巨人軍「第三次原政権」とはなんだったのか? 第1回 2018-2022ドラフトを振り返る
原巨人とはなんだったのだろうか?
原辰徳監督は2002年から2003年、2006年から2015年、そして2019年から2023年と計17シーズンの長期政権で9度のリーグ優勝、3度の日本一に輝いた。通算1291勝1025敗91分けと巨人歴代監督で最も勝った男でもある。一方で、90年代の長嶋巨人時代から続く、大型補強を繰り返しての勝利のイメージが強いだけにその手腕は賛否分かれている。
三度目の指揮では天国と地獄を味わった。19年と20年にリーグ連覇も日本シリーズでソフトバンク相手に2年連続で4連敗の大惨敗。さらに22年と23年に同一監督では球団初の2年連続Bクラスに沈み、契約途中でユニフォームを脱いだ「第三次原政権」の評価は難しい。
すでに巨人軍が阿部慎之助新監督のもとリスタートを切っている今だからこそ、過去になりつつある「原巨人」の本当の姿が見えてくるのではないか。果たして原野球は大型補強ありきだったのか? 原監督は本当に若手を育てられなかったのか? あの過剰なマスコミへのリップサービスやタツノリの顔芸は何を意味していたのか? 今回は「第三次原政権」のドラフト会議を振り返ってみよう(※選手の所属球団・成績はすべて2024年6月18日現在)。
◆ 2018年ドラフト会議
x 根尾 昂(内野手/大阪桐蔭高)
x 辰己涼介(外野手/立命館大)
1位 郄橋優貴(投手/八戸学院大)
2位 増田 陸(内野手/明秀日立高)
3位 直江大輔(投手/松商学園高)
4位 横川 凱(投手/大阪桐蔭高)
5位 松井義弥(内野手/折尾愛真高)
6位 戸郷翔征(投手/聖心ウルスラ高)
<育成枠>
1位 山下航汰(外野手/健大高崎高)
2位 平井快青(投手/岐阜第一高)
3位 沼田翔平(投手/旭川大高)
4位 黒田響生(内野手/敦賀気比高)
「のびのびと楽しみ、勝っては喜び、負けては悔しがる」と原辰徳が余裕すら感じさせる三度目の監督就任会見をしたのは、2018年10月23日のことだった。その2日後、ドラフト会議が行なわれ、巨人は根尾昂(中日)、辰己涼介(楽天)と2度クジを外し、3度目の1位指名選手が大学球界屈指のサウスポー高橋優貴だ。
原監督は高橋を1年目から先発で18試合に起用して19年は5勝7敗、防御率3.19。3年目の21年には11勝9敗、防御率3.39と左のエース格として定着するかに思われたが、その後は制球難に加え左ヒジの故障もあり低迷。育成選手を経て支配下復帰した23年は未勝利に終わり、今季も1軍登板はない。
2位の増田陸は22年に69試合で打率.250、5本塁打、16打点と強打の内野手としてアピールするも、23年は1軍出場なし。24年もいまだ無安打である。早いもので6年目の24歳、ファームで年下の選手も増えておりそろそろ1軍定着したいところだ。同じ高卒野手で言えば、育成1位の山下航汰はあのイチロー以来という27年ぶりの高卒新人でのファーム首位打者を獲得して将来を嘱望されたが、こちらも怪我に泣き、わずか3年で退団している。
3位の直江大輔は通算32登板(9先発)と原監督から定期的に与えられていたチャンスを生かせず、今季は1軍登板なし。4位横川凱は支配下復帰した昨季の20登板中16試合で先発起用され4勝に終わるも、今季は5試合(2先発)で1勝1敗、防御率1.38と今後の飛躍が期待される左腕のひとりだ。
そして、なによりこの年のドラフト最大の収穫が6位で戸郷翔征を指名できたことだろう。第三次原政権とともにプロのキャリアをスタートさせた戸郷は、19年9月21日のDeNA戦、リーグ優勝の懸かった大一番でプロ初登板・初先発デビューを飾り、2年目から先発ローテに定着する。22年には初の二ケタとなる12勝を挙げ、最多奪三振のタイトルも獲得。24年は自身初の開幕投手を務め、5月24日に甲子園の阪神戦でノーヒットノーランを達成するなど、いまや菅野智之から令和の巨人軍のエースの座を継承した。
