インフラのFTTH転換を進めモバイルも伸長、テレビサービスから事業を広げるJ:COMが新経営方針を発表
JCOM株式会社(J:COM)は6月6日、2024年度の経営方針説明会を開催しました。登壇した代表取締役社長の岩木陽一氏からは、ビジネスブランド「J:COM BUSINESS」の設立、カーボンニュートラル達成の2030年度への前倒し、2027年度に売上1兆円超を目指す中期経営計画などが発表されました。
代表取締役社長の岩木陽一氏
○2023年度の連結業績は営業収益/営業利益とも順調
J:COMは2022年に現在の経営体制となってから、「成長志向への転換」「事業変革」「経営基盤強化」「新中期経営計画策定(2024)」の4点を経営方針として掲げてきました。その方針のもとでの2023年度(2024年3月期)の業績は、営業収益が前期比7.7%増の8,288億円、営業利益が5.2%増の1,175億円。営業利益が5%超の伸びとなったのは6期ぶりとのことで、まずは順調な事業進捗といえるようです。
2022年からの経営方針
2023年度の連結業績ハイライト
直近の業績推移
その好調の要因としては、固定インターネットサービスの伸長を挙げました。J:COMというと「ケーブルテレビの会社」というイメージもありますが、ケーブルテレビのインフラを活用したインターネット接続サービスも大きな割合を占めています。2021年から、インターネット接続サービスの「J:COM NET」を軸として販売を行う体制にシフトした結果、回線数が順調に増加。2024年3月末時点で加入者数は434万回線となっています。
インフラについては従来のHFC(同軸ケーブル)からFTTH(光ファイバー)に転換するという方針を2023年3月から打ち出しており、自社回線の転換だけでなく、さらに自社インフラの導入が難しい集合住宅においてはKDDI/NTTの卸回線も利用し、光インターネット接続サービスを提供していくといいます。卸回線の活用は全国展開も可能ですが、卸回線のネットサービスを利用してもらうだけでは利益が出ないため、テレビサービスなどを利用してもらってそこで利益を出せるエリアで展開する方針とのことです。
インターネット接続サービスの回線数推移
自社インフラのFTTH転換に加え、他社の卸回線も利用してFTTH化を進める方針
またMVNOサービスの「J:COM MOBILE」も好調とのこと。累計回線数は2023年度時点では70万回線となっています。「J:COM MOBILE」の加入者の多くが固定回線/ケーブルテレビのバンドル特典「データ盛」を利用しているそうで、複数サービスのシナジーが発揮されているといえます。リテンション効果もみられており、モバイル加入者はネットサービスの解約率が大きく下がっているそう。現在のJ:COMの契約が400万契約あるのに対してモバイル回線は70万回線なので、まだ成長余地があるとみているようです。J:COM加入世帯でのモバイル加入率アップが優先課題となるため、まずは個人需要をターゲットに拡大を図っていく方針のようです。
モバイルサービス「C:COM MOBILE」の回線数推移
映像サービスについても2023年度はいくつかの新しい取り組みをしています。そのひとつがワーナー・ブラザースとの提携。この提携に基づき、2024年7月以降、映画専門チャンネル「ムービープラス」内にワーナー・ブラザースの専門枠が設けられ、「ハリー・ポッター」シリーズや「バットマン ダークナイト」3部作、「オーシャンズ」シリーズなどの人気作品が放送されることになっています。
ワーナー・ブラザースとの提携
2024年7月にムービープラスで「ワーナー・ブラザース劇場」がスタート
もうひとつが、放送と配信をワンプラットフォームで提供する「シン・スタンダード」です。2023年10月に提供開始となったこのサービスは、J:COMの42の専門チャンネルによるテレビ放送と、「J:COM STREAM」(旧メガパック)と「Paramount+」の動画配信をまとめてJ:COMのSTBで提供するというもの。同社では「シン・スタンダード」導入後の放送・配信の視聴傾向についてデータをとっており、導入後は放送の視聴時間が減ることなく配信の視聴が伸びているそうです。
