広告会社が「苦境UUUM」の買収に見いだした価値
広告事業を手がけるフリークアウトHD傘下となったUUUM。目下、エンジニアチームの強化などに取り組んでいるという(撮影:尾形文繁)
ユーチューバー事務所国内最大手のUUUMが、業績低迷に苦しんでいる。2023年5月期決算では、上場来初の営業赤字に転落。同年9月には、広告会社のフリークアウト・ホールディングスがTOB(株式公開買い付け)によってUUUMを連結子会社化した。
アドセンス(ユーチューブ広告)収入の低下などの課題が山積する中、どう立て直しを図るのか。買収したフリークアウトHDの本田謙社長と、UUUMの梅景匡之社長に聞いた。
自信を持って買収に踏み切った
――UUUM買収に至った決め手は何だったのでしょうか。
フリークアウトHD 本田謙社長(以下、本田) UUUMは世界的に見ても特殊な会社だ。これだけのトップクリエイターを抱えつつ、それなりに市場規模のある日本で上場企業として経営し続けている会社は非常に珍しい。
フリークアウトとしては、広告ビジネスを展開する中でインフルエンサーマーケティングにちゃんと取り組んでいかなければならないタイミングだった。実際はもっと早いタイミングで参入したいと思っていたが、UUUMと一緒にやれたら、世界にない新しいものを作れるのではと考えた。
――UUUMの業績や株価は低迷していますが、不安はなかったのでしょうか。
本田 2023年頃からメディアで「ユーチューバーが稼げなくなっている」という話が取り上げられてきた。しかしわれわれの見方は少し違う。
本田謙(ほんだ・ゆずる)/1974年生まれ。2005年にコンテンツマッチ広告事業のブレイナー社を設立。2008年に同社をヤフーに売却し、ヤフーのコンテンツマッチ広告開発部長を経て、2010年にフリークアウトHD設立。同社代表取締役CEOなどを経て、2018年2月から代表取締役社長 Global CEO。エンジェル投資活動も行う(撮影:尾形文繁)
今は広告主側が、どんどん賢くなる現象が起きている。われわれのように広告枠を仲介するプレイヤーがデータを見せることで、どの広告が無駄で、どの広告ならパフォーマンスがよいかがわかるようになったからだ。
結果的に、良質なクリエイターと迷惑行為などを行うクリエイターでは、広告媒体としての価値がまったく変わってしまう状況になった。それに伴い、実際には収益が下がったクリエイターがいた一方で、上がったクリエイターもいるという現象が起きたのだと思う。
TOBに向けてUUUMの事業をデューデリジェンスする過程で、こうした状況をつぶさに観察できたことで、自信を持って買収に踏み切れた。
UUUMはこれだけのトップクリエイターを抱えていて、世間で言われるほどの不安やリスクも感じなかった。むしろバイサイド(広告主側)が賢くなるほど、よりUUUMのビジネスが安定していくという確信があった。
――ただ、直近のUUUMの業績推移を見ると、ショート動画の普及で柱のアドセンス収入は低下しています(詳細はこちら)。
UUUM 梅景匡之社長(以下、梅景) UUUMのクリエイターの収益を見ていると、必ずしも下がっていなかった。チャンネルによっては広告単価が上がっているものも多くある。
梅景匡之(うめかげ・ただゆき)/1978年生まれ。2001年NEXS社入社。2007年光通信入社後、同社統括部長やテレコムサービス取締役を経て2014年UUUM入社。同年取締役就任、2021年に取締役専務執行役員。2022年6月から現職(撮影:尾形文繁)
ショート動画が逆風ということもまったくないと思う。長尺コンテンツの再生回数は減っているが、視聴時間には大きな変化はない。またショート動画ではノンバーバル(言葉を発さない)コンテンツのほうが海外でウケたりするので、まったく別の視点でショート動画を捉えている。
――フリークアウトの広告ビジネスとは、どんなシナジーを見込んでいるのでしょうか。
本田 インフルエンサーマーケティングの世界では現状、買い手(広告主)と売り手(インフルエンサー)をスムーズにつなげられていない。われわれがテクノロジーを活用することで、それを実現するシステムを作っていきたい。
フリークアウトとUUUMの事業領域には重複部分もある。広告のセルサイド(媒体側)とバイサイド(広告主側)で、得意な方面に特化していくべきだと思っている。UUUMは強みであるセルサイドのクリエイターマネジメント、フリークアウトはバイサイド向けにそれぞれ集中させていく。
エンジニアが会社の主役になる
――シナジーを出していくうえで、UUUM側の経営課題は?