伝統的に巨人の歴代エースはドラフト1位が務めるケースが多く、平成以降の投手陣を見ても斎藤雅樹、桑田真澄、槙原寛己の三本柱は全員高卒ドラ1。上原浩治、内海哲也も逆指名入団組だ。菅野も12年1位である。第三次原政権の5年間で、いわば巨人では異例とも言えるドラフト6位の戸郷をエースにまで育て上げた事実は、もっと評価されてもいいのではないだろうか。
◆ 2019年ドラフト会議
x 奥川恭伸(投/星稜高)
x 宮川 哲(投/東芝)
1位 堀田賢慎(投/青森山田高)
2位 太田 龍(投/JR東日本)
3位 菊田拡和(外/常総学院高)
4位 井上温大(投/前橋商高)
5位 山瀬慎之助(捕/星稜高)
6位 伊藤海斗(外/酒田南高)
<育成枠>
1位 平間隼人(内/徳島インディゴソックス)
2位 加藤壮太(外/埼玉武蔵ヒートベアーズ)
この年も奥川恭伸(ヤクルト)、宮川哲(ヤクルト)を立て続けにクジで逃し、堀田賢慎を1巡目で指名。堀田は1年目の開幕直後にトミー・ジョン手術を受け長いリハビリ生活に入り、オフには育成契約へ。支配下復帰した22年に8試合で先発すると2勝3敗、防御率6.29。今季は13登板(7先発)、3勝3敗1HP、防御率2.70と阿部体制で開花しつつある。
4位の井上温大も22年4先発、23年4先発と原監督時代に優先的にチャンスを与えられた左腕だ。昨季はイースタンで最多奪三振も、1軍の先発では一度も5回までもたず防御率10.95。だが、今季は12登板(3先発)、2勝4敗3HP、防御率3.74と便利屋的な立ち位置で存在感を見せている。若手投手の強化指定選手に関しては、原政権から阿部体制へ、いい形で共有・引き継ぎがされているのではないだろうか(野手は後述)。
◆ 2020年ドラフト会議
x 佐藤輝明(内/近畿大)
1位 平内龍太(投/亜細亜大)
2位 山崎伊織(投/東海大)
3位 中山礼都(内/中京大中京高)
4位 伊藤優輔(投/三菱パワー)
5位 秋広優人(内/二松学舎大付高)
6位 山本一輝(投/中京大)
7位 萩原 哲(捕/創価大)
<育成枠>
1位 岡本大翔(内/米子東高)
2位 喜多隆介(捕/京都先端科学大)
3位 笠島尚樹(投/敦賀気比)
4位 木下幹也(投/横浜高)
5位 前田研輝(捕/駒澤大)
6位 坂本勇人(捕/唐津商高)
7位 戸田懐生(投/四国IL徳島)
8位 阿部剣友(投/札幌大谷高)
9位 奈良木陸(投/筑波大)
10位 山粼友輔(投/福山大)
11位 保科広一(外/創価大)
12位 加藤 廉(内/東海大海洋学部)
気がつけば、日本の秋の風物詩となった巨人のクジ運のなさだが、またも佐藤輝明(阪神)を外し抽選10連敗となり、156キロ右腕の平内龍太を1位指名。平内は中継ぎとして2年目の22年に53登板。しかしその後、右ヒジの手術を行い育成選手を経て昨年5月に支配下復帰。4年目の今季は8登板で防御率0.90、今後は勝ちパターンのセットアッパーの座を奪いたい。
2位の山崎伊織は大学4年時に右ヒジのトミー・ジョン手術を受けており、ドラフト当時は「もっと下位で指名できたはず」と批判的な声も多々あったが、当初の予定通り2年目に1軍デビュー。3年目の23年に初の二ケタ勝利を挙げ、今季も5勝1敗、防御率1.57と戸郷や菅野と先発三本柱を形成するまでに成長した。
野手では3位で中山礼都を指名。「ポスト坂本」を見据えた高卒内野手で、若手強化選手として22年は50試合で打率.198、23年は78試合で打率.239と多くの出場機会を得たが、今季も打率.071と代打でも起用しづらく、レギュラー奪取にはやはり打撃力の向上が不可欠だろう。5位は同じく高卒の秋広優人。自主トレで中田翔(中日)に弟子入りした身長2メートルのロマン砲は、原監督からサザンオールスターズを歌いながらバットスイングをさせられるという謎の直接指導もあり、3年目の23年に121試合で打率.273、10本塁打、41打点とブレイク。しかし、原監督や師匠の中田がチームを去った今季は15試合で打率.242、本塁打・打点なしと苦しんでいる。外野守備や走塁面でときにボーンヘッドも目につくが、近未来の中軸として背番号55に懸かる期待は大きい。
