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ハリウッドが贈る史上最大スケールの戦国時代劇全10話が配信され、全世界熱狂のまま幕を閉じた。日本人キャスト主体、7割が日本語の作品ながら、世界的な「SHOGUN」ブームを巻き起こした本作は、アメリカのTVドラマ界の最高栄誉エミー賞でも最有力候補の一つとされるなど、本物の話題性を生み出している。

都内では、そんな本作のラスト2話を劇場上映するという、ドラマシリーズとしては異例のイベントまで開催。上映前の舞台挨拶では、本作で強烈な印象を与えて一気に世界的な注目を集めたキャストたちも登壇した。

THE RIVERではこの舞台裏で、戸田広松役の熱演で国際的な注目を集めた西岡紱馬に単独インタビュー。反響への手応えや、驚くべき舞台裏エピソードを語っていただいた。なんと、あの名台詞は、西岡の発案によるものだったという……。第8話に心を揺さぶられた視聴者は必読の裏話だ。

「SHOGUN 将軍」戸田広松役 西岡紱馬 単独インタビュー ©︎ THE RIVER

──まずはドラマの成功、おめでとうございます。

ありがとうございます。そういうのって、内にいるだけじゃわからないんだよね。900万回再生*されましたというのも、どこで知ったんだっけな。ネットのニュースで知ったのが先だったかな。もう900万回行っちゃったの?って。
*第1、2話の配信開始から6日間で、全世界900万回再生を記録

──穂志さん(藤役)と向里さん(菊役)も、日本にいるとあまり実感がない、と話していました。

そうなんだよ。わかんないんだよね。僕の周りにも、僕が出てるからっていうんで、に加入してくれる人は何人かいるんだけど、加入の仕方が難しいって。まだ観られていない人がたくさんいますよね。もっともっと観てもらえると嬉しいな。海外で「すごい、すごい」って言われれば言われるほどさ。

月1,000円(990円~)で、「SHOGUN 将軍」だけじゃなくて他の作品もたくさん観られるんだよ!って。僕がみんなにディズニープラスの宣伝もしてるよ(笑)。

──海外のYouTuberたちが、本作のリアクション動画をたくさん上げていますが、ご覧になったことはありますか?広松は“Granpa”と呼ばれていることもあって、特に第8話のシーンでは、みんな涙を流していました。

見たことありますよ。「WOW!」「OH NO!」「OH MY GOD!」ってやってるやつだろう?嬉しいよね。

──西岡さんの長いキャリアの中でも、海外の作品への出演は珍しいことですか?

そんなにはないですね。今日もね、ちょっと別の作品の撮影をしていたら、車に乗った日本人の男の子から、「SHOGUN観ました~!すごいです~!」って声をかけられて、嬉しかったね。ああ、わかってくれたか、と。僕は「SHOGUN 将軍」の時の様相とは、(見た目が)全然違うじゃない?頭も禿頭みたいにツルッとして、髭もつけてたから。わかってくれてるんだなと思って。だから、観ていただいた人は、絶対損しないと思うのよ!地上波とは違うけど、ディズニープラスに加入すれば、何回も観れるんだからさ。

ここからは、「SHOGUN 将軍」第8話の出来事について言及されています。

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──僕も、第8話の広松のシーンはまさに何回も観ました。言葉にすると陳腐ですが、魂が震えるような。

アッハッハ。僕はね、あそこのシーンをやるために参加したようなもんですから。何回も言うけど、前の年の8月の終わりにバンクーバーに着いて、すぐヒロ(真田広之)に会いたいって言ったけど、彼も忙しくて、一週間くらい会えなくて。それで、やっと会えた時に、みんなでピクニックやろうって、6~7人だったかな。ヒロも来てくれて。

夏の、すごく綺麗で良い天気の、芝生のバンクーバー。海がある、ヨットハーバーのところでさ。ワイン飲みながら、よろしくって。初めて会うやつもいるし、俺が紹介なんかしてさ。

で、ヒロに話をして。僕は日本の武士道をやるために、この役を受けた。真田と西岡がいながら、こんなことをやらせたのか?ってことだけは、絶対に無いようにしよう、って言ったら、ヒロが「僕もそれなんです」って言って。ああ、そうなんだ!と。

彼が日本からスタッフを呼んでね。向こうでは、着物はあるけど、着付けができない。だから着付けの人も呼んでね。こうやったら帯は上手く締まるんだよ、女の人の帯はこうするんだよ、っていうのも全部教えて。能なんて、能の先生まで呼んでね。殺陣師もそう。それを受け入れてくれたプロデューサー、プロダクションもすごいけどね。全部呼ぶってのは、えらいことだからさ。