放送と配信をワンプラットフォームで提供する「シン・スタンダード」
「シン・スタンダード」導入後の放送・配信の視聴傾向。放送の視聴時間が大きく減ることはなく、配信の視聴が伸びています
また2023年の映像サービスのトピックとして、WBC「侍ジャパン」映画の制作、スポーツチャンネル「J SPORTS」の配信強化なども紹介されました。
侍ジャパンのドキュメンタリー映画『憧れを超えた侍たち 世界一への記憶』は、劇場公開がロングラン上映となっただけでなく、ブルーレイディスクもスポーツジャンルの歴代1位となる9万枚を売り上げるなど好評でした
スポーツチャンネル「J SPORTS」は、自社のオンデマンド配信に加え、Prime Video/ABEMA TVでの配信も行っています
こういったインターネット・映像関連以外でも、さまざまな取り組みを行っています。加入者の同意を得て行っているデータ活用では、視聴データによる広告効果測定を新たに開始。地域課題の解決への取り組みとしては、防災・防犯事例を紹介する番組「こちらJ:COM安心安全課」の放送が2023年8月にスタートしました。
データ活用の取り組み
こちらJ:COM安心安全課
KDDIのケーブル事業の承継、オンライン診療サービスへの取り組み、地域の移動手段提供の実証実験、スマホ保険、auじぶん銀行とのコラボレーション、ショップチャンネルの変革なども進めています。
2024年1月にKDDIのケーブルテレビ事業を継承しています
オンライン診療サービスは「まだ普及には至っていない」といいつつも、基盤整備を進めているそうです
J:COMスタッフの業務時の移動によって蓄積した運行データを活用して地域の移動手段を効率化する実証実験を行いました
他社の回線サービスを利用していても加入できるスマホ保険「家族のスマホ保険」は2万件以上の加入者があったそうです
auじぶん銀行とのコラボレーションでJ:COM加入者向けの優遇が設定されています
通販チャンネル「ショップチャンネル」ではさまざまな改善を行っています。Web/アプリをはじめテレビ以外の接点を強化し、6期ぶりの増収増益を達成しました
ネガティブな話題として、中小企業庁が行っている「価格交渉促進月間」のフォローアップ調査において、下請け企業との価格交渉に後ろ向きな企業であるとの結果が公表された件についても言及されました。「価格交渉などにおいては真摯に対応しており、価格転嫁も行ってきてはいるが、取引先からはそのように評価していただけていなかった」「我々からお取引先様への働きかけが不十分であった」とし、取引適正化に向けての取り組みを行っていることを紹介。よりよいパートナーシップの構築に努めていくと語りました。
取引適正化に向け、3つの取り組みを行っているそうです
○2030年を目指して「サステナビリティ経営方針」を策定
ここからが今後についての話となります。同社では、2030年にJ:COMが目指す姿を定め、そこへ至るために何をすべきかを「サステナビリティ経営方針」としました。そしてそこに向けた具体的な行動計画として、2024年度〜2027年度の3年間の中期経営計画を策定しています。具体的な課題は「暮らし」「地域社会」「地球環境」「人」の4領域それぞれについて設定しました。
「2030年にJ:COMが目指す姿」から逆算し、現在のJ:COMとの間のギャップをどう埋めるかを「サステナビリティ経営方針」で示しています。その具体的な形が中期経営方針となります
J:COMの企業理念体系。最上位に位置する企業理念「J:COM WAY」、ブランドメッセージ「あたらしいを、あたりまえに」は変わりませんが、その下のレイヤーを刷新しています
具体的な重要課題は「暮らし」「地域社会」「地球環境」「人」の4領域それぞれについて設定。それをさらに具体化したものが「サブマテリアリティ」です
この課題を解決するための取り組みもいくつか紹介されました。まず「地球環境」の「脱炭素社会の実現への挑戦」については、2022年に設定した「カーボンニュートラルの2050年達成」という目標を「2030年達成」へ大幅に前倒し。これは省エネルギー施策と再生エネルギー施策の2軸で実施されます。
