても楽しいです。
逆に聞いてみたいのですが、画餅を観ていて一貫して感じるものはあったりしますか?
ーー客観的に見ても、同じことをしない、というところが一貫していると思います。だからなにかあたらしい企みが発表されるたびにワクワクするというか。公演自体ももちろん楽しみですが、毎回のビジュアルや試み、イベントやグッズなども。
多分、観ている人以上に早めにこっちが飽きてしまうこともあって。これは良し悪しあって、もうちょっと浸透するために頑張って我慢してやるべきこともあると思います。でも少しずつ何かしらリニューアルを繰り返していく方が創作する側のモチベーションになるというか。それでワクワクする感じが保たれてるような気はするんですけど。 俳優さんが変わっていくことはすごく自分の刺激になっているなと思っています。 K-POPとかは楽曲を発表するたびにメンバーの髪色やスタイリングがガラリと変わったりしてそれがまずワクワクしたりとか。MVもそうですけど。
画餅『ウィークエンド』舞台写真
ーーコンセプトによって全然アプローチが変わりますよね。
次は何をするんだろうっていう。それだけでも受け手がすごくワクワクするというか。ちゃんとワクワクさせてくれるアートワークがあって。そういうものが良いし楽しいなと思ってました。コントのようなドラマのような、自分ができることで一緒にやってみたい俳優さんたちをどうプロデュースできるのか。次どういう人出るんだろうとか、出てみたいと思ってもらったり。そういうことでもモチベーションが上がります。
ーーまさかK-POPからヒントを得ていたとは。
でもすごく大事なことですよね。ワクワクしてもらうこと。色んな人に観てもらえるのかもと。お笑いや映画、ドラマ、漫画、小説、ラジオとか、他のもので作品は摂取してるけど舞台は観ない人たちとかに。そういう人たちに観てもらって、観たら面白いって思ってもらえるものをやりたかったので。だから、演劇の印象からなるべく離れたいなという意図はありました。よく知った俳優さんが『ウィークエンド』観にきてくれて。その方は大きい舞台から小劇場まで出演されているベテランの俳優さんですけど「小劇場で小劇場じゃないことをやっていた」と感想を書いてくれてて。それはなんかすごく嬉しかったです。そういうふうに観てもらえたことが。
ーー最後まで読んでくれた方に一言おねがいします。
画餅でやろうとしていることは良い意味での軽さというか、軽やかさです。何も気張らずに楽しんでもらえると思います。気になってたけどまだ観たことないという方も是非試しに観てもらえたらと。そしてもし気に入ったら過去作品も観て欲しいです。映像化されてるので過去作も再配信で観られるのが画餅の特徴です。舞台の臨場感と没入感がちゃんと映像化されています。映像として見やすい作品になっています。絶対に見てください。
画餅『ウィークエンド』舞台写真
取材・文=深谷まこと ビジュアル・舞台写真=南 阿沙美
【プロフィール】
神谷圭介/コントグループ「テニスコート」のメンバーとしてコント公演を重ね、渋谷ユーロライブの主催するテアトロコントにも多く出演。2017年玉田企画への出演をきっかけに、ブルー&スカイ氏、ワワフラミンゴ、犬飼勝哉氏、東葛スポーツ、ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏などの舞台作品に出演。また松田正隆氏が代表を務めるマレビトの会の「福島を上演する」には作家として参加するなど作家、俳優として活動。2021年にダウ90000の蓮見翔氏を作・演出に迎えた公演「夜衝」を玉田企画の玉田氏と共に企画し出演。2022年に「画餅」を立ち上げ、舞台と映像、コントと演劇の間を探りながら勢力的に活動中。映像作品への出演も増える中ドラマや映画の脚本も手がける。