◆ 2021年ドラフト会議
x 隅田知一郎(投/西日本工業大)
1位 翁田大勢(投/関西国際大)
2位 山田龍聖(投/JR東日本)
3位 赤星優志(投/日本大)
4位 石田隼都(投/東海大相模高)
5位 岡田悠希(外/法政大)
6位 代木大和(投/明徳義塾高)
7位 花田侑樹(投/広島新庄高)
<育成枠>
1位 鈴木大和(外/北海学園大)
2位 高田竜星(投/石川ミリオンスターズ)
3位 亀田啓太(捕/東海大)
4位 笹原操希(外/上田西高)
5位 鴨打瑛二(投/創成館高)
6位 菊地大稀(投/桐蔭横浜大)
7位 京本 眞(投/明豊高)
8位 富田 龍(投/四国学院大)
9位 川嵜陽仁(投/誉高)
10位 大津綾也(捕/北海高)
もはや息を吐くように隅田知一郎(西武)の抽選を外すも、翁田大勢を1巡目で指名。野球ファンの中でも知名度は決して高くはなかったが、これが結果的に会心の指名となる。大勢は原監督に開幕戦からクローザー起用されセーブを挙げると、150キロ台後半の剛速球を武器に守護神に定着。57試合、1勝3敗37セーブ、防御率2.05でチームでは2011年の沢村拓一(ロッテ)以来の新人王にも選出された。23年春のWBCでも日本代表のリリーフとして準々決勝から決勝まで3連投で世界一に貢献。ただ、ルーキーイヤーからWBCまでフル回転した代償は大きく、その後は右上肢のコンディション不良に苦しんだ。今季も7セーブを記録しているが、現在は右肩の違和感からの復帰を目指し二軍調整中である。
3位の赤星優志は大卒の即戦力右腕として1年目から13試合で先発起用され5勝5敗、翌23年も同じく5勝5敗だったが、防御率は4.04から3.39へと改善された。今季は11登板(5先発)で防御率2.95という成績だが、援護にも恵まれず開幕5連敗中。育成6位の菊地大稀は22年4月に早くも支配下登録されると、23年に50登板、4勝4敗1S、防御率3.40も今季はまだ1軍登板はない。ただ、イースタンでは14登板で防御率0.61、奪三振率12.27と結果を残しており、後半戦の逆襲が待たれる。
◆ 2022年ドラフト会議
1位 浅野 翔吾(外野手/高松商高)
2位 萩尾 匡也(外野手/慶応大)
3位 田中 千晴(投手/国学院大)
4位 門脇 誠(内野手/創価大)
5位 船迫 大雅(投手/西濃運輸)
<育成枠>
1位 松井 颯(投手/明星大学)
2位 田村 朋輝(投手/酒田南高)
3位 吉村 優聖歩(投手/明徳義塾高)
4位 中田 歩夢(内野手/東奥義塾高)
5位 相澤 白虎(内野手/桐蔭学園高)
6位 三塚 琉生(外野手/桐生第一高)
7位 大城 元(外野手/未来沖縄高)
8位 北村 流音(投手/桐生第一高)
9位 森本 哲星(投手/市立船橋高)
ついに1巡目で高校ナンバーワン外野手の浅野翔吾を引き当て抽選連敗ストップ。あまりの嬉しさから当たりクジに「やったぜ!! 巨人軍は待ってるぜ!」と昭和の熱血教師のようなメッセージを書いた原監督は、浅野を23年7月に1軍デビューさせると、8月の広島戦でプロ初アーチを記録。六大学の三冠王にも輝いた2位の萩尾匡也は1年目に打率.063とまったく1軍では通用しなかったが、今季はすでに45試合に出場、打率.222、2本塁打、12打点とパンチ力を秘めた打撃で外野定着を狙う。
