「息子の死無駄にしたくない」息子亡くした父が訴える ８人死亡の那須雪崩事故 ３０日判決
栃木県那須町で２０１７年３月、登山講習中の大田原高校の生徒と教諭あわせて８人が死亡した雪崩事故で、業務上過失致死傷の罪に問われた教諭ら３人の判決が３０日宇都宮地方裁判所で言い渡されます。事故から７年、刑事裁判が始まってから１年８カ月が経ちます。「息子の死を無駄にしたくない」という思いで、裁判を見守り続けてきた父親に判決を前に今の心境を聞きました。
「平成２９年３月２７日、私たちは最愛の息子・公輝を春山安全登山講習会で亡くしました。安全と名の付く安全を学ぶはずの部活動の講習会で、雪崩に巻き込まれてしまったのです。この訓練の安全性について、納得のいく説明は今も聞けていません」
法廷でこのように述べたのは、当時１６歳だった息子の公輝さんを亡くした奥勝さんです。
大田原高校の登山部だった息子の公輝さんは２０１７年３月、部活動として那須町で行われた２泊３日の登山講習会に参加していました。事故が起きたのは、講習会の最終日でした。訓練中の午前８時半すぎ、雪崩が発生。公輝さんを含め８人が命を落としました。
（奥勝さん）
「午前１１時半くらいに高校の教頭先生から電話があった。『息子さんは今心肺停止状態です』と。膝から崩れ落ちたのを覚えている。その後病院から連絡を受け、『すでに死後硬直が始まっています』と言われた。（夕方に）息子にようやく会えた。もう意識もないけれど、こんなに長い時間さみしかっただろうなって思いました」公輝さんは山岳部のほかにも応援団に入り、忙しくも楽しい学校生活を送っていました。事故から７年。安全が最優先されるはずの部活動でなぜ息子の命が奪われたのか。
（奥勝さん）
「那須雪崩事故は、人災です。決して仕方がない自然災害などではありません。今後の事故防止につながってくれないと、息子の命は無駄になって事故も忘れ去られてしまう」２０２２年１０月から始まった刑事裁判に、奥さんら一部遺族は被害者参加制度を使って参加してきました。
業務上過失致死傷の罪で起訴されたのは、講習会の責任者などの教諭ら３人です。起訴状によりますと、前の日の夜からの積雪で雪崩発生を予想できたのに気象条件や地形の確認などを怠り、急斜面での歩行訓練を実施し、雪崩に巻き込まれた８人を死亡、５人にケガをさせたとしています。前日の夜から大雪が降ったため、３人の教諭らは当日の講習内容を登山からスキー場周辺の深雪歩行訓練に変更することを決めました。
事故が発生してから刑事裁判が始まるまでの５年７カ月、遺族が求めていた教諭らからの説明はそれまでにはほとんどありませんでした。
刑事裁判初公判で教諭の口から語られたのは…
（講習会責任者だった被告）
「あらためておわび申し上げます。すみませんでした。雪崩の発生についてまったく予想ができなかった。無罪を主張します。」３人とも無罪を主張しました。
裁判で双方の主張は、全く食い違いました。
検察側は、斜面で雪崩が発生しやすく、およそ３０センチの新雪もあったことなどから、危険性を予見できたと指摘しました。そして情報収集を怠り、明確な訓練範囲を決めなかったとし、「当たり前の安全対策をすれば事故が防ぐことができた」と述べました。
一方、弁護側は、雪崩の発生の予見は不可能だったとし、「安全な訓練のため必要な情報収集をし、範囲も明確に定めて各班に伝えた。３人の行為と死傷事故に因果関係はない」と主張しました。教諭の１人は安全な訓練範囲から逸脱したという指摘に対して「生徒に押し切られたところがあった」と述べました。
そして、遺族の思いを法廷で述べる「意見陳述」で奥さんはこのように述べました。
「親にとって子を亡くすことは、自らが死ぬよりもずっと辛い仕打ちです。公輝と共に歩むはずだった人生、共に築くはずだった思い出は、もはや手の届かない夢になりました。この裁判が重大な意味を持つべきだと信じています。何の教訓も残さず、この事故が学校安全に対する免罪符として扱われるような未来を許すことができません」
初公判から１年４カ月、これまで１７回に及ぶ公判で審理を重ね検察側は「禁錮４年」を求刑し、弁護側は「無罪」を主張して今年２月に結審しました。
（奥勝さん）
「最大限の求刑をしていただいた。実刑を求める意思を感じた。我々の思いと合致するところがあった」そして、奥さんは、公輝さんが生まれるときから大切にしているものがあります。
（奥勝さん）
「２０００年に息子が生まれる時に、家族で乗れるよう購入した車。息子と同じ年齢です。この車で２人で出かけて「今日どこに食べに行こうか」と話していた。助手席に乗っている印象が強いですね。どこまで乗れるかっていう不安は正直あるがこれからも乗り続けていきたい。」ことし３月、事故から７年を迎えるのを前に大田原高校では追悼式が行われました。遺族や県教育委員会など５０人が参列し、亡くなった８人を悼むとともに事故の風化防止を願いました。奥さんに、心境の変化がありました。
（奥勝さん）
「（事故の）再発防止策も道半ばなのに誓いを立てられても…と思ったが、民事裁判は決着がついたので、わだかまりが無いといったらうそになるが、１つの形にできた」民事裁判は２０２３年、県と県高体連に２億９千万円あまりの損害賠償を言い渡し、教諭ら３人・県・県高体連に過失があったと認められました。県側も控訴しませんでした。宇都宮地裁は国家賠償法をもとに教諭らが職務の中で与えた損害について賠償責任を負わないと判断し県と高体連に遺族への賠償責任があると結論付けました。
奥さんは、裁判でのメモや自分が感じたことを忘れないようにノートにまとめています。
（奥勝さん）
「部活動をしていて事故を起こしたといえど、顧問に対して刑事罰を与えるなんて」と思う方はたくさんいらっしゃると思う。だけどいろいろ知ってもらったらこの求刑も妥当と思ってくれるのでは。それもあって、しっかりとした判決が出ることを望んでいる。『教諭らが何かをやった・何か怠ったことが伝わると思う』」事故から７年を経て、刑事裁判は３０日判決を迎えます。
（奥勝さん）
「今まで部活動は生徒のためという言葉でたいてい許されてきた。安全確認もなく生徒や教員の命を危険にさらすのは犯罪行為という認識を持ってほしい。それによって学校の安全意識や対策、意識改革がなされることが遺族の望みです」
