入社してすぐに新人のモチベーションが下がってしまう原因と、その対処法について解説します(写真:zon/PIXTA)

「優しく接していたら、成長できないと不安を持たれる」
「成長を願って厳しくしたら、パワハラと言われる」

ゆるくてもダメ、ブラックはもちろんダメな時代には、どのようなマネジメントが必要なのか。このたび、経営コンサルタントとして200社以上の経営者・マネジャーを支援した実績を持つ横山信弘氏が、部下を成長させつつ、良好な関係を保つ「ちょうどよいマネジメント」を解説した『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』を出版した。

本記事では、入社してすぐに新人のモチベーションが下がってしまう原因と、その対処法について、書籍の内容に沿って解説する。

新人のモチベーションをどう上げたらいいかわからない


新刊『若者に辞められると困るので、強く言えません』で最も反響が大きいのは「主体性と強制のバランス」についてだ。多くの上司は部下の「主体性」について悩みを抱えている。どのように、もっと主体的になるのか。どうすればもっと当事者意識を持って仕事をするのか。その悩みに対し、本書ではどうバランスよく「強制」という処方箋を使うのかを詳しく解説した。ぜひ参考にしてもらいたい。

さて主体性と同じように、上司が気にかけるのが部下の「モチベーション」だ。

「若い人のモチベーションをどのように上げたらいいか、わからない」

こう悩んでいる上司はとても多い。

実際に、4月に入社してすぐに「モチベーションが落ちた」と発言する新入社員がいる。ゴールデンウィーク明けに体調不振に陥ることを「五月病」と呼んだ。会社や学校など、新しい環境に適応できないことが原因のようだ。

また昨今は、まるで退職したかのように最低限の仕事をこなす「静かな退職」という働き方が広まりつつある。もちろん、最初から「静かな退職」をするつもりで就職する人はいないだろう。何らかの事情で働くモチベーションが落ちたことが原因ではないかと思う。

このような「静かな退職」者、「五月病」を煩わせないためにも、新入社員のモチベーションを落とさないようにするにはどうしたらいいのか。今回は、モチベーションについて徹底解説したい。

多くの上司が勘違いしている「モチベーション」について

モチベーションとは内発的な動機という意味だ。やる気とか意欲のことである。ただ、多くの上司が勘違いしていることがある。

「そもそも、若者はモチベーションを上げたがっているのだろうか?」

これを読んでいるあなたも、モチベーションを上げたいだろうか? もっと熱意をもって仕事がしたいだろうか? そのように聞かれたら「Yes」かもしれない。だが、別に上がらなくてもいいと思う人も多いはずだ。熱意がそれほど高くなくても、仕事ぐらいはできるからだ。

実のところ若者が望んでいることは、「モチベーション向上」ではない。

モチベーションを下げたくない」

なのだ。そして、ほとんどの人がわかっていないことは、

モチベーションを上げるやり方
モチベーションを下げないやり方

が違う、ということだ。

これは昨今のトレンドでもある。いかに成功するか、ではなく、いかに失敗しないかを多くの人は気にしている。成功するやり方はいろいろな環境要因によって左右されるが、失敗しない方法は、ほとんど決まっている。松浦静山の名言にもある。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」

だ。同じように、モチベーションの上げ方なんて個人差がありすぎるし、不確実性が高い。ところがモチベーションを下げない方法というのは、ほぼ個人差がなく、再現性が高いのだ。

したがって上司は、

「最近の若い子のモチベーションを上げるには、どうしたらいいのか?」

に頭を悩ませるべきではない。最近の若い子でなくても、人それぞれだからだ。

そこで役立つ理論が、「ハーズバーグの二要因理論」だ。このクラシカルな理論、フレームワークは、上司と部下との関係のみならず、夫婦や子どもとの関係を良好にするうえでも、とても役立つ。ぜひ覚えてほしい。

ハーズバーグの二要因理論を活用しよう!

それでは、ハーズバーグの二要因理論を軽く解説する。二要因理論の「衛生要因・動機付け要因」の意味は、以下のとおり。

・衛生要因:満たされても満足しないが、満たされないと不満を覚える
 (例:会社の方針と管理、上司との人間関係、労働条件、個人の生活……など)

・動機付け要因:満たされると満足するが、満たされなくても不満ではない
 (例:達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進、成長……など)

重要なのは、断然「衛生要因」だ。わかりやすい例を書こう。

どんなに好きな仕事に就いたとしても、会社の方針がおかしかったり、上司との関係がギクシャクしていたり、個人の生活を脅かすほど労働条件が悪かったりすると、ほとんどの人は不満を抱く。そんな状況で、たまに

「君はすごいねえ。頑張ってるよ」

と褒められても、満足するのは一瞬だけ。モチベーションが上がったり、やる気になったりするのは、そのときだけで長続きしない。

「君がやりたいことは何だ? 今後のキャリアについて話し合おう」

このように、キャリアの相談をされても心は動かない。日ごろから正しいマネジメントをされてもいないのに、時折部下の承認欲求を満たそうとしたり、やる気を上げようと動機付けばかり考えても心に響かないのだ。

