「理不尽に怒る人」に出会ったら思い出すべき言葉
昭和の哲人・中村天風の言葉から、逆境にも負けず目標を達成するためのヒントを探ります(写真:プラナ/PIXTA)
仕事をしていると、トラブルが発生したり、交渉が難航したりと、困難に直面することもあります。そんなとき、どう対処したらよいのか。稲盛和夫さんや松下幸之助さん、大谷翔平選手にも影響を与えた中村天風の言葉から、逆境にも負けず目標を達成するためのヒントを探ります。
※本記事は、中村天風が実際に行った講演から現代に合うものをピックアップして紹介した『またうっかり、自分を後回しにするところだった』より再編集したものです。
他人に振り回されてはもったいない
結果を出す人は、しっかりと自分の目標を見据えているもの。一方で、人との関わりは避けて通ることはできません。
人間的な成長を促す教えとして、多くの経営者などに知られているのが、昭和の哲人・中村天風の哲学です。
「不治の病」を克服し講演をつづけてきた彼の言葉は志を高めるといわれ、自己を成長させるために多くの人が心服しました。
そんな教えの中から、まずは対人関係にまつわる言葉を紹介します。
たとえば、もしあなたが目標に向かう中で理不尽に怒りをぶつける人に出会ったら、この言葉を思い出してください。
“つまんないことで怒るやつは豚よりもまだ下等です。”
一瞬、驚いてしまうような表現ですが、確かに言う通りではないでしょうか。
自分の目標のことを考えれば、話し合いができない相手に対して心を波立たせる必要はありません。
昨今はアンガーマネジメントの重要性が各所で指摘され、カッとなったら6秒間我慢したり、その場から立ち去ったりと、事を荒立てないためのテクニックが広まっています。
半世紀以上も前に中村天風が悟っていたことが、社会に浸透したということでしょう。
“憎らしい者なんていやしないよ。
いちばん憎らしいのは自分の心なんだ。”
他人の悪口を言ったり、誰かのことを憎んだり、恨んだり。そんな自分に気づき、我に返り、なんともいえない嫌な気持ちになったことは誰にでもあると思います。
人間ですからそれは仕方がありません。中村天風ですら、「私だってときどきハッと気がつくときがある」と語っています。大事なのは、そのあとどう考え、どう対処するかです。
それは自分の本心ではなく、悪魔のいたずらによるものととらえ、その悪魔を生み出してしまった憎たらしい自分を律する――これが中村天風の示す答えであり、中村天風は「気がついたら、ヒョイッと取り戻す」と述懐しています。
相手のことを恨んでも、罵詈雑言を浴びせても、軋轢がなくなることはありませんし、自分の心を清く保つこともできません。
「きょう一日、怒らず、恐れず、悲しまず」
このことを念頭に掲げ、自分の心を律していきましょう。
最後の決断はかならず自分で下す
はじめから新しいことをパーフェクトにこなせる人はいません。教えを受けながら、徐々に成長をしていきます。
しかし、ある程度からは、自分の意志で考え、必要なものを取り入れていくことが大切です。
中村天風のもとにも教えを乞う人が多くやって来ましたが、それを鵜呑みにすることについては、注意を促していました。
“たとえば、自分のわからないことを私に聞いて、それでわかっても、その後の経営は私がするんじゃないよ。あんたがするんじゃないか。いちいち聞きにこなきゃならないことだったら、あんたが経営するんじゃなく、今度は私がすることになるじゃないか。
他人に相談しなきゃわからないような仕事はするべからず。”
これらは、自分の仕事に責任を持ちなさい、ということでしょう。
まずは自分がどう思うかをしっかりと確立した上で他の意見を取り入れ、よいと信じた道に進むことが成功につながります。
“コップに入ったゴミを「縁があるから捨てずに飲もう」と思うかい?”
“知らない人の言うとおりにする人は、ばか以上のお人好しですよ。”
これらは、自分の心の中に必要なこと以外は取り入れなくていいのだ、と教えてくれる言葉です。
“いい言葉に動かされるならいいんですよ。けれども、消極的な言葉に動かされたら元気がなくなっちまう。燃えようとする火に水をぶっかけるのと同じ結果がきちまうんです。”
必要な情報や価値ある情報はごくごく限られているということ。なにか情報に触れたとき、一度その必要性を精査して、仕分ける癖をつけて、不要なものを心の中に入れないようにしましょう。
多くの経営者が中村天風に助言を求めながらも、それぞれが自身の事業でかけがえのない地位を築くことができたのは、まさに、この考え方があったからといえるのではないでしょうか。
可能性を信じ、揺るがざる信念を持って邁進する
さらに、モチベーションについても中村天風は語っています。
“私が「欲をお出し」と言うのは、「高級な欲望を出しなさい」ということなんです。本当のことを言うと、欲の深い人は早く自己改造ができるんだよ。
だって手のつけられない暴れ馬でないと、千里を走る駿馬になれない。”
“とにかく、自分の改造しようとする人格や性格の目的を定めて、希望の種を高級な欲で蒔く。”
人は誰もが欲望をもっています。最近は「承認欲求」という言葉も浸透しています。
欲深いと思われることは周囲にマイナスの印象を与えることもありますが、すべての欲は悪しきものなのかと言えば、そうではなく、重要なのはその質だと中村天風は説きます。
ただ漠然と「お金持ちになりたい」「偉くなりたい」と渇望する欲望ではなく、純粋に自分の理想を思い描き、それを追い求める姿勢。これこそが「高級な欲望」であり、人を良い方向に変える力のあるものです。
“ベストを尽くしてブーブー文句を言う人は
誰もいないんだからね。”
手抜きをしない。全力を尽くす。ものごとに取り組む際には、この姿勢が大事――中村天風の叱咤激励からは、こんなメッセージをくみ取ることができます。
まずは目の前の事に一生懸命取り組むということの大切さを教えてくれます。
“成るとか成らないとかってことを心で考えるな。為せば成り、為さねば成らないんだ。成るも成らないもあるか。為せばいいんだよ。”
こんな力強いエールもあります。
真の満足感や充実感は、一生懸命に励んだことによって得られます。
目先の成果や一時的な他人からの評価を気にせず、とにかく目の前にあることに対して、積極的に、全力で。その「ファイト」の精神が、人間の持つ信念の力を最大限に発揮するための「ゴールデンキー」であると中村天風は説いています。
未来を決めつけず、「自分ならできる」と信じよう
“成功した人は特別な生まれつきだと思う。
そこが大きな間違いなのだ。”
私たちは、過去に自分が経験したことや起こった出来事をもとに、「できる・できない」や「起こり得る・起こり得ない」を頭の中で想像して生きています。しかし、それにとらわれすぎないことが大切です。
中村天風は、当時「不治の病」とされていた肺結核を患い、そこから奇跡の生還を果たしました。もちろん、病にあったときは、“稀代の哲人”として講演活動をする自分の姿など想像もしていなかったでしょう。
だからこそ、未来を早々に決めつけるのはよくないということを悟ることができたのだと思います。
誰もが不可能だと思ったことを成し遂げる人は、「自分ならできる」という揺るがざる信念があるものです。常識にとらわれて未来を決めつけてしまったら、それ以上前には進むことはできません。
今こそ、中村天風の言葉をきっかけに、自分のことをもっと信じてあげようではありませんか。
(中村 天風 : 哲人(語録))