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でもね、可笑しいんだよ。「♪チャチャチャチャチャンチャン、チャンチャンチャン」って、それ日本の音楽じゃない!中国だよ!って、そういうことだって、今まであったのよ。たとえば、ハリウッドが作る太平洋戦争の話だって、日本人が出てくると、「ワタシワ、ナントカデース」みたいな。日本人じゃないじゃない!日本人には日本人の言葉があるんだから。ちゃんと喋る俳優使ってよ、みたいなことがあった。それだけは無いようにしよう、と。

最後の切腹のシーン(第8話)の台本が来た時、僕は4人の武将と一緒に死ぬ、みたいな展開だったのよ。いや、それは切腹の意味がちょっと違うと。目と目を見ただけで、この男が何を言いたいのか、なんでそんなことを言い出したのか、っちゅうのを探りながらやってね。この中には藪重もいるし、向こう(石堂側)に通じているやつもいるかもしれないから、本当のことを言えない。

そういう意味でね、『明日に向かって撃て!』(1969)っていう映画観たことある?ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの。あの二人は犯罪者だから、周りにバレてはいけない、暗黙の目の会話があるわけだね。

最初にオファーを受けた時に、俺が芝居をやった動画を撮影して送ったんです。したら3ヶ月くらい連絡がなくて。どうなってんのかなって言うんで、ウチの事務所から連絡したら、この役を真田とやる時、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの関係のように、ソフトに、力まないように演ってくれ、って言われた。「そういうことか」と思って、改めて(オーディションとして)軽く、ソフトに演ったの。

それまでは、侍だっていうことで、力が入ってるわけだ。「なんとかでござる!」って。今度は力を入れないでやったら、二日後に「お願いします」って来た。(本番の撮影では)それを思い出して、やったな。

──そこに至るまでの、広松のセリフの発し方。いつもは優しい広松が、あそこでは声を上げます。「殿!家臣が犬死にいたすのでございまするぞぉ!」

あそこは、本当にセットがデカかったから。みんなに聞こえるように、少し舞台調になる。ここに(スパイが)いるかもしれないって。

でも、あそこで最後に「今生のお別れにございまする」って言うのは、あれは俺が作ったセリフなんだ。

「SHOGUN 将軍」第8話の出来事について言及されています。

あそこで最後に「今生のお別れにございまする」って言うのは、あれは俺が作ったセリフなんだ。

──えぇっ!そうなんですか!

うん。あれを言わせてくれって。脚本にはなかった。今生のお別れでございます。この世では、お別れにございます。でも私、先に行って、見ております、待っております、という意味を込めて、「今生のお別れにございまする」。

これを言わせてくれないか、と聞いたら、プロデューサーが「うーむ」と考えて。どういう意味だ?っていうから、「今、この世ではお別れだけど、僕は先に行って待ってます」という意味だと言ったら、「OK」って。

──そして、文太郎が「拙者も後を追いまする」と言うと、「ならん、生きるのじゃ。さすればお前も、死を許されぬ者の気持ちがわかるじゃろう」と。そこには文太郎と鞠子の物語が繋がってくる。

そうそう、よく覚えてるね(笑)。それでね、文太郎と鞠子についてね、ちょっと語っているところがあったんだけど、カットになってるんだよ。もえか(藤役)に遺骨を渡すところ(第7話)で、「この先に勝利があるのでございましょうか?」「こちらには文太郎様がおります」と(藤が)言うと、広松が「あいつも不憫なやつよな、俺はよくわかる」というセリフがあった。

広松は、文太郎と鞠子の関係をわかってるし、鞠子とブラックソーンの関係もわかっている。雨がダーッと降る中で、弓矢がバサっと刺さってる柱を見て、「あいつも不憫なものだ」と言うんだ。カットかぁ、と思ったけど、映画ってそういうことがあるんですわ。尺の問題もあったのかもしれないけどね。

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鞠子の立場もわかる、文太郎のこともわかる。日本人の、腹の中はわかっているっていうシーンだった。日本人は思っても、すぐには口に出さない。これを俺が言ったら、こいつはどう思うだろう、っていうこと考えちゃうから。でも、虎永はあそこでいろんなことを考えてるんだよね、どうするかって作戦をさ。

──あの切腹シーンを見た後に、第一話の虎永と広松の会話シーンを見直すと、二人の関係性にシビレます。

虎永は、徳川家康にインスパイアされている。家康は策略家だ。関ヶ原だってさ、圧倒的に負ける予定だったよね。東軍の家康、勝てる人数じゃないのよ。俺も、原田眞人さんの『関ヶ原』(2017)もやったんだけど。小早川のあれ(寝返り)によって、グンと変わっちゃうわけじゃない。そこまで持っていくために、どれだけ裏から手を回してやってるか。知力っていうかさ。力で勝てなかったら、こっちからこう回してっていうことを、相当考えてる人だと思うよ。

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──西岡さんは、第8話のあの切腹のシーンでクランクアップでしたか?