本田 UUUM社内のエンジニアのチームだ。バイサイドとセルサイドをつなげようにも、同じレベルのチームがなければ成り立たない。チームをゼロから立て直すつもりで、フリークアウトからCTO(最高技術責任者)クラスの人材を出向させてトップに据え、新しいチームを作っている。
フリークアウトでは、文言やキーワードで動画内のデータを解析し、広告主が広告を出すうえでどの動画がいいのか、悪いのかを分析できる技術を持っている。
これは、クリエイター側にも活用できる。例えば、より詳細なデータを取ることで、動画内のどのタイミングで、どんな発言を入れたら広告効果を高められるかなどがわかるはずだ。
そのようなプロダクトは誰かがオーダーするのではなく、エンジニアが主体的に作るもの。これからの主役になるのはエンジニアチームだという気持ちを持ってもらう必要がある。
梅景 UUUMとしても、アドセンス収入を自分たちの手でコントロールしにくいという課題があった。動画のタイトルやサムネイル、コメントの1つが違うだけで、視聴回数や視聴時間、広告単価も大きく変わってくるが、今後はある程度コントロール可能になる。
これはクリエイターの収益にも大きく関わる問題だ。アドセンスは会社の収益としても大事だが、クリエイターにとってはベースとなる重要な収入でもある。
――フリークアウトとUUUMによる新たな取り組みとして、「クリエイターファンド」の創設を掲げています。どのようなファンドなのでしょう。
本田 投資先はスタートアップだ。インフルエンサーにスタートアップ投資に興味を持ってもらい、ファンドとして動いてもらう。
クリエイターの強みはインフルエンス力(影響力)だと思う。スタートアップ企業としても、自分たちの商品をクリエイターに理解してもらい、紹介してもらえるという利点がある。
海外では、インフルエンサーが当たり前のようにスタートアップに投資していて、日本は遅れている。これはUUUMが持っているアセットを生かすことができる領域だ。
インタビューは、東京ミッドタウン内にあるUUUMの本社で行われた(撮影:尾形文繁)
梅景 本田さんと最初にお会いしたとき、クリエイター自身がなぜ投資をやらないのかと疑問に思われていた。(本田さんは)成功確率で言うと、グッズ販売などと同じくらいの確率というか、むしろ投資のほうが安全だよねという考えだった。
――成功確率というのは?
本田 企業と協力して商品・サービスの紹介をするタイアップはクリエイターにとってローリスクだが、クリエイター自身のグッズ販売となると、急にハイリスク・ハイリターンになる。タイアップする代わりに少しエクイティをもらうような、中間の領域が存在しないことが不思議だ。
インフルエンサーに商品を紹介してほしいが、まだタイアップできるような金額がないスタートアップからすれば、そういうファンドが存在すること自体に大きな意味がある。
資金に余裕があるインフルエンサーであれば、今すぐタイアップでお金をもらわなくてもいいならば、投資がよい選択肢になる。あとはわれわれがよい相手を紹介できるか。
創業者なき会社で取り組むべきこと
――UUUM創業者である鎌田和樹氏は2023年9月に取締役会長を退任後、同年12月には名誉顧問も退任しました。創業者が完全に手を引いた今、どのように経営を引き継ぎますか。
梅景 鎌田さんはインフルエンサーマーケティング市場をゼロから作ったと言っても過言ではない。「ユーチューバー」という言葉がこれだけ知られているのも、鎌田さんやUUUMによる成果だ。
ユーチューバー業界には誹謗中傷に対する法整備など、やらなければいけないことがまだある。業界のリーディングカンパニーを引き継いだ人間として、そうした問題にも取り組んでいきたい。
(郄岡 健太 : 東洋経済 記者)
(森田 宗一郎 : 東洋経済 記者)