昨季はリーグ最低のチーム防御率3.83という苦しい投手事情もあり、3位の田中千晴は1年目から30登板で防御率5.51。5位の26歳のオールドルーキー船迫大雅も36登板で防御率2.70。育成1位の松井颯は初登板初勝利と多くの新人が1軍のマウンドを経験した(それだけブルペンに不安を抱えていたわけだが……)。そして、原監督ラストイヤーの最大の置きみやげといえば、4位指名の門脇誠だろう。鉄壁の内野守備力に加え、前半は苦労した打撃も後半戦は打率3割2分台をマーク。この門脇の出現により、近年は故障がちだった坂本勇人の三塁転向に踏み切れた。ただ、今季の門脇は打率.205と打撃不振に陥り、ルーキーの泉口友汰と遊撃で併用されている。
さて、駆け足で第三次原政権のドラフトを振り返ってみたが、やはり高卒6位の戸郷と、右ヒジの手術直後ながら果敢に2位指名した山崎がエース格に成長していることは、長い球団史や過去の原政権でも非常にレアなケースだ。一方でドラフト1位投手は故障に泣き、継続して成績を残した選手が少ないのも事実である(もちろん選手の責任だけでなく、原監督のブルペン運用にも一因はあるだろう)。それでも、横川や井上といった原監督時代に種を蒔いた若手投手たちが、阿部監督のチームで着実な成長の跡を見せているのは明るい材料だ。
頭が痛いのは野手で、21年に135試合で打率.274、12本塁打、37打点とブレイクした松原聖弥(16年育成5位)、22年の増田陸、昨季の門脇や秋広と1年活躍してもその後は急失速。なかなかレギュラー定着できていない。高卒2年目の浅野にすぐ1軍で結果を求めるのも酷だが、今の野手陣の控えの層の薄さの一因は、彼らの伸び悩みにあるのは間違いのないところだ。
第三次原政権を支えた坂本や丸佳浩も35歳。不動の四番岡本和真も近い将来のメジャー移籍が有力視されている。阿部巨人は、戸郷や山崎の若きダブルエースを原政権から引き継げた投手陣とは対照的に、野手では原巨人とはまた違う「新たな攻撃の軸を作る」ことを求められていると言えるのではないか。
今の巨人のファームで長距離砲タイプは育成外国人選手のティマぐらいで、今後数年のドラフト戦略も近未来のスラッガー発掘・育成が最優先事項である。皮肉にも、「守りの野球」を標榜する阿部監督の最大の仕事は、「攻めの野球」の再構築になるだろう。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)
原辰徳監督は2002年から2003年、2006年から2015年、そして2019年から2023年と計17シーズンの長期政権で9度のリーグ優勝、3度の日本一に輝いた。通算1291勝1025敗91分けと巨人歴代監督で最も勝った男でもある。一方で、90年代の長嶋巨人時代から続く、大型補強を繰り返しての勝利のイメージが強いだけにその手腕は賛否分かれている。
すでに巨人軍が阿部慎之助新監督のもとリスタートを切っている今だからこそ、過去になりつつある「原巨人」の本当の姿が見えてくるのではないか。果たして原野球は大型補強ありきだったのか? 原監督は本当に若手を育てられなかったのか? あの過剰なマスコミへのリップサービスやタツノリの顔芸は何を意味していたのか? 今回は「第三次原政権」のドラフト会議を振り返ってみよう(※選手の所属球団・成績はすべて2024年6月18日現在)。
◆ 2018年ドラフト会議
x 根尾 昂(内野手/大阪桐蔭高)
x 辰己涼介(外野手/立命館大)
1位 郄橋優貴(投手/八戸学院大)
2位 増田 陸(内野手/明秀日立高)
3位 直江大輔(投手/松商学園高)
4位 横川 凱(投手/大阪桐蔭高)
5位 松井義弥(内野手/折尾愛真高)
6位 戸郷翔征(投手/聖心ウルスラ高)
<育成枠>
1位 山下航汰(外野手/健大高崎高)
2位 平井快青(投手/岐阜第一高)
3位 沼田翔平(投手/旭川大高)
4位 黒田響生(内野手/敦賀気比高)
「のびのびと楽しみ、勝っては喜び、負けては悔しがる」と原辰徳が余裕すら感じさせる三度目の監督就任会見をしたのは、2018年10月23日のことだった。その2日後、ドラフト会議が行なわれ、巨人は根尾昂(中日)、辰己涼介(楽天)と2度クジを外し、3度目の1位指名選手が大学球界屈指のサウスポー高橋優貴だ。
原監督は高橋を1年目から先発で18試合に起用して19年は5勝7敗、防御率3.19。3年目の21年には11勝9敗、防御率3.39と左のエース格として定着するかに思われたが、その後は制球難に加え左ヒジの故障もあり低迷。育成選手を経て支配下復帰した23年は未勝利に終わり、今季も1軍登板はない。
2位の増田陸は22年に69試合で打率.250、5本塁打、16打点と強打の内野手としてアピールするも、23年は1軍出場なし。24年もいまだ無安打である。早いもので6年目の24歳、ファームで年下の選手も増えておりそろそろ1軍定着したいところだ。同じ高卒野手で言えば、育成1位の山下航汰はあのイチロー以来という27年ぶりの高卒新人でのファーム首位打者を獲得して将来を嘱望されたが、こちらも怪我に泣き、わずか3年で退団している。
3位の直江大輔は通算32登板(9先発)と原監督から定期的に与えられていたチャンスを生かせず、今季は1軍登板なし。4位横川凱は支配下復帰した昨季の20登板中16試合で先発起用され4勝に終わるも、今季は5試合(2先発)で1勝1敗、防御率1.38と今後の飛躍が期待される左腕のひとりだ。
そして、なによりこの年のドラフト最大の収穫が6位で戸郷翔征を指名できたことだろう。第三次原政権とともにプロのキャリアをスタートさせた戸郷は、19年9月21日のDeNA戦、リーグ優勝の懸かった大一番でプロ初登板・初先発デビューを飾り、2年目から先発ローテに定着する。22年には初の二ケタとなる12勝を挙げ、最多奪三振のタイトルも獲得。24年は自身初の開幕投手を務め、5月24日に甲子園の阪神戦でノーヒットノーランを達成するなど、いまや菅野智之から令和の巨人軍のエースの座を継承した。
伝統的に巨人の歴代エースはドラフト1位が務めるケースが多く、平成以降の投手陣を見ても斎藤雅樹、桑田真澄、槙原寛己の三本柱は全員高卒ドラ1。上原浩治、内海哲也も逆指名入団組だ。菅野も12年1位である。第三次原政権の5年間で、いわば巨人では異例とも言えるドラフト6位の戸郷をエースにまで育て上げた事実は、もっと評価されてもいいのではないだろうか。
◆ 2019年ドラフト会議
x 奥川恭伸(投/星稜高)
x 宮川 哲(投/東芝)
1位 堀田賢慎(投/青森山田高)
2位 太田 龍(投/JR東日本)
3位 菊田拡和(外/常総学院高)
4位 井上温大(投/前橋商高)
5位 山瀬慎之助(捕/星稜高)
6位 伊藤海斗(外/酒田南高)
<育成枠>
1位 平間隼人(内/徳島インディゴソックス)
2位 加藤壮太(外/埼玉武蔵ヒートベアーズ)
この年も奥川恭伸(ヤクルト)、宮川哲(ヤクルト)を立て続けにクジで逃し、堀田賢慎を1巡目で指名。堀田は1年目の開幕直後にトミー・ジョン手術を受け長いリハビリ生活に入り、オフには育成契約へ。支配下復帰した22年に8試合で先発すると2勝3敗、防御率6.29。今季は13登板(7先発)、3勝3敗1HP、防御率2.70と阿部体制で開花しつつある。
4位の井上温大も22年4先発、23年4先発と原監督時代に優先的にチャンスを与えられた左腕だ。昨季はイースタンで最多奪三振も、1軍の先発では一度も5回までもたず防御率10.95。だが、今季は12登板(3先発)、2勝4敗3HP、防御率3.74と便利屋的な立ち位置で存在感を見せている。若手投手の強化指定選手に関しては、原政権から阿部体制へ、いい形で共有・引き継ぎがされているのではないだろうか(野手は後述)。
◆ 2020年ドラフト会議
x 佐藤輝明(内/近畿大)
1位 平内龍太(投/亜細亜大)
2位 山崎伊織(投/東海大)
3位 中山礼都(内/中京大中京高)
4位 伊藤優輔(投/三菱パワー)
5位 秋広優人(内/二松学舎大付高)
6位 山本一輝(投/中京大)
7位 萩原 哲(捕/創価大)
<育成枠>