そのシーンの後にね、一日撮影があった。長門の葬式の時に、ずーっと歩きながら、藪重に鉄砲と大砲を持って石堂のところに参れと伝えるところがある(第8話前半)。ラストはそのシーンだった。終わった時に、「今日は広松が終わりです!」っていって、わぁってみんながお祝いしてくれて。「センキュー!」って言って、ちょっと演説して。へへへ。拙い英語でね。

──どんなことを話されたんですか?

僕は8ヶ月、単身赴任で来てたけど、こんな楽しい仕事はなかった。みんな、アイ・ラブって言ったよ。みんな愛してるよって。みんなすごく親切だった。小道具のおじさんなんてさ、刀をくれる時に、俺に(跪いて献上するように)こうやって渡してくれるんだよ。自分もすっかり、なりきっちゃって。「ああ、かたじけない」って感じで(笑)。なんでも、カナダの軍隊にいたんだって。で、退役してきたから、もう兵隊になっちゃってんのよ(笑)。刀を渡す時も、位が上の人に渡してると思って。「かたじけない」「ドウイタシマシテ」みたいな感じで(笑)。小道具のおじさんのおかげで、(役に)入っちゃうんだ。あれがすごく印象的だった。

──切腹の直後に広松の首が転がりますが、あれは実際に作られた?

作ったのよ。一緒に撮った写真もあるよ。それで、切腹する時に、ブワァって血が出てくるじゃない。あれ(撮影用の装填具)を作るのに五時間かかった。

石膏の中で五時間正座して、ビニールシートを敷いて。(左右に)ポールが立ってて、そこに手をかけて、テープでぐるぐる巻きにされるわけ。俺は裸、海水パンツ一丁だよ。それで、身体にベタベタとシリコンを貼っていくわけ。最初が緑色、その次が紫、その次が白。三色、種類が違うもので固めていって。何時間も正座してた。もうダメだ!って。

その次は顔だ。顔にも同じことをやって、鼻だけで息できるように。それも一時間くらい。だんだん暑くなるんだよね。熱がこもって。まあ苦しい思いをして、1日かけて、遠いところに行ってさ。5人くらいのスタッフが、急げ、急げって、ばーっとやってくれるんだけどさ。それでも五時間くらいかかったね。

日本の作品であそこまでやることは、ないね。一度、舞台の時に、ハリウッドで習ってきたっていう方とデスマスクを作ったことはあったけど、胴体までっていうのは初めて。重たいのよ。ポンプで血がブワって出てくる。終わったら血でびちゃびちゃだったよ。

──それも、切腹シーンの撮影はファーストテイクで撮り終えたとお聞きしました。

そうだね。一回失敗したら大変だから。テストでは血の代わりに水でやって、本番だけで血を使った。

──撮影時は、虎永役の真田さんも、目に涙を溜めていたそうですね。

溜まってたね。芝居をやりながら、(真田の)涙がキラっと光ってたのが分かったもん。

娘と女房から、そのシーンの広松の顔が幼くなってて、目が子供みたいになってるよって言われて。俺、そんな顔してたの?(笑)って。子供に還ったような顔してたって。気持ちがそうだと、そうなるのかなって。幼い頃から一緒だったやつが……。

あの時、広松は決して、悲しくも苦しくもなかった。切腹には、詰腹、追腹と、いろいろな理由がある。でも、悲しいとか、犠牲になって、僕が責任取りますっていうのじゃないから、あの切腹は。

三島由紀夫の『豊饒の海』という作品の第二巻の、『奔馬』の最後に、本多っていう主人公が切腹するんだよ。その時に、“日輪は瞼の裏に赫奕と昇った”っていうんだよ。斬ったことによって、自分はウワァァァっと昇華するわけだ。それによって恍惚としていくわけだ。僕はもう、こうやって(虎永を)見ながら、「あなたのために……!」というのが、グワァっと。アドレナリンが出ちゃうような。

そして逝った時に、一体となれる。そういうイメージが僕の中にはあった。だから、これは決して悲しいわけではない。二人で昇華していくんだって。

俺の瞼の裏に、日輪は赫奕と昇るか?あのシーンでは、そういうことをね。

あの日の朝。ヒロが、「紱馬さん、とうとうこの日が来てしまいましたね」って、トレーラーから出て、歩きながらそう言われた時は、俺と真田の別れみたいだった。虎永と広松がダブってさ。武士道をしっかりやりましょう。二人で、お互いに。武士道をやりに来たから、いざお見せしましょう。広松役が俺で本当に良かったって、彼が言ってくれたから、すごい嬉しかったね。

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「SHOGUN 将軍」はディズニープラス「スター」にて独占配信中。

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