カーボンニュートラル達成目標を2030年に前倒し
カーボンニュートラル達成に向けたグリーンエネルギー戦略
「地域社会」の「安心安全な街づくり」については、自治体・団体との防災協定/防犯協定の締結を進めています。すでに防災協定は221自治体と、防犯協定は89団体と締結済み。これに加えて日常/発災時の情報発信、防犯カメラサービスなどの提供、義援金の提供などの人的・物的支援を行っていきます。先に2023年度の取り組みとして紹介された「こちらJ:COM安心安全課」も、この課題解決の一環。また日本赤十字社/NHKとの連携を強化し、それぞれの特性を生かした情報発信を行います。
安心安全な街づくりのための取り組み
情報発信雄ためのパートナーとの連携も強化します
「暮らし」「人」領域における取り組みのひとつとしては、パラスポーツ普及・発展の支援が挙げられました。2024年にはパラアスリートを応援する番組「パラスポチアーズ!」がスタート。3大会連続となる、「パリ 2024 パラリンピック」の放送も決定しています。
パラスポーツ普及・発展の支援
「パリ 2024 パラリンピック」の放送も決定
さらに「人」領域では、「J:COMグループ人権方針」を策定しました。社外のステークホルダーと従業員の双方に、人権尊重の責任を果たしていくことを定めたものになっています。従業員のウェルビーイング向上のための施策として、フェムテックの取り組み、社内FA/社内公募/積立年休といった制度も設けられています。
「J:COMグループ人権方針」の策定
ウェルビーイング実現のためのさまざまな取り組み
こういった経営方針・課題解決を踏まえ、2024年度から2027年度の中期経営計画では、2027年度の売上高1兆円超、営業利益成長率年平均5%という定量目標を設定しました。「暮らしや社会の変化・進化に貢献する企業へ」という基本方針のもと、構造改革/事業変革/事業領域拡張/経営基盤強化に取り組んでいくという計画です。その成長戦略は、事業領域をテレビサービスを中心とする「既存事業」、光インターネットなどの「周辺事業」、放送・通信の枠を超えた「新規事業領域」の3つに分け、まずは周辺領域の拡大により中長期の成長を実現するというものになっています。
中期経営計画における売上高・営業利益成長率の定量計画
中期経営計画の基本方針
成長戦略は事業領域を3段階に区分します。伸びしろがあるのは周辺事業の領域だといいます
周辺領域にあたる固定インターネットサービスで事業変革を図るにあたってポイントとなるのが、FTTH化です。現在のJ:COMのインフラではHFCの占める割合が大きいのですが、末端までJ:COMの回線が到達しているので申し込みから短時間でネットワークを開通させることができます。現在、関西エリアでは、申し込みがありしだいHFCでサービスを開通させ、追ってFTTHの工事を行って光インターネットサービスを提供するという試みも行っているそうです。これを全国にも広げるなどして、2027年には戸建てのFTTH化率50%を目指していきます。
J:COMの強みをいかしつつFTTH化を進める方針
2027年には戸建てのFTTH化率50%を目指します
既存領域すなわちテレビサービスでは、先述の「シン・スタンダード」へ、現在の「Paramount+」のような配信サービスとの連携を強化するべく海外のコンテンツ保有者との交渉を行っているとのこと。また提携パートナーとの環境強化も進めていくとしています。
テレビサービスは「シン・スタンダード」の強化で価値向上を図っていきます
周辺領域ではこのほか、法人事業ブランド「JCOM BUSINESS」も始動させます。KDDIからの事業承継で広がったビジネスパートナー、地域の企業や自治体に向けて物販やソリューション提供を強化するものとなります。
J:COM BUSINESS
生成AI活用の取り組みも行っています。現在はトライアルとして、カスタマーセンターでの応対履歴の要約作成でGoogle CloudのAI活用を図っており、正確な記録と入力時間の短縮、さらには応対内容の評価・コーチングなども行えているそうです。今後はインテントの抽出やBOT/サポートサイト構築などにも拡大できるのではないかということでさらなる活用領域を検討しているそうです。
生成AI活用の取り組み
最後に新領域としては、「Life-暮らし」「Entertainment-たのしみ」「Local-地域・社会」の3領域がターゲットになります。「Life-暮らし」の金融領域では、J:COMのサービスに介護を組み合わせた「あんしん介護プラン」を開始したばかり。さらに新規のサービスも検討しているそうです。「Local-地域」領域では契約者宅で発電したグリーン電力の買取など行います。「Entertainment-たのしみ」の領域では、2024年10月スタートのバレーボール新リーグ「大同生命SV.LEAGUE」の全試合をJ SPORTSオンデマンドでライブ配信することが発表されました。
新規領域は「Life」「Entertainment」「Local」の3領域で考えています
金融領域の新たなサービス
グリーン電力はカーボンニュートラル達成も視野に入れています
大同生命SV.LEAGUEの独占LIVE配信も決定
○一斉値上げは検討していないと明言も、地域各社個別の価格改定は否定せず
プレゼンテーションを受けての質疑応答では、公共料金などが値上がり基調の中、J:COMの各種料金の改定についての質問がありました。CATVの料金改定は監督官庁の認可が不要なので必要とあれば企業判断で実施できるそうですが、現在のところJ:COM全体で一斉値上げのようなことは考えていないと明言。ただし、地域各社がそれぞれの状況に合わせて価格改定を行うことは否定しておらず、海外から調達している端末などにはやはり円安の影響が出ており、そういったところでは何らかの対応を行う可能性はあるようです。
質疑応答には代表取締役会長の芳賀敏氏も同席しました
賃貸住宅向けの営業活動は、個々の入居者への営業からオーナーへの営業に舵をきっており、棟単位でサービスを提供することに力を入れているといいます。
また、宅内での端末の高速化についてもその重要性は意識しているようで、2024年度末か2025年度にはWi-Fi 7対応端末の提供開始を予定しているそうです。
J:COMの経営方針説明会は基本的に年1回開催されていましたが、2023年度は複数の個別の発表会があったために経営方針説明会という形では開催されておらず、2年ぶりの開催でした。それだけに発表内容は多岐にわたり、もりだくさんの経営方針説明となりました。
中期経営計画のサマリー
2030年に目指す姿
代表取締役社長の岩木陽一氏
○2023年度の連結業績は営業収益/営業利益とも順調
2022年からの経営方針
2023年度の連結業績ハイライト
直近の業績推移
その好調の要因としては、固定インターネットサービスの伸長を挙げました。J:COMというと「ケーブルテレビの会社」というイメージもありますが、ケーブルテレビのインフラを活用したインターネット接続サービスも大きな割合を占めています。2021年から、インターネット接続サービスの「J:COM NET」を軸として販売を行う体制にシフトした結果、回線数が順調に増加。2024年3月末時点で加入者数は434万回線となっています。
インフラについては従来のHFC(同軸ケーブル)からFTTH(光ファイバー)に転換するという方針を2023年3月から打ち出しており、自社回線の転換だけでなく、さらに自社インフラの導入が難しい集合住宅においてはKDDI/NTTの卸回線も利用し、光インターネット接続サービスを提供していくといいます。卸回線の活用は全国展開も可能ですが、卸回線のネットサービスを利用してもらうだけでは利益が出ないため、テレビサービスなどを利用してもらってそこで利益を出せるエリアで展開する方針とのことです。
インターネット接続サービスの回線数推移
自社インフラのFTTH転換に加え、他社の卸回線も利用してFTTH化を進める方針