1位 岡本大翔(内/米子東高)
2位 喜多隆介(捕/京都先端科学大)
3位 笠島尚樹(投/敦賀気比)
4位 木下幹也(投/横浜高)
5位 前田研輝(捕/駒澤大)
6位 坂本勇人(捕/唐津商高)
7位 戸田懐生(投/四国IL徳島)
8位 阿部剣友(投/札幌大谷高)
9位 奈良木陸(投/筑波大)
10位 山粼友輔(投/福山大)
11位 保科広一(外/創価大)
12位 加藤 廉(内/東海大海洋学部)
気がつけば、日本の秋の風物詩となった巨人のクジ運のなさだが、またも佐藤輝明(阪神)を外し抽選10連敗となり、156キロ右腕の平内龍太を1位指名。平内は中継ぎとして2年目の22年に53登板。しかしその後、右ヒジの手術を行い育成選手を経て昨年5月に支配下復帰。4年目の今季は8登板で防御率0.90、今後は勝ちパターンのセットアッパーの座を奪いたい。
2位の山崎伊織は大学4年時に右ヒジのトミー・ジョン手術を受けており、ドラフト当時は「もっと下位で指名できたはず」と批判的な声も多々あったが、当初の予定通り2年目に1軍デビュー。3年目の23年に初の二ケタ勝利を挙げ、今季も5勝1敗、防御率1.57と戸郷や菅野と先発三本柱を形成するまでに成長した。
野手では3位で中山礼都を指名。「ポスト坂本」を見据えた高卒内野手で、若手強化選手として22年は50試合で打率.198、23年は78試合で打率.239と多くの出場機会を得たが、今季も打率.071と代打でも起用しづらく、レギュラー奪取にはやはり打撃力の向上が不可欠だろう。5位は同じく高卒の秋広優人。自主トレで中田翔(中日)に弟子入りした身長2メートルのロマン砲は、原監督からサザンオールスターズを歌いながらバットスイングをさせられるという謎の直接指導もあり、3年目の23年に121試合で打率.273、10本塁打、41打点とブレイク。しかし、原監督や師匠の中田がチームを去った今季は15試合で打率.242、本塁打・打点なしと苦しんでいる。外野守備や走塁面でときにボーンヘッドも目につくが、近未来の中軸として背番号55に懸かる期待は大きい。
◆ 2021年ドラフト会議
x 隅田知一郎(投/西日本工業大)
1位 翁田大勢(投/関西国際大)
2位 山田龍聖(投/JR東日本)
3位 赤星優志(投/日本大)
4位 石田隼都(投/東海大相模高)
5位 岡田悠希(外/法政大)
6位 代木大和(投/明徳義塾高)
7位 花田侑樹(投/広島新庄高)
<育成枠>
1位 鈴木大和(外/北海学園大)
2位 高田竜星(投/石川ミリオンスターズ)
3位 亀田啓太(捕/東海大)
4位 笹原操希(外/上田西高)
5位 鴨打瑛二(投/創成館高)
6位 菊地大稀(投/桐蔭横浜大)
7位 京本 眞(投/明豊高)
8位 富田 龍(投/四国学院大)
9位 川嵜陽仁(投/誉高)
10位 大津綾也(捕/北海高)
もはや息を吐くように隅田知一郎(西武)の抽選を外すも、翁田大勢を1巡目で指名。野球ファンの中でも知名度は決して高くはなかったが、これが結果的に会心の指名となる。大勢は原監督に開幕戦からクローザー起用されセーブを挙げると、150キロ台後半の剛速球を武器に守護神に定着。57試合、1勝3敗37セーブ、防御率2.05でチームでは2011年の沢村拓一(ロッテ)以来の新人王にも選出された。23年春のWBCでも日本代表のリリーフとして準々決勝から決勝まで3連投で世界一に貢献。ただ、ルーキーイヤーからWBCまでフル回転した代償は大きく、その後は右上肢のコンディション不良に苦しんだ。今季も7セーブを記録しているが、現在は右肩の違和感からの復帰を目指し二軍調整中である。
3位の赤星優志は大卒の即戦力右腕として1年目から13試合で先発起用され5勝5敗、翌23年も同じく5勝5敗だったが、防御率は4.04から3.39へと改善された。今季は11登板(5先発)で防御率2.95という成績だが、援護にも恵まれず開幕5連敗中。育成6位の菊地大稀は22年4月に早くも支配下登録されると、23年に50登板、4勝4敗1S、防御率3.40も今季はまだ1軍登板はない。ただ、イースタンでは14登板で防御率0.61、奪三振率12.27と結果を残しており、後半戦の逆襲が待たれる。
