過熱するラン活市場に一石を投じたワークマン(編集部撮影)

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公式オンラインストアでの取り扱いとなる「ESスチューデントデイパック」(写真:ワークマン提供)

今どきの小学生が使うランドセルは、親世代の子ども時代とは様変わりした。色も「男子は黒、女子は赤」ではなく、小学生はさまざまな色のランドセルを背負って登校している。

材料費や人件費の高騰もあり、価格も上昇している。日本鞄協会・ランドセル工業会の「ランドセル購入に関する調査2024年」での平均購入価格は「5万9138円」となり、人気ブランドでは7万円や8万円台も珍しくない。

そんなファッション化、高額化のトレンドに一石を投じたのが、作業服大手のワークマンだ。6月5日、同社は、黒一色のみ、税込み8800円のランドセル「ESスチューデントデイパック」を投入した。

公式オンラインストアでの取り扱い(EC販売)で、購入者は各地の店舗で受け取る仕組みだ。初回は限定生産(販売目標は1000個)で、「今後の反響を見て新色や追加生産を検討する予定」(同社広報担当の松重尚志氏)だという。

【写真】ワークマンのランドセルは、高い強度と耐摩耗性がある「バリスティックナイロン」製。防水カバーがつき、タブレットも収納しやすくしている(4枚)

強みの高機能と低価格を実現

ワークマンが得意な高機能と低価格を打ち出した商品です。滑り出しは想定以上の注文数です。反響も結構多く、特に値段と丈夫さに対する声が目立ちます」(同)

発案者は、バッグ全般の開発を担当する製品開発第3部の林邦彦マネージャーで、小学生の子を持つ親でもある。自らの子育て経験や同社の顧客から寄せられた意見を基に商品を開発。2023年秋には中高生を意識した「フォーミュラスクエアバッグ」も発売した。

「今回のターゲット層は新規購入や入荷待ちの方、おさがりを必要とする方など多岐にわたります。“ラン活”という言葉が生まれたほど、ランドセル購入は小学校入学を控えた子どもたちとその保護者にとって大きなイベントで、林なりの開発哲学も込められています」(同)

ランドセルを使用する小学生は成長も早い。例えば小学1年から6年では身長が平均して約30センチ伸び、体重も増えて体格が変わっていく。とはいえ子どもなので、中には手荒にランドセルを扱う子もいる。

ワークマンのランドセルは革製ではなく「バリスティックナイロン」製だ。

「防弾チョッキにも使用されるほど高い強度と耐摩耗性がある生地です。当社の大人用ビジネスバッグや工具袋にも使う素材なので、気兼ねなく毎日の通学で使えます。また身体の成長に合わせてショルダーストラップの長さを調整することができます」(松重氏)

本体の重さは約1.5キログラムで、多くはアルミの重量だという。

「背面部分にアルミ製の細いプレート“アルミステー”が入っています。当社の登山用リュックでも使うプレートで、中に入る荷物が重くなってもリュックの剛性が保たれ、背中全体で重さを軽減するため、お子さんの身体への負担がかかりにくい構造です」(同)

反射材や防水カバーもつけた

梅雨や急な雨で気になるのが水濡れだが、防水カバーもあり、安全性にも配慮した。

アウトドアのリュックでも用いる防水カバーを今回の商品にも搭載し、なくさないよう紐づけしました。また本体の4方向に反射材をつけており、視界が悪い時間帯や雨の日でも車のライトなどに反射します。防水カバーにも反射プリントが施されています」(同)


防水カバーもついている(写真:ワークマン提供)

このほか、学校から1人1台配られるタブレットを収納するタブレットポケットもある。現在使われるタブレット端末(11〜12インチが主流)を想定して収納できるサイズだ。

ただし、各家庭で用意するタブレットの保護カバー次第では、うまく収納できない場合もあるようなので、この点は注意されたい。


タブレットも収納しやすくなっている(写真:ワークマン提供)

競合品との比較でいえば、ワークマンのランドセルは低価格だが業界最安値ではない。重量も前述したように特に軽いわけではない。それでもさまざまな開発視点で「高機能と低価格」を訴求したのは興味深い。


底面の作り。側面には反射材もついている(写真:ワークマン提供)

保護者の思いは、快適性や安全・安心

ランドセルを購入する保護者の観点からだと、実際に使う子どもの快適性や安全・安心から、本革製を選ぶ家庭も多い。基本的には6年間使い続けるので「少し値が張っても良い品を」という意識も働くようだ。

ランドセルは時に身体保護の役割も担う。例えば低学年の児童が、何かの際に後ろ向きに倒れても、背負ったランドセルが護ってくれたりもするのだ。メーカーが搭載する反射材も交通安全に対する配慮だろう。

平均価格が上昇しているのは事実だが、現在は少子化の影響で、子ども用の消費財は「6ポケット(財布が6つある)」とも聞く。父親・母親と双方の祖父・祖母という意味だ。祖父母が孫に贈る場合だけでなく、みんなで資金を出して買う場合もあるだろう。

一方で、ひとり親で子育てをする家庭など、ランドセル価格の上昇に苦慮する世帯もあると聞く。その対応策として「ランドセルの再活用」に乗り出す自治体も出てきた。筆者も各家庭から使わなくなったランドセルを集めて、申し込みのあった家庭に使ってもらう事例(鳥取県の例)を紹介したこともある。

ワークマンのランドセルを開発した林マネージャーは、8800円という価格設定について、「親の立場からすると、子どもの雑な使い方に心を痛めないでいられる」と話す。また、「子どもが求めるランドセルのデザインは入学時と高学年進級時では変わってくる」ことも指摘した。

小学生でも高学年になると自我が芽生え、日常使う商品に対しても自分の意見が出てくる。人によっては、低学年から使い続けるランドセルが子どもっぽく思えたりする。

購入者の意見を聞いて、継続を判断

「今回の商品は買い替え需要も意識しました。かわいらしいデザインでなく、少し大人っぽいデザインにしたのもそのためです。黒のバッグは高学年男子にはささると思います」(松重氏)

また、現在は塾通いや習い事をしている小学生も多い。塾などが指定するバッグで通うケースも多いが、自由に選べる場合はこうしたバッグも選択肢になりそうだ。

それまでの作業服メーカーのイメージを脱し、近年は「ワークマンプラス」や「ワークマン女子」など積極的に業態開発や商品開発を進めてきたワークマンだが、ランドセルの今後に関しては慎重に話す。

「ご購入された方に実際に使っていただき、これからお客さまの声を集めながら商品分野の継続を考えていきます」(同)

小学校入学時に必要となるのは他にもある。学習机を購入する家庭も多く、その価格も安くはない。ランドセルに関しても、消費者がそれぞれの思いでどう判断するかだろう。

(高井 尚之 : 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント)