「前立腺がんの治療方法」はご存知ですか?転移・再発した場合の治療法も解説!
前立腺がんには、手術療法、放射線療法、薬物治療、化学療法などがありますが、どのような違いがあるのでしょうか?
本記事では、前立腺がんの治療法について、以下の点を中心にご紹介します。
・前立腺がんとは
・前立腺がんの治療法
・手術後の合併症への治療法
前立腺がんの治療法について理解するためにも、ご参考いただけると幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科
前立腺がんとは
前立腺がんは、前立腺の異常な細胞増殖によって生じる悪性腫瘍ですが、早期発見すれば治癒可能な疾患です。多くの場合、進行は緩慢であり、リンパ節や骨へ転移しますが、肺や肝臓への転移も起こります。中には進行が遅く寿命に影響しないとされるものもあり、死後に初めて発見される「ラテントがん」と呼ばれるケースも存在します。
前立腺がんの病期分類
前立腺がんの病期分類は、主にTNM分類というシステムに基づいており、腫瘍のサイズやリンパ節への転移、遠隔転移の有無などを考慮します。以下で病期分類について詳しく解説します。
病期A
病期Aの前立腺がんは、良性の前立腺肥大症の手術やほかの臓器の手術したときに、偶然発見されることがあります。手術や放射線療法によって、この段階の前立腺がんを根治的治療ができる可能性が高いとされています。
病期B
病期Bの前立腺がんは、がんが前立腺内に限局している段階を指します。この段階では、直腸診を通じてがんが診断されることもあります。病期Bの段階では、症状がほとんどない場合もあります。適切な治療をすることで、治癒できるとされています。
病期C
前立腺がんの病期Cは、がんが前立腺の外側に広がりつつも、まだ遠隔転移は起こしていません。この段階では、排尿の困難や血尿などの症状が現れることがあります。治療法としては、ホルモン療法や放射線療法が主に用いられ、ときには組み合わせて行うこともあります。
病期D
前立腺がんの病期Dは、がんがリンパ節や骨、肺、肝臓など遠隔の臓器に転移している進行段階を示します。この段階では、排尿困難、特定部位の痛み、倦怠感、体重減少などの複数の症状が現れます。治療法としては、ホルモン療法が主軸となりつつ、状況に応じて放射線療法や化学療法も適用されることがあります。
前立腺がんの治療法
以下で前立腺がんの治療法について詳しく解説します。
手術療法
前立腺がんの治療において、手術療法はがんが前立腺内にある、あるいは前立腺の外側にわずかに広がっているが遠隔転移は見られない場合に適用されます。手術療法では、前立腺全体と精嚢を摘出し、膀胱と尿道を再接続します。場合によっては、がんの拡散をチェックするため前立腺周囲のリンパ節を除去するリンパ節郭清も行われます。手術法には、従来の開腹手術のほかに、腹腔鏡手術やロボット支援手術があります。
手術によっておこるリスクには、勃起障害(ED)や尿失禁があります。尿失禁については多くの場合、時間と共に改善していきますが、勃起障害については残ってしまう場合が大半です。
放射線療法
放射線療法は前立腺がん治療において、手術療法に代わる根治的な治療法です。この療法は、高エネルギー放射線を利用してがん細胞を破壊し、がんの成長を抑えることを目的としています。主に体外から放射線を照射する外照射療法と、前立腺内に放射性物質を直接挿入する組織内照射療法の二種類があります。
外照射療法では、強度変調放射線療法(IMRT)などの先進技術を用いて、正確にがん組織を、周囲の正常組織への影響を抑えます。組織内照射では、小線源永久挿入療法や高線量率組織内照射があり、放射線を集中できる利点があります。治療方法の選択は、副作用のリスクと期待できる効果を総合的に考慮して担当医と相談して、決定されます。
薬物治療
前立腺がんの薬物治療には、主に内分泌療法があり、前立腺がんの成長に必要な男性ホルモン(アンドロゲン)の作用を抑制することでがんの進行を遅らせる治療法です。治療には、アンドロゲンの生産を下げる注射薬と、アンドロゲンの作用を阻害する内服薬を使用します。
また、進行性や再発性の前立腺がんに対しては、アンドロゲン合成を阻害する薬も選択されます。副作用にはホットフラッシュ、性機能障害、乳房の症状などがあり、治療選択はがんの状態や患者さんの健康を考慮して決定されます。内分泌治療は、特に早期のがんや手術・放射線治療後の補助療法として、または転移性がんの治療として重要な役割を果たします。
化学療法
化学療法は、がん細胞の増殖を抑制する薬を使用して前立腺がんを治療する方法です。特に内分泌療法に反応しなくなった、いわゆる去勢抵抗性前立腺がんの患者さんに対して適しており、転移を伴う場合にも適用されます。