またMVNOサービスの「J:COM MOBILE」も好調とのこと。累計回線数は2023年度時点では70万回線となっています。「J:COM MOBILE」の加入者の多くが固定回線/ケーブルテレビのバンドル特典「データ盛」を利用しているそうで、複数サービスのシナジーが発揮されているといえます。リテンション効果もみられており、モバイル加入者はネットサービスの解約率が大きく下がっているそう。現在のJ:COMの契約が400万契約あるのに対してモバイル回線は70万回線なので、まだ成長余地があるとみているようです。J:COM加入世帯でのモバイル加入率アップが優先課題となるため、まずは個人需要をターゲットに拡大を図っていく方針のようです。
モバイルサービス「C:COM MOBILE」の回線数推移
映像サービスについても2023年度はいくつかの新しい取り組みをしています。そのひとつがワーナー・ブラザースとの提携。この提携に基づき、2024年7月以降、映画専門チャンネル「ムービープラス」内にワーナー・ブラザースの専門枠が設けられ、「ハリー・ポッター」シリーズや「バットマン ダークナイト」3部作、「オーシャンズ」シリーズなどの人気作品が放送されることになっています。
ワーナー・ブラザースとの提携
2024年7月にムービープラスで「ワーナー・ブラザース劇場」がスタート
もうひとつが、放送と配信をワンプラットフォームで提供する「シン・スタンダード」です。2023年10月に提供開始となったこのサービスは、J:COMの42の専門チャンネルによるテレビ放送と、「J:COM STREAM」(旧メガパック)と「Paramount+」の動画配信をまとめてJ:COMのSTBで提供するというもの。同社では「シン・スタンダード」導入後の放送・配信の視聴傾向についてデータをとっており、導入後は放送の視聴時間が減ることなく配信の視聴が伸びているそうです。
放送と配信をワンプラットフォームで提供する「シン・スタンダード」
「シン・スタンダード」導入後の放送・配信の視聴傾向。放送の視聴時間が大きく減ることはなく、配信の視聴が伸びています
また2023年の映像サービスのトピックとして、WBC「侍ジャパン」映画の制作、スポーツチャンネル「J SPORTS」の配信強化なども紹介されました。
侍ジャパンのドキュメンタリー映画『憧れを超えた侍たち 世界一への記憶』は、劇場公開がロングラン上映となっただけでなく、ブルーレイディスクもスポーツジャンルの歴代1位となる9万枚を売り上げるなど好評でした
スポーツチャンネル「J SPORTS」は、自社のオンデマンド配信に加え、Prime Video/ABEMA TVでの配信も行っています
こういったインターネット・映像関連以外でも、さまざまな取り組みを行っています。加入者の同意を得て行っているデータ活用では、視聴データによる広告効果測定を新たに開始。地域課題の解決への取り組みとしては、防災・防犯事例を紹介する番組「こちらJ:COM安心安全課」の放送が2023年8月にスタートしました。
データ活用の取り組み
こちらJ:COM安心安全課
KDDIのケーブル事業の承継、オンライン診療サービスへの取り組み、地域の移動手段提供の実証実験、スマホ保険、auじぶん銀行とのコラボレーション、ショップチャンネルの変革なども進めています。
2024年1月にKDDIのケーブルテレビ事業を継承しています
オンライン診療サービスは「まだ普及には至っていない」といいつつも、基盤整備を進めているそうです
J:COMスタッフの業務時の移動によって蓄積した運行データを活用して地域の移動手段を効率化する実証実験を行いました
他社の回線サービスを利用していても加入できるスマホ保険「家族のスマホ保険」は2万件以上の加入者があったそうです
auじぶん銀行とのコラボレーションでJ:COM加入者向けの優遇が設定されています
通販チャンネル「ショップチャンネル」ではさまざまな改善を行っています。Web/アプリをはじめテレビ以外の接点を強化し、6期ぶりの増収増益を達成しました
ネガティブな話題として、中小企業庁が行っている「価格交渉促進月間」のフォローアップ調査において、下請け企業との価格交渉に後ろ向きな企業であるとの結果が公表された件についても言及されました。「価格交渉などにおいては真摯に対応しており、価格転嫁も行ってきてはいるが、取引先からはそのように評価していただけていなかった」「我々からお取引先様への働きかけが不十分であった」とし、取引適正化に向けての取り組みを行っていることを紹介。よりよいパートナーシップの構築に努めていくと語りました。