夫婦仲を考えたら、わかりやすいか。

仕事で出張へ行く。飲み会で遅く帰る。週末は接待ゴルフ。なかなか家族の時間を確保することができない。そのため、誕生日やクリスマスのときだけ、「日ごろの罪滅ぼし」で高級レストランを予約したり、高価なプレゼントをしても、良い関係は続かない。

高級レストランに行ったり、海外旅行したり、プレゼントをもらったりしたら誰もが満足するだろう。しかし、そんなことよりも、

・今日は何時に帰るのか?
・夕食は要るのか、要らないのか?
・いつからいつまでどこへ出張に行くのか?
・子育ての相談に乗ってくれるか?
・ちょっとした愚痴を聞いてくれるか?

こういった日ごろの行いのほうが、はるかに重要なのだ。多くの場合、このような要望に応えたからといって、相手は満足しない。しかし、応えないと不満ばかりが溜まっていくことになる。

大事なことは「点数を上げる」ことではなく「点数を下げない」ことだ。上司と部下の関係だけでなく、夫婦仲も同じである。

存在承認を満たす効果的な方法

「動機付け要因」を意識していても、部下のモチベーションダウンを食い止めることはできない。では、どうしたらいいのか?

「日々の感謝」をすればいい。

過去と比較しての変化や、明確なお手柄がない限り「褒める」ことは難しい。そこで大事になってくるのは、

「ありがとう。すごく助かっているよ」

この一言が言えるかどうか。照れ臭いかもしれないが、「日々の感謝」を習慣化しよう。「褒める」よりも100倍大事なことだ。「日々の感謝」のことを、コーチング用語で「アクノリッジメント」と呼ぶ。存在承認と表現すれば、わかりやすいだろう。とはいえ、

「君のおかげで、助かっている。ありがとう」

と、毎日のように言える人は少ないだろう。照れ臭いから、言えても1週間に1回だ、という人も多い。しかし、誰だって毎日のようにできることがある。

それが、そこに部下が存在していることを認めることだ。これが存在承認である。やり方は、とても簡単。シンプルだ。名前を呼んで、挨拶するだけ。声をかけるだけでいい。

「田中さん、おはようございます」

「吉田さん、お疲れ様」

これでいい。短いフレーズだが、効果抜群だ。こんなに「タイパ」の高いコミュニケーションはないだろう。

「即レス」も存在承認の一つだ。部長や課長、他の先輩からのメールにはレスが速いのに、自分のメールへのレスが遅いと、

「自分の存在が軽んじられている」

と思い込むものだ。どんなに傾聴を心がけていても、いつものメールのレスが遅いのであれば、マイナス効果のほうが高い。自分の都合のいいタイミングで

「何でも話を聞くぞ」

「困ったことがあったら、いつでも相談してくれ」

と呼びかけても、部下はその気にならない。日ごろから自分の存在をスルーしておいて、それはないだろう、と部下は思うからだ。評価や待遇を改善するより、まずは日ごろの「アクノリッジメント」に力を入れよう。

期待度が低ければ、成果も出ない

最後に、新人に対してみなさんにやってほしいことがある。それが「期待」である。「褒める」ことは何らかの成果を出した「後」でなければできないが、「期待」するのは「前」でもできる。つまり、「褒めて伸ばす」ではなく、「期待して伸ばす」ことを意識してほしい。世の中には、

「人に期待しない」

と言う人は多い。相手に期待するからこそ腹が立つし、口を出したくなる。期待しなければ、イライラせずに人と接することができる。お互いの関係は良好になる、という言い分だ。

この考えに、私は、まったく共感しない。その姿勢は、相手に対して失礼だと思うからだ。期待とは、相手に投資することだ。自分の情熱をお裾分けするわけだから、その投資した分だけの情熱を回収できなかった場合は、腹が立つ。期待を裏切られると、イライラするのである。

しかし、ビジネスは常に投資だ。人に期待するときも、自分が何かにチャレンジするときも、必ず何らかの投資をしている。リスクのない仕事なんて、ありえない。自分の期待通りにならなければ残念だし、頭にくる。しかし、期待通りにリターンがあれば、大きな喜びを得られるものだ。

必要以上にプレッシャーをかけなくてもいい。しかし「期待」はしよう。パフォーマンス的にも、他者からの期待を受けることで成果を出す可能性が高まる「ピグマリオン効果」と、反対に期待が低いと、成果を出す可能性が低くなる「ゴーレム効果」という心理効果が知られている。

親が子どもに期待をかけるように、みなさんが新人に「期待しているよ」と声をかけるのはとても大事な行為である。本人の前であろうが、本人がいないところであろうが、「期待していない」「どうせアイツは無理」みたいな発言はすべきではない。

その気持ちは相手に伝わり、成果を出そうとする気持ちに影響を与えるのだから。

(横山 信弘 : 経営コラムニスト)