DeepL創業者 クテロフスキー氏が来日、2番目に大きい日本市場で「言語AI」への取り組みと新製品を初披露
DeepLは25日、日本の法人ユーザー向けのイベント「DeepL Japan Business Conference」を都内で開催した。当日は、DeepLのCEO兼創業者のヤロスワフ・クテロフスキー氏が来日し、同社初のLLM(大規模言語モデル)搭載製品「DeepL Write Pro」の発表など、日本の法人ユーザー向けに製品や同社の姿勢が語られた。
AIで大幅な生産性の向上が期待できる
DeepLのCEO兼創業者のヤロスワフ・クテロフスキー氏
クテロフスキー氏は、企業のAI活用について「AIを活用するかどうかではなく、AIをどう活用していくかというフェーズに移っている」と指摘。世界的にも多くの企業がすでにAIを活用し業務効率化を実施しているとし、そこから「本当に価値がある戦略的領域」を見つけ、技術を生かせる業務分野を探しているフェーズにいるという。
これは日本でも同様の流れになっているといい、「73%の日本企業が昨秋時点で生成AIを活用している」、「46%のCEOが生成AIで従業員の生産性が向上したと回答した」という調査結果を挙げ、日本企業もAIの導入に向けてどの分野が最も利用価値があるかどうかを探していると指摘する。
クテロフスキー氏は、AI技術を言語分野に活かした「言語AI」を挙げ「世界のどの産業、国においても『言語を通じてのみ、外や社内でコミュニケーションをとること』ができる」とコメント。事業拡大やグローバル化を検討している企業は、まずは言語の問題に目を向ける必要があると語る。
同社では、2016年から「言語AI」技術を研究し、投資、活用を進めてきており、企業の業務効率化に特化した製品「DeepL Write Pro」の開発を進めてきたという。
DeepL Write Pro
「DeepL Write Pro」は、LLMを搭載した製品で、たとえばユーザー、企業らしい文脈の文章を作成できたり、細かく複雑な言葉の言い回しを提案できたり、提案書などの翻訳文章作成を強力にサポートする製品となっている。
また、動作スピードにも力を入れており、リアルタイムで的確に提案、フィードバックすることができるとしている。クテロフスキー氏は、「DeepL Write Pro」について、AIとコミュニケーションを取りながら企業が成功するためにサポートするものとコメント。
また、LLMで懸念されている正確さや、もっともらしい嘘をつく「ハルシネーション」を入れ込まないよう、DeepLの翻訳技術を取り入れながら製品開発を行ったという。一連の流れがサイクルとなりうまく循環することで、「アイデアを発展させ、顧客に自身の主張を伝えより良い方法でビジネスできるようになる」とした。
ライティング不備で年間数十億ドルの損失
ヤロスワフ・クテロフスキー氏
フォーブスの調査によると、非効率なコミュニケーションで生産性に影響があったと49%の労働者が回答、仕事の満足度に影響を与えたと50%の労働者が回答したという。
クテロフスキー氏は、同社もグローバル企業であり、過去にコミュニケーションで問題があったことも振り返り「創業時はドイツ語でコミュニケーションをしていたが、グローバル化にあたり英語を社内公用語にした。厳しい時期であり、社内コミュニケーションに苦労している方には共感できる話なのではないか」とコメント。
人とのつながりを維持するには、自分の思いを主張するだけでなく、同僚と人間的、感情的につながることが必要だと指摘。「DeepL Write Pro」では、言葉の壁を打ち破り、人間らしいコミュニケーションを直接取る体験ができるとした。
また、生成AIの活用で懸念される機密情報の漏洩問題について、「すべてのユーザーにエンタープライズレベルのセキュリティを保証する。ユーザーのデータは、AIトレーニングには使用されない」とセキュリティの高さをアピールした。
日本はDeepLの大きな市場
クテロフスキー氏は、日本市場について「ドイツに次いで2番目にユーザーが多い。日本企業がDeepLの翻訳技術を信頼してくれていることが伝わってくる」とコメント。60%を超えるDeepL Proのユーザーが、翻訳とWrite両方のサービスを利用しているという。日本の企業にも多く採用されており、DeepLのサービスによる業務改善はすでに数字にも表れているという。
今後も言語AIの技術に注目し、DeepL翻訳とDeepL Writeに加え、将来的には音声を翻訳する「DeepL 音声翻訳」の提供まで進めていきたいと今後の展望を語った。
クテロフスキー氏は、「会社としてはテキストTOテキストをコア事業として進めていく。企業のコミュニケーションはテキストベースであることが多く、企業活動の言語の壁と取り払うにはテキスト翻訳が重要だ」としながらも、企業のグローバル化や海外支社の展開や、海外顧客の獲得には音声翻訳も必要になってくるという認識を示した。
Writeの日本語対応など
質疑に応えるクテロフスキー氏
「DeepL Write Pro」のリリース時点では、英語とドイツ語をサポートしている。日本語への対応についてクテロフスキー氏は「年内を目標に動いているが、時期は未定。社内でも優先的に開発を進めている」とコメント。
たとえば、DeepL翻訳で訳した文章を「DeepL Write Pro」に投げることで、より洗練された英語になって帰ってくるといい、対応言語のアウトプットをよりエレガントなものにする機能を備えると説明する。
また、DeepL翻訳で対応している「特定の業界で使用される用語などの適応」について、「DeepL Write Pro」ではまだ対応していない。クテロフスキー氏は、「企業が使用する特徴的な文体やスタイルといったものも含め、ユーザーからの要望に応じて改善していきたい」とした。
日本法人代表とユーザーの対談も
DeepLジャパンの日本法人代表 白井崇顕氏
イベントでは、DeepLジャパンの日本法人代表 白井崇顕氏も登場し、DeepLを活用しているユーザーであるパナソニック コネクト 技術研究開発本部 知能システム研究所 知能システム研究部 シニアマネージャー AI 技術領域 エバンジェリストの大坪紹二氏とトークセッションが実施された。
大坪氏は、業務でDeepLのソリューションを活用している。たとえば、ドイツ人である上司や同僚の外国人とのコミュニケーションに利用しており、上司の指示を的確にメンバーに伝えられるようになったとコメント。
パナソニック コネクト 技術研究開発本部 知能システム研究所 知能システム研究部 シニアマネージャー AI 技術領域 エバンジェリストの大坪紹二氏
また、Webブラウザの拡張機能を使えば、シームレスにDeepLの翻訳結果を確認することができ、「息を吸うようにコミュニケーションできる」とした。
今回の新製品「DeepL Write Pro」については、実際に英語で書く文章では論文が多い環境の中、人力での有償の校正サービスよりも細かく提案してくれているとし、業務の中で利用できるレベルのものだと指摘。また、対照関係も明確であるため、提案内容を理解しやすいという。