Apple Vision Pro・Meta Quest 3・Quest ProをCTスキャンして比較することで見えるAppleとMetaの設計思想の違いとは?
Apple初となるARヘッドセット「Apple Vision Pro」、そしてMetaが提供するMRデバイス「Meta Quest Pro」と「Meta Quest 3」の違いについて、非破壊検査に使われる産業用CTスキャナーを製造するLumafieldが、実際にApple Vision Pro・Meta Quest Pro・Meta Quest 3をCTスキャンにかけて比較しています。
https://www.lumafield.com/article/apple-vision-pro-meta-quest-pro-3-non-destructive-teardown
Apple Vision Pro and Meta Quest Non-Destructive Teardown - YouTube
1:デザイン
Apple Vision Proは内部空間を最大限に活用するべく、基板や部品がアルミニウム合金製の曲線的なフレームに沿って立体的に配置されているのが特徴です。
一方、Meta Quest ProやMeta Quest 3は外観こそ曲線的ではあるものの、部品や基板は平面的に配置されていることがわかります。
Lumafieldはこの違いについて、Appleはデザイナーが要件を定義してからエンジニアが設計を行うのに対し、Metaはシンプルなメインボード設計をベースにすることでコスト効率を高めており、AppleとMetaの設計思想の違いが現れていると指摘しています。
2:ディスプレイ
Apple Vision Proは、3680×3140ピクセルの片目解像度を誇るソニー製のマイクロOLEDディスプレイを2基採用しています。マイクロOLEDは高密度のピクセル配列が可能で、高コントラスト、高速応答速度、広い視野角を実現できる最先端のディスプレイ技術です。
一方でMeta Quest Proは片目解像度1800×1920ピクセルのLCDパネルを使用しています。LCDは、OLEDほど性能は高くありませんが、コストが低く、より実用的な選択肢といえます。Meta Quest 3では、片目解像度が2064×2208ピクセルに向上しており、よりリアルな視覚体験を提供します。
また、Apple Vision Proは瞳孔間距離(PD)を自動で調整できるモーターが内蔵されています。これに対してMeta Quest 3やMeta Quest Proは手動で調整する仕組み。Lumafieldは、Apple Vision Proが個人に特化したデバイスになっている一方で、Meta Quest 3やMeta Quest Proは持ち主以外も使用することを想定しているのではないかとみています。
3:プロセッサー
Apple Vision ProにはM2チップとR1チップが内蔵されています。M2はMacBookなどにも使用されているものと同じチップで、visionOSとディスプレイ描画による高い計算負荷を処理するために搭載されています。R1チップは空間コンピューティングを可能にするためのセンサーアレイを管理します。
Meta Quest ProにはQualcomm Snapdragon XR2+ Gen1、Meta Quest 3にはQualcomm Snapdragon XR2 Gen 2が搭載されています。どちらもVRデバイス向けに設計されたプロセッサです。
4:センサー類
Apple Vision Proはアイトラッキング用の赤外線カメラ、深度感知のLiDARスキャナー、FaceID用のTrueDepthカメラ、ハンドトラッキング用の下向きカメラが搭載されています。
また、音声コマンド用のMEMSマイクロフォンも搭載されています。Apple Vision Proはユーザーの目の動き、表情、手の動き、音声コマンドを精度よく認識することで、自然で直感的なインタラクションを可能にします。
Apple Vision Proは基本的にハンドトラッキングと視線トラッキングによる操作を行いますが、Meta QuestシリーズはTouchコントローラーを使った操作が基本となります。Touchコントローラーには3D親指スティックセンサーとアクショントリガー圧力センサーが内蔵されており、ユーザーの手の動きを正確にとらえつつ、触覚フィードバックを提供します。
