若者世代に株取引は身近に(写真 : Graphs / PIXTA)

2013年の新語・流行語大賞にノミネートされた「さとり世代」は、現在20〜35歳程度の若者である。

Wikipediaによると、「生誕と前後してバブル崩壊し、不況下の日本しか知らない」「特徴は『欲がない』『恋愛に興味がない』『車に興味がない』『旅行に行かない』といったことなどが典型例として指摘される。休日は自宅で過ごしていることが多く、『無駄遣いをしない』し『気の合わない人とは付き合わない』傾向が強い」とされている。

2013年当時、「さとり世代の消費は特に弱そうだ」という議論があった。2013年は日銀の異次元緩和によって株価が上昇したとはいえ、日経平均株価は1万5000円と、バブル崩壊前と比べれば低迷が続いており、経済の低迷が「さとり世代」を生み、さらに経済が低迷するという負のスパイラルが指摘されていた。

当時から約10年が経った今年、日経平均株価は34年ぶりに最高値を更新した。今後、「さとり世代」とは逆の明るい世代が増えてくるかどうかが重要だろう。

20歳以下のほうが高齢者より生涯リターンが高い

株価が上昇したことで、「生涯で株価が下落」という世代は理論上いなくなった。年齢ごとの日経平均株価の生涯リターン(生まれた年から直近までのリターンの年平均)をみると、20歳以下の生涯リターンは高度経済成長期を経験した高齢者よりも高くなっている。


金融危機後の低水準の株価からの上昇だけを経験した若者は、株価は右上がりが当然である、と感じているだろう。

なお、学生時リターン(13歳から22歳までのリターンの年平均)を比較すると高齢者に軍配が上がるが、最近の若者のリターンも悪くない。


今後を想定すると、当面は「明るい若者世代」が増加すると同時に、「明るい高齢世代」が減少してしまうことが予想され、すぐに雰囲気が変わることはないかもしれない。しかし、徐々に筆者を含む現アラフォー世代の比率が下がってくれば、明るい世代の比率が相対的に高まってくるかもしれない。

株価低迷の負の経験が長い40、50代

元エコノミストで独自の分析も多い日銀の高田創審議委員は、2月29日に行った講演で、デフレマインドの「ノルム」について説明した。結論は「慎重化した状況からの転換・上昇には、当初の想定をはるかに超える時間を要するという解釈もできる」とし、かなり慎重な印象を与えた。

日銀のマイナス金利解除が既定路線となる中で強気な見通しを示さざるを得ない状況だが、本音としては難しさも感じているのだろう。

高田氏は、「ノルムの根強さをみる観点で、負の経験」が重要だとし、「多くの人が就業すると考えられる22歳から、毎月一定金額を日経平均株価に投資したと仮定した場合の累積リターンがマイナスの期間」を世代別に示したデータを使い、次のように説明した。

「20歳代や30歳代の世代は、マイナスをほとんど経験していません。一方、40歳代・50歳代の世代は、バブル崩壊後の長期間の株価低迷から、就業してから半分近くの期間でマイナスを経験してきた」

「現在、企業等の組織で中核を占める40歳代・50歳代の世代を中心に、長期にわたる負の経験、トラウマのような経験があったことが、先にお話しした慎重化した企業行動や家計行動の根強さの一因になっていると考えられます」

「こうした企業行動等の転換には、1つの世代を形成する10年単位(decade)と、予想以上に時間を要する可能性も示唆されます」

「その慎重化した状況からの転換、上昇には当初の想定をはるかに超える時間を要するという解釈もできると思います」

高田氏の指摘は、前述した筆者の指摘と重なる。筆者は生涯(生まれてから今まで)の株価リターンと、学生時代(13〜22歳)の株価リターンを基準としたが、過去の経験が重要かもしれないという問題意識は同じである。

過去の「トラウマ」がなくなり、「ノルム」が変わるのかどうか、評価には時間がかかるだろう。

実質GDPについても、生涯リターン(成長率)と学生時(13〜22歳)リターン(成長率)を比較すると、株価のリターンとは異なる結果となった。

コロナ禍からの反動増による一時的な成長率の改善を除くと、年齢が低いほど低迷が続いていることがわかる。



むろん、株価は景気の先行指標であることから、今後、実体経済についても結果がついてくることが期待されるが、まだ時間がかかりそうである。

株価は成長を示唆しているのか、将来不安の反映か

両者の乖離の背景を考えることも重要だろう。

株価の上昇が今後の国内経済の成長を示唆するものなのか、金融緩和や円安による一時的な動きなのかを見極める必要がある。仮に一時的な動きであっても、それを国内経済の成長につなげていけるかどうかが重要とも言える。

幅広い世代で投資に対する関心が増えていることは実感できるが、最近では政府も老後に向けた「自助」の必要性を訴えているように、将来不安が高まっているからこそ「投資」に関心が高まっている面もありそうである。

株式市場に注目が集まっている背景も多様化していることが予想され、経済活動において前向きな世代が増えていくのかどうかについては、慎重にみていく必要もあるだろう。

総じて言えば、「貯蓄から投資へ」の後に「貯蓄から投資も消費も」につながるかどうかが重要である。

(末廣 徹 : 大和証券 チーフエコノミスト)