取引適正化に向け、3つの取り組みを行っているそうです
○2030年を目指して「サステナビリティ経営方針」を策定
ここからが今後についての話となります。同社では、2030年にJ:COMが目指す姿を定め、そこへ至るために何をすべきかを「サステナビリティ経営方針」としました。そしてそこに向けた具体的な行動計画として、2024年度〜2027年度の3年間の中期経営計画を策定しています。具体的な課題は「暮らし」「地域社会」「地球環境」「人」の4領域それぞれについて設定しました。
「2030年にJ:COMが目指す姿」から逆算し、現在のJ:COMとの間のギャップをどう埋めるかを「サステナビリティ経営方針」で示しています。その具体的な形が中期経営方針となります
J:COMの企業理念体系。最上位に位置する企業理念「J:COM WAY」、ブランドメッセージ「あたらしいを、あたりまえに」は変わりませんが、その下のレイヤーを刷新しています
具体的な重要課題は「暮らし」「地域社会」「地球環境」「人」の4領域それぞれについて設定。それをさらに具体化したものが「サブマテリアリティ」です
この課題を解決するための取り組みもいくつか紹介されました。まず「地球環境」の「脱炭素社会の実現への挑戦」については、2022年に設定した「カーボンニュートラルの2050年達成」という目標を「2030年達成」へ大幅に前倒し。これは省エネルギー施策と再生エネルギー施策の2軸で実施されます。
カーボンニュートラル達成目標を2030年に前倒し
カーボンニュートラル達成に向けたグリーンエネルギー戦略
「地域社会」の「安心安全な街づくり」については、自治体・団体との防災協定/防犯協定の締結を進めています。すでに防災協定は221自治体と、防犯協定は89団体と締結済み。これに加えて日常/発災時の情報発信、防犯カメラサービスなどの提供、義援金の提供などの人的・物的支援を行っていきます。先に2023年度の取り組みとして紹介された「こちらJ:COM安心安全課」も、この課題解決の一環。また日本赤十字社/NHKとの連携を強化し、それぞれの特性を生かした情報発信を行います。
安心安全な街づくりのための取り組み
情報発信雄ためのパートナーとの連携も強化します
「暮らし」「人」領域における取り組みのひとつとしては、パラスポーツ普及・発展の支援が挙げられました。2024年にはパラアスリートを応援する番組「パラスポチアーズ!」がスタート。3大会連続となる、「パリ 2024 パラリンピック」の放送も決定しています。
パラスポーツ普及・発展の支援
「パリ 2024 パラリンピック」の放送も決定
さらに「人」領域では、「J:COMグループ人権方針」を策定しました。社外のステークホルダーと従業員の双方に、人権尊重の責任を果たしていくことを定めたものになっています。従業員のウェルビーイング向上のための施策として、フェムテックの取り組み、社内FA/社内公募/積立年休といった制度も設けられています。
「J:COMグループ人権方針」の策定
ウェルビーイング実現のためのさまざまな取り組み
こういった経営方針・課題解決を踏まえ、2024年度から2027年度の中期経営計画では、2027年度の売上高1兆円超、営業利益成長率年平均5%という定量目標を設定しました。「暮らしや社会の変化・進化に貢献する企業へ」という基本方針のもと、構造改革/事業変革/事業領域拡張/経営基盤強化に取り組んでいくという計画です。その成長戦略は、事業領域をテレビサービスを中心とする「既存事業」、光インターネットなどの「周辺事業」、放送・通信の枠を超えた「新規事業領域」の3つに分け、まずは周辺領域の拡大により中長期の成長を実現するというものになっています。
中期経営計画における売上高・営業利益成長率の定量計画
中期経営計画の基本方針
成長戦略は事業領域を3段階に区分します。伸びしろがあるのは周辺事業の領域だといいます
