上司との会話では、とにかく言い訳をせず、「端的にしゃべる」を心がけましょう(写真:KY / PIXTA)

4月は「始まりの季節」。中には初めて社会人になる人、新しい職場に移る人、チームの体制が変わる人もいるだろう。さまざまな変化の時期だからこそ、改めて仕事の基本を見直したい。そこでビジネスコンサルタント・作家の大石哲之氏によるロングセラー『コンサル一年目が学ぶこと』から一部を抜粋し、「ビジネスの基礎」となるスキルを紹介。今回は上司やクライアントとの、コミュニケーションスキルについて考える。

外資系コンサルティング会社は、なにかと標語が多く、それが新人の行動の指針になっていることがあります。

「Talk Straight(トーク・ストレート)」もそのひとつで、これは、端的に喋る、簡潔に喋る、という意味と、率直に喋る、という意味が合わさったものだと理解していただければいいでしょう。

言い換えれば、変な駆け引きをせず、言い訳をせず、言われたことにきちんとストレートに答えること。相手の信頼を得るために非常に大事なこととして、いまも常に心がけています。

質問にはイエス・ノーで率直に答える

上司に、「あの調べものはできた?事例のやつ」と質問をされたとしましょう。まだ終わっていなかったとき、あなたはどう答えますか?

だいたいこういう質問がくるときは、作業が遅れ気味か、うまくいっていないときと決まっています。すでにできていたら、真っ先に報告していますから。

新人のころは作業がうまくいかないのは当たり前で、そういうときに、こういう質問を投げられると、びくびくしてしまうもの。ついつい、言い訳から入ってしまいがちです。

いまのわたしなら、素直に、「まだ、できていません」と答えられます。叱られるかもしれませんが、それも承知です。

というのも、マネジャーが知りたいのは、単に、できたか、できていないかという事実です。そして、もしできていないのなら、どうしてできないのかという原因。それだけです。

言い訳なんて聞きたくありませんし、できていないのならしかたない、できる方法を考えるだけです。

怒ったとしても、自分に対して怒っているわけではなく、単に、物事を前に進めたいのだということが、いまなら、わかるからです。

だから、こういうときはまず、「まだできていません」とか「事例は1件見つかっただけです」といった具合に端的に答えるべきなのです。これが、質問にストレートに答えるということです。これを心がけるようになってから、実は怒られる度合いが減りました。

Talk Straight=駆け引き抜きに、率直に、簡潔に、端的に話す

遅刻しても言い訳しない

ごくごく簡単な例で言うと、たとえば、待ち合わせに遅れているとき。「いまどこにいる?」と言われたとき、言い訳をしない。いまどこにいるのかと聞かれているのだから、現在地をまず答える。

「表参道駅、千代田線のホームです」

そのあとで、あと何分かかる見込みだとか、迷っているのでヘルプしてほしいとか、そういうことを付け加えるべきです。

寝坊したとか、トラブルがあったとか、そういうことを言うのは、現地に到着してミーティングなどすべてが終わってからにすべきでしょう。

わたしも、新人時代、実際にミーティングに寝坊して遅れたことがありました。電話があったとき、まだ寝ていたのです。

「いまどこにいる?」

「いま、家です。いま起きました。」

「ふざけんな!」

覚悟をしたのですが、次の言葉はあっけないものでした。

「クライアントとのミーティングに寝坊して登場するわけにはいかないから、こっち(客先)に来ないでオフィスに行け。言い訳はあとで聞く」

結局、ミーティングから戻ってきたマネジャーには「寝坊はするな」と、ひとこと言われただけで、クライアントとのミーティングで出た課題を渡され、次の作業の指示を受けて終わりました。

イエス・ノーがはっきりすると「なぜ?」へと進める
「なぜ?」へと進めれば、問題の所在がわかる

質問にストレートに答えると、自然とコミュニケーションが図られて、問題の所在がわかります。相手は、その先の「なぜ?」や「どうして?」を聞いてくるからです。

「分析はできたのか?」

「できていません」

「なぜできないのか?」

「想定した分析結果にはなりませんでした」

「どうして?」

この、相手の「なぜ?どうして?」に答えていくことによって、自然とコミュニケーションが図られて、問題の所在がわかるのです。

まず、質問に、イエスなりノーなりで端的に答える。
次に、追加の説明をしたり、相手の質問に答えていく。

「できていません」の結果だけ聞いていきなり激怒する人は少ないと思います。さすがに、その先の話も聞かなくては判断できない。だから、むしろ、イエス・ノーで端的に答えたほうが、怒られにくい。

「分析グラフができていないというけれど、何が問題なんだ?」

「はい、グラフ化しようとしても、データ自体に問題があって集計できるようになっていないんです。これをいま直しています」

「なに?データに問題があるのか?時間はどのくらいかかる?」

「1週間ぐらいかかるかもしれません」

「それはまずい。その分析は今週中にやる必要がある。1週間では困るので、別の人もヘルプさせるから、2日で仕上げられるか?」

このように、イエス・ノーから始めて、順番に深掘りしていくようなコミュニケーションをすると、問題のありかがわかってきて、生産的な話になることが多いのです。

質問にストレートに答えることが、状況を明らかにする

できないときは「できる方法」を提案

イエス・ノーを端的に答えるのは、ムリな作業を依頼された場合でも同じです。

上司から、「この作業を明日までにやってほしい」と依頼があったとします。やらないといけないことはわかっているし、できないことはないけれども、間違いなく徹夜になるような無茶な指示だったとします。あなたならどう答えますか?

まず、そんな指示への不満から入りますか?

質問に答えるということは、イエス・ノーをはっきり言うことです。

たとえばこんな答え方はどうでしょう。

「はい、できます。ただし、一人ではボリューム的に無理です。手伝ってくれる人が1名いれば、2人で協力して終わらせることができると思います」

この言い方なら、クリアーかつ、仕事が前に進みそうです。

言い訳がましくありませんし、上司も、じゃあヘルプを頼もう、という考えになるでしょう。

上司の目的は、あくまでも仕事を前に進めることだからです。

間違っていることは、上司やクライアントであっても率直に指摘する

また、「Talk Straight」には、言いにくいことでも、間違っているなら間違っていると言うことも含まれます。

上司や、偉い人が言っていることでも、疑ってかかる。もしそれがおかしいことであれば、ちゃんと指摘する。

その方向に進んだら、きっとうまくいかない。そういう場合は、非常に言いにくくても指摘しておかないと、あとで「どうしてわかっていたのに指摘しなかったんだ」と言われます。

わかっているのに言わないというのは、個人の感情の関係では好ましい場合もありますが、仕事においては、逆に不誠実ととらえられることのほうが多いのです。

上司やクライアントにも、必要なことなら、言いにくいこともストレートに言わなければならない。

ストレートに話をすると、空気が読めない、と言われることもあります。けれども、それでもストレートに話したほうが、結局は信頼を得ることができます。

駆け引きをしないほうがうまくいく


もちろん、利害が対立している相手との交渉といったような、一方が得をして、一方が損をするもの(これをゼロサムゲームと呼びます)においては、ごまかしたり、はぐらかしたり、噓をついたり、そういうことが効果的なこともあるかもしれません。

交渉のコミュニケーションの本などでは、そういうゼロサムゲームで有効な策が多く提示されています。

けれども、実際の仕事の場面では、お互いが協力して、1プラス1が3になるような結果を出す人のほうがやはり評価されます。

同じ利益を追求しようとしている者同士ですから、率直にものを言い、駆け引きをしないほうがうまくいくものです。

社内で駆け引きをしない


(大石 哲之 : 作家・コンサルタント)