◆ 2022年ドラフト会議
1位 浅野 翔吾(外野手/高松商高)
2位 萩尾 匡也(外野手/慶応大)
3位 田中 千晴(投手/国学院大)
4位 門脇 誠(内野手/創価大)
5位 船迫 大雅(投手/西濃運輸)
<育成枠>
1位 松井 颯(投手/明星大学)
2位 田村 朋輝(投手/酒田南高)
3位 吉村 優聖歩(投手/明徳義塾高)
4位 中田 歩夢(内野手/東奥義塾高)
5位 相澤 白虎(内野手/桐蔭学園高)
6位 三塚 琉生(外野手/桐生第一高)
7位 大城 元(外野手/未来沖縄高)
8位 北村 流音(投手/桐生第一高)
9位 森本 哲星(投手/市立船橋高)
ついに1巡目で高校ナンバーワン外野手の浅野翔吾を引き当て抽選連敗ストップ。あまりの嬉しさから当たりクジに「やったぜ!! 巨人軍は待ってるぜ!」と昭和の熱血教師のようなメッセージを書いた原監督は、浅野を23年7月に1軍デビューさせると、8月の広島戦でプロ初アーチを記録。六大学の三冠王にも輝いた2位の萩尾匡也は1年目に打率.063とまったく1軍では通用しなかったが、今季はすでに45試合に出場、打率.222、2本塁打、12打点とパンチ力を秘めた打撃で外野定着を狙う。
昨季はリーグ最低のチーム防御率3.83という苦しい投手事情もあり、3位の田中千晴は1年目から30登板で防御率5.51。5位の26歳のオールドルーキー船迫大雅も36登板で防御率2.70。育成1位の松井颯は初登板初勝利と多くの新人が1軍のマウンドを経験した(それだけブルペンに不安を抱えていたわけだが……)。そして、原監督ラストイヤーの最大の置きみやげといえば、4位指名の門脇誠だろう。鉄壁の内野守備力に加え、前半は苦労した打撃も後半戦は打率3割2分台をマーク。この門脇の出現により、近年は故障がちだった坂本勇人の三塁転向に踏み切れた。ただ、今季の門脇は打率.205と打撃不振に陥り、ルーキーの泉口友汰と遊撃で併用されている。
さて、駆け足で第三次原政権のドラフトを振り返ってみたが、やはり高卒6位の戸郷と、右ヒジの手術直後ながら果敢に2位指名した山崎がエース格に成長していることは、長い球団史や過去の原政権でも非常にレアなケースだ。一方でドラフト1位投手は故障に泣き、継続して成績を残した選手が少ないのも事実である(もちろん選手の責任だけでなく、原監督のブルペン運用にも一因はあるだろう)。それでも、横川や井上といった原監督時代に種を蒔いた若手投手たちが、阿部監督のチームで着実な成長の跡を見せているのは明るい材料だ。
頭が痛いのは野手で、21年に135試合で打率.274、12本塁打、37打点とブレイクした松原聖弥(16年育成5位)、22年の増田陸、昨季の門脇や秋広と1年活躍してもその後は急失速。なかなかレギュラー定着できていない。高卒2年目の浅野にすぐ1軍で結果を求めるのも酷だが、今の野手陣の控えの層の薄さの一因は、彼らの伸び悩みにあるのは間違いのないところだ。
第三次原政権を支えた坂本や丸佳浩も35歳。不動の四番岡本和真も近い将来のメジャー移籍が有力視されている。阿部巨人は、戸郷や山崎の若きダブルエースを原政権から引き継げた投手陣とは対照的に、野手では原巨人とはまた違う「新たな攻撃の軸を作る」ことを求められていると言えるのではないか。
今の巨人のファームで長距離砲タイプは育成外国人選手のティマぐらいで、今後数年のドラフト戦略も近未来のスラッガー発掘・育成が最優先事項である。皮肉にも、「守りの野球」を標榜する阿部監督の最大の仕事は、「攻めの野球」の再構築になるだろう。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)