Touchコントローラーによる操作やハンドトラッキングを可能にするのが、Questシリーズ本体に搭載されているインサイドアウトカメラ。パススルー映像で周囲をディスプレイに映し出してMR(複合現実)体験を実現します。
また、Meta Quest 3にはLiDARスキャナーは搭載されていないものの、赤外線を使ったTime of Flight(TOF)センサーが搭載されています。このTOFセンサーを使うことで周囲環境の深度をチェックしているというわけです。Appleは精度が高いがコストのかかるLiDARスキャナーを、Meta Quest 3はLiDARより精度は落ちるもののより安価なTOFセンサーを選択しており、ここにAppleとMetaの設計思想と市場戦略の差が反映されています。
なお、Apple Vision Proの中央部分にはわずかにスペースが余っています。Lumafieldによると、開発版のApple Vision ProにはTOFセンサーが内蔵されていたそうですが、市販版からはオミットされてしまったようです。
5:オーディオ
Apple Vision Proは「オーディオポッド」と呼ばれるスピーカーユニットを採用しており、ヘッドセットの側面に内蔵しています。オーディオポッドにはデュアルドライバー設計が採用されており、「空間オーディオ」と呼ばれるApple独自のサラウンドサウンド体験を提供します。
Questシリーズもヘッドセット側面にオーディオユニットを内蔵しています。Apple Vision Proのオーディオポッドほど複雑なものではありませんが、高品質なオーディオ体験を提供することを目的に設計されています。
6:排熱
VRヘッドセットは、高性能なチップを搭載しているため、動作中に多くの熱が発生します。効果的な放熱対策は、ヘッドセットのパフォーマンスを維持し、ユーザーの快適性を確保するために不可欠です。
Meta Quest Proは、アクティブ冷却とパッシブ冷却を組み合わせた放熱システムを採用しています。銅製のヒートパイプと2つの冷却ファンを使用して、効果的に熱を逃がします。
一方、Meta Quest 3は、設計をシンプル化するために、1つのファンのみを搭載し、ヒートシンクを省略しています。
Apple Vision Proは、コンパクトなアクティブ冷却ソリューションとして、マイクロブロワーを採用しています。
チップとディスプレイ基板の両方を冷却するために、マイクロブロワーは熱伝導性のある接着剤で金属シャーシに取り付けられています。この金属シャーシは、パッシブ冷却の素子としての役割も果たしていると考えられます。
また、マイクロブロワーの回転軸にはボールベアリングが採用されていることがCTスキャンから判明。Vision Proの冷却システムは静音性を重視しながらヘッドセットから熱を逃がすように設計されており、パフォーマンスを犠牲にすることなく快適性を向上させています。
7:バッテリー
Apple Vision Proは外付けバッテリーパックを採用しています。これによって、ヘッドセット本体の軽量化が実現しています。また、外付けバッテリーを使用することで、Vision Proは本体のスペースを最大限に活用し、高性能な部品を搭載することができます。ただし、外付けバッテリーは、ユーザーにとって利便性が低下する可能性があります。
Meta Quest Proは、ヘッドセットの後頭部をおさえるバンド部分に、曲線形状のバッテリーを内蔵しています。このデザインにより、ヘッドセットのエルゴノミクスを向上させながら、ユーザーの利便性を維持します。一体型のバッテリーは外付けバッテリーと比較して、ケーブル管理の問題を軽減し、シームレスな使用体験を提供します。
Meta Quest 3はよりシンプルなアプローチを採用しており、バッテリーをヘッドセットの前面中央に配置しています。この配置は重量バランスを最適化し、ユーザーの快適性を向上させることを目的としているとのこと。
8:まとめ
Apple Vision ProとMeta Quest 3・Meta Quest Proはそれぞれ異なる設計哲学と市場戦略を反映したヘッドセットです。CTスキャンの結果を見ると、Apple Vision Proは最先端技術の結晶であり、没入感と性能を追求した高級モデルであることがわかります。一方で、QuestシリーズはVRの普及を目指し、シンプルな設計と手頃な価格を実現したモデルといえます。Lumafieldは、「どちらの道が将来のVR市場で勝利を収めるかは、ユーザーの選択と各社の技術革新とマーケティング戦略にかかっているといえるでしょう」とまとめています。