あるタクシー会社では、運転中の事故が激減したそう。その仕掛けに認知バイアスがかかわっています(写真:akira/PIXTA)

「認知バイアス」という言葉をご存じでしょうか?

ある特定の状況下で起こる認知の「偏り」や「歪み」によって、脳の判断にバイアスがかかってしまうことをいいます。それにより、判断を誤って失敗することも……。

そんな「認知バイアス」の罠にはまることなく、上手に活用するスキルをご紹介したのが神岡真司著『脳のクセを徹底活用!「認知バイアス」最強心理スキル45』。本書より、ビジネスや日常で使える「認知バイアス」の活用法を、3回に分けてご紹介します。

自分の価値を向上させる

■プライミング効果

人は過去の経験則によって、何事も冷静に判断し、行動しているように思いがちです。しかし、実際は行動する直前に見たり、聞いたりしたことによって、その後の行動にかなり大きな影響が及ぶことが知られています。

これが、「プライミング効果」という認知バイアスなのです。プライミングとは、点火薬、起爆剤、呼び水を表しています。

テレビを観ていて急に「寄せ鍋が食べたくなった」「かき氷が欲しくなった」「ビールが飲みたくなった」――などの経験は、誰にでもあるはずです。

おそらく、吹雪のなか凍えそうに歩く人の姿や、あるいは夏の日照りの下で汗だくで働く人の姿――といったテレビの映像と関連して起きてきた現象でしょう。先行する刺激「吹雪で凍えそうな状況(プライマー)」が、後続する刺激「熱々の寄せ鍋を食べたい(ターゲット)」を生み出した認知バイアスです。

この効果を利用して、安全運転の向上を図ったタクシー会社の事例もあります。毎週1回程度、悲惨な交通事故映像を乗車前のドライバーに見せていたところ、事故率が激減したというのです。

霊験あらたかな効能といえるでしょう。


(イラスト図版:山崎平太/ヘイタデザイン)

「すごい人」と思われるテク

ここはもう、「すごい人」と思われるようになるための「プライミング効果」の使い方も、併せて覚えておいてほしいところです。

職場の上司からレポートを依頼される時、「いつまでに仕上げればよろしいでしょうか?」などと、締め切りだけを尋ねて仕事にかかる人は多いものです。しかし、これでは依頼の受け方からして不適切です。

「何か留意点などありますでしょうか?」とあえて上司に尋ね、上司から「そうだね、前年比との比較がよくわかるようにしてほしいな」などの指摘をもらっておくことが大事です。上司の記憶にも、その指摘が刻まれるからです。

そしてレポートが仕上がった時も、「一応仕上がりました」などと、素っ気ない態度で提出するのもNGなのです。

「課長からご指示いただいた前年比との比較は、図表を多く使うようにして、細かい変化もわかりやすく表現いたしました」などと、さらりと工夫点を伝えておくことが大事なのです。これが「先行刺激(プライマー)」となるからです。

上司は、こうした部下のコメントを背景にレポートを読むことになるわけですが、ここからが「後続刺激(ターゲット)」となって生きていきます。「ほう、こりゃ、わかりやすいな。図表が多くて一目瞭然だ」などの感想を呼び、満足感にもつながりやすいからです。

これからは、得意先に手土産を持参する際にも、「つまらないものですが……」などとは、けっして言わないようにしてください。

「これ、うちの地元の人気菓子でして、時々早い時間になくなるほどに売れ行き好調なんです。ぜひ、ご賞味いただきたいと思いまして……」

謙遜するよりも、ひと言、共感を仰ぐ言葉が、「後続刺激」につながります。

まとめ 気の利いたひと言によって、好印象を添える。

どちらかを選ばせる

■二者択一マインド、誤前提暗示

とっておきのアイデアをまとめた「提案書」や「企画書」を作っても、上司が保守的なタイプなら、ストレートに承認を求めないほうがよい場合があります。

こんな時には、NOという答えを出しかねない上司の「認知」を歪め、NOを出しにくくする「認知」に換えてから、上司の判断を仰ぐのが正解になります。

部下「課長は提案書のA案とB案ではどちらが望ましいとお考えでしょうか?」
上司「ん? A案が〇△で、B案が〇△×か……。どちらかといえば、B案のほうがいいんじゃないか。今後の継続的な売上にもつながりそうだしな……」


提案をわざとAとBの2つに分け、二者択一で選ばせたのです。最初から「こんな企画内容はいかがでしょうか?」などと、正面から1つの提案を示すと、「え? 今のままでもいいだろ……。こんな余計な提案をして、納期を短くしてくれとか要求されたら困るよ」などとNOと言い出しかねないからです。

提案そのものの可否を問うと、誰でもYESかNOかに導かれるのです。

しかし、AかBかの二者択一で選ばせる形をとれば、提案そのものの「却下」が回避できます。この上司にとっては、提案そのものの承認が、本来意図せざる「誤った前提」になっています。ゆえにこの手法を「誤前提暗示」と呼びます。

「どちらかを選ぶべき」という方向に認知を誘導されると「承認するか・しないか」という認知がどこかに飛んでしまうのです。「二分法の罠」とも呼ばれます。

上司「この書類の翻訳だけど、今日中にやれる? それとも明日中かな?」
部下「え? あ……、はい。今日中にやります」

レストランやファストフード店では、「誤前提暗示」で追加注文をとられます。

店員A「食後のお飲み物は、コーヒーか紅茶のどちらになさいますか?」

NOと言わせないデートの誘い方

デートに誘う場面でも、「誤前提暗示」で導けば、NOを回避できます。


(イラスト図版:山崎平太/ヘイタデザイン)

男性「きみは、和食と洋食と中華だったら、何が一番好きなの?」
女性「あたしはやっぱり、和食が好きだわ。お刺身とかが、おいしいから」
男性「お刺身はいいねぇ。で、食事するなら、六本木と銀座だったらどっち?」
女性「銀座がいいわね、上品だし……」
男性「銀座のうまい割烹料理店知ってるよ。明日行く? それとも今日行く?」
女性「わあ、嬉しい! ぜひ、今日にでも行きたいわ」

最初から「ぼくと一緒に食事でも行かない?」などと誘うと、「えっ、何で?」などと戸惑わせ、「今度、時間のある時にね」などとスルーされかねません。

なお、選ぶのが苦手な人には、二者択一を連続させれば、結論を絞り込めます。

店員「お客様、本日はカーテンをお探しですか?」
お客「うん、そうだけど。種類が多くて今日はとても決められないねぇ……」
店員「お客様のお好みの色合いは、暖色系と寒色系ではどちらでしょうか?」
お客「リビングのカーテンだから暖色系のベージュとかがいいかな」
店員「それでは、無地と柄モノの揃ったこちらのコーナーはいかがでしょうか?」
お客「あ、なるほど、このコーナーはいいね。じゃ、ここから選ぼう」

まとめ 二者択一の選択だと、結論を絞り込みやすい。

(神岡 真司 : ビジネス心理研究家 日本心理パワー研究所主宰)