by 李 季霖

台湾の半導体製造ファウンドリであるTSMCとアメリカ商務省が、「CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)」に基づいた最大66億ドル(約1兆円)の直接資金提供に関する予備的覚書(PMT)に署名したと発表しました。これによりTSMCは、アリゾナ州に同州で3番目の半導体製造工場を建設する予定です。

TSMC Arizona and U.S. Department of Commerce Announce up to US$6.6 Billion in Proposed CHIPS Act Direct Funding, the Company Plans Third Leading-Edge Fab in Phoenix

https://pr.tsmc.com/english/news/3122



Biden-Harris Administration Announces Preliminary Terms with TSMC, Expanded Investment from Company to Bring World’s Most Advanced Leading-Edge Technology to the U.S. | U.S. Department of Commerce

https://www.commerce.gov/news/press-releases/2024/04/biden-harris-administration-announces-preliminary-terms-tsmc-expanded

Statement from President Joe Biden on CHIPS and Science Act Preliminary Agreement with TSMC | The White House

https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2024/04/08/statement-from-president-joe-biden-on-chips-and-science-act-preliminary-agreement-with-tsmc/

TSMC wins $6.6 bln US subsidy for Arizona chip production | Reuters

https://www.reuters.com/technology/tsmc-wins-66-bln-us-subsidy-arizona-chip-production-2024-04-08/

TSMCは近年、台湾以外の地域に海外工場を建設する動きを進めており、アメリカのアリゾナ州フェニックスで半導体工場の建設を進めているほか、日本の熊本県では2024年2月に最初の工場が完成しました。また、日本政府は第2工場の建設に向けて、さらに最大48億6000万ドル(約7320億円)規模の補助金を交付することを明らかにしています。

そんな中、TSMCとアメリカ商務省はアリゾナ州における3番目の半導体製造工場建設に向け、CHIPSプラス法に基づいた最大66億ドルの直接資金提供に関する予備的覚書に署名しました。CHIPSプラス法はアメリカ国内の半導体産業振興を目的として半導体製造や研究開発に投資する法案であり、2024年3月にはIntelへの資金提供も行っています。

新たな工場建設により、TSMCのアリゾナ州工場への設備投資総額は650億ドル(約9兆9000億円)を超え、アリゾナ州史上最大の海外直接投資となるほか、アメリカ史上でも最大の新規開発プロジェクトへの海外直接投資となるそうです。



TSMCがアリゾナ州に建設する3つの工場は、約6000人のハイテク・高賃金の直接雇用を創出し、アメリカの大手企業が国産の半導体製品にアクセスすることを可能にします。また、工場建設に伴って2万人以上の建設関連の雇用が生まれるほか、数万人もの間接的な雇用を生み出すとTSMCは主張しています。

アリゾナ州に建設される第1工場では4nmプロセスでのチップ製造を行う予定で、第2工場ではすでに発表済みの3nmプロセスに加え、次世代ナノシートトランジスタを用いた世界最先端の2nmプロセスでの生産も行うとのこと。そして今回発表された第3工場では、2nmプロセス以上の高度なプロセスでのチップ製造を行うとTSMCは説明しました。

また、TSMCは環境に優しいグリーンマニュファクチャリングを掲げ、工場でのエネルギー効率・節水・廃棄物処理・大気汚染防止に取り組んでいると主張。アリゾナ工場も同様のグローバルビジョンに基づいて設計され、90%の水リサイクル率を目指しているとのことです。

なお、アリゾナ州の第1工場建設は2021年に始まりましたが、2023年に「専門知識を備えた熟練労働者の数が不足している」として、4nmチップの生産開始時期が2025年に延期されています。第2工場での生産開始は2028年、第3工場では2034年までに生産を開始することが予定されています。

iPhoneやAIチップ製造を目指すTSMCのアリゾナ工場が「人手不足」を理由に生産開始時期を延期 - GIGAZINE



今回の予備的覚書についてアメリカのジョー・バイデン大統領は、「指先よりも小さい半導体は、スマートフォンから自動車、衛星、兵器システムに至るまで、あらゆるものにパワーを供給します。これらのチップを開発したのはアメリカですが、かつて世界の40%近くを占めていた生産能力が時間と共に10%超まで落ち、最先端のチップは一切生産されなくなり、経済的および国家安全保障上の重大な脆弱(ぜいじゃく)性に直面しています。私はこの状況を好転させようと決意しており、私のアメリカ投資計画の重要な部分であるCHIPSプラス法のおかげで、半導体製造と雇用が回復しつつあります」とコメント。アメリカ国内で最先端の半導体を製造することは経済だけでなく、国家安全保障の面でも重要だと主張しています。

また、アメリカ商務省のジーナ・レモンド長官は、「ここアリゾナで製造される最先端の半導体は、AIや高性能コンピューティングなど、21世紀の世界経済と国家安全保障を定義する技術の基盤となるものです。バイデン大統領のリーダーシップとTSMCのアメリカでの半導体製造に対する継続的な投資のおかげで、この資金提供案は私たちのサプライチェーンをより安全なものにし、アリゾナ州民のための数万もの良質な建設および製造の雇用を創出するために役立つでしょう」と述べました。