化学療法は副作用を伴うことがあり、食欲不振、脱毛、手足のしびれ、骨髄抑制などが挙げられます。治療には、短期間の入院を要しますが、患者さんの状態や具体的な治療計画に応じて、外来での治療が行われる場合もあります。化学療法は、前立腺がん治療の選択肢の中で、進行がんや転移があるがんに対して重要な役割を担っています。
手術後の合併症への治療法
前立腺がんの手術後に起こる可能性がある合併症について以下で解説します。
尿失禁
尿失禁の治療法としては、まず骨盤底筋体操が推奨されます。これにより、骨盤底筋を強化し、尿道括約筋の機能を向上できます。また、尿道括約筋の機能をサポートする薬物療法が適している場合もあります。
この治療法で改善が見られない場合、人工尿道括約筋の挿入を含む外科手術が考慮されることもあります。適切な治療をすることで改善されますが、症状が続く場合は、主治医との相談が重要です。
性機能障害
性機能障害の治療法としては、PDE5阻害薬などの薬物療法、陰茎プロテーゼの挿入、心理的サポートやカップルセラピーなどがあり、症状や個人の状況に応じて適切な方法が選択されます。
転移・再発した場合の治療法
転移・再発した場合にはどのような治療法があるのでしょうか?以下で解説します。
転移
前立腺がんが骨、肺、リンパ節など遠隔の場所に転移した場合、内分泌療法や化学療法が中心となり、特に骨転移にはゾレドロン酸やデノスマブといった骨吸収抑制剤を用いた治療をします。また、放射線療法も転移部位に対して痛みを軽減させる手段として利用されることがあります。
さらに、去勢抵抗性の場合には、エンザルタミドやアビラテロン酢酸エステルといった新しい世代の薬物治療をします。
各治療法は、患者さんの病状や全体的な健康状態、既存の治療への反応などを考慮して選択されます。
再発
前立腺がんの再発が疑われるときの治療選択は、以前受けた治療の種類やがんの特性によって異なります。手術後再発した場合、放射線治療や内分泌療法で治療します。
放射線治療を受けた患者さんでの再発は、経過観察や内分泌療法が考慮されることがあります。
内分泌療法を受けた患者さんでは、異なる内分泌療法への変更や化学療法の導入が検討されます。症状の緩和が必要な場合、それに対処する治療も並行して行われます。
再発した前立腺がんの治療は、患者さんの健康状態、がんの特性、および前の治療からの経過時間など、多くの要因を考慮して決定されます。
前立腺がんの治療についてよくある質問
ここまで前立腺がんの治療や治療後に気を付けることなどを紹介しました。ここでは「前立腺がんの治療」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
前立腺がんを診断するにはどのような検査をしますか?
村上 知彦(医師)
前立腺がんの診断は、主にPSA検査と直腸診により行われます。PSA検査は血液中のPSA値を調べ、前立腺がんの可能性を調べ、直腸診は前立腺の状態を確認します。この検査でがんが疑われる場合、経直腸エコーと前立腺生検が行われます。さらに、がんの広がりや転移の有無は、CT検査やMRI検査、骨シンチグラフィ検査などの画像診断で調べられます。この検査は、前立腺がんの早期発見と診断に不可欠です。
前立腺がんの予後について教えてください。
<村上 知彦(医師)
前立腺がんの予後は、ステージIからIIIの患者さんの5年相対生存率は90%を超え、ステージIVの患者さんでは約60%、手術を受けた患者さんでは、ステージIVでも生存率が約80%となっています。
まとめ
ここまで前立腺がんの治療についてお伝えしてきました。前立腺がんの治療についての要点をまとめると以下の通りです。
⚫︎まとめ
・前立腺がんは、前立腺の異常な細胞増殖によって生じる悪性腫瘍のこと
・前立腺がんの治療法は手術、放射線療法、薬物治療、化学療法があり、手術は前立腺と精嚢の摘出、放射線療法はがん細胞の破壊、薬物治療は男性ホルモンの抑制、化学療法はがん細胞の増殖抑制を目的としている
・前立腺がん手術後の合併症として尿失禁と性機能障害があり、尿失禁は骨盤底筋体操や薬物療法、必要に応じて外科手術で対処される一方、性機能障害は、PDE5阻害薬などの薬物療法や陰茎プロテーゼの挿入、心理的サポートが選択される
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骨折これらの症状が持続する場合、または新たにあらわれた場合、医師の診察を受けることが大切です。
参考文献
東京医科大学病院
東京女子医科大学病院
日本泌尿器科學會雑誌
島崎淳 「前立腺癌の内分泌療法」