周辺領域にあたる固定インターネットサービスで事業変革を図るにあたってポイントとなるのが、FTTH化です。現在のJ:COMのインフラではHFCの占める割合が大きいのですが、末端までJ:COMの回線が到達しているので申し込みから短時間でネットワークを開通させることができます。現在、関西エリアでは、申し込みがありしだいHFCでサービスを開通させ、追ってFTTHの工事を行って光インターネットサービスを提供するという試みも行っているそうです。これを全国にも広げるなどして、2027年には戸建てのFTTH化率50%を目指していきます。
J:COMの強みをいかしつつFTTH化を進める方針
2027年には戸建てのFTTH化率50%を目指します
既存領域すなわちテレビサービスでは、先述の「シン・スタンダード」へ、現在の「Paramount+」のような配信サービスとの連携を強化するべく海外のコンテンツ保有者との交渉を行っているとのこと。また提携パートナーとの環境強化も進めていくとしています。
テレビサービスは「シン・スタンダード」の強化で価値向上を図っていきます
周辺領域ではこのほか、法人事業ブランド「JCOM BUSINESS」も始動させます。KDDIからの事業承継で広がったビジネスパートナー、地域の企業や自治体に向けて物販やソリューション提供を強化するものとなります。
J:COM BUSINESS
生成AI活用の取り組みも行っています。現在はトライアルとして、カスタマーセンターでの応対履歴の要約作成でGoogle CloudのAI活用を図っており、正確な記録と入力時間の短縮、さらには応対内容の評価・コーチングなども行えているそうです。今後はインテントの抽出やBOT/サポートサイト構築などにも拡大できるのではないかということでさらなる活用領域を検討しているそうです。
生成AI活用の取り組み
最後に新領域としては、「Life-暮らし」「Entertainment-たのしみ」「Local-地域・社会」の3領域がターゲットになります。「Life-暮らし」の金融領域では、J:COMのサービスに介護を組み合わせた「あんしん介護プラン」を開始したばかり。さらに新規のサービスも検討しているそうです。「Local-地域」領域では契約者宅で発電したグリーン電力の買取など行います。「Entertainment-たのしみ」の領域では、2024年10月スタートのバレーボール新リーグ「大同生命SV.LEAGUE」の全試合をJ SPORTSオンデマンドでライブ配信することが発表されました。
新規領域は「Life」「Entertainment」「Local」の3領域で考えています
金融領域の新たなサービス
グリーン電力はカーボンニュートラル達成も視野に入れています
大同生命SV.LEAGUEの独占LIVE配信も決定
○一斉値上げは検討していないと明言も、地域各社個別の価格改定は否定せず
プレゼンテーションを受けての質疑応答では、公共料金などが値上がり基調の中、J:COMの各種料金の改定についての質問がありました。CATVの料金改定は監督官庁の認可が不要なので必要とあれば企業判断で実施できるそうですが、現在のところJ:COM全体で一斉値上げのようなことは考えていないと明言。ただし、地域各社がそれぞれの状況に合わせて価格改定を行うことは否定しておらず、海外から調達している端末などにはやはり円安の影響が出ており、そういったところでは何らかの対応を行う可能性はあるようです。
質疑応答には代表取締役会長の芳賀敏氏も同席しました
賃貸住宅向けの営業活動は、個々の入居者への営業からオーナーへの営業に舵をきっており、棟単位でサービスを提供することに力を入れているといいます。
また、宅内での端末の高速化についてもその重要性は意識しているようで、2024年度末か2025年度にはWi-Fi 7対応端末の提供開始を予定しているそうです。
J:COMの経営方針説明会は基本的に年1回開催されていましたが、2023年度は複数の個別の発表会があったために経営方針説明会という形では開催されておらず、2年ぶりの開催でした。それだけに発表内容は多岐にわたり、もりだくさんの経営方針説明となりました。
中期経営計画のサマリー
2030年に目指す姿